第21話 エリーとお気に入りの時間
ミズホとの衝撃的な出会いから、数日が経った。
あの日の彼女の印象は、私の中でずっと残っていた。
無鉄砲で、自由で、でも…不思議と惹かれるものがあって。
それでも日常は続いていて、私は魔法学園ルーラでの生活に戻り、試験勉強に追われていた。
試験範囲は広くて難解。さすがはルーラね…などと思いながら、私は静かに図書館の机に向かっていた。
でも、ふと息が詰まるような気がして、思ったの。
――少し、気分転換しようかしら。
私が向かったのは、魔道都市アルファにある小さなカフェ。
学園から少し離れているけれど、お気に入りの場所のひとつ。
ここでは、何もかもが落ち着いている。
繊細な装飾の内装に、深煎りのコーヒーの香り、そして――私が密かに愛してやまない、絶品のチーズケーキ。
一口食べるたびに、心がほぐれていくようで…
もし誰かとこの味を分かち合えたら、どんなに素敵だろう――そんなことを考えた。
でも、その“誰か”って誰? 私はまだ、そんな相手を見つけられていない。
…考えても仕方ないわね。
そんなことを呟いて、私はもうひとつの“お気に入りの場所”へ足を向けた。
静かな川沿いの遊歩道。人も少なく、風の音と水のせせらぎだけが心地よい。
……だったはずなのに。
ふと、背中に感じた違和感。足音の気配。誰かに――つけられている?
そう思った瞬間には、もう囲まれていた。
黒いフードを被った男たちが4〜5人。私の周囲をぐるりと囲んでいた。
「エリン女王だな……」
「……!」
「恨みはないがな、生きてると都合が悪いお方もいるんでね」
またこれ? 本当に、王位継承なんて興味ないのに……
でも、この程度の相手なら、私一人でも――
そう思い、構えようとした、その時だった。
「ちょっと待ったぁーっ!!」
空気を切り裂くような声。そしてその向こうから現れたのは――
「あなた……!」
ミズホだった。
「女の子一人を、集団で襲うなんて、卑怯だと思わない?」
まっすぐに私の前に立ちはだかる彼女の姿に、一瞬、息を呑んだ。
なんて……まぶしいの。
「なんだお前、状況がわかってないようだな?」
「分かってるわよ。アンタたちから彼女を守る、それだけでしょ!」
毅然とした態度でそう言い切るミズホ。
その背中に、思わず見とれてしまった。
黒フードの男たちが襲いかかる。
「くっ…!」
けれど、その瞬間だった。
「ふっ!」
ミズホが片足に強化魔法をかけ――鋭い蹴りを一閃。
一人の男が地面を転がった。
「くっ、この小娘!」
「やれやれ……このミズホちゃんに勝とうって? 残念だけど、あなたたちの勝率は“0%”よ!」
口元に浮かべた余裕の笑みに、なぜか私は胸が高鳴った。
その後の戦いは、まさに一方的だった。
まるで舞うように、けれど力強く、正確に。
あっという間に、全員が倒されていた。
「よし、今のうちに逃げるわよっ!」
私の手を取ると、彼女はぐいっと引っ張った。
「ちょっ……!?」
私の手をぐいっと引くミズホ。その手のひらは温かくて、力強くて――
……なぜだろう。
走っている間ずっと、胸の奥がくすぐったくて、少しだけ痛かった。
これが、誰かに“助けられる”ってことなんだ。
この感覚は、王女として守られることとは――まったく違っていた。




