おしごと。
「なんだこれは!!」
執務室の机で俺は思わずそう叫んでいた。
まさか。
こんな短期間の間に経営が赤字になっているとは思わなかった。いや、父が生きている時はちゃんとやれていたはずなのだ。それなのにどうして……。
父が亡くなって半年が過ぎた。
そう、マリエルがこの家を出て行ってからも半年近く経ったということだ。
いや、でも、たった半年だぞ。
うちの領地なんて元々そんなに特産品があるわけでもない、麦の生産だけでなんとかやってきただけの領地じゃないか。今年の収穫量だって去年と特に変わったところはないはずだ。だのになぜ?
年末の報告書。領地から送られてきたその書類の束を読み返して資金がマイナスになっている事に気がついた。
例年と違うことがあるとすれば父の葬儀費用くらいだけれど、実際の葬祭は来春の予定だし内々の葬儀費用は王都の屋敷の予算で賄ったはず。領地経営に支障をきたすようなもちだしもしていないはずだ。
まさか領地の家臣の誰かが不正を働いている?
「セバスはいるか!」
「はい、旦那様」
「報告書だけではよくわからん。領地の家臣たちをこちらに呼び寄せることはできるか?」
「お言葉ですが、主な者でも十名ほどになります。それぞれ役割は違いますし、一人づつ呼び寄せるなら兎も角全員呼び寄せてしまうとなると領地経営が滞ってしまいます」
なるほど。馬車で片道三日ほど掛かる距離だが流石に全員はまずいのか。
「わかった。それではこちらから出向こう。馬車と人員を見繕ってくれ」
「わかりました。出立はいつにいたしましょう」
「準備が整い次第でいい。二、三日後には立てるか? 向こうにも書簡を送っておいてくれ。今回の報告書について詳しく聞きたいと添えておいてほしい」
とにかく今のままではダメなことだけはわかった。
思っていた以上に、簡単ではないことにも。
♢ ♢ ♢
ローズマリア夫人がマリエルを連れ帰ったあと、何度か謝罪したい旨の手紙を書いたがそれに対しての返事はなく、逆に伯爵からの離縁の申し入れが来た。
慌てた俺は伯爵家を訪れたが「留守」であるとの返事しかなく門前払いをくらい、しかたなく書簡で伯爵に面会の申し入れを行ったがそれもかなわず。
マリエルと離婚はしないと主張するだけしかできない状態が続いた。
「と、いうわけでさ」
困った俺はまたウイリアムに相談する。でも。
「少し伯爵の頭が冷えるのを待った方がいいかもね」
そんな答えが返ってくるだけで。
そうこうするうちに屋敷のこまごまとした仕事にも忙殺されるようになった俺は、「これでマリエルに帰って来てほしいだなんていうのは、仕事を押し付けるためだと誤解されかねない」だなんて変なプライドも働いて、素直に彼女に帰ってきて欲しいという手紙も出せずに……。
そんな忙しさにかまけていた時。マリエルから一通の手紙が届いた。
喜び勇んで開けてみるとそこには、
「ジュリウス様。私マリエルはしばらく商会のお仕事で外国に赴くこととなりました。約束の三年目まで多分戻れませんが、その頃に一度離婚の手続きのために戻ります。差し出がましいとは思いますが、どうかお身体にお気をつけ、お過ごしくださいませ」
との一文が、丁寧な筆跡で綴られていた。