約束。
「あの。何をそんなに怒っているのか、理由を聞いても?」
黙ったままでいるマリー。痺れを切らしそう声をかけてみた。
そりゃあいきなりドレスを送りつけるだなんて不審に思ったのかもしれない。けれど、先日のデートであんなにいい雰囲気だったのに、これは無いだろう、そうもおもう。
「どういうおつもり、なのでしょう?」
声が冷たい。これはやっぱりかなり怒っている。しかし、なぜ。
「先日お約束したじゃ無いですか。またお食事でも、って。夜会といってもただの立食パーティーです。ご一緒してもらえると思っていたんですが」
頭を振るマリー。
「全然違います! お食事をご一緒するのと公爵家の夜会にパートナーとして出席するのでは天と地ほども意味合いが違うじゃ無いですか。それに、あのドレス」
「ああ、ドレス。ごめんなさいまだ実は実物を見ていないんですよね。君に合うドレスを贈ろうと既製品でもしょうがないかと、金華亭のマリーさんに合うドレスを贈って欲しいとお店に丸投げしてしまって。もしかして、サイズ、合わない物でしたか?」
「ローレルローズの一品物ですよねあれ。マダムローズはわたしのサイズ熟知していますから、オートクチュールの最高級のドレスを拵えてきましたよ。あんなもの、いくらすると思っているんですか!? 受け取れるわけ、無いじゃないですか!」
「ああ、それは良かった。お金の問題だったら心配しなくてもいいです。それくらいの甲斐性はあるつもりです」
「そういう問題じゃありません! 会ったばかりの人にそんな物贈られて、いい気分になるようなそんな女だとお思いで?」
「あ、いや……。あくまで私の気持ち、というか……」
「とにかく、あれはローレルローズに返品しておくので、貴方のお支払いは無いように話しておきます」
「そんな! 私は君に一緒に公爵家の夜会にお付き合いしてもらいたかっただけで……」
「そうですね。約束は確かにしましたからね。それは守りましょう。でも、こんなのは一度だけです。今回だけだと思ってください」
あくまで頑なな態度を崩さないマリー。まあでも、一度だけだなんていうのは後からなんとでもなるか。
「ああ。嬉しいよマリー。なら、今回の夜会は一緒に行ってくれるんだね」
「しょうが、ないです。わたしも迂闊に返事をしてしまったと反省しています。ああ、心配しないでください。ドレスくらい自前で用意いたしますから」
♦︎ ♦︎ ♦︎
結局。
当日、ここまで迎えにくることにしその場を後にした。
しかし、一体どうしてしまったというんだろう。ドレスを贈ったのがいけなかったのか? 会話の最中結局一度も彼女の笑みを見ることは叶わなかった。




