第四話『推理と警察』
放課後、喫茶店、扉をくぐればそこは、探偵倶楽部への入口だ。
機械に詳しいアスカのおかげで、ホームページなど色々出来上がっていき、探偵倶楽部らしくなってきた今日この頃。スバルとユミはいつものように放課後、喫茶店に集まっていた。
「あの二人はまだか?」
「部活や委員会などで忙しいそうです」
カイとアスカはスバルとユミより遅く来る。依頼などめったに来ないから、何をしていたって構わないのとスバルは思っている。
「おまたせー!」
勢いよくドアが開き、アスカの元気な声が店内に響く。
「もう少し静かに入ってこれないのか」
「いいじゃん、元気が一番でしょ?」
スバルとアスカのこのやり取りも、もう何回目だろうか。
「それより聞いてくれよ、昨日のことなんだけどさ」
カイがおもむろに話を始めた。
昨日の帰り、カイとアスカはいつものように二人で帰っていた。
すると道端に女性もののハンカチが落ちていた。
放っておくわけにもいかず、二人はハンカチを拾って交番に届けた。
たったそれだけの話だ。
「なんだ、解決してるじゃないか」
「いや、そうなんだけどさ。一応、報告しておこうかと」
なんとも律儀なやつ。
特に気にすることはないだろうとスバルが思った矢先、また喫茶店のドアが開いた。
「お、ビンゴっすね」
「ああ」
入ってきたのはスーツを着た男性二人。
「立花カイ君、夕陽アスカさん、だね?」
警察手帳を見せながらカイとアスカに話しかける二人組。
「何の用だよ、親父」
「仕事だ。お前こそまだこんなとこに入り浸ってるのか」
この会話を聞いたユミ、カイ、アスカは声を上げた。
「お、お父様、ですか」
「スバルの親父さん……」
「スバルのお父さん!?」
めんどくさいことになりそうだ。
小じわの多い不愛想な顔。スバルにとってはもう見慣れてしまった顔だ。
そして隣の刑事は……。
「スバルくん、久しぶりっすね。元気にしてるっすか?」
父親と付き合いの長いミヤモト刑事。父親の後輩にあたる人だ。
「それなりにね。で、何の用?」
ここに父親が来るということは相当な理由があるのだろう。
「ちょっとその子たちに話を聞くために来たんすよ」
カイとアスカを見ながら笑顔で話すミヤモト刑事。
もちろん心当たりなどない二人。
「昨日君たちが拾ってくれたハンカチについてだ。微量だが大麻の成分が検出された。子供といえど話を聞かなければいけない」
「そうそう、それでこの喫茶店にいるって聞いて来たというわけっす」
これは、思いがけず事件に巻き込まれたみたいだ。
「僕たちはハンカチを拾っただけで……」
「そ、そうです!」
スバルもさすがにこの二人が関わっているとは思わない。第一、そんな暇ないだろう。
「私たちも別に疑っているわけではない。明日、改めて署に来てもらえないか?」
「検査すればわかるっすよ。僕たちは君たちの味方っすから」
ということで明日、カイとアスカは警察署に潔白を証明しに行くことになった。
翌日、警察署にて。
「別にスバルくんたちはついてこなくてもよかったんすよ?」
「見学ってことで」
スバルとユミはミヤモトさんに目線を送る。
「おとなしく待ってるっすよ?」
「もちろん」
カイとアスカを見送り、スバルとユミは警察署の部屋の外でおとなしく待っていることに。
数分後、無事に検査は終了した。
「君たちからは何の成分も検出されなかった。協力感謝する」
「よかったっすね」
まあ、だろうな、という感じ。
「じゃ、喫茶店に戻ろっか!」
アスカは内心楽しそうに見える。
「俺はちょっと親父に用がある。先に三人で戻っててくれ」
スバルは久しぶりに父親と話でもしてみようと思った。
「ミヤモト、三人を送り届けてこい」
父親もスバルに何か話があるみたいだ。
「了解っす。さあ、帰るっすよー」
ミヤモト刑事が三人を連れ、警察署を後にした。
「ちゃんと『刑事』してるんだ」
「前置きはいい、用件はなんだ」
「親父こそ話があるんじゃない?」
スバルたちはしばらく無言で見つめ合っていた。
「君たちも『探偵』してるっすか?」
「そうですね、どちらかといえば補佐でしょうか」
「僕もそんな感じかな」
「探偵倶楽部! ミヤモトさんも入る?」
「そうっすねえ、手伝うぐらいはできるかもっすね」
用事を終えたスバルはやっと喫茶店に戻ってきた。
「お、やっと帰ってきたっすね、スバルくん」
「ミヤモトさん、まだ居たんだ」
他の三人は先に解散させたらしい。なぜミヤモト刑事は残っているのだろうか。
「一杯だけコーヒーを飲んでから戻ろうかなって思ったんすよ」
「呑気な人だね」
言動も行動もゆるいミヤモト刑事。そういうところは父親と違って、スバルは好いている。
ミヤモト刑事が飲み終わるまで少し話をしていた、閉店時間間近のことだった。
外も暗くなり始めた頃、いきなりドアが開いた。
「スバル! カイが!」
そこにいたのは息切れしたアスカだった。
「とりあえず落ち着け、何があった」
カイとアスカが一緒に帰っている時、公園に寄り道して、アスカが飲み物を買いに行った。
その間にカイがどこかへ消えた。
どこを探しても見つからず、家にも帰っていない。
アスカはユミにも連絡を入れ、しばらく一緒に探した。
結果は同じ、喫茶店にいるであろうスバルにも事情を話しに来たようだ。
「かなり危険な状況かもしれない」
正式に捜索願が出され、スバルたちも一緒になって探す。
警察犬がカイの持ち物の匂いを嗅ぐが、上手く匂いを辿れないみたいだ。
これはただの失踪事件ではないはずだ。多分、大麻騒動が関わっている。
「ミヤモトさん、警察犬に嗅がせたいものがあるんだけど」
「僕にできることなら、協力するっすけど……」
警察犬でも匂いを辿れないということは、カイの匂いが何か他の強い匂いによってかき消されている可能性が高い。おそらくそれは大麻だ。
「カイたちが拾ったハンカチ、それを警察犬に嗅がせてほしいんだ」
ミヤモト刑事がスバルの言う通りにすると、警察犬が動き出した。
それを辿っていくと一つの車にたどり着いた。
コンビニの駐車場の目立たない隅に停めてある。
運転手は見当たらない。辺りを見回していると車の所有者らしき男が戻ってきた。
その男は警察の姿を見るなり逃げだし、それを警察が捕まえる。
「なぜ逃げるんすか? 車の中、調べさせてもらうっすよ」
相手から車のカギを押収、すぐに車の中を調べる。
車のドアを開けた途端警察犬が激しく反応し、後部座席には縛られ気を失っているカイがいた。
後日、ミヤモト刑事から聞いた話。
車の中には大麻が充満していたが、カイに後遺症などは残らず、無事だった。
車の所有者から家を特定、家宅捜索に入り、大量の大麻が発見された。
男女で住んでおり、あのハンカチは一緒に住んでいた女のものだったそうだ。
犯人は口封じのためにカイを拉致監禁したと、犯行を認めている。
「無事でよかったよ、カイ」
「スバルのおかげだよ、本当、こんなことになるなんて」
「もう、すごく心配したんだからね!」
「そんなこと言われても、僕にはどうしようも……」
いきなり拉致されるとは、そりゃ思わないだろう。
こうして、大麻騒動の事件は解決したのだった。