47 顔出し水竜
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ルシヨット魔導国―――
国民の3分の2が魔導師であるこの国は、2年前まではとても平和な国だった。
2年前、前国王が殺され、現在の国王に代わってからというもの、国内でも争いが起こるようになり、他国との戦争も繰り広げられるようになった。
魔導師達は、戦いのための道具として戦場へと借り出される。
国王の命令は絶対だ。
命令に背けば……その命は簡単に奪われてしまう。
王宮の玉座に座る、ルシヨット魔導国国王・ガストビ。
ひじ掛けに肘を乗せて頬杖をつきながら、ガストビは部下を呼んだ。
「ペリグレット王国からの報告はまだないのか?」
「はい。2人とも海上で消息を絶ったようでして……近くにいた者達に、早急にペリグレット王国へと向かい、竜の調査をするように指示しておりますので、今しばらくお待ち頂けますでしょうか、陛下」
「急いでいるわけでもないからな。報告を待つとしよう」
ガストビは1枚の用紙を眺めた。
その用紙に書かれてあるのは、竜の噂。
ガストビが興味を示したのは、その中の2つの文章のみ。
竜の血を飲むと、永遠の命を手に入れられる
竜の牙は、魔力を増大する
ガストビは不敵な笑みを浮かべながら呟く。
「永遠の命と魔力の増大……この2つが手に入れば、私はこの世界の支配に1歩近づくことが出来る」
―――――――
―――――
―――
「ミオちゃん」
「何?ラウルさん」
「この王国の魔導師ってさぁ、昔はもっといたの?」
「うーん……私も詳しくはわからないけど、遥か昔にはたくさんいたらしいよ。ある日、魔女狩りで全滅したって書いてあった」
「書いてあった?文献かなんかに?」
「ううん、母の日記に」
「ミオちゃんのお母さんの日記?」
「うん」
「ふぅん、そうなんだ。でも、まぁ……全滅しちゃったんなら、魔導師が少なくても納得って感じかな」
「え、何で?」
ラウルの話では、両親が魔導師だと比較的魔力を持った子供が生まれやすいのだとか。
両親のどちらかが魔導師の場合は、魔力を持った子供が生まれてくる確率は激減して、両親が魔導師でない場合は奇跡に近いくらい確率が低くなるらしい。
「やっぱり、遺伝が関係してるんだ」
「いでん?何それ」
「えーと……遺伝子が…」
「いでんし?」
遺伝ってどう説明するんだ?
遺伝なんて一般的な言葉だったし、何となく理解していたから説明するってなると難しい。
「まぁ、親から能力とか特徴とか……何かを引き継ぐって感じかな?」
「この王国ではいでんって言うんだ?」
「あー、たぶん言わないから忘れていいよ」
「は?どういうこと?」
「まぁ、聞かなかったことにして」
「え、何で!?」
「てゆーか、両親が魔導師じゃなかった場合って、魔力持って生まれてくるの男子ばっかなの?」
「それは……ちょっと俺にもわからないかな。そう言えば、魔導師団ってミオちゃん意外男だね」
「うん」
今の状況だと、ペリグレット王国で魔導師が増えるには、相当長い年月がかかるのではないだろうか?
魔導師の学校なんて、ミオが生きている間に開校するのは無理なんじゃないかと思ってしまうミオだった。
ミオがラウルと話していると、騎士団の準備を手伝っていたコルトが駆け寄って来た。
「ミオちゃん、騎士団の準備が整ったよ。今日はよろしく」
「よろしくお願いします、コルトさん」
「いいなー。俺と代わってよ、コルト」
「それは……いくらラウルおう……ラウルさんの頼みでもちょっと…」
「ラウルさんは、ディナールさんと一緒にルヴィエ副団長と見回りでしょ?」
「そうだけどさー」
「ほら、そっちも準備整ったみたいだよ」
「仕方がないなぁ。それじゃあ、ミオちゃん気をつけて行ってきてね。コルト、ミオちゃんに何かしたら許さないからね!」
「何かって……何もしませんよ」
「それじゃあ、私達も行きましょうか、コルトさん」
今日は、ミオはコルトと一緒にシャルル達に同行して、ネーオールの森とその周辺の見回り、ラウルはディナールと一緒に副団長達と王都の北側、結界の近くまでの見回りだ。
それぞれの場所に向かって、王宮から出発する。
「魔導師団も少しずつ人が増えているな」
「はい、良いことですよ」
ミオはいつものようにシャルルの隣を飛び、コルトはミオの後ろを飛んだ。
こうして、ミオ達はネーオールの森へと到着し、軽く休憩を取ると森の見回りから始めることにした。
「では、ミオは私と一緒に前方に、コルトは後方についてもらっても良いか?」
「はい」
「了解です」
ネーオールの森はいつも通り穏やかな空間が広がっていて、時折吹いて来るそよ風に揺られると、ベルフラワーが優しい音色を響かせて、アロマフラワーが優しい香りを漂わせていた。
「あのベルフラワーとかアロマフラワーって、持って帰って部屋に飾れないんです?」
「どうだろうな?おそらく、難しいと思うが……」
「ですよね」
部屋に飾ったら癒されるんじゃないかと思ったけれど、植物ではなく魔物だ、プランターで栽培など無理な話だろう。
あ、テイム出来れば持って帰れるのか?
今度ラウルに頼んでみようかなと密かに考えるミオだった。
ミオは、ラウルが魔物を使って戦う姿を見て、自分にも教えて欲しいと頼んでみたけれど、テイマーになるにはそういう素質がないと難しいらしく、ミオには無理だということがわかった。
召喚術なら使えるようになるらしいけれど。
ミオ達が順調に森の中を進んで行くと、湖が見えてきた。
その中央に、何かが顔を出しているのが見えて、ミオは盛大にため息をつく。
「シャルルさん」
「どうした?……あぁ、やはり顔を出しているな」
「ちょっと行ってきますね」
ミオは箒に乗って湖の中央へと向かった。
湖の中央で顔を出していたのは水竜。
そんな水竜の姿を見つけたのは、ミオ達だけではなかった。
森を抜けるための道を歩いていた旅人が2人、湖の中央に何かが顔を出しているのを見つけて立ち止まった。
「おい、あれを見てみろ」
「何かが顔を出しているな……もしかして、竜か?」
「おそらくな……待て、誰か来たぞ」
「魔導師?……竜と話しているのか?」
「わからんが、これでこの王国に竜がいることはわかった。すぐに報告をするぞ」
「そうだな」
1人が木陰に身を潜めてクリスタルを取り出し、もう1人が周囲を見張る。
クリスタルに手を翳し、しばらくすると誰かの顔が映し出され、旅人はペリグレット王国に竜がいることを報告した。
クリスタルの向こうにいる人物は、報告を聞くと少し待てと言って席を外した。
しばらくして戻って来たその人物は、旅人に向かってこう指示を出した。
―――残り3体を早急に見つけて報告しろ
やり取りが終わると旅人はクリスタルをしまい、見張りの者に指示を伝える。
「とりあえず、王都に急ぐぞ」
「わかった」
―――――――
―――――
―――
「ミオちゃん!さっきのアレって……」
「アレ?……あー、あれは……水竜ですよ」
ネーオールの森の見回りをしながら小川まで進み、昼食のための準備に入ると、コルトがミオに駆け寄って来た。
「え、本当に竜がいたんだ?」
「まぁ……そうですね」
「でも、俺達が魔物を召喚した時は出て来なかったけど」
「あれくらいでは竜達は出てきませんよ。それに、今は危険だから顔を出さないようにって、水竜には言い聞かせておいたんですけどね……まったくもう」
「言い聞かせるって……え、ミオちゃんって竜と話せるの?」
「はい」
ミオが竜と話せることを知ると、皆決まってとても驚く。
まぁ、当たり前のことだけれど。
「だから、騎士団の皆はミオちゃんのこと『様』つけて呼ぶの?」
「違いますよ」
ミオ自身、『様』をつけて呼ばれるのはかなり抵抗があるのだけれど、第一騎士団ではこの呼び方が定着してしまっているため、変えるに変えられない。
「ミオちゃんって、実はとんでもなく凄い人だったりするのかな?」
「しませんよ。ただの魔導師です」
ミオはケラケラと笑いながら答えた。
今回は小川の傍での休憩のため、ミオが出来る水くみが必要ない。
いつも何も手伝うことがなくてとても申し訳なく思うのだが、今回も手伝いは断られてしまったため、騎士の皆さんが準備するのを眺めて待つ。
一度だけ、材料を切るのを手伝ったことがあるのだけれど……包丁の使い方がとても危なっかしくて皆を冷や冷やさせてしまったため、水くみ以外は手伝いが出来なくなってしまった。
ミオ的には何が危なっかしいのかがわからないのだけれど、母親にも何回も注意されたことがあるので、ミオの包丁の使い方には何かしらの問題があるのだろう。
「コルト、ちょっと手伝ってくれないか?」
「りょうかーい」
「私も……」
「ミオ様は何もしないで下さい!」
「ううぅ……」
包丁さえ使わなければ、そんなに皆を心配させることもないだろうに……酷すぎませんか?
ミオが眉尻を下げながら座ると、シャルルが笑いながら隣に座った。
「ミオはいったい、どんな風に材料を切ったんだ?」
「ふ、普通に切っただけですよ」
「ミオに怪我をされても困るから、こういうことは慣れている騎士達に任せておけばいいよ」
「……はい」
こうして、今日もとても美味しそうな昼食が出来上がり、お腹が満たされて幸せな気分に浸りながら、午後の見回りを開始した。
今日の見回りでは、特に気になることもなく王都へと戻ることになった。
顔を出すなと注意した後は、水竜も大人しく水の中に潜っており、水面から顔を覗かせることはなかったけれど……まさか、ミオが通っていない時に顔を出していたりしないわよね?
少し心配なところはあるけれど、ここでずっと見張っていることも出来ないので、水竜のことを信じるしかない。
こうして、何事もなく日々が過ぎていき、ペリグレット王国で問題が起きたのは、月が替わって11月の後半のことだった。
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