第3話 ミズホと図書館の本の整理
図書館に着いた私は、見慣れた姿を見つけてすぐに声をかけた。
「やっほー、シキ。元気してた?」
「……何しに来たのよ、今度は」
目も合わせずに返ってきたそっけない声。それもまた、いつものこと。私はにっこり笑って手を振った。
「いやいや、今日は真面目に! アマンダ先生から言いつかって手伝いに来たの。えらいでしょ?」
「手伝いっていうか……邪魔しに来たんじゃなくて?」
「ちょっとぉ!? それは心外だな〜。私、こう見えても働き者なんだから」
目の前でため息をついているこの子は、私の幼なじみの九段シキ。小さい頃からよく一緒に遊んでたけど、最近はなぜか何でも私と張り合ってくる。ライバル視……ってやつかな?
「はあ……で、今回は何をやらかしたのよ?」
「まぁ、色々と?」
ちょっと視線を逸らしつつ答える私に、シキは呆れ顔。
「もういいわ、どうせロクなことじゃないんでしょ。エリン様もあなたみたいなルームメイトがいて大変ね……」
エリン様。エリーの正式な名前だけど、私は気軽に“エリー”って呼んでる。気にしない仲だからこそ、ああして何でも言い合えるんだよね。
「いやいや、私はそんなに迷惑かけてないってば。むしろ癒やし要員かも?」
「その自信はどこから来るのよ……まったく。ほんと、何であなたみたいな問題児が主席なのか、理解できないわ」
ヤバッ。この流れ、長めの説教モードに突入する予感……。早めに話題を切り替えないと。
「ま、それは置いといて。今日の目的は本の整理でしょ? 人手が足りてないんでしょ、さっさと終わらせたいんだけど」
「……あっちにあるわ。整理対象の本」
シキが指差した先には、本の“山”というより“壁”みたいな量がそびえ立っていた。私、思わず声が漏れた。
「うわっ……こんなに!? 本当にこれ全部やるの!?」
「この時期はテスト前だからね。貸し出しも返却も殺到してるのよ。仕方ないでしょ」
「そ、そういえば、図書委員って結構多かった気が……今、他のメンバーは?」
この学園、図書委員は確か100人以上いたはず。けど、今この場にいるのは、シキ含めて20人もいないっぽい。
「今ここにいるのがそのくらいね。正直、しんどくて辞めたり、別の委員会に移る子が後を絶たないの。ここ、かなりのブラック委員会なのよ」
「委員会ってそんなに簡単に変えられるものなの……?」
「普通は違うけど、図書委員会だけは“特例”が多いのよ。不思議よねぇ」
うーん……なんか気になる。でも、今はそれより、この本の山。どうにかしないと。
「さて、どこから手をつけるかな……」
目の前の山から、適当に1冊を手に取ってみる。天文学の専門書。あれ? これ、まだ読んでなかったかも……
「ミズホ。途中でサボって読み始めるんじゃないでしょうね?」
シキにピシャリと釘を刺された。……うっ、図星。
「……さすがにそれはバレてるか。でも、でもよ? 知識は力って言うじゃない?」
「はいはい。いいから、動いて。どうせ途中で脱線するんだから、今のうちに稼いでおいて」
ちょっと悔しいけど、正論すぎて反論できない。……よし、今日は真面目にやってやろうじゃないの!
「了解しました、図書委員長殿!」
私はふざけた敬礼をして、黙々と作業に取りかかった。