鬱屈。
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まさか!
そんな……。
いや、しかし……。
それでも、彼女には幼い頃に初めて会った時のマリエルの面影がある。
その頃のマリエルのあの可愛らしさに、俺は好意を持っていたはずだった。
そうだ。もう、随分と昔の話だけれど。
あれはまだ貴族院初等部に上がる前の年。
父に連れられユーラッド伯爵家を訪ねたんだったか。
身分ではこちらの方が上なのになんで? そう子供ながらに思った。
侯爵がわざわざ伯爵家を訪れるだなんて、そう反発したものだ。
しかし。
グランドルフ・ユーラッド伯爵を見た時、そんな疑問は吹っ飛んだ。
彼のその青い髪、その威厳のある顔。王宮の奥に飾られていた先先代国王陛下に瓜二つのその容姿。
父の説明によると、当時でもうかなりのお年を召しているように見えたグランドルフ氏が先々代国王陛下の血を引いているのだろうというのは公然の秘密なのだという。
王位継承権が与えられなかった代わりに、国内の産業育成において王室の後ろ盾のもと邁進した結果、彼のグラン商会はこの国のみならず周囲の国家を探しても類のない規模の大商会として成長したのだということだった。
そんなグランドルフ氏が可愛がっていたのが孫のマリエル。
彼女を見る時だけはその瞳が優しい光を放っていたのを俺は見逃さなかった。
庭で侍女に囲まれ遊ぶ彼女を、微笑ましい瞳で眺め見るグランドルフ氏。
父は、商売の話でグランドルフ氏を訪ねたのだということだったけれど、そんな場所に俺を連れていったのは、彼女と自分を会わせるため? だったのだろう。
しかし結局その時は少し挨拶をしただけだった。
きっと彼女は俺のことなんて覚えてもいないだろう。
俺は、自分のどこにでもいる髪色が嫌いだった。きっと、他の貴族の誰とでも、俺はとりかえが効くはずだから。
貴族なら自分を殺して家のために尽くせ、と、一族の誰かに言われた時には反吐が出ると反発したけれど、それでもきっと逆らえば自分の立場も何もかもが誰か別の人間に取り替えられるんじゃないか、そういう妄想に囚われてしまったこともあった。
血筋、だけなら別に従兄弟の誰でも俺に取って変わることができるはず。
嫡子なのだからと言って安心できるわけはない。
現に、もし俺が早逝してしまったとしたら、代わりなどいくらでもいたはずだから。
子供の頃はずっとそんな鬱屈した気持ちで過ごしていた。
そんな気持ちが父が死んで家を継いだあと、爆発した。
これで俺は自由だ。
貴族の、そんな慣習に囚われることのない人生。
好きな人と過ごす、そんな自分だけの人生を。
そんな俺の前に現れたのがマリーだったのだった。




