商会。
「今日はありがとう。君が一緒に入ってくれて、美味い氷菓が食べられた」
「いえ、わたしなんかでよかったのであれば……」
「ねえ、マリー。もしよかったらまたいろいろ付き合ってくれないかな」
「え?」
「君と一緒に食べるとなんだかとても幸せな気分になる。お願いだ。無理は言わないから」
どうしよう。この瞳、じっと見つめている彼の瞳にみつめられていると、無碍に断るのがなんだか悪いことのような気もしてくる。
本当はあんまり親しくなりたくないのに。
ううん、嘘、だ。
好きになってしまうのが怖いんだ、わたくしは。
そして、ジュリウス様を思い出し辛くなる。その繰り返し。
今が一応人妻だというのは置いておいても、このまま彼を好きになりそうな自分を許すことができないでいるから。
「だめ、かな?」
じっと黙ったままのわたくしを、彼が縋るような瞳で覗いてくる。
だめだ。ほんと。この瞳は、だめ。
「だめ、です……。わたし、貴方に釣り合うような人間じゃないですから……」
そう。わたくしのような容姿の女が、こんな美麗な貴族の男性に釣り合うわけがない。
そう思わないと断れそうにない。
「君は、可愛いよ。とっても魅力的だ」
縋るような瞳から一転、優しい笑みを浮かべる彼。
「だめ、かな?」
その笑みがだんだん近づいてくる。もう、だめだって思ってるのに心がドキドキしてしまうのがわかる。
「少し、だけですよ……? お食事程度ならご一緒しても……」
根負けし、そう答えていた。多分顔は真っ赤になっていたと思う。ほおが熱い。
「ありがとう嬉しいよ!」
満面の笑みでそうおっしゃるユリアス様。
だめ。もう。
「そういえば君に連絡を取りたいと思ったらどこにすればいいのかな? 金華亭?」
「ああ、それなら……」
ちょうど裏通りに戻ったところだった。わたくしは目の前の古い建物を指差して。
「あそこ、マリーゴールド商会っていうんですけど、わたしあそこで働いているんです。ですから何かあったら商会宛にお手紙くだされば」
「マリーゴールド商会!?」
「ええ、そうですけど、ご存知でした?」
「い、や、詳しくは……。そうか、でも。うん。わかったよ」
なんか微妙なお顔?
どうしたんだろう?
そんなふうにも思いながら、商会の入り口の前でお別れした。
いつまでもこちらを見ているユリアス様に背を向けるのはなんとなく心苦しいけれど、それでもいつまでもお別れをしているわけにもいかなくて。
「それでは。ありがとうございました」
と一声かけ扉を開け中に入った。
「ああ。また連絡する。今日はありがとう」
そう言ってくれた彼の言葉が嬉しくて。




