65 シャトロワ国王と王子様
のんびり更新中♪
「師団長、ラウルさんが遊びにおいでって言うから、ルシヨット魔導国に行ってきてもいいですか?」
「はぁ?」
魔導師団の執務室で、書類を書いていたカミーユが手を止めてミオに目を向けた。
何を言ってるんだコイツ的な顔で見ているカミーユに、ミオはもう一度同じ台詞を言った。
「お前なぁ、ルシヨット魔導国って船で最低1ヵ月はかかるんだぞ?」
「知ってますよ、それくらい」
「俺が簡単に許可を出せるはずがないだろうが。国王に聞け」
「え、何でですか?」
「お前はこの王国の王女だろうが!」
あ、そうでした。
「それに、お前が行くとなると騎士団も同行することになる」
「私、1人で行って来ますよ?」
「あのな、王国の王女を1人で行かせられるか。どうやって行くつもりだったんだ?」
「一人旅的な感じで行こうかと」
「馬鹿だろ、お前」
「し、失礼な!」
昨夜、ミオがベッドでゴロゴロしていると、いろいろ落ち着いてきたから、そろそろ遊びにおいでとラウルから連絡が来たのだ。
ミオは普通に、他の旅人と同じように客船に乗ってルシヨット魔導国まで行こうと考えていたのだけれど……どうやらそれは無理そうだった。
とりあえず、カミーユが言うように国王に聞いてみることにする。
「それよりもだ、明後日あたりにシャトロワ国王が来るんだろう?騎士団との見回りからは外しておくから、しっかりと対応しろ」
「……忘れてました……てゆーか、見回りにしてくださいよぉ」
「出来るか!」
国王は、いつも通り騎士団と見回りに行ってきてもいいと話していたのに、何故わざわざ外してくれるんだ?
有難迷惑って言うのよ、そういうの!
ミオはトボトボと、見回りの準備をしている騎士団の所へと向かった。
―――――――
―――――
―――
「あのねラウルさん、私1人でルシヨット魔導国に行こうと思ってたんだけどね、ダメっぽい」
「え、当たり前じゃん!ミオちゃんはペリグレット王国の王女様なんだからね!?」
朝食の時に、ミオが国王にルシヨット魔導国に行ってきてもいいか尋ねたところ、やっぱり1人では駄目だと言われた。
そして、ルシヨット魔導国とはまだ友好条約を結んでいないため、行くなら王女として行って友好条約を結んでくるよう言われてしまった。
そのことを、クリスタルを通じてラウルに伝える。
「でもさ、私が王女だなんて誰も知らないんだし、別に1人でいいと思うんだよね」
「王女様が一人旅なんて聞いたこともないよー」
「えー、でもラウルさんは王子様なのに一人旅してたじゃん」
「俺は男だからいいの!」
「むぅー……」
「そんな可愛い顔でむくれてもダメなものはダメなのー。王女様として来てくれるのは大歓迎だけどね!喜んで友好条約結んじゃうよ」
「うーん……私1人ならすぐにでも出発出来るんだけど、なんかいろいろと準備があるみたいで……すぐには出発出来ないっぽい」
「そりゃあ、そうだろうね」
「騎士団も一緒に行くらしいんだけどさ、そんなことしたら他のお客さんとかにバレちゃう気がするんだけど」
「何言ってんの?ペリグレット王国の船で来るんだよね?」
「え?」
「……ミオちゃん、何の船で来るんだと思ってたの?」
「皆が使ってる客船」
「そんなわけないでしょ!」
「え、だって船なんてないよ?」
「あるよ!」
知らなかった、王国の船ってあったんだ。
でも、そんな船で行ったら「ペリグレット王国の王族ですよ」って公表してるみたいで、逆に目立つんじゃないかと思う。
やっぱり、1人でのんびりと客船で行った方が目立たないと思うミオだった。
―――――――
―――――
―――
本日は、シャトロワ国王が来訪予定の日。
ミオは魔導師団の執務室で、落ち着かずにそわそわしながらその時を待っていた。
「お茶入れ替えてやるから、少し落ち着いて座ってろ」
「だって師団長……」
「あんまり飲みすぎるなよ」
「ううぅ……あ、お腹痛いんで部屋で寝ててもいいですか?」
「駄目だ」
「私を氷漬けにしてください」
「出来るか!」
カミーユが紅茶を入れ替えてくれて、大好きなマカロンも出してくれたけれど……マカロンの味は全くと言っていい程にわからなかった。
執務室にいても落ち着かないので、ミオは訓練場で魔法の練習をしながら待つことにしたけれど……結局ここでも集中はすることが出来なかった。
それでも、執務室にいるよりはマシだと思ってみたり……
ミオは、箒で上空を旋回しながら的のアイスブロックに向かって攻撃魔法を放つ。
しばらくこうして攻撃の練習をしながら、ふとアイスブロックでは的が大きいなと思った。
「よし、これでやってみよう」
アイスブロックを全部消して、代わりに小さな雪だるま型のアイスブロックをまばらに設置してみた。
ウサギにしようかとも思ったのだけれど、それだと可哀想で攻撃できないので雪だるまにした。
こうして、再び上空を旋回しながら攻撃魔法を放ってみると、動きながら小さな的に当てるというのは難しく、シャトロワ国王のことを考えることなく集中して訓練することが出来た。
これはいい練習方法を発見したな。
ミオは、いろんな方向に動きながら攻撃魔法を放ち続けた。
「ミオ!」
「え?」
ミオが攻撃魔法に集中していると、下からカミーユの声が聞こえてきて、ドキッとして思わずめちゃくちゃ威力を上げてサンダーボルトを放ってしまい……地面に大きな穴が開いてしまった。
「……あ」
「お前なぁ……どうすんだよ、この穴」
「あはは……アル君に直してもらいましょうか」
「ったく、アルが帰って来たら直させる。それより、昼飯食べに行くぞ」
「え、もうそんな時間です?」
「さっき鐘が鳴ってただろうが」
「全く聞こえませんでしたよ?」
「どんだけ集中してたんだ?」
シャトロワ国王はまだ到着していないようで、ミオはカミーユと一緒に食堂に向かった。
このまま、私なんて忘れられてたらいいのに……
そんなミオの願いが神様に届くはずもなく。
昼食を食べている最中に、シャトロワ国王が到着したと騎士が報告に来てしまった。
「ゆっくり食べてから行ってもいいですか?」
「今すぐ食べ終えて行って来い!」
カミーユが鬼に見えた瞬間だった。
ミオが急いで昼食を食べ終えて王宮に向かうと、待っていた騎士が応接室へと案内してくれた。
ローブのままでいいと言われたものの……本当に良かったのだろうか?
少し不安になりながら、騎士と一緒に応接室へと向かう。
「やっぱり、緊張するんで帰ってもいいです?」
「何言ってるんですか、駄目ですよ!」
「ですよね……」
心の準備が整わないまま、ミオと騎士は応接室の前に到着してしまった。
騎士が中に声をかけて扉を開く。
ミオは、深呼吸をして応接室へと足を踏み入れた。
「おぉ、ミオ!待っておったぞ!」
「し、失礼いたします……」
「そんなに緊張しなくてもいいぞ?ほら、おいで」
「……はい」
ミオはゆっくりと国王の傍まで歩み寄って行き、ソファーに座る人物に向かって立ち止まった。
あれ、2人いる?
「この子が私の娘だ。ミオ、ご挨拶を」
「は、初めまして。ペリグレット王国王女、ミオ・サク……ペリグレットです」
ミオは、ローブをつまみ上げて深々とお辞儀をした。
そして、顔を上げてようやくソファーに座っていた人物の顔を見ることが出来た。
……めちゃくちゃ厳ついおじさんが座ってるんですけど!?
隣には……お付きの人?厳つくはないけれど、やや目つきの悪い……じゃなくて、目つきの鋭い人物が座っていた。
「これは何とも可愛らしいお嬢さんだな。カエデ様にそっくりだ。私はシャトロワ王国国王、コデルロス・シャトロワだ。それと、こっちは私の息子だ」
「シャトロワ王国第一王子、エリアス・シャトロワだ」
何と、シャトロワ国王の息子だった。
ミオが父親に促されてソファーに座ると、タイミングを見計らったように入って来た侍女が、テーブルに紅茶と菓子を並べて出て行った。
今、紅茶のカップを手にしたら……緊張と震えで中身が全部こぼれてしまいそうだ。
「どうして、こんなに大きくなるまで公表していないんだ?」
「いやぁ、それがな……ミオは1年前くらいにこちらの世界に来たのでな」
「何と!カエデ様は元の世界に戻っていたのか?」
「そのようなのだよ。おぉ、そうだ!カエデとミオの世界の写真を見せてやろうではないか!」
「しゃしん?何だそれは?」
「少し待っておれ」
父親は、アルバムを取りに行ってしまった。
え、ちょっと待って、私を1人にしないで欲しいんですが!?
「私とエドワールは、古くからの友人でな」
「はい。父にそう聞いています」
「カエデ様に、エドワールが猛烈に求婚していた頃から知っているのだよ」
「そうなんですか?」
ということは、本当に古い付き合いなんだなと思った。
ふと、視線を感じて目を向けると、エリアスがミオのことをガン見していた。
え、凄く怖いんですけど?私、何かやらかしてます?
ミオは、出来るだけ引きつらないように笑顔を作り、視線をそらした。
アルバムなんてどうでもいいから、今すぐ戻って来てよお父さん!
そんなミオの想いが届いたのか、父親がアルバムを抱えて戻って来て、ミオは安堵のため息をつく。
「先日、ミオが元の世界に戻った時に、これを持って来てくれたのだ」
「何と、ミオ王女も元の世界に戻っていたのか?それで、これは?」
「ミオがまだ小さかった頃の写真だ。あぁ、写真というのは……絵のようなものだな」
「絵とは違いますけどね。ちょっと説明は難しいですけど……」
「これは驚いたな。絵というよりは実物だ」
シャトロワ国王とエリアスは、とても驚きながら写真を見ていた。
こちらの世界にはない技術なのだから、驚くのも無理はない。
それにしても……自分の子供の頃の写真を初対面の人に見られるというのは、何だかとても恥ずかしいことだと思った。
ミオのいないところで見せてくれたら良かったのに……なんて思ってしまう。
「それにしても、カエデ様やミオ王女がいた世界というのは、こちらの世界とは随分と違う世界なのだな」
「私も行ってみたいとは思うのだがなぁ、それは叶わんらしい」
「きっと、私がいた世界に行ったら、凄いカルチャーショックを受けると思いますよ」
「かるちゃー……何だって?」
「えーと……全く違った文化に、めちゃくちゃ驚く的な感じですかね?私もこっちに来てそんな感じでしたけど」
ミオがケラケラ笑いながら話していると、またエリアスにガン見されていて焦る。
何なんだ?いったい……
「そう言えば、エリアス王子はペリグレット王国に来るのは初めてだったかね?」
「はい」
「そうか。ならば、ミオ」
「何ですか?」
「少しご案内してあげたらどうだ?」
え?ご案内?私が?
どうご案内しろと?
マジですか?
ミオが顔を引きつらせながら父親に笑顔を向けていると、父親はにっこりと笑いながらミオの背中を叩いた。
何かやらかしても知りませんよ、本当に!
こうして、エリアスを案内することになったミオなのであった。
.
お読みいただきありがとうございました!




