別人?
どうしよう。
ジュリウス様?
もしかしてわたくしの様子を不審に思いここまであとをついてきたの?
少しは心配、してくれた? そういうことなのかしら……。
でも。ちょっと様子が違う。
目の前の男性のわたくしを見る目はいつものああの冷たい視線とは全く違って。
あんなふうに腕を取られて痛い目に遭ったというのに、それでもなお笑みを浮かべている。
ああ、ほんと。この目の前の彼はマリエルを知らない? でも、多分マリーとしてはお顔を見たことがある? そんな雰囲気の瞳。
ジュリウス様じゃ、ないのかしら。
貴族の男性って割と血が近い人のお顔は似ていることも多いし……。
こんなにも似ているけど、もしかしたら親戚筋の方なのかしら?
そんなふうに頭の中でぐるぐると考えていると、目の前の男性がこう切り出した。
「ごめん。君、金華亭で働いている子だよね。この間の料理すごく美味しかったよ」
そう破顔する。
満面の笑みでこちらを覗き見る彼。
ああ。そうだ。この方はジュリウス様じゃありえない。
ジュリウス様が、わたくしにこんな笑顔を見せてくれるはずがないもの。
落胆と、それでもあの時の料理を美味しかったと言ってくれたそのことに感謝して。
「そう言っていただけて光栄です。金華亭をこれからもご贔屓にしてくださいませ」
一歩引き、そうカーテシーをする。お顔も少しだけ笑みを浮かべ。うん、少しばっかり上品に見えるような笑顔で。
「あの時の君の笑顔が頭から離れなくってね。大通りを歩いているところを見つけて、ついついあとをつけてしまった。怖い思いをさせてしまったかな? 本当に申し訳ない」
そう素直に頭を下げる彼。ありがとうとおっしゃったあの時も思ったけれど、この彼は貴族とは思えないくらい素直な方なんだな。そう思って。
「いえ。わたしの方こそあんなふうに腕を取ってしまってすみません。護身術を一通り習っていたものですから、背後からの腕に反射的に対応してしまって……」
そう謝って。
「いや、立派な護身術だったよ。いきなり背後から手を伸ばすだなんてこちらが悪かったのだから仕方がない。せめて声を先にかければよかったね」
「そう、ですね。先にお声がけがあればそこまで警戒しなかったかもしれません」
「本当にごめん。そうだ、お詫びにお茶でも奢ろう。表通りのグランマガザンの一階に美味しいアイスクリンの店があるんだけれど、一緒にどうだろう?」
グランマガザン一階には氷菓が食べられるおしゃれなパーラー、「アリエス」がある。
お母様が始めたお店でわたくしも小さな頃からよく連れて行ってもらったお気に入りのお店だ。
お詫び、だなんて、と。
いきなりよく知らない男性とお店に入るのにはちょっと躊躇われたけど、それでも自分が好きなアリエスのことを褒められたことにちょっと気分をよくして。
「わたしもあのお店は好きなんですよ。貴方もですか?」
「はは。実は入るのは初めてなんだ。男一人ではなかなか入る機会がなくてね。それでも、一度あのお店のアイスクリンが食べたかったのは本当だよ。どうかな? 助けると思って一緒に行ってくれないかな?」
はにかむような笑顔でそうおっしゃる彼。
まだお名前も何も聞いてないのに、なんだか昔からよく知っているような気持ちになる。
(この人はジュリウス様じゃないのに……)
(でも……)
「少し、だけなら……」
「ありがとう、嬉しいよ」
彼の笑みが眩しくってついついそう了承してしまった。




