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第38話 ミズホとこれからの道

疲れた……。

焚き火のはぜる音を聞きながら、私は草の上に大の字になった。

ここは、この異界に来て初めての夜。日中の出来事を思い返すと、ほんと、心も体もクタクタだ。


モンスター――ゴブリンやスライム。名前だけなら聞いたことがあるけれど、実際に遭遇すると「やっぱり異界だなぁ」ってつくづく思う。私のいた世界にも似たような魔物はいたけど、姿かたちはちょっとずつ違う。でも、戦うという意味では同じで……正直、今までの経験が役に立った。そこは少し安心。


食料は、アマンダ先生のタブレットが大活躍。食べられる果実やキノコを確認できるおかげで、最悪餓死の心配はなさそう。寝床は、まさかの奇跡――。流行りにのって買ったけど一度も使わず収納魔法に放り込んでいたテント。まさか異界で役立つなんて。……うん、これってもしかして、私、サバイバルの才能あったり?


「やれやれ、なんとか生き延びられたニャ」

肩にちょこんと乗ったクロが、いつも通りの調子でため息をついた。


「そうね……でも、これってどれくらい進んだのかしら?」

エリーが不安げに焚き火を見つめる。


私は慌てて地図アプリを開く。……あれ? 予想以上に進んでない!?

「うーん……2日で着くと思ってたけど、このペースだと5日はかかるかも」


「そんなに!? 意外と広いのね、この森……」

エリーが肩を落とす。私も同じ気持ちだ。けど、焦っても仕方ない。急ぎの旅じゃないんだから。


でも……。


「ねえ、ミズホ。これから私たち、どうする?」

エリーの声は焚き火の灯りに溶けて、少しだけ震えていた。


そう。考えなきゃいけないんだ。

私は闇の精霊と契約して、退学になって、お尋ね者になって……。

いつまでも逃げてるだけじゃダメ。自分が進むべき道、そしてこの闇の力をどう使うか――答えを見つけないと。


でも、ノーヒントで放浪するなんて……無理ゲーすぎない?


「我々の王に会うのはどうかな?」


不意に低く響く声。


「うわっ!? 鳥! いきなり現れないでよ!」

心臓が飛び出るかと思った。目の前に現れたのは、炎をまとった朱雀――エリーの契約精霊、スザクだった。


「やれやれ。ミズホ、君は本当に後先考えずに突っ走るんだから。エリンは苦労するよ」

「いいのよ。私は自分の意思でついてきたんだから」

エリーは強く言い切る。その姿に胸が熱くなる。


「だからこそ、試す必要がある。君たちが本当にこの先を生き抜けるかどうか。――精霊王マクスウェルに会ってもらう」


「……ま、マクスウェル!?」

焚き火の火花が跳ねる音すら、やけに大きく聞こえた。


横でクロがピタリと固まる。

「な……なんでアイツの名を……」


「知ってるの? クロ?」

「当たり前ニャ。精霊の王――精霊の頂点に立つ存在。それがマクスウェルニャ。太古から在り続け、精霊も契約者も畏れる存在ニャ」


クロが珍しく真剣な声を出した。それだけで、マクスウェルっていう存在がどれだけ規格外か分かる。


「でも、人間が会えるような存在じゃない。……クロ、君なら会える。君が彼女たちにとってどうすべきかを聞き出すんだ」

スザクの視線がクロに向く。


「我が……アイツに会うのか」

クロが小さく唸った。


私は慌てて立ち上がる。

「クロ、大丈夫? 危険じゃない?」


「危険じゃないなんて保証、あるわけないニャ。でも……行くしかないニャ。お前たちがこの先を生き抜くために」


その言葉に、胸の奥がギュッと締めつけられる。

クロを送り出すなんて、不安で仕方ない。けど……ここで止まってたら何も変わらない。


「うん……分かった。私とエリーで待ってるから。クロ、絶対に帰ってきてね」


「任せろニャ」

クロは短くそう言って、闇に溶けるように姿を消した。


焚き火の赤い光が、残された私とエリーを照らす。

――静寂の中で、私は強く拳を握った。


精霊王。クロの真剣な顔。

これはきっと、私たちの旅の分岐点になる。

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