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もう恋なんてしない。

「お前はいらない」

「本当に好きな人、真実の愛を見つけたのだ」

「一年後と言ったが撤回だ。今すぐにここを出ていくといい」

「私とお前はもう他人だ。馴れ馴れしく近づくんじゃない」

「ほら、この人が私が愛した人だ……」


 そんな・・・

 どうして。

 いや。

 悲しい……。


 はっと気がついた時にはもう日が高く昇っていた。

 どうやら泣きぬれてまくらもベタベタになってしまっている。


 あれは、夢?

 起きたばかりの時は記憶が混乱して、ジュリウス様の言葉がすべて現実のもののような気がしてしまっていたけれど、だんだんと今見たのは夢だったと理解できてきた。

 不思議。

 あんなに鮮明ではっきり言われた気がしていたのに、今考えるとどこか違って。


 悲し、かったんだな。


 そう、今更ながら自分がそこまで落ち込んでしまっていたことを自覚した。




 カーテンが開いているのはメアリィの仕業だろう。

 泣きながら寝ているわたくしを慮って起こさずにいてくれて。それでも自然に目が覚めるようにとカーテンを開け陽光をお部屋に取り込んでくれたのだ。


 よっと身体をおこしベッドからおりる。

 裸足のままカーペットを踏み締めながら窓の脇まで歩いて、ゆっくりと外を眺めてみた。



 太陽はほぼほぼ真南にある。そろそろお昼かな。

 雲は少しあるけれど、真っ青な空がとても気持ちいい。

 眼下には侯爵家の庭園がみえる。


(あそこで、わかれようって言われたんだったわ……)


 昨日のことのはずなのに、なんだかとても昔のことのような気がしてしまう。


(わたくしがこんな時間まで寝ていても、この家の皆は何も変わらず普通に過ごしていくのね……)


 ジュリウス様はわたくしが起きてこないことを心配して様子を見にくるわけでもない。

 どうでもいいのだ。わたくしがどうしていようが、どうなっていようが。

 仮に病気で寝込んでいたとしても、きっと関心も持たれないだろう。

 メアリィ以外は。きっと。


 そう思うとなんだかばからしくなった。家のためにと尽くしてきたこともみなわたくしが満足する為だけの行為だったのかもしれなくて。

 実際にはわたくしなんか居なくってもちゃんと日々は過ぎていくのだ。だから……。


 ジュリウス様のことは諦めよう。


 そう思ってしまったら、なんだか心が軽くなった気がした。


 もともと、わたくしにはもったいない恋だったのだ。叶わない片想いだったのだ。


 そう自分で自分に言い聞かせて。


 失恋?

 ううん、違う。

 だってまだ本当には何もはじまっていなかったのだもの。


 わたくしは、恋に恋していただけかもしれない。


 結局一度もちゃんと「愛しています」の一言も贈ったことすらないのだもの。


 こうして仮初にも夫婦となったはずだったのに、結婚する前以上に他人にしかなれなかった。

 これは、自業自得だ。

 わたくしが本気で彼を愛そうとしていなかったせいなのだ。



 うん。

 もう、恋なんて要らない。

 もう、こんなつらい、悲しい思いは要らない。

 恋なんてするから、恋なんてしたから、こんな思いをしなきゃいけないのなら……。


 もう、わたくしは恋なんてしないわ……。




 そう心の中で呟くと、なんだかとても楽になった。

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