誘い。
彼女は喜んでくれただろうか。
来週末のロックフェラー公爵家主催の夜会のパートナーにマリーを誘うことにした。
その為の手紙とドレスを贈ったのだが……。
こちらの家名は伏せたままなので、当然署名はユリアスとしてだ。
マリエルを誘ってみようかとも考えた。マリエルとマリーがもし同一人物であるのなら、離婚話など撤回してもいい、そう思ってはみたものの、確証も無くマリエルの部屋に突撃するのも憚られる。
それに。
やっぱり別人だとわかったら俺は……。
マリーが好きだ。この気持ちは真実の愛に違いない。そう確信している。
だからこそ、もう少しユリアスのままマリーと接していたい。
マリーともっと親しくなれれば全てが解決するはずだ。
ドレスはグラン商会のブランド、「ローレルローズ」のデザイナー、マダムローズに依頼した。
通常であれば本人のサイズなどを採寸する必要があるのだろうけれど、ローレルローズは既製品のドレスも扱っているのでなんとかなるだろうと安易に考え。
「金華亭で働くマリーという少女に薔薇のドレスを贈りたい」
そう書簡で依頼したところ、すぐに受託の返事が来た。
思うに、金華亭のウエイトレスの衣装もローレルローズで採用している一般的なサイズなのだろう。オートクチュールのドレスでないのは申し訳ないが、既製品でもなければそんな短期間にドレスが仕上がるわけもない。次はぜひ最初から仕立てたものを着てもらいたいものだと思いつつ、俺はマリーゴールド商会の事務所に向かった。
手紙には一緒に夜会に出て欲しい旨と、返事は日時を指定して直接尋ねて聞くという二点を書き送った。
こちらの家名を伏せている以上手紙で返事をもらうわけにもいかない。
それに。
きっと、彼女も喜んでくれるに違いない。
手紙の返事だと遠慮して断られるかもしれないが、直接会えばきっと快諾してくれるはずだ。そう確信して。
馬車で直接裏通の商会の事務所前まで乗り付け、降りる。
御者にはそこで待っているように指示をして、ドアの前に立った。
古風なドアだな。そう思いつつ、少し緊張しながらノッカーを鳴らす。
ドアが開き、商会の使用人らしき男性が顔をのぞかす。
「こんにちわ。ユリアスともうしますがマリーさんはおみえになりますか?」
不審なしかめ面を浮かべたその男のことを、(失礼な奴だな)と心の中で思いつつも顔には出さず、極めて笑顔を心がけて軽く貴族らしく礼をしてみせる。
「マリー様は会いたくないとおっしゃっています。今日のところはお引き取りを」
そう仏頂面で返す男。
「そんばかな。ああ、きっと何かの勘違いでしょう。直接お会いしてお話しすればきっと誤解も解けるでしょう。どうかおとりつぎください」
そんな。マリーが俺に会いたくない? そんなバカな話は無い。
「しかし、マリー様は」
「いや、わたしがここにきていると取り次いでくれませんか? たとえ返事が断りであったとしても会って直接返事が欲しい。そうでなければこのまま帰るわけにはいかない。あなただってそう思われませんか?」
引くわけには行かない。なんとしてもマリーと直接話がしたい。
笑みは崩さなかったがそんな俺の迫力におされたのか、「少々、お待ちください」と苦虫を噛み潰したような表情で奥に引っ込んで行った。
しばらくして。
「どうぞ」と通された先。応接室? に居たのは、いかにも商家のお嬢様然としたマリーだった。
若干、困惑している? いや、これは怒っている? 口をぎゅっと一文字に結んだ彼女はこちらを見て、そっと頭を下げた。




