80 厄日ですか?
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「師団長、今度の休みにフェルドーに行ってきてもいいです?」
「駄目だ」
「クリスタルもあることですし、いいじゃないですか」
「いい加減諦めろ。駄目だと言ったら駄目だ」
諦めろと言われても……今回ばかりは引き下がれないミオ。
実は昨日の見回りで、氷竜が話があるから来いと言っていると、水竜に言われたのだ。
氷竜がわざわざミオのことを呼ぶんだから、世間話というわけではなく、何か大切な話があるのだろう。
「氷竜が話があるみたいなんです。だから行かないわけには……」
「氷竜だと?……わかった、俺が一緒に行く」
「ありがとうございます」
「確か……明後日だったな、ミオの次の休み」
「そうですよ」
「だったら、翌日も休みにしておくか」
「日帰りなので大丈夫ですよ」
「……は?日帰りだと?」
「別に長居する予定はないので、夜までには帰って来ますよ」
「はぁ……まぁいい。何かあればその時に考える」
「いやいや、何もないですよ」
私のことをトラブルメーカーのように扱うのはやめていただきたい……ミオはそんなことを思いながら、見回りの同行のため、王宮前の広場へと向かった。
今日は、シャルル達と一緒に、メーヌの森に向かう草原の見回りを行う予定だ。
9月いっぱい夏休み中のアリスも一緒に見回りに同行する。
「準備も整ったことだし、出発するぞ」
「はい」
いつものように、先頭を行くシャルルの隣でミオは箒に乗って移動する。
見回りの同行にも慣れて来たアリスは、何だかんだ言っていたけれど後ろの方を飛んだ。
草原に到着すると、二手に分かれて見回りを行うことになった。
「何かあったらすぐに呼んでね、アリス」
「私1人でも何とかできるわよ」
「あのね……」
まったく、この強気な性格は何とかならないものだろうか。
まぁ、アリスの方にはシャルルがいるから問題はないだろう。
「ミオ、気をつけるんだよ」
「大丈夫ですよ。アリスのことをお願いします」
「わかった」
こうして、草原の見回りが開始された。
草原には、いつものようにケセランパサランや草スライムの姿があり、ミオを見つけた魔物達が近くに寄って来ては楽しそうに動き回っていた。
魔物とはいえ、こんな穏やかな魔物にはとても癒される。
「ミオ様がいると、魔物達も楽しそうですね」
「私も楽しいですよ」
「魔物を操る魔法でも使ってるんですか?」
「そんな魔法は知りませんって」
何で魔物に好かれてしまうのかはわからないけれど、こういう可愛らしい魔物なら大歓迎だ。
折り返し地点まで行き、街道に向かって戻り始めた時、それまでミオの周りを動き回っていた魔物達がサーッと離れて行った。
「ん?」
「あれ、どうしたんでしょうね?」
今までこんなことがなかったので、首を傾げながら進むミオ達。
すると、目の前に1体の草スライムが現れて……突然光り始めた。
何だろう、この草スライムと思いながらミオが箒を止めると、隣にいた騎士が慌てて叫んだ。
「ミオ様!離れてください!全員後退しろ!」
「え、何が……」
ミオがよくわからずに騎士達と後退すると、どんどん強い光を放っていった草スライムが爆発した。
一体、何が起きたというのだ?
爆発で立ち込めていた煙が消えていくと、そこには巨大な草スライム……草炎スライムが出現していた。
「草スライムが進化したようです」
「え、進化?さっきの光ってた草スライムがですか?」
「そうです」
魔物が進化するところなんて、初めて見た。
あんなふうに進化するんだ……何て感心している場合ではない。
「あれ、倒すんですよね?」
「そうです!」
ミオはステッキを構えてスノーフロストを放ち、草炎スライムを凍らせようとしたけれど、一歩遅かった。
草炎スライムは飛び上がって炎を纏った。
こうなる前に凍らせたかったけれど、仕方がない。
草炎スライムは、頭の上の花から炎を放ちながら、勢いよく地面へと降りて来た。
草炎スライムが地面へと降りた瞬間辺り一面が火の海となり、撒き散らされた種から次々と花が咲き始めた。
「スノーフロスト!フローズンフロスト!」
炎を撒き散らす花と火の海となった草原は凍りついたけれど、草炎スライムは纏った炎を消して跳び上がった。
本当にすばしっこくて厄介な魔物だ。
ミオは箒で草炎スライムの頭上まで飛び上がり、スノーフロストを放った。
器用に動き回りながら逃げようとした草炎スライムだったけれど、辺りに広がった霧状の雪に触れた草炎スライムは、凍り付きながら落下して行った。
前にネーオールの森の近くで戦った経験が役に立ったようだ。
ミオは地上へと降りて行き、落下した草炎スライムにフロージングランスを放って消滅させた。
「花も花の種も残っていないようです」
「じゃあ、終わりですね。良かったです、大惨事にならなくて」
「本当ですね」
ミオ達が再び見回りを再開しようとしていると、シャルル達の方でも大きな音と騒がしい声が聞こえて来た。
「向こう側も何かあったんでしょうか?」
「騒がしいですね」
「私、ちょっと見てきますね」
「わかりました。お気をつけて」
ミオは箒に乗ってシャルル達の方に向かった。
すると、こちらでも草炎スライムが出現していて、草原が火の海になり、跳び上がった草炎スライムが体を回転させて炎を撒き散らしているところだった。
ミオは草炎スライムの頭上からフロージングランスを放って、草炎スライムを地面へと堕とし、地上へと降り立つとフローズンフロストで燃え盛る草原を凍らせた。
シャルル達が咲いた花を片っ端から斬りつける。
「大丈夫?アリス」
「……ミオ…」
「もう大丈夫だからね」
初めての魔物との戦い、それも上級の魔物ということもあり、アリスは得意の水属性魔法を上手く使うことが出来なかったようだ。
まぁ、当たり前だ。
座り込んではいたけれど、怪我はしていないようだったので安心する。
「助かったよ、ミオ」
「間に合って良かったです。向こうでも草炎スライムが出現していたので」
「やはり、戦っていたのか」
「目の前で進化したので驚きましたよ!」
「目の前で進化?だからあの爆発音か」
「そうです。でも、2体も上級が出るなんて、驚きですね。こんなこともあるんですね」
「私も初めてだよ」
とりあえず、負傷者が出なくて良かった。
「それじゃあ、私は向こうに戻るけど……アリスは大丈夫?」
「だ、大丈夫よ……」
「荷馬車まで乗せて行こうか?」
「わ、私だって見回りくらい!」
「私の馬に乗せて行こう」
「すみません、シャルルさん。お願いします」
「ほら、おいで」
アリスは箒で飛べるような状態でもなかったので、ミオが荷馬車まで乗せて行こうとしたけれど、かたくなに拒否するため、シャルルの馬に乗せてもらい見回りを続けることになった。
後ろ側だと落ちてしまいそうなため、シャルルの前に乗せて、落ちないようにシャルルが支える。
箒を背負っていると邪魔そうだったので、ミオが預かって背負うことにした。
「それじゃあ、大人しく乗ってなさいよ、アリス」
「わ、わかってるわよ!」
「ミオ、気をつけて戻るんだよ」
「はい」
こうして、ミオは向こう側の見回りへと戻り、街道で合流した騎士団は小川で昼食となった。
―――――――
―――――
―――
「ミオは……あんな上級の魔物と戦うの、怖くないの?」
「そりゃあ、怖いわよ。でも、草炎スライムは前に戦ったことがあったから」
「ふぅん」
「でも、魔物よりも魔導師数十人と戦う方が怖いわよ。死ぬかと思ったもん」
「そんなことあるわけ……あ、ルシヨット魔導国?」
「そうよ」
見回りを終えて、王都へと戻る頃にはアリスも自分で箒に乗れるようになった。
荷馬車に乗っていてもいいと言ったのだけれど、それはアリスのプライドが許さないらしい。
「そっか、ラウルさん達がいなくなったから、魔物との戦いの訓練が出来なくなったからね。やっぱり、召喚魔導師がいてくれるといいのになぁ」
「ミオは召喚出来ないのか?」
「私ですか?ラウルさんには出来るって言われましたけど……私、魔法陣描くの苦手なんで」
「そういえばそうだったな」
「え、ミオって魔法陣が描けないの?だったら、どうやって魔法使ってるのよ!?」
「頭の中では描けるのよ……」
「意味がわかんない!」
それは、私にもわかりません。
でも、召喚魔導師……魔導師団には必要だなと思うミオだった。
こうして王宮へと戻り、騎士達が片付けをする中、ミオはシャルルやアリスと一緒に執務室へと向かっていた。
すると、後ろから呼び止められて足を止めて振り向く。
「……え……エリアス様?」
何と、ミオを呼び止めたのは、シャトロワ王国第一王子のエリアスだった。
「誰よ?」
「失礼でしょうがアリス!シャトロワ王国の王子様よ!」
「王子様?」
「す、すみません、エリアス様」
「別に構わん。それよりも、少し良いか?」
「はい?」
シャルルがアリスを連れてカミーユの所に向かい、ミオはエリアスと一緒に庭園の方へと向かった。
また、シャトロワ国王が遊びにでも来たのだろうか?
「見回りに行っていたのか?」
「はい、そうですよ」
「相変わらずだな」
「私は魔導師なので」
ミオを連れ出したのだから、何か用事でもあるのかと思ったけれど……世間話をしたかっただけなのか?
他愛のない話をしながら、庭園のガゼボに入りベンチに座る。
2人の姿を見かけた侍女が、紅茶と茶菓子を用意してくれた。
「また、王様と遊びに来たんです?」
「いや、違う。私1人だ」
「エリアス様だけ?」
どういうことだ?
とりあえず……冷めないうちに紅茶を頂こう。
ミオは温かい紅茶を口に運んだ。
仕事の後の紅茶は何て美味しいんだろう。
「来月、婚姻の儀を執り行う。その招待状を持って来た。先程、国王陛下に渡したから、お前も後で見るといい」
「婚姻の儀?……って、結婚式ですか!?え、どなたの結婚式なんです?」
「私だ」
「エリアス様、ご結婚なさるんですか!?それは、おめでとうございます!」
まさかの結婚の報告だった。
でも、招待状って……王子様本人が持って来るものなんです?
「招待状って……ご自分で届けるものなんです?」
「いや。私がお前に会いたくて持って来ただけだ」
「私に……ですか?何かご用でも?」
「……お前、馬鹿だろう?」
「し、失礼な!」
そういえば、前にも馬鹿呼ばわりされた気がする。
何て失礼な王子様だ、まったく。
「前に言っただろう、お前を妃として迎えられないのが残念だと」
「そ、そういえば、そんなことを話してましたね」
「その気持ちは今でも変わらない」
「んー?」
「私が愛しているのはお前だ」
「……え?」
ミオの顔が耳まで真っ赤になった。
もしかしたら、頭の上から煙が出ているかもしれない。
「ななな、何を!?」
「面白いな、お前。真っ赤だぞ。大丈夫か?」
「わ、私は大丈夫ですよ!大丈夫じゃないのはエリアス様の方ですよね?おおお、奥さんになる人を愛してあげてくださいよ!」
「別に、私が誰を愛しても構わないだろう?」
「そ、それは構いませんけど……いやいや、奥さんは!?」
「王族の結婚など、ただの儀式だ。向こうも同じように思っている」
「そんなわけないですよね!?」
そういうものなのか?
まぁ、王族とか貴族の結婚ってよくわからないけれど、確かに政略結婚なんてのもあるし、恋愛感情がないまま結婚生活を送るってこともあるのかもしれない。
でも、ただの庶民だったミオにはちょっと理解に苦しむ。
いや、わかる気もするのだけれど……いやいや、わかりませんって!そもそも、これって不倫になるのでは!?
「別にお前をどうこうしようって話ではない。私の気持ちを伝えただけだ」
「え、えーと……」
「それよりも、お前の明日の予定は?」
「……明日ですか?普通に見回りの同行ですよ」
「なら、私も同行しよう」
「え、何でですか?」
「暇だからだ」
「な、なるほど」
「明後日は?」
「明後日は……ちょっと師団長と一緒にフェルドーに出かけてきます」
「フェルドー?」
「はい。氷竜に呼ばれてまして」
「ほう、氷竜に……私も一緒に行く」
「え、でも……エリアス様って、箒に乗れないですよね?」
「乗れないな」
「馬車だと片道3日はかかるんですよ。箒でシャーって行ってシャーって帰って来たいんですけど」
「後ろに乗せて行け」
「えー」
とりあえず、カミーユに聞いてみよう。
今日の夕食は王宮で食べることになり、一度エリアスとは別れて執務室へ戻ることにした。
上級の魔物2体と戦った上に、結婚の報告と告白……何だか疲れ果てたミオだった。
今日は、厄日なんですか?
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お読みいただきありがとうございました!




