光明。
「そりゃあお前が悪い。なんで気がつかなかったんだよ。せっかくお膳立てしてやったのに」
「どういうことだよ」
「言葉の通りさ。奥さんが明るく働いている現場をみたらお前も気が変わるんじゃないかって思ってあの店に連れて行ったんじゃないか」
「最初から、知ってたのか?」
「あれはまあ別人と思っちまうのも無理はないかもしれないが、少し調べればわかる事だろう? 彼女はマリーゴールド商会の支配人だ。で、マリーゴールド商会っていうのは?」
「ああ、マリエルの商会、だ」
「そこまで分かってれば理解できるだろうさ。なんでマリーゴールド商会で「マリー」と名乗る女性が君の奥さんマリエル夫人と無関係だって思えるんだよ」
「それは……」
「それにだ。少しは奥さんの事をちゃんと見ていれば、彼女の素顔くらい見たことがあっただろう? 寝る時も化粧しているわけでもなし」
「いや、見たことは無かったんだ……」
「おまえ、まさか、この二年間、ほんとうにまったくそういうことが無かったっていうのか? 全くの白い結婚だったと?」
「あ、ああ、ほんとうにまったく、夜に彼女とともに過ごしたことは一度もなかったよ……」
なんなら、夕食時さえともに過ごしたことは数回数えるほどしかなかった……。
俺とマリエルは、あの屋敷の中にあって完全に他人に等しい生活を送っていた。
いや、他人ならまだましだ。
俺はマリエルを避けていたから。
「重症、だな。夫婦仲が上手くいってなさそうなお前がやっと彼女を夜会に連れてこれるまでになったって、喜んでたのに。まさか別れ話を持ちかけていたんだなんて。そりゃあ向こうにしてみればいわば浮気だろう? もし本当にマリーさんがマリエルさんの妹だったとしたら彼女たちはどう思ったと思う?」
「しかし、俺は……」
「おおかた真実の愛を見つけただなんて舞い上がってそこまで考えられなくなっていたんだろうが……。最悪だな」
「俺はどうしたら……」
「逆に聞くけど、どうしたいんだ? マリーさんがマリエルさんだったってわかって幻滅したか? このままわかれてもいいのか? それとも、マリエルさんとよりを戻したいのか? どうなんだ?」
「マリエルとわかれたく、ない……」
「お前が愛しているのはマリエルさん、って事でいいんだよな?」
「ああ、そうだ。俺はマリエルを愛してる。わかれたくなんか、ない」
「なら、まず謝罪だろ? 謝ってこい。本人にちゃんと気持ちを伝えるところから、じゃないか?」
夜会のあと。
落ち込む俺を気遣ってくれたウイリアム。
二人で夜通し飲み明かし相談にのってもらった。
「そうだな。ありがとうウイリアム。そうしてみる」
「ああ。がんばれ」
そうだ。
もう、気まずいだなんて言っていられる状態じゃない。
まず謝罪の手紙を送ろう。
そして……。
窓からはいつのまにか朝陽が差し込んでいた。
ウイリアムのおかげでひとすじの光明が見えた気がして、気分も少し上向いていた。




