81 魔王はいるけど勇者はいない世界
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「え、私の後ろに乗るんです?」
「そうだが?」
今日は、カミーユと一緒にフェルドーに行く日で、急遽一緒に行くことになったシャトロワ王国第一王子、エリアスがミオの後ろに立っている。
「師団長の後ろの方が安全だと思いますよ?私、大人を乗せて飛んだことないですし」
「構わん」
「構わんって……落ちても知りませんよ?」
「落ちないように飛べ」
「えー」
「あまりにも危なっかしかったら、こっちに乗ってもらえますか?」
「……わかった」
とりあえず、ミオはエリアスを後ろに乗せて箒を浮上させてみた。
案外、いける気がする。
3人は、フェルドーに向かって出発した。
「ミオ……相変わらず道は関係なしだな」
「何言ってるんですか師団長。空に道なんかあるわけないじゃないですか」
「まぁ、そうだがな」
「思ったより安定してるんで、もう少し速度上げますよ」
「あ、おい、ミオ!?」
速度を上げたミオに、カミーユも慌てて速度を上げて追いかけた。
「大丈夫です?エリアス様」
「……問題ない」
「ミオ、王子様落とすんじゃないぞ!」
「大丈夫ですよ、たぶん」
今日は風もなくて穏やかに晴れているため、絶好の箒日和だ。
思わず鼻歌を歌いそうになったミオだったけれど、後ろにエリアスを乗せていることを思い出してやめた。
「箒で飛ぶとは、このような感じなんだな」
「そうですよ。戦ってる時はもっと激しく飛び回りますけど」
「だろうな」
「馬よりも移動は楽だし時間も短縮できるので、空飛べるのって便利ですよ。あー、でも……エリアス様みたいに剣を使って戦う場合には操作が難しくなるんですかね?」
「どうだろうな?馬だって操作は必要だし、似たようなものなのではないか?」
「なるほど」
今日ミオ達がフェルドーに行くことは、昨日クリスタルで連絡してあって、昼食も用意してもらうようお願いしてある。
久しぶりに雪兎(スノーラビット)に会えるのが楽しみで、ミオは昨日からとてもご機嫌だ。
「何だか嬉しそうだな」
「だって、雪兎に会えますもん」
「雪兎?人間には懐かない魔物だぞ」
「めちゃくちゃ懐かれてますよ?私」
「は?」
こうして、特に危なげなくミオはエリアスを乗せて飛び、途中で防寒対策を整えて予定通り昼頃にフェルドーへと到着した。
第二騎士団の宿舎で昼食を頂き、モンルトワ大雪原へと向かう。
9月に入ったので、フェルドーは雪が降り始めていて、うっすらと雪が積もっていた。
そういえば、雪が消えたフェルドーってまだ見たことがないな。
モンルトワ大雪原に向かう途中はまだ初冬な感じだったけれど、雪原の手前で一気に真冬の景色へと変わった。
フェルドーの雪が消えても、雪原の雪が消えることはなく、ここは1年中真冬の景色だ。
「あれ、師団長は歩いて行くんです?」
「お前はどうやって行くんだ?」
「箒に乗って行きますよ?雪の上歩くと、めちゃくちゃ転びますもん」
「……どんな歩き方してんだよ」
「エリアス様はどうします?このまま乗っててもいいですけど」
「だったらこのまま行く」
ミオが箒のまま行くと言うので、カミーユも箒に乗ることにした。
道なき道を進み始めると、ミオが心待ちにしていた雪兎達が雪の中から顔を出した。
そして、ミオの周りに集まって来ると、1体の雪兎がミオの上に飛び乗って来た。
「わぁ、久しぶりだね!相変わらず可愛いなぁ……今日も道案内よろしくね」
「……本当に懐いてるんだな」
「そうですよー」
雪の上をぴょんぴょんと飛び回りながら、雪兎はミオ達を氷竜を呼ぶ祭壇まで案内してくれた。
ミオは雪兎達に礼を言いながら箒から降りると、大声で氷竜を呼んだ。
しばらくすると、雪原の向こうから氷竜が姿を現し、初めてその姿を見たエリアスは、目を見開いて驚いていた。
―――久しぶりだな、ミオ
お久しぶりです。何ですか?私に話って
―――近頃、魔物が凶暴化していないか?
魔物ですか?うーん……そういえば、こないだ目の前で魔物が進化したし、上級の魔物が増えてる気はしますね
―――そうか……封印の地は知っているか?
封印の地?……あ、北の方にある閉ざされた町ってとこですか?
前に地図でそんな町を見つけたことがある。
ペリグレット王国の東側の大陸から伸びた北の大地、ペリグレット王国からは海を渡った場所にそんな名前の町があった。
元の世界でいう北極的な場所で、人が住める環境ではないから閉ざされた町となっているのかと思っていたけれど……封印の地?
―――封印が解かれようとしている兆候がある
封印がですか?何が封印されてるんです?
―――魔王だ
魔王ですか……え、魔王?
魔王って、アレですか?魔王サタン的な?
え、この世界に魔王なんてものがいたんですか?
異世界とはいえ、そこまでファンタジーさを感じていなかったけれど……あ、魔法がある時点で十分ファンタジーなのか?
まさか魔王がいるなんて考えてもいなかった。
―――何を言っている?サタンなど、現実世界にいるわけがないであろう。大丈夫か?お前の頭は
大丈夫ですよ!私のいた世界じゃ、竜だって現実世界にいたら驚きの生き物なんですよ!
氷竜の話では、この世界の魔王というのは人間なのだそうだ。
遥か古の時代、1人の人間がその支配欲の強さから、この世界を支配するために魔物の王に君臨しようとした。
そのために、あらゆる知識と手段を使い、遂にはその人間は魔王へと進化した。
その力は強大であり、人間の力では太刀打ちできずにどんどん侵略されていき、一度は人間は滅びかけた。
そこに、1人の偉大な魔導師が現れて、死闘を繰り広げた結果何とか魔王の核を封印することが出来た。
本当なら消滅させたかったのだけれど、あまりにも強大な力だったため、封印することしか出来なかったらしい。
魔王の核を分離された人間は、核に精魂をすべて吸収されており、枯れ果てた姿となってその場に倒れていたという。
もちろん、既にその命はなかった。
どの世界においても、力を求める人間は多い。
そして、時にその欲望が凄まじく超越する人間が現れる。
そのような人間は、何処にも方法が記されていなくとも、その方法を編み出すもので、封印された魔王の核は、数百年に一度くらいの割合で解除されてしまっているらしい。
え……もしかして、今そういう感じなの?
―――まだ、兆候があるというだけだ。封印が解除されるとは言っていない
可能性としてはあるわけじゃないですか!めちゃくちゃ怖いんですけど!?
―――十分に警戒しておけ。では、私は行く
え、ちょっと待ってくださいよ!
―――何かあればいつでも聞きに来るが良い
ちょっと!氷竜さん!?
警戒しておけって……いつものように、氷竜は用件を伝えると戻って行ってしまい、ミオは氷竜に向かって手を伸ばしたまま固まった。
「オイ、魔王とはどういうことだ?」
「……えーと……封印が解除されそうな兆候があるから、十分警戒しろ……だそうです」
「は?」
とりあえず、大至急王都へと戻って国王に報告することにし、ミオ達はモンルトワ大雪原を後にした。
―――――――
―――――
―――
「オイ、カバンの中で何か光ってるぞ」
「ん?」
王都へと向かっている途中で、エリアスに言われてカバンの中を見てみると、ラウルとの通信用クリスタルが光っていた。
取り出して魔力を込める。
「箒に乗りながら大丈夫なのか?」
「師団長、私の箒操作術は船旅でかなりレベルアップしたんですよ」
「何で船旅で箒の扱いが上達するんだよ」
カミーユは意味が分からないというような顔をしたけれど、ミオが船旅で箒操作術がレベルアップしたというのは事実だ。
「やぁ、ミオちゃん。元気?」
「こんにちは、ラウルさん。どうかした?」
「ちょっと休憩にしたからさー、ミオちゃん何してるかなって思って」
「私は今王都に向かってるとこ。そうだ、ラウルさんは魔王って知ってる?」
「魔王?魔王ってあれでしょ?ペリグレット王国の北側にある、閉ざされた町に封印されてるやつ」
「え、知ってるんだ」
「そりゃあねー。学校でも習うことだし」
「そうなの?」
「うん。確か、800年前に封印されたんだったかな。魔王がどうかしたの?」
「うーん……氷竜がさ、魔王の封印が解かれようとしている兆候があるって言うんだよね。だから、王様に報告に行くとこなんだよ」
「マジで!?」
「まだ、封印が解かれるかはわかんないけどね」
「魔王の封印が解かれたら、大変なんてもんじゃないよ!」
「うん……どうしよう?」
「俺も文献とか探してみる」
「うん。また後で連絡するね」
「わかった!」
ラウルとの通信を終えてクリスタルをカバンにしまうと、エリアスがクリスタルのことを訊ねてきた。
ミオはクリスタルの説明をする。
よく考えてみれば、ペリグレット王国よりも、閉ざされた町とは陸続きのシャトロワ王国の方が深刻な問題なのでは?
クリスタルで連絡を取り合えた方がいいかもしれない。
「クリスタルまだ予備があったはずなので、エリアス様にも1つ渡しておきましょうか?そうすれば、シャトロワ王国にいても話せますよ」
「ならば、貰っていく」
クリスタルでラウルと話をしていたとはいえ、かなりのスピードで王都へと向かっていたため、夕方前には王宮へと戻ることが出来た。
シャルルも見回りから戻って来ていたので、カミーユが声をかけて4人で国王の元へと向かう。
「何かあったのか?」
「まぁな。シャルルも魔王の封印については知ってるだろ?」
「魔王の封印?知っているが……それが、どうかしたのか?」
「もうすぐ陛下の執務室だ。そこで話す」
こうして執務室で、国王とシャルルに氷竜から言われたことを報告すると、2人とも言葉を失う程驚いていた。
ラウルの話だと、魔王が封印されたのは800年前。
学校でも習うらしいけれど、魔王という存在を現実として受け止められる人などいるのだろうか?
「魔王ってことは、どこかの世界から勇者とか来るんです?」
「勇者?」
ミオの勇者という言葉に、そこにいたミオ以外が首を傾げた。
何ですかその反応は?
「何だよ、勇者って」
「魔王を倒す凄い人ですよ。知らないんですか?師団長」
「聞いたこともない」
「魔王復活って言ったら、討伐のためにどこかの世界から勇者が現れるものじゃないですか」
「お前の世界ではそうだったのか?」
「小説の中ではそうでしたよ?」
「それは空想上の人物だろうが!馬鹿かお前は!」
「異世界ってそういうものなのかと……」
どうやらこの世界には勇者はやって来ないらしい。
もしも魔王の封印が解かれてしまったら、この世界の人間でどうにかしないといけないということだ。
異世界は異世界でも、小説の中の異世界とは随分と違うものだ。
まぁ……これが現実だ。
とりあえず今出来ることは、凶暴化する魔物対策と怪しい人物の特定だろう。
魔王の封印の解除を防ぐことが先決だ。
そして、魔王の封印が解除されてしまった場合にどうするか……これは、また図書室にこもる必要がありそうだ。
「全騎士団及び各地の領主達にもこのことは知らせておくべきだろう。シャルル、カミーユ、早急に通達を頼むぞ」
「騎士団へはこれから報告をします。領主への通達は明日中には終わらせます」
「エリアス王子」
「はい」
「シャトロワ王国が最も危険に晒されることになるであろう。我が国は出来る限りの支援をすることを約束する」
「ありがとうございます。では、私は早急に帰国することにします」
「え、今から帰るんです?もうすぐ夜になってしまいますけど」
「問題ない」
この場は解散となり、シャルルとカミーユは魔導師団の執務室に行き、クリスタルを通じて各騎士団への報告及び近隣の領主への通達の指示、ミオはエリアスにクリスタルを渡すため宿舎へと向かった。
何だか大変なことが起こりそうな感じになったけれど……どうか、魔王なんて現れませんように!
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お読みいただきありがとうございました!




