第59話 エリーとミズホの涙
ミズホ――。
彼女のおかげで、私たちはこの場を生き延びることができた。けれど、その“生き延び方”が正しかったのかと問われたら、胸の奥が痛む。助かったはずなのに、空気が重い。焦げた匂いと、鉄の冷たさと、戦いの余韻が、まだ肌にまとわりついて離れない。
「エリー……これで良かったんだよね……?」
ミズホはそう言ったけれど、声は小さく掠れていた。背中が震えているのが分かる。いつもなら冗談の一つでも挟んで、無理やりにでも笑ってしまう子なのに、今はそれができない。自分の手で“終わらせた”感触が、まだ指先に残っているのだろう。
ルアナもフライヤも、声のかけ方が分からないという顔でミズホを見ていた。強く見える二人ほど、こういう時に言葉を選びすぎてしまう。慰めの言葉が刃になることを知っているから。
レオンさんとカインさんが魔物へ変えられた。あの瞬間、戦えたのはミズホだけだった。
私たちは魔法封じの影響が残り、満足に光を使えない。護れる手段が足りない。だから“ミズホが前に出る”以外の選択肢を、状況が勝手に決めてしまった。
それが悔しかった。無力さが、喉の奥に苦い塊として残る。
分かっている。誰が戦っても辛い状況だった。
ミズホが優しいから、背負ってしまったわけじゃない。追い詰められた結果として、そうなるしかなかった。
それでも――。
(だからこそ、私はミズホを支えなきゃいけない)
私は、ミズホと旅をすることを選んだ。彼女が闇の力と向き合う旅路に、隣で立つと決めた。怖い時も、迷う時も、彼女が一人にならないように。
今この瞬間、私の想いを言葉にしなければ、ミズホは「自分が悪い」と一人で結論を出してしまう。
私は一歩近づいて、まっすぐに彼女を見た。
「ミズホ……ありがとう」
「え?」
目を瞬かせるミズホは、驚いた顔をしていた。たぶん“責められる覚悟”をしていたのだろう。だからこそ、その反応が胸に刺さる。
「私たちのために、辛い選択を引き受けてくれて。あれが正解かどうかは……私にも分からない」
私は一度、息を整える。揺れる言葉で伝えたくなかった。
「でも、これだけは言えるわ。もし私が戦える状況で、同じ立場だったなら……私も同じ選択をした」
「エリー……」
ミズホの唇がわずかに震えた。
「私だって、ミズホを守りたいもの」
私は微笑んで、できるだけ優しく続けた。
「だから、自分が選んだ道を恥じないで。あなたは誰かを踏みつけるために力を振るったんじゃない。守るために、止めるために――必要なことをしたの」
言葉にすると簡単で、でも本当は簡単じゃない。
それでも、誰かがミズホの胸に“肯定”を置いてあげないと、彼女は自分を罰し続ける。そんなの、私は嫌だ。
「エリー……う、うわーーん!」
堰を切ったように、ミズホが泣き崩れた。堪えていたものが全部溢れたみたいに。強がりも、気丈さも、さっきまでの覚悟も、全部いったん崩れて、ただの十七歳の女の子の涙になって流れていく。
私は迷わず、彼女の肩を抱いた。背中をゆっくり撫でる。
大丈夫――そう言う代わりに、抱きしめる強さで伝える。ここにいるよ、と。
この瞬間、私は改めて誓った。
私はミズホを支える。決して見捨てない。どんな選択の後でも、隣で一緒に歩く。
そしてもう一つ。
彼女にこんな選択をさせたクレードを――私は絶対に許さない。
次に会う時は、ただの“怒り”じゃない。奪われたものの重さを、こちらの正義で返す。私は静かにそう決めた。




