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憧れの異世界はやっぱりとても大変な世界  作者: 花聖
第三章 数日間の帰郷
68/132

61 思い出作り

のんびり更新中♪

「今日は、どこに行きましょうか?……海の生き物とか、好きです?」

「海の生き物?魚や……魔物ということか?」

「魔物はいないですよ」


 ミオがケラケラと笑いながら、朝食に作ったスクランブルエッグやウインナーをテーブルに並べると、シャルルもそうだったなと笑った。


「ミオの手料理か」

「ただ焼いただけなので、手料理と言われるとちょっと……私、料理は苦手なので」

「ふふ、ミオが包丁を手にすると、隊士達が青ざめるからな」

「あはは……」


 案内すると言ってみたものの、いざ案内しようとすると何処に行けばいいのか悩んでしまう。

 友達と何していたか考えてみても、買い物や食事、映画、カラオケ、ゲーセン……特別何かしていたわけでもないし、案内できるようなものでもない。

 結局のところ、昨日行ったテーマパークとか、水族館などの定番のお出かけスポットになってしまうな。


「水族館に行ってみましょうか」

「すいぞくかん?」

「海の生き物がたくさんいる所です。あとは……空を飛ぶ乗り物なんかも、見に行ったら楽しいですかね?」

「空を飛ぶ乗り物?そんなものもあるのか?」

「ありますよ」


 よし、今日は水族館と空港にでも行ってみることにしよう。

 朝食を食べて準備をして、2人はマンションを出た。


「海の生き物など、食用か魔物しか知らないからな」

「あー、向こうでは海水浴とかもしなかったですもんね。魔物じゃないですけど、いろんな生き物がいるんですよ」

「それは楽しみだな」


 水族館に着くと、それなりに人がいたけれど、昨日の夢の国に比べれば全然空いていた。

 今日はのんびりと回れそうだ。


 シャルルは、建物の中なのに魚が泳いでいるということにとても驚いていて、薄暗い建物内なのでここが海の中なのではないかとミオに言った。

 その後も、初めて見る海の生き物に、食い入るように水槽を見ているシャルルだった。


「これは……魚なのか?」

「鳥ですよ。ペンギンという、飛べない鳥です」

「鳥が……泳ぐのか?」

「はい。なんか、可愛いですよね。あ、あの黄色い毛がついてるペンギンは、カッコいいので大好きです!」

「……カッコいい?」


 目を輝かせながら見ているミオに、シャルルは戸惑った。

 カッコいい……のか?

 確かに、凛々しい見た目ではあると思うけれど……カッコいいのか?


 こうして、しばらくペンギンを眺めていると、イルカショーの開催を知らせるアナウンスが流れた。


「あ、イルカショーが始まるみたいです。見に行きましょうよ」

「イルカショー?」

「面白いですよ!」


 ミオはシャルルの手を引いて、イルカショーが行われるプールへと向かった。

 そんなに混雑していなかった館内だったけれど、やっぱりイルカショーは人気があるようで、多くの人が集まっていた。

 前の方の席はずぶ濡れになってしまうため、ギリギリ濡れないくらいの前方の席を探して並んで座る。


「これ、前の方座るとビショビショになっちゃうんですよ」

「ビショビショに?それにしては、前方に座っている人も多いようだが」

「覚悟を決めている人達です」


 程なくして、ステージ上にお姉さんが現れて、イルカショーが始まった。

 可愛らしいイルカ達が、プールの中を泳ぎまわったりジャンプしたりと、迫力のある演技を見せてくれて、最初は驚いていたシャルルも大いに楽しんでくれたようだった。

 そして、実は気がついていないだけで、ステージのお姉さんは魔物使いの魔導師なのではないかと、本気顔で聞いてきたシャルルには思わず笑ってしまった。


 この日のイルカショーは、何と結婚式も兼ねていたようで、ステージ上に登場した新郎新婦に観客から大歓声が上がった。

 こんな結婚式もあるんだなと驚く。


「ミオの世界の結婚式は、あんな感じなのか?」

「私も驚きましたよ。たぶん、いろんな形の結婚式があるんだと思います」

「ミオは、どのような結婚式がしたいんだ?」

「私ですか?うーん……考えたこともないので、普通の結婚式しか想像できませんよ」

「ミオのドレス姿は、とても美しいのだろうな」

「なっ!?……わ、私なんて絶対に似合わないと思いますよ!」

「ふふ、真っ赤だよ」


 何でこのイケメンは、こんな歯の浮くような台詞をサラッと言えてしまうんだ?

 心臓が飛び出して来たらどうしてくれるんですか!


 こうして、水族館を一通り見て回って出てくると、ちょうどお昼時になっていたので、近くの店で昼食を食べてから空港に向かった。


「ちょっと音がうるさいですけど、驚かないで下さいね」

「音?」


 空港について屋上に向かう。

 屋上には、見送りの人や飛行機の見物に来た人など、多くの人が訪れていた。

 フェンスの前の開いているベンチを探して並んで座ると、ちょうど滑走路で飛行機がスタンバイしているところだった。


「あ、もうすぐ飛行機が飛び立ちそうですよ」

「飛び立つ?」

「動き始めました」


 スタンバイしていた飛行機のエンジン音が高くなり、飛行機が走り出した。

 一気に加速していき、機体が空へと飛び上がって行くこの光景は、何度見てもドキドキと言うか、ワクワクと言うか、何だか興奮してしまうから不思議だ。


「凄いな。あれも魔法ではないのか?」

「魔法じゃないですよ。素晴らしい技術です」

「あれは……何のために飛ぶんだ?」

「たくさんの人や荷物を、遠くまで運ぶためですよ」

「人間が乗っているのか?」

「はい。たぶん、騎士団や魔導師団は全員乗れますよ」

「そんなに大勢を乗せて飛ぶのか?よく落ちないで飛べるものだ」

「あー、たまに落ちますね。本当にたまーにですけど。めったに落ちませんよ?」

「……大丈夫なのか?」

「落ちたら大惨事です」

「……だろうな」


 ごくまれに起こる飛行機の事故は、必ずと言っていい程に大惨事になる。

 あんなに高い場所から転落するんだから当たり前だ。

 もしも、魔法が使える世界だったら、そんな事故はなくなるのだろうか?


 飛び立って行く飛行機や、着陸する飛行機を何機も見て、ミオとシャルルは空港を後にした。

 その後、夜景でも見に行こうかと場所を移動し、のんびりと海を眺めたりゲーセンで遊んだりして、夜の訪れを待った。

 ゲーセンでダーツをしてみると、初めての割にとても上手なシャルルに驚かされたミオ。

 かなりのイケメンということもあり、気がつけば人だかりが出来ていたけれど、焦っていたのはミオだけで、当の本人は全く気にしてはいないようだった。


 こうして、ゲーセンでダーツ以外にもいろんなゲームを楽しんで出てくると、いい感じに日が暮れていたので観覧車の列に並んだ。


「ミオの世界には、面白いものがたくさんあるのだな」

「まぁ……そうですね」

「向こうの世界は、退屈に感じるのではないか?」

「休みの日は、何しようか悩んでしまうこともありますけど……それはこっちでも同じですよ」

「そうなのか?」

「はい。面白いことはたくさんあっても、飽きちゃうし……休みの日なんかは家でゴロゴロしてましたもん」


 こんなに充実した世界でも、それが日常となると飽きてしまうのが人間だ。

 だから、人は刺激を求めて旅をするのだと思う。

 きっと、どの世界に行っても同じことなんじゃないだろうか。


「私は、向こうの世界での生活も好きですよ。シャルルさんや皆と過ごす毎日は、とても楽しいです」

「ミオ……」

「電気とかネットが使えたらもっと便利ですけどね」


 ケラケラと笑いながら、ミオはシャルルを見上げた。


 観覧車の列が進んで行き、乗り場の近くまで行くと写真撮影を勧められた。

 こういう場所ではお決まりの、ちょっとお高い写真購入を勧められるアレだ。

 いつもなら写真なんて撮らないのだけれど、今日は記念に撮影してもらうことにする。

 こうして、ミオとシャルルは観覧車へと乗り込んだ。


「これ、だんだん高くなっていくのがワクワクするんですよね」

「面白い乗り物だな」

「乗るたびに、てっぺんで止まれって祈るんですけど、止まったことはないです」

「てっぺんでは何が見えるんだ?」

「宝石箱みたいな景色が見えますよ」

「そうか、それは楽しみだ」


 ゆっくりと回転する観覧車は、退屈と言えば退屈な乗り物だと思う。

 でも、頂上に近づいて来ると、何とも言えないワクワク感に包まれるのはミオだけだろうか?

 昼間と違って、夜は散りばめられた光でとても幻想的な景色が広がるのも、観覧車の魅力の1つだろう。

 カップルで乗ると、頂上でキスをすると永遠に結ばれるなんて噂も流れたり……決して狙って乗ったわけではない、断じて違うと言っておく。


「もうすぐ、てっぺんですよ。こっち側が海で、向こう側が街の方です」

「……本当に、宝石箱のようだな。とても、綺麗だ」


 目を見開きながら外を眺めるシャルル。

 ミオは、この景色をシャルルと共有できたことが、何だかとても嬉しく思えた。


「シャルルさん」

「どうした?ミオ」

「たぶん、明日には向こうの世界に戻ります」

「そう……なのか?」

「はい。明日のいつ頃戻るのかはわかりませんけど……帰ったら荷造りしますね」

「荷造り?」

「私が初めて向こうの世界に行った時、持っていた荷物ごと転移してました。ということは、いろいろ持って行けるんじゃないかと思って。まぁ、ダメだったら残念ということで、ダメもとで荷造りしとこうと思います」

「どうして、明日戻ると言い切れるんだ?」

「それは……夢の中なのか現実なのかわかりませんけど、母がそう言ったからです。こうして戻って来たのは、こっちに戻るか、向こうの世界で生きるかを選択するためらしいですよ」

「選択か……」


 シャルルがとても辛そうな顔でミオを見た。

 ミオは、そんなシャルルに笑顔を向ける。


「私は、向こうの世界で王国と竜を守ります」

「……本当に、ミオはそれでいいのか?」

「はい」

「また、こちらの世界に戻って来ることは?」

「それは出来なくなるみたいです」


 戸惑うシャルル。


「でも、私は決めたんです。シャルルさんや、皆と一緒に過ごしていきたいですし」

「ミオ……」

「まぁ、不便なことはたくさんありますけどね」

「こちらの世界で暮らしていたら、そうだろうな」

「そんなわけで、明日は家でのんびり過ごすことにしましょうね!いつ戻されるかわかんないし」

「……あぁ、わかった」


 観覧車が地上まで降りてくると、ミオはさっき撮影した写真を2枚購入した。

 てゆーか、本当にお高い写真だと思うのはミオだけだろうか?


 夕食を食べてから帰宅し、シャルルがシャワーを浴び始めると、ミオは向こうの世界に持って行く荷物をリビングへと運び始めた。

 荷物と言っても、全部を持って行けるわけではないし、電化製品などは持って行っても使えない。

 持って行けそうな、母親との思い出が詰まった写真や、小物、それに衣類や靴などを運んでみた。


「こんなもんかな」


 部屋から、キャリーバッグを2つ出してきたところで、シャワーを浴び終えたシャルルが浴室から出て来た。


「随分と出してきたものだな……これは?」

「それは、母との写真とかですね」

「見てもかまわないか?」

「いいですよ」


 シャルルがアルバムを手に取って開いた。

 懐かしい、母親との写真がたくさん収納されている。

 衣類などをキャリーバッグに入れていたミオも、手を止めてシャルルの隣で覗き込んだ。

 写真とは不思議なもので、こうして見始めるとついつい作業が中断されてしまう。

 漫画本なども同じだ……片付けあるあるだ。


 あ、そうか。

 漫画本と小説も入れておこう。

 ミオは思い立って、部屋からお気に入りの漫画本と小説を持って来た。

 全部は持って行けなさそうなのが残念だけれど、仕方がない。


 こうして再び荷物を詰め始めたのだけれど、結局シャルルと一緒にアルバムを見てしまい、作業は再び中断されてしまった。

 アルバムの中には、ミオの子供の頃の写真などもあり、恥ずかしかったけれど何だか懐かしい気持ちだった。

 そんなこんなで、荷造りは夜中までかかって終了した。


 ミオがこの世界に別れを告げるまで、あと1日。



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お読みいただきありがとうございました!

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