第60話 ミズホと真っ直ぐな気持ち
……ふう。
一通り、泣いた。喉の奥がひりひりして、まぶたが熱い。袖でぐいっと目元を拭うと、指先に残った涙が冷たかった。
いつまでもここで立ち止まって、後悔の沼に沈むわけにはいかない。
私は、前に進むって決めたんだから。
「おい、ミズホ……大丈夫か?」
ルアナが、少し離れた場所から声をかけてくる。フライヤも同じ顔だ。二人とも強いのに、今は言葉が見つからないって目をしてる。……そりゃそうだよね。私だって、もし立場が逆なら、どう声をかけていいか分からない。
「大丈夫だよ」
私はわざと、いつもの調子に戻す。口角を上げて、息を吐く。
「悔しい気持ち、ちゃんと全部出した。……だからもう、進める」
本当は、完全に大丈夫なんかじゃない。
レオンさんとカインさんの最後の瞬間が、まだ頭の中でちらつく。目が合った気がした。声が聞こえた気がした。そんなはずないのに。そう思うくらい、現実が重い。
でも、ここで私が崩れたら、みんながもっと苦しくなる。
だから、私は立つ。泣いた分だけ、ちゃんと立つ。
「ミズホ……あなた強いのね」
フライヤが、震える息を飲み込むみたいに言った。強い? 違うよ。
私はただ、弱いからこそ――守りたいものがあるから、逃げられないだけ。
「私からもお礼を言わせて。レオンとカインの分も、お礼を言わせてほしい」
その言葉で、胸がきゅっと痛くなる。
ルアナもフライヤも、絶対つらいはずだ。なのに私の前では泣かない。怒りをぶつけない。大人みたいに堪えてる。……それが余計に、刺さる。
(悲しい顔は、しない)
私は決めた。ここで私が泣き顔のままいたら、みんなを引きずる。
だから、笑う。ちゃんと前を見る。
「……うん。ありがとう」
短く返して、私は拳を握った。
次にクレードと出会ったら、絶対に倒す。
あの外道は、絶対に許しちゃいけない。人の命を材料みたいに扱って、仲間を“魔物”に変えて、逃げて。そんなの、絶対に。
そのとき、肩のあたりで小さく尻尾が揺れた。
「ミズホ、これからもそういう場面があるかもしれないニャ」
クロが、いつになく真面目な声で言う。
「けど、ネガティブな気持ちに負けちゃダメニャ。闇に飲み込まれる。それだけは心に止めておくニャ」
……うん。クロの言う通りだ。
私は闇の力を持ってる。闇って、便利で強い。けど、近い。自分の心の弱いところに、すぐ手を伸ばしてくる。
今回の戦いは、私自身の闇と向き合うきっかけになったと思う。
迷った。躊躇した。もしかしたら、助けられるんじゃないかって、現実逃避みたいな期待を捨てきれなかった。
でも最後に、踏ん切りをつけられたのは――私一人の力じゃない。
エリーがいてくれた。ルアナがいてくれた。フライヤがいてくれた。クロが、釘を刺してくれた。
だから、私は壊れずにいられた。
(……私、ほんと周りに助けられてばっかだな)
色々あった。最悪も見た。胸が痛い現実も見た。
でも、学ぶことも確かにあった。痛いだけじゃ終わらせない。私はそれを糧にする。
私は顔を上げて、みんなを見回した。
「さて。まずはルーシーさんのところに戻ろう」
声に、ちゃんと芯を入れる。
「色々と報告しないとね」




