表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/14

第八話『推理と猫』

放課後、喫茶店、扉をくぐればそこは、探偵倶楽部への入口だ。


いつも通り、今日も依頼もなく平和そのものだ。スバルはアイスコーヒーを飲み、窓の外の夕日を眺めていた。

「スバルさんは本当にコーヒーがお好きなのですね」

「ああ、甘いのはあまり得意じゃないんだ」

ユミは何かとスバルに話しかける。スバルの好みを聞き、よく祖父にコーヒーの淹れ方を教わっているようだ。

「私も少しだけ、コーヒーを淹れることができるようになったんです」

「そうか、ユミは将来ここで働きたいのか?」

少し不機嫌そうな顔を見せたかと思えば、またいつもの無表情に戻る。スバルのよみは見当違いだったのか。

「それも、良いかもしれませんね」

「じいちゃんも喜ぶよ、俺の友達が働くってなったら長生きできるかもな」

ユミはふふっと笑い、ミルクティーをゆっくり飲んでいた。

「スバル!」

「なんだ、そんな大きな声を出さなくても聞こえてるよ、アスカ」

その時、アスカが開けたドアの隙間から、何か黒い影が入り込んだように見えた。

「また動物の写真を撮ったから見てよ」

「またか、もう何日も連続で見てるじゃないか。アスカはよっぽど暇なんだな」

アスカはむっと顔をしかめ、頬を膨らませる。そしてトートバッグにしまっていた写真の束を机に広げ始めた。

「いいから見てよ。今日は狸を中心に撮ったんだけど」

「俺は狸より猫のほうが……って、こいつはなんだ」

気が付けばスバルの足元にふわふわの毛玉がくっついている。それはもぞもぞと動き出し、大口をあけてあくびをしていた。

「猫ちゃんだ! スバルが好きっていうからやってきたんじゃない?」

「バカ言うなよ、アスカが入る時に間違って一緒に入り込んだんだろう」

猫には首輪が付いており、よく見ると『ミケ』という名前が書いていた。よく見る三毛猫に、安直な名前を付けるものだ。

「ごめん、遅くなっ……って、なんだ?」

「ああ、逃げて行った。カイ、驚かせてすまない」

遅れてきたカイがドアを開けた瞬間に、ミケは出て行ってしまった。

「ちょっと、ミケちゃんが事故にでもあったら危ないよ。追いかけよう!」

「はあ? 俺にそんな暇は……」

いや、暇ではある。ただ、見知らぬ猫を追いかける趣味はない。

「いいから追いかけるよ! ほら、みんな準備!」

「仕方ない、依頼もないからアスカからの依頼として受け取ろう」

スバルたち四人は支度してすぐにミケを追いかけた。幸いまだ見えるところで毛づくろいをしている。そんなに気になるなら店で保護してもいいと思っている。

「ミケちゃーん、こっちおいでー」

「呼んでどうするんだ。他人の家の猫だろ、店では飼えないからな」

ミケはアスカが呼んだ瞬間に道路を渡って、とことこと公園のほうへ走っていった。

「もう、スバルが意地悪なこと言うからどっか行っちゃったじゃん」

「関係ないだろ、アスカが声を掛けるからだ」

スバルたちはミケを追いかけて公園にたどり着いた。

「ミケさん、いないですね」

「ユミは猫にすら敬語なんだな」

猫に『さん』付けとは違和感だらけだ。スバルは丁寧すぎるのもどうかと思った。

「ミケちゃんどこー?」

「あそこ、尻尾が出てる。多分あれだろ」

茂みから出た細長いものがゆらゆらと揺れている。スバルたちを誘い込んでいるようだ。

「あ、逃げたぞ」

「カイ、足が速いお前なら捕まえられるんじゃないのか」

ばっと茂みから飛び出したミケは公園を抜け出し、住宅街へと走っていった。

「いや、言い忘れてけど、僕は猫が苦手なんだ。幼稚園の時に顔をひっかかれてさ」

「そうか、それは悪かった」

カイの意外な情報が知れたところで、スバルたちは住宅街へと足を踏み入れた。

「もう見つからないよお」

「ここまで来たら家に帰ったんじゃないのか?」

さすがに飼い主の家には帰れるだろう。スバルたちが追いかけるまでもなかったかもしれない。

「あれ、ミケさんじゃないですか?」

「なるほど、だから俺たちを呼んだのか」

用水路の架け橋が壊れている。昨日は大雨ですれすれまで水が溜まっていて、ジャンプを躊躇しているようだ。

「よーし、木の板を持ってこようよ」

「そうなればホームセンターだな」

スバルとユミがホームセンターへ、カイとアスカはミケの監視係としてその場に残った。

「丈夫そうなものが良いですね」

「それでいて軽いものにしないと、俺たちが運べないからな」

丁度いいサイズの木の板を購入して住宅街へと戻る。

「遅ーい! ミケも座り込んじゃったよ」

「あのなあ、文句も大概にしろよな」

用水路に木の板を架ける。ミケはすぐにそれを渡り、細い路地裏を走っていく。

「渡った! 追いかけるよ!」

「まだ行くのかよ……」

アスカに言われるがまま、スバルたちは細い路地裏を慎重に進む。

「うわ、蜘蛛の巣……」

「大丈夫か、カイ」

必死に蜘蛛の巣を振り払おうとするカイ。どうやら虫も苦手のようだ。

「もう僕帰りたいんだけど……」

「一応依頼だ、最後まで付き合ってくれ」

嫌がるカイを何とか引き連れ、長く続く路地裏を進んでいく。

「ミケちゃんが路地裏を出たみたい。どこに行くんだろう」

「目的は橋を直させるだけじゃないみたいだな」

少し埃をかぶりながらも路地裏を抜け、ミケを必死に追いかける。

「一軒家に入り込んだみたいですね」

「ここが飼い主の家かもな」

塀を上り家に入り込んだミケ。スバルたちは表に回り込み、インターフォンを鳴らした。

「留守なのかな」

「一応、裏に行ってみるか」

念のため裏庭に回り込んで覗いてみると、縁側で倒れているおばあさんがいた。

「スバルさん、これは……」

「ああ、ユミ、救急車と警察を呼んでくれ」

おばあさんのそばにはミケが寄り添い、か細い鳴き声を発している。

「ミケちゃんはこれを伝えたかったのかな」

「今回はアスカのおかげだな」

数十分後に救急車と警察が到着、スバルとユミは警察の事情聴取を受け、カイとアスカは救急車に付き添いで乗っていった。

「スバルくん、また会ったっすね」

「ミヤモトさん、お疲れ様です。親父は?」

今日はミヤモト刑事だけで、父親の姿が見当たらない。

「マチダさんは別件で忙しいっすから、僕だけが来たってわけっす」

「そっか、相変わらずで何よりだよ」

おばあさんは一命をとりとめたらしい。スバルとユミも病院へ向かわなければと準備をする。何というか、賢い猫もいるもんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ