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「わかれよう」そうおっしゃったのはあなたの方だったのに。  作者: 友坂 悠@書籍化しました!!(電子書籍配信中です!!)


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同一人物?

 俺は忍び外に出る時はいつも、やはり青い髪だった祖父の遺髪で拵えたかつらをしていた。

 侯爵家の嫡男が下町を一人歩くだなんて、と、陰口を叩かれるのも嫌だった。弱みを見せたくなくて、そうして変装をしていたわけだけれど……。それだけじゃない。

 憧れ。

 自分も青い髪に生まれたかった。

 そんな羨望をせめてこうして変装をして紛らわしたかったのもある。


 時には一人で。時には気心の知れた友人と。

 外に出る時には自分の名前をもじってユリアスと名乗っていたりもした。

 仲間たちもそれぞれ偽名を名乗り、なんというか貴族社会では感じることのできない「自由」を満喫したつもりになっていた。


 そんなある日だった。友人らが勧める食堂に足を運んだのは。

 金華亭というその食堂はなかなかに趣味がよく、平民の食堂としては勿体無い作りをしていた。

 そのわりにメニューに書かれた値段は安く、よくこんな値段でできるものだと、すぐに潰れてしまうのじゃないかというのが最初に感じた感想だった。

 ユーラッド家のグラン商会が経営する店は、高級な造りの店は値段も高く、平民が気安く通える店だと造りも安い。

 まあ普通はそういうものだ。

 そういうものが差別化としては当たり前だろう。

 店に入る前から払う金の算段ができるというのは重要なことだ。


 ここは、グラン商会の紋章である大鷲の意匠では無く、赤い花を模った紋章が掲げてあった。

 きっと新興商会の経営なんだろうな、と。その時はそう思っただけだったけれど。


 いや。

 耳にしたことはあったのだ。

 それ以上細かく聞こうとしなかっただけで

 マリエルが経営する商会がマリーゴールド商会という名前で、その意匠が花の紋章だということは。


 結局その時俺は気がついていなかった。

 その店、金華亭がマリエルの経営する店だということに。

 だからか、店に入ってしばらくして、甲斐甲斐しく働く一人の女性に目が行くようになり……。

 その彼女に恋をしてしまったのだった。

 彼女が誰かなんて、その時には思い浮かびもしなかった。

 ただ、幼い頃のマリエル、今のように変わってしまった彼女じゃない、そんなあの好ましい笑顔についつい惹かれてしまったんだった。





 いや。だけれど。

 そうだ。

 まだ、彼女マリーがマリエルだと決まったわけではない。

 もしかしたら血縁の誰か別の人かも知れないじゃないか。


 今の、あの貴族らしい派手な顔をしたマリエルとあの可愛らしい笑顔のマリーが同一人物だとは、やっぱり思えない。


 そういえば今マリエルはどうしているんだろう。

 あれから、まだマリエルと顔を合わせていない。


 あの「わかれよう」という提案に頷いたマリエル。もしかしてもう俺には愛想を尽かしているんだろうか? だから、部屋から出てこないのだろうか?

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