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コスプレを馬鹿にしてたサンタコス大好きな俺(26)、息子(5)にサンタとバレたので開き直る。

作者: ハッピー

 不快に思った人いたらすみません。

 12月25日、0時。自宅。


 日付が変わった頃、俺は犯行現場を押さえられた。


「お父さんが、サンタだったんだね」


 息子の蔑むような目。


 視線が、痛い。


 それ以上に、悲しい。


 部屋の隅に隠していた秘蔵のサンタ変身キットが、息子に開けられた。


 俺が楽しみにとっといた、サンタコスチュームが無惨にも息子の手に握られている。


「父さん……答えてよ。何でうちにサンタコスがあるの?」


「……」


「父さん言ってたよね? 良い歳してコスプレやるなんて恥ずかしいって……言ったよね?」


 うるせぇ……。我が子め、父を叱るというのか?


 理がお前にあっても、力はこちらにあるのだ。


 息子の批難は止まらない。


「あんなに渋谷ハロウィンディスってて」


「うるせぇ! 文句言うなら、俺はプレゼントやらねえぞ!」


「と、父さん……」


 俺は息子に向かって掌を差し出す。


「寄越せ……」


「え」


 息子はキョトンとする、戸惑っているようだ。


 俺は端的に要求を告げた。


「俺のサンタコスを寄越せ!」


 とは言え、息子が俺を怒るのは理由があるのだ。


 話は、ハロウィンまで遡る。






 今年の10月31日。


 俺はテレビを付けて、渋谷ハロウィンの中継を見てる。


 下らないことで盛り上がってる奴らを冷笑するのは気分が良い。


 俺は真面目に働くサラリーマンであり、クレーマーに傷つけられた日は自分より馬鹿だと思う人達を見つけて馬鹿にすることで心を癒やしている。


「ぎゃははは。あいつら馬鹿みたい。あんなのお洒落で楽しいと思ってるなんて」


 俺が笑ってる隣で、息子が俺を窘める。


 ちなみに俺も息子も自宅のソファに座っている。


「父さん、人を馬鹿にするのよくないよ。楽しんでるんだよ?」


「息子よ、お前はあぁなっちゃダメだぞ? ぎゃははは」


「もう。人が楽しんでるのに」


 息子はふくれっ面をする。可愛い!


 俺は息子の頭をよしよしと撫でる。


 あと二ヶ月もしないでクリスマス。愛する我が子に何買ってやろうかな?


「いい歳した人間が、あんなことするもんじゃないよな。ったく……」


「きっと楽しいんだよ。僕も仮免許ライダーの変身ごっこすると楽しいもん」


 仮免許ライダーはテレビでやってる人気番組である。ぶっちゃけシリーズ化してて幼い男子に大人気。


 俺の息子もそのファンなのだ。


「ふーん。ところで、その……道貞どうてい


「何、父さん?」


「お前、サンタさんに何頼むつもりなんだ?」


「えー、内緒がいいな」


 内緒ならサンタさんはプレゼントを希望に添えないぞ……。


「教えて。誰にも言わないから」


「本当?」


 息子め、サンタを信じているのか。可愛い奴だ。


 何でも言え。五万円以内なら自転車だろうが子供向けゲームだろうが買ってやる。


「えっとね……変身ベルトが欲しい」


「は? そんなものが欲しいのか?」


「うん!」


 息子の道貞どうていは可愛く頷く。


 っく~、結婚して良かった。妻は今、エステに行ってるんだが……俺は俺で我が子に癒やされてる!


 やっぱ子供って可愛い!


 だが……教育となれば話は別だ。


 変身ベルト? そんなものが何になる?


 アニメや漫画なら物語を読んで成長を得られる。


 だが、グッズは何の意味もないだろ。


 ごっこ遊び専用の玩具なんかいらない。


 俺はテレビに視線を映す。


 そう、こいつらがやってることと同じだ。


 いつまでたっても大人になれない奴ら。大人のなりそこない。


 それが渋谷ハロウィンで馬鹿騒ぎしてる奴らだ。


 吸血鬼とか魔女のコスプレしてばっかじゃねえの?


 何の意味があるんだよ。時間と金の無駄だ。


 ここは息子にガツンと言ってやらないとな。


「そんなものを頼むくらいなら、自転車やゲーム機を頼もう」


「えー、変身ベルトがいい」


「何で? 自転車のが便利だし、ゲーム機のが色々遊べるだろ」


「強い主人公に憧れる。変身ベルトがいい」


 ……仕方ない。ここまで言うなら変身ベルトを買ってやるか。


 やれやれ。


 俺の息子はまだお子様のようだ。


 五歳児の俺は地球儀と月の模型を買って貰って、自由研究をガチでやって文部科学大臣に表彰されたというのに。


 変身ベルト、何になるのか。


 だが……愛する息子が欲しいというのなら買ってやるのが父親というものだ。


 買おう。


 PLLLLLLLLLLL。


 スマホが鳴る。かけて来たのは、俺の従姉妹で息子の叔母、そして現役女子高生の麗だった。


 要件を聞くと、近くにいるとのことで遊びに来たいという。


 まぁ息子も喜ぶだろうし、OKした。


 そして、麗が自宅にやってきた。


 息子と仲良くソファに座っている。


「麗ちゃん、お久しぶり~」


「どうちゃん! あんた……良い子に育って」


 麗は息子をぎゅーっとハグする。


「えへへへ」


 息子は実に嬉しそうだ。まぁ麗は可愛い方だからな。


 このエロガキ……我が子ながらなんてうらやまけしからん!


「もう、あんまエロ助になるんじゃない」


 麗が息子を小突く。しめしめ。ちょっといい気味。


「いて!」


「だが、麗、その格好は何だ?」


 俺の言葉に麗が振り向く。


「これ? 可愛いでしょ。魔女の格好なの。激安ショップで売ってたんだ~」


「けしからんな。時間と金の無駄だと思わないのか? 渋谷ハロウィン、行ってきたんだろ」


「そうだけど」


「渋谷で騒ぐなよ」


「渋谷で騒いで何が悪いのよ」


「……いい歳した大人がやることじゃない。お前もう、十八だろ?」


「いいじゃない。青春の1ページよ」


 麗はつん、と冷たい態度をとった。


「っは。子供が仮免許ライダーの変身ベルトを欲したり、プレキュアの変身グッズを求めるくらい幼稚だな」


「何よ、迷惑かけてないんだからほっといてよ」


「いい加減、卒業することだな。ぎゃははははは」


「ふん……分からないなら分からないでいいよ。あたしが楽しければ、それで良い」


 くすり、と麗は笑う。……相変わらず芯の強い女子だな。


 俺は八歳下の従姉妹を嘲笑った。


 おちょくって楽しいって思ったんだ。


 ……麗はなんだかんだ、スルーしてくれたが……今思うと言い過ぎた。今度会ったら謝ろう。


 問題はそれを息子の前で言ってしまった。


 それ以来、息子に「大人になれ。良い大人がコスプレするなんて恥ずかしい。渋谷ハロウィンの奴らは中身子供。」と言い聞かせてきた。


 息子は五歳だ。


 まだ可愛い。


 そんな息子が、とんでもない秘密を知ってしまった。


 俺がサンタだという証拠を、掴まれてしまった。


 悔しいが……言い逃れはできないだろう。


「父さん、どういうこと?」


「……」


 サンタコスは、年に一度……それはもううっきうきのノッリノリでクリスマスツリーの傍に置いていく

時だけに変身していた。


 最初にコスプレした時の背徳感と全能感といったらもう、それはそれは凄まじいものだった。


 白い髭と髪をつけ、赤い服を着て……トナカイの人形なんか抱えちゃってさ。


 気分はもうフィンランドだった。


 それが……そんな素敵な気持ちが……今台無しになってる。


 なんてことだ。


 あと三年は楽しめると思ってたのに。


 息子が八歳になったら明かそうかなとか考えて、十二歳になったら流石にカミングアウトしなきゃいけない。


 そう思ってたんだ。


 それがまさか、息子の手で終止符が打たれるなんて、誰が予想できようか?


 息子はサンタコスの下に置いてあったプレゼントをまさぐってる。っく。


「父さん、仮免許ライダー変身ベルト買ってくれたんだね。ありがとう」


 くそ。いくらなんでも……棚の最上部に隠しておけば息子は見つけられないと思ったのは安易過ぎたか。


 椅子を使って発見しやがった。


 可愛い我が子め……ちくしょう。


 俺は一歩も動けないでいる。


 話すことさえできない。


 息子はのろのろと歩いてきて、俺に問う。


「お父さんが、サンタだったんだね」


 息子の蔑むような目。


 視線が、痛い。


 それ以上に、悲しい。


 部屋の隅に隠していた秘蔵のサンタ変身キットが、息子に開けられた。


 俺が楽しみにとっといた、サンタコスチュームが無惨にも息子の手に握られている。


「父さん……答えてよ。何でうちにサンタコスがあるの?」


「……」


「父さん言ってたよね? 良い歳してコスプレやるなんて恥ずかしいって……言ったよね? なのに父さんはただプレゼントを置くだけじゃなく、サンタのコスプレやって置いてたってこと? ねぇ、どうなの?」


 うるせぇ……。我が子め、父を叱るというのか?


 理がお前にあっても、力はこちらにあるのだ。


 息子の批難は止まらない。


「あんなに渋谷ハロウィンディスってた癖に。恥ずかしくないの?」


「うるせぇ! 文句言うなら、俺はプレゼントやらねえぞ!」


「と、父さん……」


 俺は息子に向かって掌を差し出す。


「寄越せ……」


「え」


 息子はキョトンとする、戸惑っているようだ。


「俺のサンタコスを寄越せ!」


 息子は少し傷ついたような顔をしながら俺に問う。


「父さん、何で嘘ついたの?」


「……」


「いないんでしょ、サンタ? 普通にくれれば良かったじゃん」


「うるせぇ」


「父さん?」


 サンタやれるから、クリスマスやってんだよこっちは。


 プレゼントだってそのおまけみてーなものだ。


「いいのか、息子よ」


「何が?」


「サンタがいない、と言うことにすれば……困るのはお前だ」


「何言ってるの? 困ることなんて」


「サンタがいないなら、プレゼントを持って来る親切なお爺さんなんていないってことだ」


「――は」


 息子は賢い。どうやら、気付いたようだ。


 そう、この問題……騒げば騒ぐほど首が絞まるのは大人でなく子供なのだ。


 ニヤリ、と俺は笑う。


 攻守逆転とはこのことだ。


「そう、サンタがいないと言うのなら……来年からサンタは来ない。お前に、プレゼントは渡さない」


「――と、父さん……」


 息子は戦慄している。


 しめしめ。


 いい気味だ。


 俺からサンタを演じる楽しみを奪ったことは、愛する息子でも許さない。


 とくと苦しめ。来年からは同級生がプレゼントを貰っても、お前だけは貰えないかもしれないという

恐怖を味わうがいい。


「気付いたか? サンタがいないということになって苦しむのは子供の方だ。俺達大人じゃない」


「な、何で大人達はそこまでして……サンタごっこをするんだよ。あんなに渋谷ハロウィンで騒ぐ

大学生達を馬鹿にしてたのに」


「決まってるだろう? 大人が皆ハメを外したらいけないんだよ。だけど、外していいってことになってるのが

クリスマスなんだよ。俺達は上司や取引先に悪くもないのに頭下げたりするのに疲れてんだよ。そんな俺達

サラリーマンが、一年に一度ハメを外して馬鹿やれるのがクリスマスなんだよ」


「そ、そうだったのか」


「分かったか? お前は一年に一度の大人の楽しみを奪おうとしてるんだよ」


「ご、ごめんなさい」


「俺が何故取引先に悪くもないのにすみませんって言って頭下げてるか分かるか? 愛する息子や妻の為なんだよ。

そんな風に胃を一年中キリキリさせて、時には泣いてる俺が一年に一度、ハメを外れるのがこのサンタコスなんだよ」


「そ、そうだったんだ……父さん、ごめんよ。嘘つき呼ばわりして」


「分かったら、返せ」


「う、うん」


 息子は俺にサンタコスを返す。良い子だ。


 俺はしみじみと感じ入った気持ちで、付けひげを付けて、カツラを被り、赤い服を着る。


 そして洗面所の鏡の前に立ち――自分の姿を確認する。


 そこにいるのは、紛う事なきサンタさんだった。


 ふふふ。


 我ながら完璧……ではないな。付け目がねも付けなきゃ。


 あとワックスも付けて……勿論無香料のやつ。


 よし、これで完璧だな。


 あとは声真似だ。


 サンタの声なんか聞いたことないけど、こういうのは雰囲気大事だからな。


「Ahー、Ahー、HAHA! I’M SANTA!」


 よし、こんな感じだろう。


 リビングに戻ると、息子の顔は少し苦笑していた。


 五歳児でこの表情が出来るとは、我が子ながら何かを悟ってそうな知的さを感じずにはいられない。


 何を感じているのだろう?


 いや……きっと俺のサンタコスが決まり過ぎてて、「似合いすぎだよ、父さん」とか思ってんだろうな。


 ばっか、我が子よ……そんな褒めても、出るのはプレゼントだけだぜ?


「HAHAHA! Mr.DOUTEI!」


「あ、あのサンタさん、日本語話して貰えます?」


「どうてい君、まぁ……サンタは二百カ国の言葉を話せるから、問題ないよ? でもやっぱり、英語が

一番かな? HAHAHA!」


 息子が泣き出した。


 おぉ……俺のサンタ感が良すぎて感激してしまったらしい。


 これはもう、来年もやるしかないな。


「どうてい君、君は五歳だ。なのに仮面ライダー変身ベルトとか買ってる。来年はもっと大人っぽいものを

買ったらどうだ?」


「……例えば、何ですか?」


「サンタ服とかどうかな? 儂の二代目になれるぞ」


「遠慮しときます」


 全く、いい歳してコスプレをするなんて、我が子は変わってるな。


 五歳ならもうライダーなんて卒業して……楽しいサンタコスやればいいのに。


 HAHA!

 もし『面白い!』とか『続きが気になる!』とか『道の活躍をもっと見て見たい!』と思ってくれたなら、ブクマや★★★★★評価をしてくれると幸いです。


 ★一つでも五つでも、感じたままに評価してくれて大丈夫です。


 下にある『ポイントを入れて作者を応援しましょう!』のところに★があります。


 何卒、よろしくお願いします。

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