08 母親との思い出と魔法
ありふれた物語ですが、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです♪
ぺリグレット王国
小さな王国だったけれど、4体の竜が守護するこの王国は、豊かな大地に恵まれていて南側には港町があり、人々は平穏で充実した生活を送っていた。
そんな王国のどこかで、何かを企む黒ローブを羽織った人達。
彼らの目的は……
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「私はミオが目覚めるのを待ってから王都に戻る。お前達は先に戻ってくれ。後のことはルヴィエ副団長に任せる」
「ミオ様のことも師団長に報告しておきます。団長は何も心配しないでミオ様についていてあげてください」
「すまないな」
メーヌの森で、騎士達が発見した魔法陣を消して全員森から出てきた後、ミオを荷馬車に寝せたまま王都に戻ることも考えたシャルルだったが、揺れる荷馬車に乗せて帰るのもミオの体に良くないのでは?との意見から、近くの町まで引き返してきて宿屋で休ませることにした。
拘束した黒ローブの人物を連れたままここに滞在するわけにもいかないので、副団長のシリル・ルヴィエに全てを任せることにして、騎士団は王都へと帰還させる。
「私が戻るまでは待機するように」
「了解です」
シャルルは、帰還していく騎士達を見送ると、ミオが眠っている部屋へと戻って行った。
ベッドの上で静かに眠るミオ。
こちらの世界に来た時にも、王都へと戻る馬車の中で意識を失ったけれど、その時とは状態は違っているようだ。
「熱は……ないようだな」
ミオの頬に手を当てて、シャルルが呟く。
そして、傍にあるソファーに座って、シャルルも先ほどまでの戦いの疲れを癒すように、しばしの休息を取ることにした。
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「美桜……まったくお寝坊さんなんだから美桜は。起きなさい、美桜」
「………ん……お母さん?」
ミオがゆっくりと目を開ると、眩しい光の向こうに母親の姿を見つけた。
ぼんやりとしていた視界がはっきりとしてくると、母親の前には幼い少女がいるのが見えた。
「……え……私?」
それは子供の頃のミオ。
母親が起こしていたのは、ミオではなくて幼い美桜の方だったようだ。
幼いと言っても小学1、2年生くらいだったと思う…私、小さかったから小学生になっても幼稚園児と間違われていたな…
これは……夢?
母親と美桜は準備を整えるとどこかに出かけて行くようだった。
後を追いかけようとしたミオだったけれど……あれ?動けないんですけど???
「あ、ちょっと待ってお母さん…と私!」
1人で焦っていると、ミオの視界が切り替わった。
あ、映像かなんか見てる…そんな感じですか?
切り替わった映像?の向こうで、母親と美桜は公園のような場所に来ていた。
周りで子供達が走り回る広い芝生に座って、何か絵を描いているようだった。
美桜が絵を描きながら何回も母親に見せていた。
「お母さん、たくさん魔法を知ってるね!」
「そうよ、だってお母さんは凄い魔導師だったんだから」
「私も魔法がつかえるようになりたいな~」
「使えるようになるわよ、だってお母さんの娘だもの」
「じゃあ、もっとたくさん覚えるから、次の魔法おしえて!」
「次はねぇ…」
思い出した。
私、お母さんに教えてもらった魔法を絵に描いてたんだった。
あの頃は純粋に魔法というものを信じていたし、教えてもらった魔法の絵を描くのが好きだった。
でも成長とともに、魔法なんて物語の中のものというふうに考えるようになって、描いた絵を見ることもなくなっていった。
こうして記憶がよみがえっても、どんな絵を描いていたのかなんて思い出せない。
あの絵……どこにしまったんだっけ?
ミオの視界がまた切り替わった。
小さな美桜は鏡の前でいろんなポーズを取っていた。
母親は料理をしているらしく、時々顔を出しては何かを教えているようだった。
「サンダーボルト!」
「フロージングランス!」
「スノー……なんだっけ?」
「スノーフロストよ」
「あ、そうそう!スノーフロスト!」
美桜がしていたのは、魔法を詠唱するポーズだった。
まぁ……ポーズと言ってもどれも同じようなものだけれど。
最初はミオが覚えている魔法だけだったけれど、そのうちに知らない魔法が美桜の口から発せられるようになった。
そして、それまで鮮明に聞こえていた声がなぜか聞き取りにくくなり、ミオは必死に美桜の言葉を聞き取ろうと意識を集中させた。
何て言ってるの?
もう少し大きな声ではっきりと言ってよ……お願い、少し映像を戻してちょうだい!
美桜が口にしている言葉を理解しようと、必死に鏡に映った美桜の口元を見るミオ。
口の動きだけじゃ何を言っているのかが全く分からない。
それでも諦めずに口の動きを読み取ろうとしていると、少しづつ美桜の声が聞こえるようになってきた。
そして……
「………聞こえた」
美桜が口にした魔法を聞き取れた瞬間、ミオの脳裏には魔法陣が浮かび上がった。
その後も同じように、美桜の言葉を理解するたびにミオの頭の中には魔法陣が浮かび上がり……たぶん母親が教えてくれた魔法は全部ミオの頭に入ったんじゃないだろうか?
てゆーか、美桜の言葉を理解するのに使った集中力で、疲労感凄いんですけど!?
夢なのに!?
両膝と両手をついて項垂れるミオ。
顔を上げると何故か美桜と目が合った……ような気がした。
ミオが視線を逸らせずにいると、美桜がゆっくりと近づいて来て少し焦る。
え、見えてるんですか?
美桜はミオの前で立ち止まって、ふわりと笑みを浮かべた。
そして、そのまま前に進み、動けないでいるミオと重なった。
次の瞬間、美桜は細かい光の粒子となって弾け、ミオは光の粒子に包み込まれて宙に浮いた。
―――美桜、思い出した?
お母さん?
―――ごめんなさいね、私はもうこの王国を守れないから。あなたに全部任せてしまうけど…大丈夫よね?だってあなたは……私の娘だもの
うん、私に出来ることを頑張ってみるよ
―――それじゃあ、私はもう行くわね。王国のことを…よろしくね
待ってよお母さん!私、お母さんに聞きたいことがもっとたくさん…
―――あなたなら大丈夫。私はいつでも見守っているから
お母さん!
ミオを包み込んでいた光がだんだんと小さくなっていき、必死につかもうとしたミオの手のひらの中でスーッと消えた。
すると向こう側に小さな光が見えて、ミオの体は吸い寄せられるようにその光へと近づいて行った…
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「……………っ!!」
ベッドに横たわっていたミオの目がぱっと開いた。
「………え、どこ?」
見覚えのない天井が見え、ミオは体を起き上がらせて部屋の中を見回した。
すると、ベッドの傍のソファーで眠っているシャルルの姿が見えた。
一瞬戸惑ったミオだったけれど、シャルルを起こさないようにベッドから降りると、窓際へと歩み寄って静かに窓を開けた。
もうすぐ夜が明けるのか空が白んできていて、スッキリとした清々しい空気がぼんやりとしたミオの頭をクリアにしていく。
夜明け前の幻想的な薄紫色の空は、昔からミオが好きな空だった。
えーと……確か私は黒ローブを倒した後にたくさんの魔物と戦って……あれ、記憶がない?
もしかしてまた皆さんに迷惑をかけているのでは…
やってしまった…と項垂れたミオの後ろから声が聞こえてきた。
「ミオ?」
「……っ!?…パトリエール団長……すみません、起こしてしまいました?」
ミオが振り返ると、目を見開きながらこちらを見ているシャルルがいた。
シャルルはソファーから降りると、ミオの前に歩み寄って来て……徐にミオを抱きしめた。
えーっ!?
ちょっと私の心臓が飛び出してしまうんですけど!?
心臓がありえない速さで動き始め、聞こえてしまうんじゃないかと思うような音を立てていて、ミオの頭がクラクラとしてきた。
そんなミオの耳元で、シャルルの呟くような声が聞こえた。
「目が覚めて良かった」
「え、えーと……その……すみませんでした」
「謝るのは私の方だ。初めての同行だったにもかかわらず無理をさせてしまった。本当にすまなかった」
「い、いやいや、そんな無理なんかしてませんし、その…私のやるべきことをやったと言うか…」
「体は……大丈夫なのか?」
シャルルがミオを抱きしめていた腕を緩めて、心配そうな顔を近づけてきた。
「は、はい!大丈夫ですよ!この通りピンピン…」
どこも痛んだりおかしかったりするところはない。
でも、この状況で私の心臓がどこかに飛んで行きそうですよ!
異世界のイケメンは、どうしてこんなに距離が近いんだ!?
「そうか。それなら良かった」
「えーと……また、ご迷惑をおかけしたみたいで…」
「迷惑はかけられた覚えはないが……とても心配はしたよ。2日間も寝込んでいたからな」
「2日間も……え、2日間ですか!?それはもう、本当に……ごめんなさい」
2日間も騎士団に迷惑をかけたのかと思っていたら、他の騎士達は王都へと戻ったらしい。
そして、残ったシャルルがつきっきりで看病してくれていたようだ。
……ずっと寝顔を見られていたと思うと、何だかとても恥ずかしい…
「今日1日休んだら、明日には戻れそうか?」
「いえいえ、今日戻っても大丈夫ですよ。私、寝過ぎたせいで体力余ってるくらいなので」
「いや、でもさすがに…」
「これ以上休めと言われても……もう寝れませんよ?」
「そうか……それなら、朝食を食べたら出発することにしよう。だが、無理はさせられないから私の馬に乗るんだよ?」
「箒で飛べますけど?」
「私が心配だから許可はできない」
ミオ的には体は全然大丈夫だったけれど、シャルルの許可が下りないため、シャルルの馬に乗せてもらって王都へと戻ることになった。
シャルルは少し、心配性なところがある……ミオはそう思った。
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「カミーユ、まだミオは帰って来ないの?」
「そうだな」
「カミーユは心配じゃないの?」
「そりゃあ心配だが……シャルルがついてるんだ、きっと大丈夫だ」
「てゆーか、何でミオを1人で行かせたのさ」
「そりゃあ、調査だったからな。怪我して寝込んでるわけでもないみたいだし、そのうち戻って来るって。それより仕事しろよ仕事」
「カミーユのバーカ!」
「何だとコラ!」
こちらはいつも通りの王国魔導師団の執務室。
ミオのことは心配だけれど、仕事はいつものようにやって来るから手は動かさないと大変なことになる。
アルバンのカミーユに対する態度は……いつものことだからツッコむ必要はないだろう。
その頃ミオとシャルルは、メーヌの森の調査に向かう時に休憩をした小川で、馬を休めるために休憩を取っていた。
宿の女将さんがレモネードを持たせてくれたので、のんびりとレモネードを飲みながら小川に足を入れる。
ミオの隣でシャルルも小川に足を入れていた。
やっぱり……他の騎士達の前では、こうして気を緩めたり出来ないんだろうなと思う。
「それにしても……本当に美味しいレモネードですね!」
「随分と気に入ったようだな」
「はい!」
元の世界でもレモネードは飲んだことがある。
でも、このレモネードは比べ物にならないくらい美味しいレモネードなのだ!
作り方は元の世界のレモネードと同じだったのだけれど…何が違うんだろう?
ちょっと遠いけれど、また頂きに行きたいくらいだ。
「王都まではあと少しだ。そろそろ出発しようか」
「はい。それでですね…」
「ん?どうかしたのか?」
「あの……少し箒にも乗りたいなぁ…とか思ったりして…」
「そうか。では、そうしよう。だが、疲れたら我慢しないで言って欲しい」
「わかりました」
馬でシャルルの後ろに乗っての移動も楽しかったのだけれど……馬って揺れるんですよ!
さすがに酔いそうで限界だったミオなのでした。
こうして、ここからは箒に乗ってシャルルの隣を飛行しながら王都へと向かった。
隣だと、後ろで会話するのとは違って顔が見えるから、会話をしやすいと感じた。
やっぱり、誰かと話す時に顔を見て話すって、大事なことなんだなと思う。
ミオとシャルルが王宮に到着したのは、もうすぐ日が沈もうとしていた夕方だった。
シャルルはミオを魔導師団の宿舎まで送ると、報告のために王宮へと戻って行った。
その前にカミーユやアルバンからの激しい追及があったので、本当に申し訳なく思うミオだった。
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「ふぅ~……やっぱり自分の部屋は落ち着くなぁ」
久しぶりの自分のベッドに寝転がりながら天井を見上げるミオ。
夕食までは少し時間があるため、今回の調査のことを報告しようとしたけれど、部屋に戻って休めとカミーユに追い出されてしまい、こうして部屋でゴロゴロしている。
あの黒ローブの人……どうなったんだろう?
ふと、騎士団が拘束して連れ帰った黒ローブのことを思い出した。
素直に彼らの計画を話してくれるだろうか……まぁ、それは騎士団がすることだ。
今度シャルルに聞いてみよう、ミオは黒ローブのことを考えるのをやめた。
その黒ローブは…
ロープで拘束して荷馬車に乗せて王都へと連れ帰ったのだけれど、王宮について降ろそうとした時には死んでいた。
自害なのか、それとも殺害されたのか……死因はよくわからないらしい。
毒を飲んだ形跡もなく、暴れた様子もなかったので、今のところこれ以上原因を探ることは出来ない。
ミオがこのことを知るのは、もう少し先のこと。
ミオはベッドから起き上がると、机の引き出しから手帳を出してページをめくった。
今回意識を失っていた間に、ミオは母親に教えてもらった魔法を思い出した。
そのことを書き留めておこうと思ったのだ。
「えーと…今私が使える魔法は…」
現在ミオが使える魔法
・サンダーボルト…真上から雷を落とす 単体・複数攻撃
・フロージングランス…凍りつく槍の攻撃 単体・複数攻撃
・スノーフロスト…霧状の雪(周囲の生物を凍らせる)
・フローズンフロスト…凍りつく霧(周囲の物質を凍らせる)
・ヒール…回復
・ディスぺレーション…操術魔法や状態異常の解除
・ホーリーシールド…光の盾
・セレスティアルスター…流星群のような光属性の範囲攻撃、魔力消費量が凄いと思われる
・魔物探知
・水の操作
夢の中で新たに思い出した魔法
・サンダーアロー
・サンダーストーム
・ホワイトアウト
・アイスブロック
・ホーリーヒール
・ホーリーシールドリフレクション
・ティアドロップ
新しい魔法は、使ってみないとどんな魔法なのかがわからないから、今度試してみる必要がありそうだ。
知らないで使うと…大変なことになると思う。
この他に、ミオは水属性や火属性、風属性、土属性、闇属性の魔法が使えるわけだが…
「私……こんなに使いこなせる自信がない…」
正直なところ、今使える魔法だけでもいっぱいいっぱいなのですが?
異世界転生した人は、何であんなに器用にいろんな魔法を使いこなせるんだ?
まぁ、小説や漫画の世界だけれども。
焦らず、少しずつ使えるようになっていこう……ミオはそう思った。
そろそろ夕食の時間になっただろうか?
相変わらず時間の把握が難しいけれど、お腹の虫を信じて食堂へと向かうことにし、ミオは手帳を引き出しにしまって部屋を出た。
少しずつ、この異世界にも馴染んできたなぁ……そう思うミオだった。
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