アリエス。
紳士的にエスコートしてくれる彼。そういえばまだお名前も伺っていなかったと思い。
「すみません、お名前お伺いしてもいいですか?」
そうストレートに尋ねて見た。
「あ、そうか。まだ名前も名乗っていなかったね。これは失礼した。私はユリアス。家名は伏せさせてくれ」
「わたしは……」
マリエルと言いますと言いかけたところで遮られて。
「ああ、君の名前は知っている。いや、ごめん、調べたわけじゃないんだ。ただ、お店の他の子が君を呼んでいるのがよく耳に入ってね。マリー、だよね? いい名前だ」
あ、っと思ったけれどあまりにも彼のその顔が人懐っこく微笑んでいるものだから。
訂正するのもなんとなく無粋かなと思ってそのまま肯定の意味で頭を下げ。
「ありがとうございます」
とお礼だけ返す。
そうこうしている間に表通りにでた。
アリエスはグランマガザンの表口から入らなくとも通りから直接入れる入り口があり、今回はそこから入ることにする。
「こちらです。ユリアス様」
アリエスに入ったことがないというユリアス様の手を引き、最後はわたくしが案内する形でお店に入る。
「いらっしゃいませ」
明るい声が響き渡る。シックな店内。過度な彫刻等も施していないシンプルな店構えだけれど、天井からおりた梁から伸びるおしゃれなランプがやさしく店内を照らし、壁の棚には数々の絵画、古くなった羊皮紙の本、そして場違いにも見える美しいドール。それらが絶妙な調和を作り出し店内を彩っている。
広々とした店内には濃いオレンジに染め上げられたレザーで覆われたソファーが並び。
白木で作られたテーブルは、よく磨き上げられ清潔感が全面に溢れている。
奥のテーブルに案内されたわたくしたち。
壁側の席をユリアス様にお勧めし、わたくしは手前に腰掛ける。
クッションのよく効いたソファーは体がすっぽりとおさまるようで、とても座り心地がいい。
侯爵家にあったソファーは意匠は素晴らしかったけれどどれも硬く、しっかりとしすぎていて好みじゃなかったけれど、ここのソファーはそんなわたくしの好みも聞いてくれたお母様のおかげでとても平民が普通に座れるようなレベルではなくなっていた。
その分、お値段もそこそこする。
豪商のお嬢様だったら毎日でも来れるだろうけれど、平民のちょっと普通の家庭であれば一生に一度の晴れの日に来店するのが精一杯と言ったところだろうか。
そもそも、グランマガザン自体がグラン商会の看板のようなお店だ。
ここでは、グラン商会の高級なイメージを売っている。
元々薄利多売とは縁のない、そんな店舗であったから。
「私はコーヒーとこのアイスクリンを。君は?」
「ええ、わたしはロイヤルミルクティーとアイスクリンで」
「承りました。少々お待ちくださいませ」
そう注文をとりキッチンに戻るウエイトレスさん。金華亭よりももう少しだけ上品な作りになっている侍女のドレスを着こなしサッと歩くその姿はさすがお母様のお眼鏡にかなった貴族令嬢を集めているだけあっていつ見ても素敵だ。
ああいう女性になりたい、今までずっと目標にしてきた姿。
わたくしの場合、彼女らとの決定的な違いはやっぱり容姿だろう。
笑顔は可愛いよだなんて言われることは無いではなかったけれど、やっぱりあんなふうな大人の女性の魅力には敵わないなぁ。なんてそんなことばかり考えてしまう。
「顔が暗いね。何か考え事?」
彼の目が、わたくしの心の奥を覗き込むように見つめていた。




