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第45話 ミズホと動かない悔しさ

ベッドですやすや眠っていた私とエリーは、突然の騒がしい音で飛び起きた。

胸の奥がざわつく。嫌な予感が全身を走る。


「な、何の音・・・?」


エリーと顔を見合わせ、私は窓の障子をそっと開けた。次の瞬間、息が止まった。

家の屋根は赤く照らされ、畑の一角に炎が走っている。焦げ臭い匂いが、夜風に混ざって私の鼻を刺した。放火――いや、これはもう、明らかな襲撃。


「まずい・・・!」


慌てて飛び出すと、村は外から押し寄せた大群に囲まれていた。人々は必死に逃げ惑い、泣き叫ぶ声が夜空に吸い込まれていく。その中心に立つのは、剣を握りしめたルアナ。怒りに歪んだ表情が炎に照らされて、不気味な影を揺らしていた。


「お前ら・・・ここまでやるか!」


彼女が吠えると同時に、炎の向こうからひとりの女が現れた。白い軍服に身を包み、冷ややかな視線で辺りを見回す。歩みは落ち着いていて、まるで自分が支配者であると確信しているようだった。


「私はクロノ・リーファ。この一帯の指揮官だ」


澄んだ声が夜空に響く。その瞬間、周囲の兵士たちが一斉に弓を構えた。矢の先がこちらへ向けられる。背筋が凍りついた。もし放たれれば、村は一瞬で壊滅する。


リーファは冷ややかに続ける。

「事前に情報は得ている。ルアナ、君以外にこの村でまともに戦える者はいない。毎回、君が現れて攻勢を退ける。――結局、戦っているのは君だけだ」


その言葉に、ルアナの顔が苦しげに引きつる。剣を握る手が震え、しかし彼女は必死に声を振り絞った。


「私ひとりで十分だ・・・! 他の者に手を出すな!」


だが、その声に被せるように、村の兵士の一人が叫んだ。

「ルアナさん!我々は大丈夫です、だから――」


「バカを言うな!」ルアナの怒声が夜に響く。

「お前には子がいるだろう!お前が死んだら、その子はどうなる!?残された者はどうやって生きる!?」


その言葉は重く鋭く、兵士の胸を突き刺した。返す言葉を失った兵士は唇を噛み、ただ目を伏せる。


リーファは薄く笑い、手をひらりと振った。

「分かった。君が投降すれば、他の者には手を出さない」


鎖を持った兵士が進み出て、ルアナの手足を無理やり縛り上げる。村人の悲鳴が夜空を裂いた。


「ルアナさん!」「やめろ!」

誰もが叫ぶ。けれど、剣を振るう者はいなかった。矢の雨が降り注ぐ未来を恐れて、誰もが足をすくませた。


私も――動けなかった。

胸の奥で叫ぶ声があるのに、足が前に出ない。もしここで飛び出したら、村の人たちを危険に晒す。それは絶対に避けなきゃいけない。頭では分かっているのに、心が軋む。


(私は・・・何をしているの?)


クロと交わした約束。闇の力を受け入れた時の決意。あの時の覚悟はどこへ行ったの?

拳を握りしめても、震えしか伝わらない。


ルアナは静かに私たちの方を振り返った。その瞳は、諦めではなく、むしろ強い意志に満ちていた。

「ミズホ・・・エリー・・・お前たちは、自分の道を行け」


その言葉を最後に、彼女は兵士たちに連れられて闇の中へと消えていった。

燃えさかる炎だけが残り、私の胸の奥でどうしようもない無力感が渦を巻いていた。


――私は、何もできなかった。

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