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義母ベローニカ。

「あなた、マリエルちゃんに『わかれよう』だなんて言ったそうね」


「ベローニカは黙っててもらえますか。今の当主はこの俺です。この家のことは俺が決めますよ」


 いきなり人の執務室に乗り込んできてソファーにまるで寝転ぶかのようの身体を倒してこちらを舐めるようにみる妖艶な女性、ベローニカ。


 金色の巻毛が片目を覆い隠すようにかかり、そのまま肩まで流れている。

 着ているものも、夜着にナイトガウンを羽織っただけにみえるラフな装い。

 なんでこんな。そう思ったことは一度や二度ではないけれど、彼女のその奔放な振る舞いまで制止できるほど、ジュリウスは彼女に対して強く出られず。


「あらあら、おかあさまに対して随分な物言いね。ああでも『俺』と言って強がってみせるところなんか、まだ甘えてくれているってことなのかしら?」


 ふん、と鼻を鳴らしてベローニカを睨め付ける。


「あなたのことを母だと思った事などただの一度もありませんよ。お母様の妹で父の(かざり)だけの後妻。それ以上でもそれ以下でもない」


 ジュリウスの母フランソワが早世したあと、まだ幼かったジュリウスを不憫に思った前侯爵アルバドロス。誰でもいいからと後妻を求め、それに応じたのがフランソワの実家、義父であったレイチェル・バリアント子爵だった。

 フランソワの七つ下のベローニカは当時まだ15歳になったばかり。

 五歳のジュリウスにしてみても、まだ幼さの残るベローニカは綺麗なお姉さんといった風に見えこそすれ、母の代わりとはならなかった。

 それでも、懐かなかったと言うわけでもない。

「ベローニカ、ベローニカ」と、まるで姉を慕う弟のようにくっついてまわり、よく遊んでもらっていた。

 大きくなってからは反動でツンケンした態度を取るものだから、ベローニカにしてみてもこの甥であり義息であるジュリウスのことは可愛くて仕方がなかったところもある。ついつい構いたくなって、こうして部屋まで押しかけることもしばしばだった。


「母じゃなければなんなのかしら? 恋人? それでもいいけれど」


「ふざけないでいただきたい。父の後妻におさまったはいいけれど、結局あなたは侯爵夫人としての仕事など何もしてこなかったではないですか」


「そんなこともないわよ。ちゃんと社交会では着飾って、しっかり侯爵夫人として振る舞ってきたもの。侯爵夫人のお仕事なんて社交が第一でしょう?」


「領地のことも、家のことも、全て父に任せて知らん顔をしていたのに? あなたが何もしないから、父は嫁いできたばかりのマリエルにまで小間使いのような真似をさせていたではないですか」


「マリエルちゃんは優秀だもの。っていうかいいの? あんな優秀な子、そうはいないわよ? 簡単に手放して後悔したりしないのかしら?」


「後悔なんてしませんよ。実務だけなら代わりはいくらでもいます。それより、あなたはどこで俺が彼女に別れ話を持ち出したことを知ったんです?」


「あらあら。あんなお茶会の場で喋っておいて、知られないだなんて思っていたんだったらあなたもまだまだ子供だってことだわ。壁に耳あり。貴族は隙を見せちゃいけないのよ?」


「おおかた侍女の中にあなたの息のかかったものがいたんでしょうけど。まあいいです。別に内緒にするつもりはありませんでしたからね。俺も、それにマリエルも、今度こそちゃんと本当に好きな相手と結婚するべきだ。貴族だからとか愛のない結婚でも仕方がないとか、そんなことはもう父の代までで十分だ。あなただって、ユリアとユリウスが政略の駒に使われたらいい気はしないでしょう?」


 ユリアとユリウス。前侯爵とベローニカの間に生まれたジュリウスの妹弟。

 まだ可愛い盛りの子供ではあったけれど、その子らのことも自分なら絶対に政略の駒にはしない、そうした決意はあったジュリウス。


「人の親としてはそうね。貴族の一員としては仕方がないことではあると思ってはいるわ」


「あなたがそんな風では!! いいです。俺が絶対にあの子らにそんな真似はさせません! 大事な妹弟なのですから!」


 そう息巻いて。手に取ったグラスをぐいっとあける。

 ベローニカがニマニマと笑いながらこちらをみているのが、ものすごく癪だった。

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