54 戦いの前の穏やかな時間
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「アイスブロック、下が6枚で上が4枚にしてみましたけど、どうです?」
「かなり頑丈だとは思うが……上はどうだ?立っていられるか?」
「かなり安定感はありますよ!」
ミオはカミーユや他の魔導師達とともに、王都への住人の避難が終了したオルレーヌの港町に来ている。
門を突破されてしまうと、王都へはすぐに攻め込まれてしまうため、門と城壁の前に氷の壁を作っているのだ。
ミオが魔法強化して作るアイスブロックはかなりの強度があり、魔法攻撃でもなかなか壊せるものではない。
そのアイスブロックを何重にも重ねて、縦に2段にして設置してみたところだ。
このアイスブロックの上に結界を張れる魔導師が立ち、結界でも突破を防げるようにする計画だ。
城壁よりも高さがあるため、高所恐怖症だとかなりきついと思われる。
まぁ、魔導師にそんな人はいないと思うけれど。
壁は端から出入りできるように作ってあり、敵には見えないようになっている。
「あとは……この魔法陣が上手く作動すれば」
「大丈夫だよ、ミオちゃん。俺を信じて!」
「うん、信じてるよ」
敵魔導師に気がつかれないように、港側の地面にはラウルが描いた魔法陣が隠されている。
これは、ミオの魔法を強化するものだ。
ルシヨット魔導国との戦いに向けて、着々と準備が進んでいるけれど……1つだけとても気がかりなことがあった。
それは……
「ミオちゃ~ん!差し入れを持って来たわよぉ~!」
ミオの姿を見つけて、満面の笑みを浮かべながら駆け寄って来たのは、シャルルの母親のエミリーだった。
後ろから父親のカルロスも追いかけて来た。
気がかりなこととは、この2人のことだ。
港町の住人が全て王都に避難したというのに、この2人はまだ避難していないのだ。
自分達の領地なのだから、戦いを見守る義務がある……そう言って、避難することを拒んでいて、シャルル達兄弟がどんなに説得しても避難してくれない。
「お母様もお父様も、避難してくれないと困るんですよ……」
「大丈夫よ。お屋敷から見ているから」
「危険ですって」
「心配しなくても大丈夫じゃよ、ミオさん」
「いやいや、何が大丈夫なんですか!?魔導師が大勢で攻めて来るんですよ?お屋敷まではあっという間に飛んで行けるんですよ?お願いですから避難してください」
「お2人とも、お願いですから言うことを聞いて下さい。シャルルも悲しみますよ?てゆーか、いい加減キレてしまいますよ?」
「あらぁ、シャルルが怒ったら怖いから困るわね」
やっぱり、怒ると怖いんだ?
親にも怖いと言われるって……どんだけ怖いんだ!?
「怒らせたくないなら、せめて門の外までは避難してください」
「じゃがなぁ、ここは私達の領地なのに逃げるなどというのはなぁ」
「他の領主でも、危険が及べば皆さん避難しますよ」
ミオとカミーユが、どんなに説得しても首を縦に振らない2人に困っていると、門の向こう側に陣営の準備をするためにやって来たシャルルが顔を出した。
「父上も母上も、まだ皆を困らせているんですか?いい加減にしないと、さすがに怒りますよ……」
「シャルルさん……お疲れ様です」
「お疲れ様。すまないな、2人とも。あとは私が話をするから、2人は準備の方に行ってくれ」
「わかった。行くぞ、ミオ」
「……はい」
カミーユと一緒にこの場を離れる間際にミオがシャルルを見上げると、シャルルは微笑みながらミオの頭に手を乗せた。
こんなに優しい笑顔を見せているのに……怒るとどんだけ怖いんですか?
とにかく、2人の説得はシャルルに任せて準備を進めよう。
こうして、ルシヨット魔導国との戦いに向けての準備が進んでいき、昼食の時間となった頃……ようやくシャルルの両親は説得に応じたらしく、屋敷から非難するために、昼食後にシャルルとともに屋敷へと向かった。
これで、一安心だ。
なんて思っていたら、門を出たところで今度はそこで待機すると言ってごねたらしく、さすがにシャルルがキレて王宮まで強制的に避難させられた。
その時の様子を、騎士達は悪魔が降臨したと言っている。
え、シャルルに悪魔が降臨?
見てみたい気もするけれど……シャルルは怒らせてはいけない人物だと、そこにいた誰もが心に刻んだ。
―――――――
―――――
―――
「明日からは野営が始まるんですね」
「ミオは宿舎で休んでも構わないのだよ?」
「いえいえ、そんな。私も皆さんと一緒に野営しますよ」
「まぁ、俺とシャルルの隣にお前のテントを設置したから、何かあれば俺達の所に来い」
「はい」
「何なら俺が代わってやる」
「え、何をですか?」
「カミーユ!?」
いよいよ、戦いに向けて現地での野営が始まる。
王都からは近いので、ミオならば宿舎からすぐに移動できるのだけれど、1人だけ特別扱いされるわけにはいかない。
ミオはいつも使っている枕を持って、皆と一緒に野営に参加するつもりだ。
枕が変わると眠れないって言うし、きっと同じ枕なら眠れるはず。
陣営では、新人騎士達が交代で王宮とを行き来して物資を運んだり、食事の準備などを行うらしい。
戦闘には参加させない予定だけれど、何かあれば新人騎士達も戦闘に借り出されることになる。
そんな事態が起こらないことを祈りたいところだ。
「ラウルさん達は?」
「ここで待機するように言ってはあるが……大人しく待機するとは思えん」
「……ですよね」
翌日―――
カミーユが言った通り、ラウル達は野営に参加していた。
「ラウルさん達は、ルシヨット魔導国に見つかっちゃダメなんじゃ……」
「あのさー、ミオちゃん。心配してくれるのは凄く嬉しいんだけどね、これは戦争だよ?そんなこと言ってられないんだよ」
「そうだよ。俺達は、今はペリグレット王国の魔導師団なんだから」
「少しでも戦力は多い方がいいだろ?」
確かに、3人とはいえラウル達の戦力は大きい。
「それにね……俺には戦わなきゃいけない理由があるんだよ」
「戦う理由?」
「そう。だから、隠れているわけにはいかないんだ」
ラウルがルシヨット魔導国と戦う理由って……今の国王のやり方に賛同できないってこと?
ミオにはラウルが戦う理由はよくわからなかったけれど、ラウル達が引かないことも理解しているため、これ以上は何も言わない。
「ラウルさん達が危険な時は、ちゃんと逃げてね?」
「うん。わかってるよ」
ルシヨット魔導国が攻め込んで来るのは、1週間後の予定だ。
それは捕らえた魔導師からの情報なので、どこまでが真実なのかはわからない。
もしかしたら、今日にでも攻め込んで来るかもしれない……敵船のことは、港にある灯台で監視をしていて、何かあれば連絡が来ることになっている。
通信手段はないので、光を使ってカチカチやるとか、手旗信号的な方法でやり取りするのだろう。
アイスブロックの上でも、常に監視が続けられている。
1月も下旬なので、この辺りもすっかり雪に覆われていた。
そんな中での野営なのだから、寒さとの戦いになるだろうと思っていたミオだったけれど、冬用の野営設備があるらしく、思った以上にテントの中は暖かかった。
気温は体力にも大きく関わってくるから、雪の中での野営は戦いにおいて不利な状況に陥ってしまうのではないかと心配だったけれど、その必要はなさそうだ。
それにしても……
「緊張はするけど……やることないな」
もう少し王宮で待機でも良かったのでは?
などと思ってしまうくらい何もすることがないミオは、思わず雪だるまなんか作ってしまう程に暇だった。
自分のテントの傍に、アイスブロックでウサギのオブジェまで作ってしまった。
しかも、何体も。
「……ご飯の準備でも手伝って来ようかな」
ミオは、新人騎士達が食事の準備をしている小川の方に向かった。
こうして、ミオがテントから離れて間もなく、様子を見に来たシャルルとカミーユだったけれど……テントの周りに作られているウサギのオブジェを見て、シャルルは思わず吹き出し、カミーユは何とも言えない表情で固まっていた。
「ふふ、ミオらしいな」
「何やってんだ、アイツは……」
―――――――
―――――
―――
ミオが小川までやって来ると、ナターシャ達も食事当番だったらしく野菜を切っているところだった。
歩み寄って3人に声をかける。
「お疲れ様。3人も食事当番だったんだ」
「ミオ様。お疲れ様です」
「何だよ、暇なのか?」
「うん」
「食事の時間まではまだ時間があるから待っててよ」
「てゆーか、お前も手伝ってくれ。こんな人数分切るのは大変なんだよ」
「ちょっと!ミオ様に手伝わせるわけにはいかないでしょ!」
「えー、いいじゃんそれくらい」
「うんうん、手伝うよ!これを切ればいいの?」
「だったら、これの皮むきをしてくれ」
「じゃが芋?うん、いいよ。ピーラーは?」
「ピーラー?何だよそれ?」
あ……そうだった。
この世界にはピーラーなんかなかったから、包丁で皮をむくんだった。
料理なんて手伝わせてもらえないから忘れてた。
「ううん、何でもない。包丁でむくんだったよね……頑張る」
「頑張るって……もしかして芋の皮むいたことないのか?」
「ないこともない」
「は?」
こうして、ミオが包丁を持ってじゃが芋の皮をむこうとしていると、たまたま通りかかった騎士がそれを見て慌てて走って来た。
「お前ら!何やってるんだ!?ミオ様に包丁を持たせるんじゃない!」
「は?」
「え?」
「ん?」
3人がキョトンとしながら走って来る騎士を見ていた。
ミオは、じゃが芋に包丁を突き刺したところで手を止めて、顔を上げ……騎士のあまりにもの形相に苦笑いした。
「ミオ様、料理はダメだっていつも言ってますよね?」
「……で、でも、この人数の材料切るのって、大変じゃないですか」
「もっと大変なことになるんでやめてください」
「……酷くないです?」
「事実ですから」
3人がミオの手元を見て、青ざめながら包丁を取り上げた。
「何やってんだよ!?」
「え、じゃが芋の皮むき」
「これのどこがだよ!」
こうしてミオは、騎士に連行されてシャルル達に引き渡された。
え、酷くないですか?
その日の夜、いつもの枕を持って来たものの、なかなか眠れずにゴロゴロと何度も寝返りをしていたミオ。
何も考えないように努力はしてみたけれど、いろんなことが頭の中をグルグルと巡って、どんどん目が冴えていってしまった。
このまま横になっていても、きっと朝まで眠れないだろう。
ミオは気分転換をするため、テントの外に出てみた。
「ううぅ……寒っ!」
真冬の深夜の寒さは半端ない。
腕を抱えて震えながら、ミオは見張りの騎士がいる焚火の場所へと向かった。
この寒さの中でも、夜間は騎士が交代で見張りをする。
灯台と壁の上、それにこの焚火の場所で、最低でも3人が見張りをするようだ。
「お疲れ様です」
「ミオ様?どうしたんですか、こんな時間に。風邪をひきますよ?」
「その……眠れなかったので、ちょっと気分転換に」
「そうなんですか。今、温かい飲み物を用意しますね」
「すみません」
火って凄いなと思う。
こんなに寒いのに、火の傍はとても暖かい。
それに、焚火の揺らめきって……何だか癒される。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
騎士がホットミルクを作ってくれて、ミオはカップを受け取った。
眠れない時にはホットミルクというのは、世界が違っても共通なんだな。
ホットミルクを飲みながら騎士と少し話をして、ぼんやりと焚火を眺めていると、だんだんと睡魔が訪れて来てうとうとし始めたミオ。
ミオがゆっくりと丸太のベンチの上に横たわった時に、テントにいないミオを探していたシャルルがやって来た。
「お疲れ様です、団長。丁度良かったです、今ミオ様が眠ってしまって……運んでもらえませんか?」
「わかった。引き続き、見張りを頼む」
シャルルは、クスッと笑いながらミオを抱き上げると、起こさないようにテントまで運んだ。
こうして、静かに時間は流れていき……
捕らえた魔導師から聞き出した情報の通り、2月1日、遂にルシヨット魔導国がペリグレット王国へと足を踏み入れた。
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