73 魔導師の学校
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夜明け前、ぱっちりと目が覚めてしまったミオ。
これは……二度寝出来ないやつだ。
ゴロゴロしていてもどうにもならないので、潔くベッドから降りることにした。
窓に歩み寄ってカーテンを開けると、空が白んできているところだった。
窓を開けて、清々しい空気を大きく吸い込む。
夜明け前の空はミオの好きな色に染まっていて、何処にいてもこの色は変わらず綺麗だなと思う。
しばらくの間、夜が明けて来る空を眺めていると、ふと窓の下に広がる庭園が目に入った。
「少しお散歩しても大丈夫かな?」
ミオは顔を洗って着替えをすると、鏡の前で身なりを整えて部屋を出た。
ラウルとの謁見は昨日済ませたわけだし、今日はいつもの服で問題はないわよね?
まだ活動を始めていない王宮内はとても静かで、ミオの足音がとても良く響き渡る。
ミオは出来るだけ足音を立てないよう注意しながら、庭園を目指して王宮の玄関ホールに向かった。
こうして、王宮内を彷徨うこと数十分……え、玄関ホールって何処ですか?
歩いても歩いても、玄関ホール的な場所に出ないミオ。
いったい、今いる場所は何処なんだ?
完全に迷ってしまった……ミオが両膝と両手をついて項垂れていると、その姿を見て慌ててこの王宮の使用人が駆け寄って来た。
「どうされたのですか!?お体の具合でも優れないのですか!?」
「……い、いえ……庭園を見たくて玄関ホールを探してたんですけど……何処をどう歩いたのかもわからなくなってしまって……」
涙目で見上げるミオに、一瞬戸惑ったような顔をした使用人だったけれど、具合が悪いのではないとわかると安心したように息を吐き出して微笑むと、ミオを玄関ホールまで案内してくれた。
庭園も案内すると言ってくれたけれど、仕事の邪魔をしてしまっては申し訳ないとお断りする。
ミオは使用人に礼を言いながら何回も頭を下げて、玄関ホールから外に出た。
王宮内を彷徨っている間にすっかり日が昇ってしまったようで、ミオの好きな空の色ではなく、見慣れた水色の空へと変わっていた。
次こそは夜明け前の庭園を楽しもう、そう思いながらのんびりと庭園を散歩した。
―――――――
―――――
―――
「えーっ!?何で今日はドレスじゃないのー!?」
「え、だってドレスって動きにくいし落ち着かないもん」
朝食でラウルと顔を合わせると、ドレス姿ではないミオにラウルは酷くガッカリしていた。
そんなにドレス姿って見たいものなのか?
「まぁ、ミオちゃんらしいけどさー。じゃあ、朝食食べたら学校から行ってみようか」
「うん!」
「団長さんはどうする?」
「私も一緒に見させてもらうよ」
こうして、朝食を食べて学校に向かう途中、宿舎に泊らせてもらっているヴィクシスも誘いに行き、4人で学校見学をすることにした。
ペリグレット王国には魔導師の学校がないので、ヴィクシスも学校というものを見学しておいて損はないと思う。
職員室で教員を紹介してもらい、授業が始まる時間になると、1人の教員と一緒に教室へと向かった。
ルシヨット魔導国の魔導師学校では、少人数制になっているようで、1クラス10~15人くらいの生徒を受け持つらしい。
1クラスってことは……何クラスもあるってことですか?
この学校は6年制で、10歳から入学できるのだと説明してくれた。
各学年が2クラス~3クラスで構成されていて……そんなに生徒がいるんですか!?ラウルの説明を聞きながらミオはとても驚いた。
ペリグレット王国で魔導師学校を設立しても……まとまった人数になるのはいつのことやら。
とりあえず、現在の目標はミオが生きている間に学校を設立することだ。
教室に入ると、担任からミオ達のことが紹介され、一番後ろの空いている席で授業を受けることになった。
ラウルも一緒に座る。
このクラスは1年生ということで、授業では魔法の基礎の基礎的な内容を教えていた。
他にも一般教養なども授業に取り組まれている。
授業が終わって休憩時間になったと同時に、ミオは机の上に突っ伏した。
「……何言ってるか全然わかんなかった」
「ミオちゃんってさぁ、凄い魔導師のくせに何で魔法陣が理解できないんだろうね?よく魔法が使えてるよね?」
「私の魔法は、直接頭の中に魔法陣が流れ込んできたのがほとんどだよ」
「どうしてそれで理解できてるのかが、俺にはよくわからないよ」
次に、上級の学年の実演の授業があるということで、このクラスを後にしようとすると……シャルルが女子生徒達に囲まれていた。
ルシヨット魔導国でも、シャルルはイケメンと判断されるらしい。
ペリグレット王国ではなかなか見ることが出来ない光景に、ミオは面白そうに見ていた。
戸惑っているシャルルがとても新鮮に見える。
そんなミオのところに、1人の女子生徒が歩み寄って来た。
「王女様も、魔導師なの?」
「王女様?」
誰だ?なんて思ったけれど……私か!
「うん、私も魔導師だよ」
「どうしたら、そんなにかわいい魔導師になれるの?」
「え?」
目を輝かせながら見上げてくるその生徒に……何て可愛いの!思わず抱きしめてしまったミオだった。
「私なんかより、あなたの方がとっても可愛い魔導師さんよ!」
「ホントに?」
「うん!」
女子生徒は、満面の笑みを浮かべながらみんなの所に駆けて行った。
1年生の教室を後にして、一旦職員室へと戻ったミオ達は、今度は違う教師と一緒に訓練場へと向かった。
魔導師団の訓練場とは別に、学校には学生用の訓練場が併設されている。
2クラス合同の実演授業を行うらしく、訓練場には6年生の2クラスの生徒が集まっていた。
先程と同様に、担任によってミオ達のことが紹介され、ミオは魔法を披露することに。
突然披露なんて言われても何をすればいいのか……少し悩んでミオはアイスブロックでウサギのオブジェを作って見せた。
下手に攻撃魔法を放って地面を削ってしまったら大変だし。
「アイスブロックって、そんなことも出来るんですか!?」
「すげー!」
「どうやって形を作るんです?」
「どうやって……うーん……頭で形を思い描きながら、何て言うんだろう……こう、気合いで?」
気合いでというミオの説明に、ザワザワする訓練場。
教師もこのオブジェの作り方はどう説明していいのかわからないらしく、とても戸惑っていた。
「ミオちゃん、気合いでいつもそれ作ってたの?」
「改めて考えてみると、どう作ってるのか説明できなかったのよ……何となく作れてたし」
「一度、ミオちゃんの頭の中を見てみたいよ!」
「え、怖いからやめて」
今日の2クラス合同授業は対戦試合の授業で、ミオ達は観戦用の椅子に案内されてそこに座った。
生徒達の対戦試合とはいえ、さすがはルシヨット魔導国の生徒達と言った感じで、その魔法能力の高さに驚かされた。
これ、ペリグレット王国の魔導師団が戦っても勝てないのでは?
そう思ってしまうような対戦試合だった。
「凄いなぁ。こうして見てると、ペリグレット王国はよくルシヨット魔導国に勝つことが出来たなって思いますね」
「本当だな」
「あの時のことは、必死すぎてよく覚えてないっす」
「戦いにはね、優れた参謀が必要ってことだよー」
確かに、あの戦いではラウルの作戦がなかったら勝つことは難しかっただろう。
竜達が参戦してくれたことも、勝つことが出来た大きな要因だけれど。
対戦試合が終わったところでちょうど昼食の時間となり、ミオ達は王宮へと戻ることになった。
「え、食堂で食べないの?」
「そんなに食堂で食べたいの?」
「うん」
「そうだなぁ……今日はもう王宮で作っちゃってるから、明日の昼食は食堂で食べる?」
「うん!あ、それかヴィクシスさんが私の代わりに王宮で食べるんでもいいよ?」
「それは俺が緊張するんで勘弁してほしいっす!」
こうして、ヴィクシスとは午後にまた合流することにして、ミオとシャルルはラウルと一緒に王宮へと戻って行った。
「学校のパンフレットとかないの?貰えると凄く嬉しいんだけど」
「ぱんふれっと?」
「リーフレットでもいいよ」
「りーふれっと?」
ラウルが首を傾げながらシャルルを見上げると、シャルルも困ったような顔をしながらミオに声をかけた。
「ミオ、それはどういうものなんだ?」
「えーと……こう、手軽に読めるようにまとめた、学校案内というか説明というか……そういうものです」
「あぁ、学校案内ね。午後に学校に行ったらあげるよ」
「うん、ありがとう」
なるほど、パンフレットとかリーフレットという名称はなかったんだ。
こういう言葉って……ミオが使っていれば、いつかこの世界中に浸透していくものなのだろうか?
昼食を食べて少し休憩を取った後、午後の授業に合わせて4人は再び学校へと向かった。
ここの魔導師学校では、6年生からは戦闘魔導師と支援魔導師とに分かれたクラス編成となり、それぞれで専門性を高めることが出来るらしい。
先ほど見た対戦試合の授業で、2クラスの合同にしては生徒の数が少なく感じたのはそのためである。
ミオ達が見た対戦試合は支援魔法を使わない試合だったけれど、支援魔導師も含めた対戦試合というのも行われる。
実際の戦いでは、支援魔法も使いながら戦うわけだから、連携も学んでおかなければならない。
「ラウルさんは、戦闘魔法も支援魔法も両方使えるよね?」
「戦闘魔導師のクラスも支援魔法は習うからね」
「そうなんだ」
「それと、戦闘魔導師のクラスの中では、普通の攻撃魔法系と召喚魔法や魔物使い系で分かれての授業もあるんだ」
「内容が複雑に充実してて凄いなぁ。ペリグレット王国で学校作っても、そんなに充実させられるかわかんないや」
「学校作る時には、ここの学園長とか派遣してあげるから安心してよ」
「さすがに、学園長を派遣してもらうわけには……」
まぁ、でも学校を作る際にはいろいろと相談させてもらおう。
こうして、午後は支援魔導師のクラスを見学させてもらい、ヴィクシスがとても食い入るように授業を受けていた。
滞在期間はこの学校に通いたいとヴィクシスがラウルに言うと、さすがに学校では知識不足だろうからと、魔導師団の支援魔導師について研修させてもらえることになった。
是非とも素晴らしい支援魔導師になっていただこう。
こうして、学校での授業を見学し終えて職員室へと戻り、ミオがお願いしていた学校案内をもらったのだけれど……いや、これパンフレットじゃなくて、ガッツリ授業要綱的なアレじゃないですか?
とても分厚い冊子を手渡され、中を見てみるとミオには到底理解できないであろう文章が、ぎっしりと書き込まれてあった。
これは、ペリグレット王国に戻ってからカミーユに読んでもらうことにしよう、ミオは心の中でそう呟いて笑顔で冊子を閉じた。
教師たちに礼を言って王宮に戻ると、昨夜話していたシャワーについて改めてラウルに説明してもらったミオだけれど、やっぱりよくわからなくて眉間に深いシワを寄せてしまった。
そんなミオを見ながら、ラウルはとても戸惑っていた。
「ミオちゃんってさー、ホントに不思議だよね?」
「別に不思議ちゃんではないわよ!」
「……不思議ちゃんって何?」
「……私の頭の中お花畑って話じゃないの?」
「頭の中がお花畑ってのも良くわからないけどね」
ラウルが言いたい不思議というのは、ミオがとても凄い魔導師なのに、魔法陣や簡単な魔法の仕組みが理解できないことが不思議だということだ。
シャワーの魔法の原理もそんなに難しいものではないらしい。
それでも、ミオには理解が困難なことだった。
「だったら、俺が一緒に行ってシャワーを設置してあげるよ」
「え、いいの?」
「もちろん!」
そう言ってくれたラウルだったけれど、宰相からの許可が下りず、シャワーの設置が得意な魔導師を派遣してくれることになった。
ラウルはかなり宰相を説得したようだったけれど、どんなに説得しても宰相は折れなかったらしい。
まぁ、国王なんだし仕方のないことだ。
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「ちゃんと学校だったな……当たり前だけど」
夜、今日見学した学校のことを、メモを見ながら別の用紙にまとめたミオ。
ペリグレット王国で魔導師学校を設立するのに、とても参考になったと思う。
でも、あれくらいちゃんとした学校に作り上げられるのかは不安なところだ。
最初から全てが上手くいくわけではないのだから、やってみないことには始まらないのだけれど。
学校よりも、まず教師を育成することから始めないといけないのでは?
そもそも……学校に教師を配置できるのか?
今の魔導師団では、学校を作っても教師に回せる魔導師がいないなと、絶望的な課題にぶち当たってしまった。
教師としての能力的なことではない。
人員的な問題だ。
圧倒的な人員不足に苦笑いしか出来ない。
「まぁ、最初は魔導師の数もそんなに集まらないだろうし……師団長に頑張ってもらおう」
ミオがそんなことを考えていた頃、何かを感じたカミーユが身震いをしていたことは、誰も知らない。
学校見学についてまとめた用紙を、学校案内の冊子に挟んで閉じたミオは、とても充実した気分でベッドへと潜り込んだ。
今夜はとてもいい夢が見れそうな気がする。
明日も楽しみだな……ミオは心地良い疲労感とともに、夢の中へと落ちていった。
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お読みいただきありがとうございました!




