第57話 ミズホと衝撃の事実
「――まさか、地下牢から脱出するとはな」
誰? ……初めましての気がしない。えっと、どこで――あ、思い出した!
「街の門にいた“賄賂の人”!」
「誰が賄賂の人だ!」
「だって、お金渡したらあっさり通してくれたじゃん。表現として間違ってないと思うけど?」
検問の兵士。ミドリーノシティの入口にいたあの人だ。
「ねえミズホ。たしかに“賄賂の人”だけど、いまはそこじゃないでしょ」
エリーまで認めた。……まあいいや。
私は一歩前に出る。
「さっき地下に現れたゾンビ軍団、あなたの仕業よね?」
「クレード少尉……あなたが?」フライヤが低く問い詰める。
「そうだよ、フライヤ軍曹。ついでに言えば、さっきお前に刺客も向かわせた。あれも失敗とはな」
あの忍びっぽい人だ。やっぱり裏は繋がってる。
「こんなことをして、何が目的なの!」
「ふん。あのゾンビは囚人だ。ホーリーライトに逆らう者は減り、戦力は増える。何の問題がある?」
外道。心底ムカつく。――まさかとは思うけど、念のため確認する。
「それ、ホーリーライトの総意?」
「どうだかな。騎士団長殿は信仰で人々を縛るのが嫌いらしいが、我らの派閥はあの御仁のやり方が気に食わんのだよ」
「つまり、組織全部があなたみたいに腐ってるわけじゃない、ってことね」
「さあな。騎士団長側にいるなら、裏切り者認定も時間の問題だろうが」
ルアナがフライヤを見る。
「だってさ、フライヤ。もう、こんな組織にいる必要ないでしょ。正義なんてないよ、これ」
「……分かってる。上に立てばって、ずっと思ってた。でも無理ね。ここに残るくらいなら、辞めて“アタシの正義”を貫く」
クレードが鼻で笑った。
「お前ら小娘は、ここで終わるがな」
「そういう三下セリフを言う奴って、大体たいしたことないってアタイは思うね」ルアナが肩をすくめる。
「言ってろ。――これで終わりだ」
クレードの手に、嫌な光沢の注射器。中身はどす黒い液体。
「くらえ!」
ひゅっと弧を描いて、ルアナとフライヤめがけて飛ぶ――!
「隊長!」
「くっ――!」
レオンさんとカインさんが身を投げ出し、二人を庇った。
「レオン、カイン!?」
「た、隊長……ご無事で……」
「す、すまない……不甲斐ない隊長で……」
最悪の音がした。ガラスの割れる乾いた破裂音。にじむ薬液。
――クレードは? 振り返ると、もういない。逃げた。
「ぐ、はっ……う、うおォォ――」
二人の瞳が真っ赤に濁り、こめかみから黒い角が生える。皮膚の色が変わり、筋肉が軋む音。さっき地下で見た“それ”と同じ変容だ。
「さっきのゾンビも、あの薬……」エリーの声が震える。
「そんな……つまり、二人を倒さないと――?」
胸が締め付けられる。どうしてこんなことを平気で――!
フライヤが歯を食いしばる。
「みんな、コイツらを止めないと、アタシたちも……」
「でも、この二人は……」ルアナが拳を握る。
「分かってる。けど――!」
魔法封じの結界は、地上にはもう薄い。けれどエリーの光はまだ完全じゃない。ここで確実に戦えるのは、私だけ。
私はフライヤを見る。
「ねえ、フライヤ。――私が、やっていい?」
「ミズホ……!」
「どのみち、いま動けるのは私だけ。だったら――」
あの夜、何もできなかった自分とは違う。
守るために、振るう。私の闇は、そのためにある。
喉の奥で息を噛み、私は一歩、前へ出た。
――覚悟を決めろ、私。




