マリエル。
「あらあら。どうされたの? そんなに驚いたようなお顔をして」
「あ、貴女はユーラッド伯爵夫人ですか……?」
「ふふ。そうだけど。そうね、お会いするのはお久しぶりですわね」
「いや、そう、しかし、私は……」
「ふふ。大丈夫よ『ユリアス』さま。わたくしは何も言いませんわ」
「それは、ああ、ありがとうございます。それで今日は……」
「もちろん今夜の夜会は主人も一緒でしてよ。彼はいろいろ挨拶に忙しいらしいから、わたくしはこうして一人羽を伸ばしているってわけ」
「マリーとはお知り合いなのですか……?」
「あらあらあら。そういうこと? ふふふ。そうなのねそういうことなのねー。興味深いわ。そうよマリーはわたくしのかわいい娘、ですもの」
「では……マリーはマリエルの姉妹ということなのですか!!?」
「ふふふふ。もうおかしい。ねえマリー、貴女はそれでいいの?」
いきなり笑い出した夫人は背後のマリーに話を振って。
マリーの顔が、硬い。
これは、怒っている? 困惑している? どういうことだ?
「わたしはどちらでももう構いません。だって、もうあと一年だけですから」
え?
「ん? 一年ってどういうこと?」
「一年経ったらわたしはあの家を出ますから。だからもういいのですよ」
ん? マリー?
「マリー?」
「ユリアスさま。いいえ、ジュリウスさま。ごめんなさい。わたしはマリエルです。マリーというのはあのお店で働いている時の名前みたいなものですから。だから、もういいんですよ。わたし、ううん、わたくしのことは忘れてください。一年後にはちゃんと家を出て行きますから」
「どういうことなの!? マリエル?」
「おかあさま。わたくし、ジュリウスさまに一年後の離婚を言い渡されているのです。白い結婚3年目の結婚破棄法を使用しての円満離婚を」
「だって。貴女はそれでいいの? 結婚破棄法はあくまで当事者二人が合意していて、周囲のしがらみから逃れる為のものでしょう? そもそも貴女たちにしがらみなんて無いじゃない。貴女が離婚したいのならおとうさまは喜んで連れて帰るっていうわよ?」
「それでも。それがジュリウスさまの望みなんですもの。わたくしはそれに従うしか……」
俯いて泣き出したマリー。
って、いや、彼女はマリエル?
だとしたら俺は……。
「ユリアス、いいえ、ジュリウスさま? マリエルはこのままわたくしが連れて帰ります。なんのお遊びかと思ったらこんなに深刻な事になっていただなんて。こんな状態のままあなたのそばにおいておくわけにはいきません」
泣きやまないマリエルを宥めるように、寄り添い立たせるローズマリア夫人。
こちらをキッと睨みつけ、彼女はマリエルを連れ会場をあとにした。
呆然としたままただ見送るしかできなかった俺は、あとからこの時のことを後悔することになった。
なんでなりふり構わず謝罪してでもマリエルをとめなかったのか、と。




