閑話 女性騎士
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10月になると、毎年養成所を卒業した騎士達が入団してくる。
今年は70人の新人騎士達が入団して来たらしい。
万年人員不足の魔導師団から見れば、とても羨ましい限りだ。
元々騎士団の人数は多いけれど、一気に70人も増えると賑やかさが増したように思えた。
それにしても……男子ばっかだな。
まぁ、当たり前なんだろうけど。
魔導師団にも女子はミオ1人だけだし、騎士団にも女子はいなかったし……王宮にいる女子と言えば、食堂のスージーや侍女ばかりだ。
少し寂しいなと思う。
男社会とはいえ、元の世界の会社のような嫌な雰囲気ではないけれど。
「ミオ」
「何ですか?師団長」
「その書類整理は後でいいから、この書類をシャルルに届けてくれ」
「書類ですか?わかりました」
「シャルルに直接渡してくれ」
「はい」
ミオがカミーユを手伝って書類整理をしていると、シャルルに書類を届けてくれとカミーユに言われて、書類を預かって執務室を出た。
直接渡せとか、とても大事な書類なのだろう。
ミオは騎士団の執務室へと向かう。
今日も騎士団の訓練場では、多くの騎士が修行に励んでいた。
魔導師団の閑散とした訓練場とは活気が違う。
今は新人騎士の訓練もしているようなので、いつもよりも多くの騎士が集まっていて少し羨ましく思う。
ミオが訓練をしている様子を眺めながら歩いていると、ミオに気がついた騎士が駆け寄って来た。
「おはようございます、ミオ様」
「おはようございます」
「団長のところに行くんですか?」
「はい。書類を持って行って欲しいと師団長に言われたので。ここは朝から凄い活気ですね」
「新人の騎士達には負けていられませんので、皆必死ですよ」
「そうなんですね。あそこで並んで剣を振っているのが新人騎士の皆さんですか?」
「そうですよ。半数は見回りに同行しているので、残りの半数が今日はここで訓練をしています」
あれで半数?なんて羨ましい人数なんだ。
それにしても、綺麗に整列しながら剣を振る姿は、アニメなんかで見るのと違ってとても迫力がある。
本物なんだから、当たり前のことだけれど。
「あー!何お前だけミオ様と話してんだよ!ズルいだろ!」
「ズルいって何だよ」
「あはは……おはようございます」
「おはよう、ミオ様。今度はいつ水竜と遊ぶんだ?次こそは振り落とされないで乗りこなしてやる」
「え、また乗るんです?」
「そりゃあ、振り落とされたままじゃあ悔しいからな」
この騎士は、ミオが水竜に乗るのを見て、自分も乗りたいと言ってきた騎士だ。
ミオが水竜に聞いてみると、水竜は即答で「いいよ!」と乗せてくれたのだけれど……初めて乗ったからか上手くバランスが取れず、騎士は湖に振り落とされてしまったのだ。
ミオよりも背が高いし、きっと風の抵抗も大きいのだろう。
「いろいろ落ち着いたらまた遊べると思いますけど……水竜も遊びたがっているし」
「よっしゃー!それまでに体幹を鍛えておかないとだな」
「お前、体幹鍛えるのはいいけどさ、剣術も鍛えろよな」
「わかってるって」
「修行、頑張ってくださいね。それじゃあ、私は執務室に行きます」
「おう!」
「行ってらっしゃいませ」
ミオは訓練場の横を通り抜けて、騎士団の執務室へと向かった。
そして、執務室のドアをノックしてみると……シーンとしていて中からの返事はなく、もう一度ノックしてからドアを開けてみた。
中にはシャルルの姿はなく。
「あれ、いないな」
シャルルの机に書類を置いて行こうか少し悩んだミオだったけれど、直接渡してくれとカミーユが言っていたので、シャルルを探すことにした。
執務室のドアを閉めて、建物の中をウロウロしてみる。
廊下で出会った騎士にシャルルの居場所を尋ねると、王宮に向かったと言われたのでミオも王宮へと向かった。
国王に報告にでも行ったのだろうか?
訓練場の横を通り抜けて王宮へと向かうと、新人騎士達はまだ綺麗に整列したまま剣を振っていた。
え、いつまで剣を振り続けるんですか?凄くないですか?
ミオが国王の執務室に行くと、既にシャルルは騎士団の執務室に戻ったと言われ、またしてもシャルルに会うことが出来なかった。
どこですれ違ったんだ?
ミオが執務室から出て行こうとすると、国王によってソファーに座らされ、あっという間にお茶の準備をされてしまった。
そして、テーブルにはミオの大好きなマカロンが置かれた。
「この菓子はミオが大好きだっただろう?たくさん食べてくれ」
「……いただきます」
とても美味しいマカロンを頬張るミオ。
そんなミオの姿を、満面の笑みを浮かべながら眺めている国王……仕事は?
「お父さんは食べないんです?」
「えー、一緒に食べてもいいのか?」
「ダメだなんて言いませんよ。せっかくお茶を入れてくれたんだし、一緒に食べましょうよ……」
「1日中ミオとお茶が出来たら幸せだのぅ」
「1日中お茶なんか飲んでたら、お腹がタプタプになっちゃいますよ」
こうしてお茶を頂き、涙を流しながらミオを引き止める国王を宥めてミオは執務室のドアを閉めた。
さっき、一緒に朝食を食べたばかりだというのに……困った国王だ、本当に。
ミオは王宮から出ると、庭園の中を通りながら騎士団の執務室へと向かう。
相変わらず手入れが行き届いていて綺麗な庭園だ。
癒されるなぁ……
こうして再び騎士団の訓練場の前を通りかかると、新人騎士達の剣を振る訓練は終わったらしく、汗を拭きながら水分補給をしているところだった。
そんな新人騎士の中の1人に目が留まった。
とても奇麗な黒髪ストレートのロングヘアを、後ろで1本にまとめた人物。
スラリと背が高く、他の騎士に比べると華奢に見えるその姿は、どこか女性らしさがあって……何だかとても美しい人物だった。
こんな綺麗な男子って、本当にいたんだな。
漫画やアニメの中にしかいないと思っていた。
ミオがすっかり見惚れていると、不意に目が合ってしまった。
焦るミオ。
そんなミオに向かって、その人物が歩み寄って来た。
ヤバいヤバい、どうしようどうしよう……
「あなたが、ミオ様ですか?」
「あ、えーと……様つけられるような人ではないですけど、私がミオです」
男子にしては声が高く、女子にしては低めの、何とも中世的な声の人物だ。
それにしても……あんなにガン見してしまって、めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど!?
「時々、食堂で団長達と一緒にいるところをお見かけしていましたが……思った以上に小柄で可愛らしいですね。羨ましいです」
「そ、そんなことは」
羨ましい?
この人、男子なのに小さくなりたいの?
ミオが戸惑っていると、目の前の人物がクスッと笑った。
「私、女子ですよ。ナターシャと言います」
「……え、女子なんですか!?」
なんと、超絶美形な男子かと思っていたら、女子だった。
「めちゃくちゃ綺麗な男子だなと思って、ガン見しちゃいましたよ……すみません」
「よく言われるので、気にしないで下さい」
「でも、嬉しいです!ここって女子が圧倒的に少ないというか……騎士団も魔導師団も女子いなかったんで」
「今年は騎士団に女子が3人入ったんですよ」
「本当ですか!?」
「1人は見回りに行っていますが……もう1人は……あ、あそこにいる騎士です。クリスティーヌ、ちょっと来て」
クリスティーヌと呼ばれた、明るめのブラウンで緩いウエーブがかったボブの人物が駆け寄って来た。
ナターシャは確実に170cmを超えてそうだけど、クリスティーヌも170cmはありそうに見える。
ナターシャよりもがっちりとした体型だ。
てゆーか……2人とも大きいな。
「何?この人は……あ、もしかしてミオ様?」
「そうだよ」
「あの……様つけなくていいですからね?」
「近くで見ると、本当に小さいんだな。男子どもが可愛がるわけだ」
「え、私……普通サイズだと思ってるんですけど?てゆーか、そんなマスコット的な扱いは受けていませんよ?」
「今度、もう1人を紹介しますね」
「ぜひ、お願いします!」
「まぁ、同じ女子同士、仲良くしような!」
「はい!」
新人騎士達の休憩が終わるらしく、2人は訓練へと戻って行った。
男子ばかりの職場に、女子が入って来るって……何て嬉しいことだろう!
きっと男子もこんな感じで嬉しいんだろうなと思ったミオだったけれど、それは違うと誰かがツッコミを入れそうだった。
ミオは何だか嬉しい気持ちで満たされながら、シャルルがいるであろう執務室に向かって歩いて行く。
すると、さっきシャルルが王宮に向かったと教えてくれた騎士が、今度は魔導師団の執務室に向かったことを教えてくれた。
どんだけ忙しいんだシャルルは……そんなことを思いながらミオが魔導師団の執務室に戻ると、ようやくシャルルに会うことが出来た。
「お疲れ様です。はい、これ。シャルルさんに渡すよう言われた書類です」
「すまないミオ、私を探していたのか?」
「師団長に直接渡すよう言われたので」
「何だ、シャルルの机にでも置いてくればよかっただろ?」
「えー、だって直接渡せって言ったじゃないですか……」
シャルルが、ソファーに座っていた位置を少しずらしてミオの手を引いたので、ミオが隣に座るとカミーユが「悪かったよ」と言いながら紅茶を入れてくれた。
「それよりも、師団長」
「何だ?」
「騎士団に、女子が3人も入ってましたよ!」
「そうなのか?」
「はい」
「そう言えば、そうだったな」
「めちゃくちゃ綺麗な男子がいるなってガン見してたら女子でした」
「そんなに綺麗な女子が入ったのか?」
「黒髪で凄く綺麗なストレートロングで、モデルさんみたいな人でしたよ!背も高かったですし……てゆーか、もう1人も背が高かったですけど、こっちの世界って背が高い女子多いですよね?」
「モデルが何なのかはわからんが、身長はお前が小さいだけだろう?」
「私は普通サイズですよ、普通サイズ!」
モデルはモデルだ、説明が出来ないから置いておこう。
何にせよ、女子が増えたことは嬉しい。
今度、街でお茶会でもしたいななどと思いながら、ミオはご機嫌に紅茶を口に運んだ。
「それにしても……女性騎士ってかっこいいですね!女子は女子用の剣とかあるんです?」
「いや、剣はどれも同じだよ。種類によっての重さの違いはあるけどな」
「え、あの重たい剣を振ってたんです?あの人達」
「私の剣よりは軽いと思うよ」
「何だよ、剣なんて持ったことがあるのか?ミオ」
「前にシャルルさんの剣を持たせてもらいました。凄く重くて、私には使えませんでしたよ……」
「シャルルの剣って、それか?」
「あぁ、これだよ」
「それじゃあ、ミオには重すぎるだろう。しかも、サイズ感がおかしいことになる」
「私、そこまで小さくないですからね?」
どれだけミオのことを小人扱いしてるんだ、カミーユは。
それにしても、やっぱり女性騎士は凄いと思う。
男子にも劣らずに、あれだけ剣を振ることが出来るんだから。
自分は魔導師として頑張ろう、改めてそう決意するミオだった。
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