60 夢の国でのデート
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「随分と……賑やかだな。祭りでもあるのか?」
「祭りなんてないですよ。ここはいつもこんな感じですね。休日はもっと混雑していますよ」
ミオはシャルルを連れてショッピングモールにやって来た。
真っ先にシャルルの靴を買いに行き、その後にフードコートで昼食を食べている。
男の人がどこで服を買っているのかなんてよくわからなかったミオだけれど……ここなら、必要なものは揃うだろう。
平日なのに、ショッピングモールにはたくさんの人が訪れていた。
「何でこっちの世界に戻って来たのかはわからないですけど……あと何着かはシャルルさんの服とか買っておきましょうか」
「すまない、ミオ」
「シャルルさんが謝ることじゃないですよ。私だって向こうの世界で、たくさん助けてもらってますから」
戸惑ったような顔をしていたシャルルだったけれど、ミオが笑顔を向けると「ありがとう」と優しく微笑みながらミオの頭に手を乗せた。
こうして、買い物をしたミオとシャルルがマンションに帰る頃には、すっかり日が暮れて夜になっていた。
「夜だというのに、こちらの世界は明るいのだな」
「電気の力です」
「電気?」
「動力源というか……こっちの世界では、電気がないといろんなものが使えなくて困っちゃうんですよ」
電気を説明するのは、ミオには難しいことだ。
ここは、あまり深く追求しないでいただきたい。
「疲れましたよね?もうすぐ着きますから」
「私は大丈夫だから心配しないで」
「こうして、シャルルさんと一緒にこの世界を歩いているのが、何だか今でも信じられないです」
「私もだ。それに、ミオの世界を知ることが出来て嬉しいよ」
「明日からしばらく休みを貰って来たので、いろいろ案内しますよ」
「いいのか?」
「もちろんです!」
有休はたくさん残っているし、いつまでこっちの世界にいられるかもわからないし……ここは、有効活用しておくべきだろう。
マンションに帰ると、今日はたくさん歩いたしシャルルも疲れているだろうから、夕食はピザをデリバリーして済ませることにした。
その日の夜―――
ミオの夢に、母親が出て来た。
夢のわりに、とてもリアルで……夢じゃなくて現実なのでは?と思うような夢だった。
夢の中で、ミオは母親と一緒にお茶をしていた。
真っ白な空間の中にパラソルがついているテーブルが1つあるという、とても不思議な場所でのお茶会だった。
「良かった、こうして元の場所に送ることが出来て」
「元の場所?」
「そうよ。お母さん、大変だったんだから」
「ん?」
「美桜、あなたはここで選択をしないといけないの」
「え、何を?」
「この世界に戻るか、向こうの世界で生きるか」
戻れるってこと?
もしも戻ることを選んだら……二度と向こうの世界には行けないということだろうか?
シャルルは……どうなるんだ?
「私は……」
「少し考える時間は作ってもらったから安心しなさい。明日から3日間……よく考えて選択するのよ?」
「え、3日間?」
「王国のことを託したけれど……美桜の気持ちを考えていなかったなと思って、ちょっと掛け合ったのよ。3日間しか考えさせてあげられないけど、サクッと決めて頂戴ね」
「掛け合ったって……誰に?」
「そこは気にしなくていいわよ」
「……めちゃくちゃ気になるんですけど」
サクッと決めろって……けっこう重大な選択に思えるのですが、随分と軽くないですか?
母親はニコニコしながら紅茶を飲んでいた。
そういえば、母親はどうして出産直前で元の世界に戻ったのだろう?
「お母さんは、何で私を産むのに元の世界に戻ったの?」
「それは……私にもよくわからないのよねぇ」
「えー」
「とにかく、よーく考えてサクッと決めるのよ?」
「そんな、簡単に……」
「それじゃあ、そろそろ終わりにするわね」
「え、ちょっと待ってよ!お母さん!?」
ミオがゆっくりと目を開けると……窓から日が差し込んでいた。
え、夢?現実?
しばらくベッドの上でぼんやりと考えるミオ。
このままこっちの世界に戻るか、向こうの世界で生きるか……向こうの世界で1年近く過ごしてきて、ミオの中では王国と竜を守って行くことを決意していた。
でも、こうして元の世界に戻って来てしまうと……その決意が揺らいでしまいそうだった。
何で、戻してくれたの?お母さん……
あれが夢ではなく現実のことだとしたら、3日後には向こうの世界に戻ることになる。
こうして、ミオに選択する時間を作ってくれたのは、母親の好意なのだろうけど……きっと、こっちにいる時間が長くなるほど居心地は良くなるだろうし、このままこっちにいたいと思ってしまいそうだとミオは思った。
「……顔洗って出かける準備でもしよう」
随分と早い時間に目が覚めてしまったようで、もう一度寝ようか悩んだ末、ミオは出かける準備をすることにした。
―――――――
―――――
―――
「……ミオ?」
「あ、おはようございます、シャルルさん。すみません、起こしてしまって」
「おはよう。少し前に目覚めていたから大丈夫だよ」
ミオがコンビニで朝食を買って戻って来ると、シャルルが目覚めていた。
「出かけていたのか?」
「朝ごはん買いに行ってました」
「こんなに早い時間に?」
「こっちには、24時間買い物ができる便利なお店があるんですよ。スージーさんみたいな朝食とはいきませんけど」
テーブルに買ってきたパンなどを並べて、お湯を沸かしてスープを作った。
あっという間に朝食の準備が整うんだから、文明の利器は素晴らしい。
「これ食べたら出かけますよ」
「何処に行くんだ?」
「夢の国です」
「夢の国?……それは、楽しみだな」
どこに行こうか悩んだミオだったけれど、定番とはいえやっぱり夢の国とも言える某有名ランドは外せない。
あそこなら、この世界を知らないシャルルでも、十分に楽しめるのではないだろうか。
朝食を食べてシャルルの準備を整えて家を出る。
目的地までは、電車を乗り換えながら約1時間ほどで到着する。
昨日も電車に乗ったとはいえ、シャルルが初めて目にするものは多く、終始驚きながらの移動となったのが少し面白かった。
それに、シャルルの外見はとても視線が集まるので、隣を歩いているミオも何だか見られている気がして、少し恥ずかしかった。
こうして、夢の国に到着した2人。
平日とはいえ、ゴールデンウィークが近いということもあって、それなりに混雑していた。
チケットを2人分購入してゲートをくぐる。
「ここが、夢の国です」
「とても賑わっている街?……ということか?」
「違いますよ。いろんなエリアに分けられているテーマパーク、うーん……娯楽施設?って言うんですかね?まぁ、遊ぶところです」
「そうなのか?とても広そうに見える」
「広いですよ」
最初に、お土産などが売られているエリアを抜けて行くのだけれど……3日後に向こうの世界に戻れるんだったら、皆にお土産買でも買ってみようかな?
「ここのお土産、わりと日持ちするんで、皆に買っていきましょうか?」
「だが……いつ戻れるかわからないだろう?」
「大丈夫ですよ。まぁ、持って帰れるかはわかりませんけど」
たくさんある中でも、ミオが大好きなお土産をたくさん購入して、ロッカーに預けに行った。
決してミオが食べたいから買ったわけではなく、お土産として購入したのだ。
ここは、帰りの時間になるとお土産屋さんの混雑が半端ない。
遊ぶ前に買っておくのが、ここでの賢い遊び方だ。
ただし、ロッカーの数にも限りがあるので、早い時間に来ないと預けられなくなってしまうけれど。
こうして、お土産を無事にロッカーに預けて、ミオはエリアマップを広げた。
「うーん……このアトラクションが凄く混むので、先に並んじゃいましょうか?」
「ミオに任せるよ」
「じゃあ、行きましょう!」
ミオがマップをバッグにしまうと、シャルルが微笑みながら手を出したので、戸惑いながらも自分の手を乗せた。
向こうの世界でも、こうしてシャルルと手をつないで歩くことは多いけれど、今日はいつもよりも何だかドキドキするミオだった。
開園から時間が経つにつれて入場者数も多くなり、アトラクションの待ち時間も長くなっていったため、あっという間に昼食の時間となった。
この時間はどの飲食店も混雑するため、どこも長蛇の列となってしまう。
ミオはシャルルに、時間をずらした方がもう少し空くと説明して、あまり混んでなさそうなアトラクションに入ってから昼食にすることにした。
―――――――
―――――
―――
「大丈夫です?疲れてませんか?」
「大丈夫だよ。それにしても、本当にこの世界には魔法はないのか?私には、魔法としか思えないことばかりだよ」
「魔法なんてないですよ」
向こうの世界では、人形が動いたり、映像が描かれたり、馬車以外の動く乗り物はないので、シャルルには全てが魔法に思えるらしい。
まぁ、でも……この世界でのいろんな技術は、魔法と言えるのかもしれないけど。
のんびりと回っているものの、パーク内はとても広く待ち時間はほとんど立ちっぱなしだ。
シャルルは大丈夫と言っていたけれど、この人混みだし疲れていないわけがない。
少し長めの休憩をして、体力を回復させることにする。
「ミオは、ここにはよく来ていたのか?」
「たまにですよ。1年に……1回くらいですかね?」
「そうなのか?それにしては、随分と詳しいな」
「友達に、めちゃくちゃ詳しい子がいて、一緒に来るたびに詳しく解説されていたので。それに、ふだんからよく話も聞かされていたし……」
小学校から仲の良かった友人が、年パスで通い詰めるほどめちゃくちゃこのテーマパークが大好きで、ミオが一緒に遊びに来た時にはもの凄く語られていた。
その友人は、普段からもいろんな情報を教えてくれていたため、たまに来れたらいいかな……くらいの熱しかないミオでも詳しくなってしまった。
「そういえば、向こうの世界ってこういうテーマパークないですね」
「そうだな。ここのようなものを作る技術を持つ者がいないと思うよ」
「作れる人が転生すればいいのに」
「ふふ、そうだな」
そんな話をしながら、ミオ達の席の傍を歩いていた人と不意に目が合い……
「美桜?」
「……っ!?」
思わず顔をそらしたミオだった。
噂をすれば何とやらである。
ミオがこのテーマパークについて詳しくなった原因である人物が、何故か目の前にいた。
「うわぁー、マジで美桜じゃん!え、何、デート?めちゃくちゃイケメンの彼氏じゃん!」
「そそそ、そんなんじゃなくて」
「どーも、初めまして。私、美桜の友達の葵って言います」
「……私は、シャルル・パトリエールだ」
「す、すみませんシャルルさん。この人、さっき話してた友達です」
「ここに詳しいっていう?」
「え、何々?私の話なんかしてくれてたの?嬉しいなぁ、だからかな?何か、美桜がいるような気がしたんだよねー」
「え、何それ怖い!」
「まさか、ホントにいるとはねー。しかも、イケメン彼氏と……安心しろ、皆に回しとくから」
「回さなくていいからね!?てゆーか、回すんじゃないわよ!」
「今度、ゆっくり話を聞かせてもらうからね」
「な……何の話よ…」
今度……その言葉に、何とも言えない気持ちになったミオ。
ミオが選択しようとしている未来は……
「あんまお邪魔しちゃうと美桜が怒るし、私はそろそろ友達んとこに戻るよ。それじゃあシャルルさん、美桜のことよろしくね!」
「あぁ」
「ちょっと、葵!」
「またね、美桜」
ウインクしながら手を振って、葵は一緒に来ていた友達の所に戻って行った。
またね……に何も返せなかったな……
「……すみません、騒がしい友達で」
「元気が良すぎて驚いたよ。もっと、話をしなくて良かったのか?」
「葵と話し始めたら、シャルルさんのこととか、きっと夜まで質問攻めになりますよ」
「それは大変だ」
「じゃあ、そろそろ次行きましょうか……ん?」
ミオの携帯の着信音が鳴った。
誰だ?
「……なっ!?」
「ミオ?」
いつの間に写真なんか撮ったんだ?葵の奴……
ミオの携帯にメッセージを送って来たのは葵だった。
いつの間にか撮られていた写真も送られてきている。
その後も、シャルルと一緒にアトラクションを回っていると、葵から写真が送られてきてミオはキョロキョロと辺りを見回した。
一体、どこから写真なんか撮ってるんだ?
まぁ、でも……なかなか良く撮れているシャルルとのツーショット写真なので、保存はしておくことにしよう。
こうして、この日は夜まで夢の国というテーマパークでシャルルと過ごし、マンションへと帰って行った。
シャルルも楽しそうにしていたし、いい思い出になってくれたらいいなと思う。
その日、ベッドに入ったミオは考えていた。
心の中では、向こうの世界で生きてくことを決めていた。
だから、こっちの世界で過ごす残りの3日間は、少しでもシャルルにミオがいた世界を知ってもらえればいいと思っていた。
だから、友達には連絡をするつもりはなかった……決心が揺らいでしまいそうだったから。
それなのに、まさか出会ってしまうなんて……
ミオが選択するまで、残り2日。
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お読みいただきありがとうございました!




