76 魔法のステッキと特級魔導師
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ルシヨット魔導国では、魔導師は魔導師団として働くだけではなく、魔導師として個人で店を営む人も多いのだとラウルが説明してくれた。
仕事をしていない魔導師もいるらしい。
でも、生活の中で魔法は当たり前のように使われていて、驚くことがたくさんあった。
例えば、ペリグレット王国の街灯がガス灯なのに対し、ルシヨット魔導国の街灯はほとんどが魔力で灯されている。
他にもいろいろなことをペリグレット王国にも取り入れたいと思うのだけれど……まずは魔導師を増やすことが先決だろう。
こればかりは時間がかかりそうだけれど、気長に取り組んでいくしかない。
いつかルシヨット魔導国のように、便利な生活になって行けばいいと思う。
「ラウルさん、早く転移魔法を確立してよ」
「いやいや、ミオちゃん。それは俺にも無理だって……いや、無理じゃないけどさ……難しすぎなんだって。まぁ、頑張るけどさぁ」
「うーん……よし、帰ったら図書室で調べてみよ」
「また図書室にこもるの!?」
「ちょっと調べるだけだよ」
「ミオのちょっとは信用出来ないからな」
「シャルルさん!?」
今日はラウルの案内で、ミオとシャルルとヴィクシスは王都の街へとやって来ている。
エレーヌも誘ったのだけれど、一昨日に来たばかりだからと断られてしまった。
それよりも、エレーヌが宿舎でいろいろと手伝っていることを知り驚いている。
侍女として、ジッとしていることが出来なかったらしい。
「そうだ、ステッキ売ってるお店に行ってみたいよ、ラウルさん」
「皆に買っていきたいって話してたっけ?」
「うん。選ぶの手伝ってもらえると助かるかな」
「任せといて!」
「え、ステッキってミオさんが使ってるアレっすか?もしかして俺も使えるんです?」
「使えるよね?ラウルさん」
「魔導師としての階級に合ったものならね」
「階級ってどうやって調べるの?」
「一応基準ってのがあるから、王宮に戻ったら基準表をあげるよ」
「ありがとう」
こうして話しながら歩いていると、ステッキの店に到着したらしい。
ステッキの店もいろいろあるけれど、ラウルが最も信頼している店がこの店なのだと説明してくれた。
同じ商品を扱う店でも、相性というものはあるし、取り扱っている商品の良し悪しというのもあるだろう。
店内に入ると、たくさんのステッキが陳列されていた。
階級ごとに陳列棚が分けられていて、同じ階級でもたくさんの種類のステッキが並べられている。
「私は……上級だからこれかな?」
「うーん……向こうで試せるから、ちょっとこっちのステッキで試してみなよ」
「これで?うん、試してみる」
ラウルに連れられて、ミオは店の奥の的が設置された部屋へと移動した。
そして、ラウルに手渡されたステッキを使って、的に向かってサンダーボルトを放ってみると……見たこともない威力のサンダーボルトが的を直撃して、床ごと破壊してしまった。
「…………あ」
「す、凄いねミオちゃん」
ミオはしばらく固まった後、涙目になりながらゆっくりとラウルに顔を向けた。
……やってしまった。
「何だ何だ!?何事だ!?」
もの凄い衝撃音を聞いた店主が、驚きながら店の方から駆け込んで来た。
後ろからシャルルとヴィクシスも駆け込んで来る。
「ミオ!?」
「何があったんすか!?」
「……あはは」
ミオは涙を流しながら苦笑いした。
「こりゃあ驚いたな!どうなってんだ!?」
「すみません、すみません!本当に、ごめんなさい!まさか、こんな威力の魔法を放ってしまうなんて思っていなくて……」
「嬢ちゃん、そりゃあ特級のステッキじゃねぇか。それ、使えたのか?」
「こんなに凄いステッキだなんて知らなくて、いつも通り魔法を使ってしまいました!本当にごめんなさい!……え、特級?」
「そのステッキは、特級の試し打ち用ステッキだ。凄いな、嬢ちゃんは特級魔導師か」
「何かの間違いでは?」
「何も間違ってなんかないよ、ミオちゃん」
「……えーと?」
「床と的はすぐに戻せるから、気にしなくていいぞ」
この店主、魔導師だったらしく、魔法で床と的を元に戻していた。
凄いな、ステッキ屋の店主!
それにしても……特級魔導師?
「えーと……どういうこと?」
「どういうことも何も、ミオちゃんは特級魔導師ってことだよー。前から思ってたんだよね、ミオちゃんって特級なんじゃないかって」
「え、そうなの?」
「だってさー、魔力低下とか魔力封印とか、あんなの上級魔導師が使えるわけないじゃん」
ラウルは、ミオが使った試し打ち用ステッキを元の場所に戻し、今度はヴィクシスのステッキ選びを手伝っている。
ミオは、特級ステッキの陳列棚に並べられたステッキを眺めた。
「ミオは、本当に凄い魔導師になったんだな」
「シャルルさん。そんな……私は普通の魔導師ですよ」
「特級なのだろう?」
「あんまり実感はわかないですけどね……」
ミオは特級ステッキの陳列棚を見ながら思った。
特級って……他のステッキに比べると、種類が少なすぎませんか?
初級や中級、上級のステッキが20本くらいのラインナップなのに対して、特級が5本しかないというのはどういうことだ?
他にも並べられている棚があるのかもしれない、そう思って店内を見てみたけれど、この5本以外に特級のステッキは見当たらなかった。
仕方がないので、5本のステッキの中から、一番綺麗な色だと思った乳白色のステッキを選んで手に取ってみた。
持ち手の部分に、薄水色と薄紫色で何かの模様が描かれている、とてもシンプルなデザインだった。
ペリグレット王国に戻ったら、いつもの雑貨屋でチャームを買って取り付けよう。
ヴィクシスは中級のステッキが使えたようで、たくさん陳列されている中級ステッキを物色中だ。
「師団長やアル君達って、どのステッキ買って行けばいいんだろう?」
「たぶん、上級くらいにはなってると思うよ。他はまだ中級だろうね。まぁ、予備で上級ステッキ買っておいてもいいかもだけど」
「じゃあ、上級4本と中級6本買って行こう。それと……1人ね、とっても元気な女の子が入って来たんだけど……初級くらいなのかな?」
「初心者じゃなくて?」
「うーん……入団する時、戦いを挑まれたんだよね、私……普通に攻撃魔法放たれたのよ」
「マジで?凄いね、その子!」
「魔導師団の中でも、最も可愛くて強い魔導師を目指してるんだって」
「へ、へぇー……だから、ミオちゃんに挑んだってわけか」
「そこがよくわからないんだけどね?」
「…………とりあえず、その子は初級でいいと思うよ。初心者だったらステッキは必要ないし、中級っぽかったら、連絡くれたら俺が選んで送ってあげるし」
ラウルのアドバイスで、アリスの分はとりあえず初級のステッキを買って行くことにした。
こうして、魔導師団の皆の分のステッキを買い揃えて、ミオ達はステッキ屋を後にした。
「ねぇ、ラウルさん」
「どうしたの?」
「何で、特級のステッキってあれしかないの?」
「そりゃあ、特級なんて作るのが大変だからねー。特級のステッキを置いてる店なんて、あの店くらいだよ」
「そうなんだ?」
「特級魔導師なんてそんなにいないからね?ミオちゃんが凄いんだからね?」
「……実感ないな」
魔導師の階級は初心者から始まる。
初心者から初級に上がるのはそんなに大変ではないけれど、初級からは階級が上がるごとに難しくなるのだとラウルが説明してくれた。
特級魔導師は、ラウルが知っている限りでは、ミオも含めて5人くらいしかいないらしい。
「ま、俺も世界中の魔導師を把握してるわけじゃないからね。もしかしたら、もっといるかも知れないけど」
「でもさ、私が特級ならラウルさんだって特級なんじゃないの?」
「そんなわけないじゃん!」
ミオには魔導師の階級の判断基準がさっぱりわからなかった。
あとでラウルに基準表もらっても……理解できるのだろうか?
―――――――
―――――
―――
「ん?学校?」
ラウルに案内されながら街をブラブラ歩いていると、学校を見つけた。
この学校は、魔導師でも一般の人でも通える学校で、ミオがいた世界でいう小学校のように、7歳になったら皆が通う学校らしい。
本格的に魔法について学びたい場合には、7歳から街の学校に通って、10歳になったら王宮にある魔導師学校へと転入する。
「普通に生活の中で魔法を使うくらいだったら、この学校で学べばそれなりの魔法は使えるようになるよ」
「魔法の授業もあるってこと?」
「そうだね」
「一般の子も魔法の授業を受けるの?」
「魔力の有無で教室が分けられるんだよ」
「なるほど……そういえば、アル君も学校通ってるけど、学校がどこにあるか知らないな…」
「モンフォワールの街にあったけど……ミオちゃん、知らなかったの!?」
「え、街にあった?うそ、私見たことないよ」
「噴水広場のすぐ近くだったけど」
「うーん……私にだけ見えない学校とか」
「何でだよ!」
ペリグレット王国で1年以上過ごしてきたのに、今までアルバンがどこの学校に通っているのかなんて考えたこともなかった。
ペリグレット王国の王女として、これはマズいのでは?帰ったら学校を探しに行ってみよう……
街を歩いていると、ちょっとした場面で魔法を使っている人をちょこちょこ見かけた。
日常生活の中で、魔法を使っていろんなことを楽にしている、そんな感じだ。
例えば、集合住宅の上の階への届け物を、箒などで浮上して届けたり、魔法で浮かび上がらせて届けたりしているのを見かけた。
手紙の配達なんかも、魔導師の仕事らしい。
花壇の水まきを魔法でしている人もいた。
ここで見る魔法は、生活を豊かにするためのものが多く、魔法は戦うためだけにあるのではないということが良くわかる。
「いつか、ペリグレット王国も、こんなふうに魔法が生活の一部になていけばいいな」
「魔導師が増えたらそうなると思うよ」
「そこが問題なのよね」
魔導師をどうやって増やしていくか……それに関しては、解決の糸口が見えてこない、とても大きな壁である。
「ここの本屋に入ってもいいっすか?図書室で見つけた本が欲しいんすよ」
「ヴィクシスは何の本が欲しいの?」
「最新のポーション作製と、支援魔法についての本っす」
「それなら……こっちかな」
ラウルがヴィクシスと一緒に本屋に入って行き、ミオとシャルルも中に入った。
魔導国の本屋だから、魔導書がメインなのかと思ったけれどそうでもなかった。
魔導書を探すなら、やっぱり図書室の方が充実している。
ヴィクシスのように、図書室で見つけた本を本屋で購入するというのが、賢い方法だと思う。
図書室でいい本を見つけても、全部書き写すというのは困難だし。
「ミオは欲しい本はないのか?」
「うーん……今はないですね」
「図書室にはこもるのに?」
「図書室はこもるためにあるんですよ」
ミオとシャルルは店内を一回りすると、外にあるベンチに座って、ヴィクシスとラウルが出て来るのを待つことにした。
1週間というのはあっという間だ。
ミオがルシヨット魔導国に滞在するのも、残り3日となった。
最終日は、調印式が終わると港へと戻るので、こうして自由に過ごせるのは残り2日ということになる。
今夜あたり、図書室に行こうかな……ミオはそんなことを考えながら、良く晴れた青空を見上げた。
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お読みいただきありがとうございました!




