マダムローズ。
「疲れた? 大丈夫? 何か飲む?」
黙って俺についてくるマリーの足取りが重いような気がして、そう聞いてみる。
壁際にはたくさんの料理が並んでいるし、椅子もある。
夏の夜にあうエールやサワー系のドリンクを盆にのせ配ってまわっている黒服の従業員もあちこちにいるから、まずマリーを座らせてから何かドリンクをもらってこようか。
「ありがとうございますユリアスさま。こういう場はあまり経験がなくて。緊張してしまいますね」
自嘲気味な笑みを浮かべる彼女。
「そうか。気がつかなくてごめん。でももう主催者の公爵への挨拶は済ませたからね。あとはゆっくり食事を楽しもう。私ももう別に挨拶回りとかはするつもりはないから安心して」
貴族同士の社交の場に駆り出されれば、誰だって緊張してしまうかもしれない。
俺だってそういうのはあまり好きではないし、だいたい今の俺は侯爵ではなく青い髪のユリアスだ。俺を俺と知るものがほとんどいないこの夜会。義理を果たしたあとは楽しむだけだ。
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えますわ」
そう言う彼女に椅子を勧め、俺はドリンクをもらいにその場を離れた。
俺はエール、彼女には甘めのシャンパンを持ってこよう。
久々に彼女とちゃんと会話できたことに嬉しくて少し笑みが溢れる。
ああ、この調子だ。あとはゆっくり食事をしながら会話を楽しめれば。
黒服からドリンクを受け取りマリーのもとまで戻ると、彼女の前に女性が一人立っていた。
何か話している?
マリーの知り合いが居たのか?
「もう、せっかくわたくしが選んだドレスを返品だなんて。貰っておけばいいじゃない贈ってくれるっていうんだから」
「そういうわけにはいきません。貴女も貴女です。ユリアスさまは既製品のおつもりだったっておっしゃってましたよ。それなのにあんな高価な物を贈ってきて」
「だって、マリーに似合うドレスを見繕って贈って欲しいって依頼だけだったんですもの。お値段のことなんか気にしない風でしたのよ。だったら腕によりをかけて最高級の物を、って思うのは当たり前じゃなくって?」
「だからって」
「ふふ。怒った顔も可愛いわよ。やっぱり若いっていいわぁ。わたくしはもうすっぴんに自信は持てないですもの」
「それは……。もう、仮面をかぶるのはやめにしたんです。頑張って自分の周りに鎧を作った挙句、嫌われるのじゃ意味がないもの」
「そうねえ。まあ元々貴女が言い出したのよ。自分のお顔が他の貴族のようじゃないからって。だからお化粧を教えてあげたのに」
「もう、いいんです。わたし、恋には疲れました」
「そうなの? そうでもないと思うんだけど?」
はからずも二人の話し声が聞こえてしまった。
少し気まずいか、と思いながらもせっかく持ってきたドリンクがぬるくなってしまうのはまずいなと思いつつ。
「すみません。そちらのマリーさんにドリンクを持ってきたのですが」
と、声をかけてみる。
はっと振り返った美女。
って、え?
どこかで見た気が……。
「あら。『ユリアス』さまでよかったかしら? マダムローズと申しますわ。先日はどうも」
そういう美女。マダム、ローズ?
ああ、いや、彼女はローズマリア?
マリエルの母君の、ローズマリア・ユーラッド伯爵夫人じゃないか!!




