夜会。
白の馬車を裏通まで乗り付けた。レイングラード家が先代の時代に王家から賜った由緒正しい馬車には、この国を象徴する青い龍が真っ白な壁面に浮かぶように描かれている。
こんな時でもないとなかなか使う機会も無い。
公爵家の夜会にこれで乗り込むということは周囲の貴族にレイングラード侯爵家の威光を示すことにもなるはずだ。きっと、マリーも喜んでくれるだろう。
マリーゴールド商会の前まで到着すると、御者がまず扉のノッカーを鳴らす。
やがて中から扉が開き、先日の従業員に見送られマリーがその姿を表した。
上半身は白、スカート部分は段階的に赤に染まっていき、最後には真っ赤なレースがひらひらと舞う。そんな綺麗なドレスを身に纏ったマリーは美しかった。
赤茶な髪をアップにし薄く化粧をしたその姿は、着飾った貴族とはまた違った美しさだったけれど、俺には十分好ましい姿に見える。
「どうぞこちらに」
そう手を伸ばす。
「ありがとうございます」
軽く礼をしてこちらに手を伸ばすマリー。
その白魚のような腕には、真っ白な手袋。口元にはふんだんにあしらったレースが揺れている。
(所作も、美しいな。やはりマリーは貴族の娘なのだろうか? マリーゴールド商会を取り仕切っている風に見えるのも、マリエルの身内だからなのは間違い無いだろうけれど)
あくまでマリーとマリエルは別人だと思いたい。
もしかしたら、とも思ったけれど、まだ証拠があるわけでもなければ本人から聞いたわけでもない。
なんで? って。
マリーがマリエルだったとしたら、バツが悪すぎるじゃないか。
俺はマリエルに対してあんな態度を取り続けたんだ。彼女からは嫌われているに違いないのに。
それに。
今の俺はジュリウスではなくユリアスだ。青い髪のユリアスとして彼女と接しているのだから。
このままもう少しマリーとの距離を縮めたい。
もしマリーにあの貴族風な化粧をした姿がマリエルなのだとしても、マリーとの間にちゃんと信頼関係が築ければ何もかも解決するはず。そう思えるから。
愛している。マリー。これは真実の愛なんだ。
もうすっかりマリーに釘付けになった俺の心。
今夜の夜会ではもう少しちゃんとこの思いを伝えたい。そう思いながら彼女をエスコートし馬車に乗り込んだ。
つんとして笑顔を見せてくれないマリー。
向かい合った馬車の中では結局何も会話ひとつできないまま公爵邸に到着した。
「どうぞ」
馬車から先に降りて手を伸ばす。
「ありがとうございます」
そう、こちらに会釈し手をとってくれるマリー。
うん。この調子だ。
今夜の夜会が楽しいものになるといい。
そう願って真っ赤な絨毯の上を歩いて行った。
現ロックフェラー公爵はやはり代替わりしたばかりで、俺にとっては親友と呼んでもいいくらい普段から共に過ごしている仲間だった。
お互いにまだ爵位も継がない前から一緒に街に繰り出したり。
金華亭に最初に訪れたときも、実は彼と一緒だった。いや、俺に、「いい店があるんだよ」と教えてくれたのが彼、ウイリアムだったから。
この青い髪のまま公爵夫妻の前に立ち、挨拶を終える。
目配せをするウイリアムに、頷く俺。
彼女が金華亭のマリーだということにも気がついたのだろう。口には出さなかったけれど、「よくやったな」といった雰囲気の顔をしてこちらを見ているのになんだか小恥ずかしくなって、俺は早々にマリーをつれ会場の隅に移動した。




