61 思い出作り
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「今日は、どこに行きましょうか?……海の生き物とか、好きです?」
「海の生き物?魚や……魔物ということか?」
「魔物はいないですよ」
ミオがケラケラと笑いながら、朝食に作ったスクランブルエッグやウインナーをテーブルに並べると、シャルルもそうだったなと笑った。
「ミオの手料理か」
「ただ焼いただけなので、手料理と言われるとちょっと……私、料理は苦手なので」
「ふふ、ミオが包丁を手にすると、隊士達が青ざめるからな」
「あはは……」
案内すると言ってみたものの、いざ案内しようとすると何処に行けばいいのか悩んでしまう。
友達と何していたか考えてみても、買い物や食事、映画、カラオケ、ゲーセン……特別何かしていたわけでもないし、案内できるようなものでもない。
結局のところ、昨日行ったテーマパークとか、水族館などの定番のお出かけスポットになってしまうな。
「水族館に行ってみましょうか」
「すいぞくかん?」
「海の生き物がたくさんいる所です。あとは……空を飛ぶ乗り物なんかも、見に行ったら楽しいですかね?」
「空を飛ぶ乗り物?そんなものもあるのか?」
「ありますよ」
よし、今日は水族館と空港にでも行ってみることにしよう。
朝食を食べて準備をして、2人はマンションを出た。
「海の生き物など、食用か魔物しか知らないからな」
「あー、向こうでは海水浴とかもしなかったですもんね。魔物じゃないですけど、いろんな生き物がいるんですよ」
「それは楽しみだな」
水族館に着くと、それなりに人がいたけれど、昨日の夢の国に比べれば全然空いていた。
今日はのんびりと回れそうだ。
シャルルは、建物の中なのに魚が泳いでいるということにとても驚いていて、薄暗い建物内なのでここが海の中なのではないかとミオに言った。
その後も、初めて見る海の生き物に、食い入るように水槽を見ているシャルルだった。
「これは……魚なのか?」
「鳥ですよ。ペンギンという、飛べない鳥です」
「鳥が……泳ぐのか?」
「はい。なんか、可愛いですよね。あ、あの黄色い毛がついてるペンギンは、カッコいいので大好きです!」
「……カッコいい?」
目を輝かせながら見ているミオに、シャルルは戸惑った。
カッコいい……のか?
確かに、凛々しい見た目ではあると思うけれど……カッコいいのか?
こうして、しばらくペンギンを眺めていると、イルカショーの開催を知らせるアナウンスが流れた。
「あ、イルカショーが始まるみたいです。見に行きましょうよ」
「イルカショー?」
「面白いですよ!」
ミオはシャルルの手を引いて、イルカショーが行われるプールへと向かった。
そんなに混雑していなかった館内だったけれど、やっぱりイルカショーは人気があるようで、多くの人が集まっていた。
前の方の席はずぶ濡れになってしまうため、ギリギリ濡れないくらいの前方の席を探して並んで座る。
「これ、前の方座るとビショビショになっちゃうんですよ」
「ビショビショに?それにしては、前方に座っている人も多いようだが」
「覚悟を決めている人達です」
程なくして、ステージ上にお姉さんが現れて、イルカショーが始まった。
可愛らしいイルカ達が、プールの中を泳ぎまわったりジャンプしたりと、迫力のある演技を見せてくれて、最初は驚いていたシャルルも大いに楽しんでくれたようだった。
そして、実は気がついていないだけで、ステージのお姉さんは魔物使いの魔導師なのではないかと、本気顔で聞いてきたシャルルには思わず笑ってしまった。
この日のイルカショーは、何と結婚式も兼ねていたようで、ステージ上に登場した新郎新婦に観客から大歓声が上がった。
こんな結婚式もあるんだなと驚く。
「ミオの世界の結婚式は、あんな感じなのか?」
「私も驚きましたよ。たぶん、いろんな形の結婚式があるんだと思います」
「ミオは、どのような結婚式がしたいんだ?」
「私ですか?うーん……考えたこともないので、普通の結婚式しか想像できませんよ」
「ミオのドレス姿は、とても美しいのだろうな」
「なっ!?……わ、私なんて絶対に似合わないと思いますよ!」
「ふふ、真っ赤だよ」
何でこのイケメンは、こんな歯の浮くような台詞をサラッと言えてしまうんだ?
心臓が飛び出して来たらどうしてくれるんですか!
こうして、水族館を一通り見て回って出てくると、ちょうどお昼時になっていたので、近くの店で昼食を食べてから空港に向かった。
「ちょっと音がうるさいですけど、驚かないで下さいね」
「音?」
空港について屋上に向かう。
屋上には、見送りの人や飛行機の見物に来た人など、多くの人が訪れていた。
フェンスの前の開いているベンチを探して並んで座ると、ちょうど滑走路で飛行機がスタンバイしているところだった。
「あ、もうすぐ飛行機が飛び立ちそうですよ」
「飛び立つ?」
「動き始めました」
スタンバイしていた飛行機のエンジン音が高くなり、飛行機が走り出した。
一気に加速していき、機体が空へと飛び上がって行くこの光景は、何度見てもドキドキと言うか、ワクワクと言うか、何だか興奮してしまうから不思議だ。
「凄いな。あれも魔法ではないのか?」
「魔法じゃないですよ。素晴らしい技術です」
「あれは……何のために飛ぶんだ?」
「たくさんの人や荷物を、遠くまで運ぶためですよ」
「人間が乗っているのか?」
「はい。たぶん、騎士団や魔導師団は全員乗れますよ」
「そんなに大勢を乗せて飛ぶのか?よく落ちないで飛べるものだ」
「あー、たまに落ちますね。本当にたまーにですけど。めったに落ちませんよ?」
「……大丈夫なのか?」
「落ちたら大惨事です」
「……だろうな」
ごくまれに起こる飛行機の事故は、必ずと言っていい程に大惨事になる。
あんなに高い場所から転落するんだから当たり前だ。
もしも、魔法が使える世界だったら、そんな事故はなくなるのだろうか?
飛び立って行く飛行機や、着陸する飛行機を何機も見て、ミオとシャルルは空港を後にした。
その後、夜景でも見に行こうかと場所を移動し、のんびりと海を眺めたりゲーセンで遊んだりして、夜の訪れを待った。
ゲーセンでダーツをしてみると、初めての割にとても上手なシャルルに驚かされたミオ。
かなりのイケメンということもあり、気がつけば人だかりが出来ていたけれど、焦っていたのはミオだけで、当の本人は全く気にしてはいないようだった。
こうして、ゲーセンでダーツ以外にもいろんなゲームを楽しんで出てくると、いい感じに日が暮れていたので観覧車の列に並んだ。
「ミオの世界には、面白いものがたくさんあるのだな」
「まぁ……そうですね」
「向こうの世界は、退屈に感じるのではないか?」
「休みの日は、何しようか悩んでしまうこともありますけど……それはこっちでも同じですよ」
「そうなのか?」
「はい。面白いことはたくさんあっても、飽きちゃうし……休みの日なんかは家でゴロゴロしてましたもん」
こんなに充実した世界でも、それが日常となると飽きてしまうのが人間だ。
だから、人は刺激を求めて旅をするのだと思う。
きっと、どの世界に行っても同じことなんじゃないだろうか。
「私は、向こうの世界での生活も好きですよ。シャルルさんや皆と過ごす毎日は、とても楽しいです」
「ミオ……」
「電気とかネットが使えたらもっと便利ですけどね」
ケラケラと笑いながら、ミオはシャルルを見上げた。
観覧車の列が進んで行き、乗り場の近くまで行くと写真撮影を勧められた。
こういう場所ではお決まりの、ちょっとお高い写真購入を勧められるアレだ。
いつもなら写真なんて撮らないのだけれど、今日は記念に撮影してもらうことにする。
こうして、ミオとシャルルは観覧車へと乗り込んだ。
「これ、だんだん高くなっていくのがワクワクするんですよね」
「面白い乗り物だな」
「乗るたびに、てっぺんで止まれって祈るんですけど、止まったことはないです」
「てっぺんでは何が見えるんだ?」
「宝石箱みたいな景色が見えますよ」
「そうか、それは楽しみだ」
ゆっくりと回転する観覧車は、退屈と言えば退屈な乗り物だと思う。
でも、頂上に近づいて来ると、何とも言えないワクワク感に包まれるのはミオだけだろうか?
昼間と違って、夜は散りばめられた光でとても幻想的な景色が広がるのも、観覧車の魅力の1つだろう。
カップルで乗ると、頂上でキスをすると永遠に結ばれるなんて噂も流れたり……決して狙って乗ったわけではない、断じて違うと言っておく。
「もうすぐ、てっぺんですよ。こっち側が海で、向こう側が街の方です」
「……本当に、宝石箱のようだな。とても、綺麗だ」
目を見開きながら外を眺めるシャルル。
ミオは、この景色をシャルルと共有できたことが、何だかとても嬉しく思えた。
「シャルルさん」
「どうした?ミオ」
「たぶん、明日には向こうの世界に戻ります」
「そう……なのか?」
「はい。明日のいつ頃戻るのかはわかりませんけど……帰ったら荷造りしますね」
「荷造り?」
「私が初めて向こうの世界に行った時、持っていた荷物ごと転移してました。ということは、いろいろ持って行けるんじゃないかと思って。まぁ、ダメだったら残念ということで、ダメもとで荷造りしとこうと思います」
「どうして、明日戻ると言い切れるんだ?」
「それは……夢の中なのか現実なのかわかりませんけど、母がそう言ったからです。こうして戻って来たのは、こっちに戻るか、向こうの世界で生きるかを選択するためらしいですよ」
「選択か……」
シャルルがとても辛そうな顔でミオを見た。
ミオは、そんなシャルルに笑顔を向ける。
「私は、向こうの世界で王国と竜を守ります」
「……本当に、ミオはそれでいいのか?」
「はい」
「また、こちらの世界に戻って来ることは?」
「それは出来なくなるみたいです」
戸惑うシャルル。
「でも、私は決めたんです。シャルルさんや、皆と一緒に過ごしていきたいですし」
「ミオ……」
「まぁ、不便なことはたくさんありますけどね」
「こちらの世界で暮らしていたら、そうだろうな」
「そんなわけで、明日は家でのんびり過ごすことにしましょうね!いつ戻されるかわかんないし」
「……あぁ、わかった」
観覧車が地上まで降りてくると、ミオはさっき撮影した写真を2枚購入した。
てゆーか、本当にお高い写真だと思うのはミオだけだろうか?
夕食を食べてから帰宅し、シャルルがシャワーを浴び始めると、ミオは向こうの世界に持って行く荷物をリビングへと運び始めた。
荷物と言っても、全部を持って行けるわけではないし、電化製品などは持って行っても使えない。
持って行けそうな、母親との思い出が詰まった写真や、小物、それに衣類や靴などを運んでみた。
「こんなもんかな」
部屋から、キャリーバッグを2つ出してきたところで、シャワーを浴び終えたシャルルが浴室から出て来た。
「随分と出してきたものだな……これは?」
「それは、母との写真とかですね」
「見てもかまわないか?」
「いいですよ」
シャルルがアルバムを手に取って開いた。
懐かしい、母親との写真がたくさん収納されている。
衣類などをキャリーバッグに入れていたミオも、手を止めてシャルルの隣で覗き込んだ。
写真とは不思議なもので、こうして見始めるとついつい作業が中断されてしまう。
漫画本なども同じだ……片付けあるあるだ。
あ、そうか。
漫画本と小説も入れておこう。
ミオは思い立って、部屋からお気に入りの漫画本と小説を持って来た。
全部は持って行けなさそうなのが残念だけれど、仕方がない。
こうして再び荷物を詰め始めたのだけれど、結局シャルルと一緒にアルバムを見てしまい、作業は再び中断されてしまった。
アルバムの中には、ミオの子供の頃の写真などもあり、恥ずかしかったけれど何だか懐かしい気持ちだった。
そんなこんなで、荷造りは夜中までかかって終了した。
ミオがこの世界に別れを告げるまで、あと1日。
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お読みいただきありがとうございました!




