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第九話『推理と病院』

放課後、喫茶店、扉をくぐればそこは、探偵倶楽部への入口だ。


猫のミケを追いかけた先の家で倒れているおばあさんを発見したスバルたちは、救急車と警察を呼び、カイとアスカは先に付き添いとして救急車で病院へ、スバルとユミは警察の事情聴取を受け、病院へと向かった。

「スバル! ユミ! こっちだよ!」

病院に着くとアスカが病院の受付で待っていた。

「おばあさんは?」

「病室で安静にしてるよ。もう命の危険はないって」

それは安心だ。間一髪と言ったところか。

「どうして倒れていたのでしょうか」

「お医者さんが言うには、心筋梗塞? っていうやつらしい」

おばあさんは一人暮らしで猫のミケを飼っているのだろう。他に家族はいないのか。

「そうか、事件性はなさそうでよかったよ。ところで、身内の人は来てないのか?」

「あ、それなら息子さんが来てたよ。お医者さんに話を聞いたらすぐに帰っちゃったけど」

身内がいたのならいいのだが、話を聞くだけですぐに帰ってしまうなんて、薄情な息子だ。命の危険はないにしても、まだ意識を取り戻してないというのに。

「おーい、アスカ。スバルたちも病院に着いたみたいだな。おばあさんが目を覚ましたよ、みんなで病室へ行こう」

「カイ! おばあさん起きたんだね、よかった!」

「俺たちの事情もちゃんと説明しないとな。行こう」

おばあさんが目を覚ました。息子はいない。スバルたちはおばあさんがいる病室へと向かった。

「あら、あなたたちは……」

「おばあさん、大丈夫ですか? 僕たちが倒れているあなたを見つけたんです。猫が僕たちを家まで案内してくれたんですよ」

カイの説明におばあさんは納得したようにゆっくり頷いた。ミケが賢い猫だということは理解しているようだ。

「ありがとう。ミケちゃんにも感謝しないとねえ。私はどうして倒れていたのかしら……」

「お医者さんが心筋梗塞だって言ってました。もう胸は苦しくないですか?」

アスカがおばあさんを心配する。おばあさんは胸をさすりながら、倒れる前の記憶をたどっている。

「確かに、急に胸が苦しくなって、それで目の前が真っ暗になって……」

「ミケさんに感謝です。おばあさんが助かって、本当に良かったです」

ユミは相変わらず無表情だが、ミケへの感謝の気持ちと、おばあさんが助かって安堵しているのは本物だ。

「あなたたちに何かお礼をしないと、あら、そういえば荷物は家に……」

「今は安静にしていてください。俺たちは偶然あなたを見つけたようなものなので」

特にお礼など求めていない。しかし、おばあさんはそれでもお礼がしたいと畳まれていた服のポケットから何か取り出した。

「これ、丁度飴ちゃんがポケットに入っていたから、これだけでも貰ってくれないかしら」

「わあ! 私飴ちゃん大好き! ありがとうございます!」

食べ物には目がないアスカ。一人一個ずつ、遠慮なく飴を受け取った。

「カシワギさん、体調はどうですか」

「あら、お医者様。この子たちのおかげですっかり良くなったわ」

病室に医者が到着した。おばあさん、カシワギ(かしわぎ)さんは改めて医者から説明を受けた。

「しばらくは検査入院ですね。特に異常が見当たらなければそのまま退院できますので」

「それは困るわ。家にはミケちゃんが……」

「ミケはしばらく俺たちが預かりますよ。安心してください」

喫茶店で預かれば看板猫ぐらいにはなってくれるだろう。数日でも一か月でも、スバルは大歓迎だった。

「なら、お言葉に甘えようかしら。またお礼をしないとねえ」

「そんなお礼ばかり貰えないですよ。僕も猫に慣れないと……」

そういえばカイは猫が苦手だった。どうにか辛抱してほしいと思うスバル。

「荷物も私たちが持ってきてあげようよ。ねえ、スバル、別に暇だからいいでしょ?」

「別に構わないけど、それは息子さんに任せたほうがいいんじゃないのか」

「息子はきっと……お見舞いには来てくれないわ。仕事も忙しいだろうし、私のこともよく思ってないでしょうから……」

カシワギさんは悲しそうにしわしわの手を見つめている。カシワギさんと息子の間には何かわだかまりがありそうだ。

「え、でも息子さんさっき来てましたよ? すぐに帰っちゃったけど……」

「きっと病院から連絡をもらって仕方なく来たのよ。迷惑かけちゃったわ……」

カシワギさんはあまり息子と話したくないのか、いや、息子のほうがカシワギさんを避けているような気がする。

「あの、良ければ俺たちに息子さんの連絡先を教えてくれませんか」

「それは構わないけれど……どうしてかしら?」

「息子さんにも事情を説明したいので、カシワギさんの代わりに伝えておきますよ」

「まあ、そんなことまでしてくれるのねえ。退院するまでしばらくあなたたちにはお世話になりそうだわ」

まず息子に会ってスバルたちのことを話せば、状況が変わるかもしれない。依頼として受けるには十分だった。

「スバルさんは本当にお人よしですね。勝手に受けてしまうのはどうかと思いますが、私たちはもちろんお手伝いしますよ」

「別に気になるから解決するだけだ。そもそもこうなったのはアスカがミケを追いかけようと言ったせいで、それについてきたユミも同罪だろ」

「そういうことにしておきますね」

従順かと思えばすぐ何か言ってくる。ユミは何を考えているのか、スバルは本当に分からなかった。

「そろそろ日が落ちる。俺たちは帰るぞ」

「カシワギさん、また明日もお見舞いに来るね!」

「それは嬉しいわ。アスカちゃん、で合ってるかしら」

そういえば名乗るのを忘れていた。あと、喫茶店の情報も伝えておかなければ。

「合ってます!」

「俺は町田スバル、横の二人は白石ユミ、立花カイです」

「スバルくん、ユミちゃん、カイくんね。アスカちゃんも、今日はありがとうね」

カシワギさんと一人ずつ握手をして、スバルたちは病院を後にした。

「ミケちゃんは今どこに預けてるの?」

「刑事のミヤモトさんが喫茶店で面倒を見てくれているよ。だから早く戻らないと」

なんかミヤモト刑事が何でも屋のような感じになっているが、スバルや祖父の言うことには基本的に応じてくれる。

「戻ったら依頼の情報整理ですね」

「ああ、息子さんの連絡先も教えてもらったから、早速明日会いに行こう」

スバルたちは新たな依頼を受け、解決に向け動き出した。

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