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「わかれよう」そうおっしゃったのはあなたの方だったのに。  作者: 友坂 悠@書籍化しました!!(電子書籍配信中です!!)


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街を歩く。

 なんだか気持ちがスッキリした後のわたくしは、そのあとずっとお部屋に篭って家の人たちとは会わずに過ごしていた。

 朝昼はメアリィに頼んで部屋に食事を運んでもらい、そうして夕方になる前に街に出かけていく、そんな生活。

 お屋敷では引きこもり、外では平民のマリーとして過ごす。

 もうすっかり濃いお化粧もしていない。

 なんだか肌の調子も良くなってきたかなぁと気分も上がる。


 うん。

 わたくしがいなくたってこの侯爵家はちゃんと回っていく。

 今更わたくしが侯爵夫人を名乗って社交をする意味も見出せないし。


 王都の貴族の大半は秋には領地に戻って収穫祭やら何やらで忙しい。冬は王都に集って社交が始まり、各家や王家主催のパーティーが目白押しに開催される。

 春は婚姻、冠婚葬祭は割とこの時期に。(葬儀はその都度行ったとしても、大掛かりな葬祭は春にまとめて行われることが多かった)夏の初めにはまた、暑気払いも兼ねた夜会があちらこちらで開かれる。


 お義父がお亡くなりになって身内だけの葬儀を済ませたこのレイングラード侯爵家でも、来春には大々的にジュリウス様の侯爵としてのお披露目も兼ねた葬祭を行う予定だ。

 でも。

 その時に彼の隣にいるのはわたくしじゃないだろう。

 春先の雪解けの頃婚姻を結んだわたくしたちの三年の期限が訪れるのは、ちょうどその直前になるだろうから。


 だからきっと、今年行われる社交の場にわたくしはついていかない方がいい。


 そもそもお義父様がご存命の間はわたくしが社交会に出る必要は無かった。

 お義父様の後妻であるベローニカ様がいらっしゃったし、ジュリウス様も何か社交の場に出られるとしてもお一人で行かれていらっしゃった。


 だから。


 この婚姻期間が後一年あるとはいえ、今更わたくしが社交の場に顔を出す必要なんかどこにもない。ううん、かえって出席してしまうと来年彼の隣に立つだろう方の邪魔になるかもしれない。

 そんなふうに感じて。


「そうね。どうせなら、自分のためにこの時間を使うべきよね」


 そう一人ごち、空を見上げる。


 空はどこまでも青く、透き通って。

(あの時のお客さんの髪も、こんな色をしていらっしゃったっけ)

 先日のお客さんのあの変わった髪色を思い出す。

 お店は順調だ。

 平民だけでなく貴族の方までが足を運んでくれるなんて、なんだかすごく嬉しい。


 一番街の中奥にあるマリーゴールド商会に向かいながら、そんなことを取り止めもなく考えていた。


 馬車は街の入り口で降りた。待機所に馬車を預け一応そこで待っていてくれるように指示はしてあるけれど、帰りは遅くなるからとその間は自由にしていてくれるよう御者にも小遣いをはずんである。

 明るい日差しの中、いろんなお店が立ち並ぶ商店街の大通りを闊歩する。

 今のわたくしは平民のマリーだから、当然のように護衛なんかはつけていない。けど。

 このお仕事を始める前に実家のお父様から一通りの護身術は習ってきている。

 大通りも、人目の多いところを歩いている限りは大概安全でもあったし。


 それに。


 こうして街の様子を見て歩くのも勉強だ。

 流行に敏感に。

 情勢を読み取って。

 そうした肌感覚が商売ではとっても必要なことなのだと子供の頃から言い聞かされて育ってきたわたくし。

 今ではこうした街歩きもすっかり慣れたものだ、と、少し油断をしてしまっていた。

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