第58話 ミズホと覚悟を決めた戦い
レオンさん、カインさん。
……まだ面影は残っている。でも、もう“人”じゃない。目の奥にあったはずの光が消えて、動きだけが、あの二人のまま残っている。
私はクロを見る。たぶん私の考えはバレてる。
「無理ニャ。あの二人は、完全に魔物になっちゃってるニャ」
……そっか。
胸の奥がきゅっと縮む。助けられる道があるなら、どんな無茶でもしたかった。でも無い。
だったら――せめて、苦しまないように。これ以上誰かを傷つけないように。
それが、今の私にできる“責任”だ。
「ミズホ、覚悟を決めるニャ」
「……分かった。やるよ。私」
覚悟を決めた。
あの二人を止めて、私たちは先へ進む。
魔物化したレオンさんとカインさんが、一斉にこちらへ突っ込んできた。
動きは単純。読みやすい。勝てない相手じゃ――
……と思った瞬間、カインさんの姿が消えた。
背後!?
私は反射で防御魔法を張る。空気が裂ける音。ぎりっと魔力の膜が震えた。
「人間のときの強さが残ってるってこと!?」
「ええ」フライヤが歯を食いしばる。「レオンとカインは、一人ひとりの攻撃自体は単純。でも、二人で連携すると力を発揮するスキルがあるの。アタシでも、コンビだと苦戦した……」
それが、魔物になっても発動する。最悪だ。
守るだけで精一杯。防御に回った瞬間、主導権は相手に渡る。
「ミズホ……まだ躊躇してる感じがあるニャ」
クロの声が刺さる。
躊躇? 覚悟は決めたはずなのに。なのに――手が、ほんの少しだけ遅い。魔法の出が鈍い。
この感じは……。
その瞬間、カインさんが目の前に現れた。
「うわっ!?」
避けきれない。腹に重い一撃。息が潰れて、視界が白く跳ねる。
「ミズホ!」
エリーの声が揺れる。
「いったた……油断したわね」
……ほんとに油断?
私は攻撃魔法を放っている。いつも通りのはず。なのに倒れない。クロが言った“躊躇”――それが、私の火力を、決定打を、どこかで避けさせてる。
「くっ……これだけ攻撃してるのに、なんで倒れないの!?」
地下のゾンビより、何倍も強い。
学園の中では敵なし、みたいな気分でいたけど、外の世界はそんな甘い場所じゃない。私より強い人も、私より残酷な現実も、普通にある。いやでも思い知らされる。
このコンビネーションを崩さないと勝てない。
そう考えたとき――
「ミズホ!」
「フライヤ?」
フライヤがまっすぐ、私を見た。
「……もういい。本気出しても」
本気。
クロが言ってた。“まだ躊躇してる”って。
……そうだね。認める。
覚悟を決めたと言いながら、私はどこかで「助けられるかも」って可能性を拾ってた。ほんの少しでも、人のまま戻せる道があるんじゃないかって。
でも、その甘さのせいで私が負けたら――エリーも、ルアナも、フライヤも、守れない。
そっちのほうが、よっぽど嫌だ。
(ごめんね。……でも、ここで止める)
迷いが晴れる。視界がクリアになる。
二人がまた突っ込んでくる。さっきより動きがはっきり見える。読める。いける。
「――!?」
レオンさんとカインさんが、攻撃を当てた“はず”の感覚がなくて、一瞬戸惑った。防御の膜じゃない。体捌きと間合いで、すり抜けた。
「よし、今だ!」
私は拳に魔力を集める。闇が、熱を持って掌に渦を巻く。
ここは敵の施設。壊れてもいい。いや、壊れるくらいじゃないと止まらない。
「行くよ――奥義! 闇魔道波!」
圧縮した闇の波動が、まっすぐ二人を貫いた。衝撃が空気を叩き割り、床の砂埃が舞う。
レオンさんとカインさんは、抵抗する間もなく吹き飛び――壁に叩きつけられ、地面に転がった。
……静寂。
「……これで、私の勝ち」
胸が痛い。勝ったのに、全然嬉しくない。
でも――止められた。私たちは、先へ進める。




