46 ラウルの過去
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「父上!!」
目の前に広がる真っ赤な血の海。
その中心に倒れているのは、ルシヨット魔導国国王。
そして、横たわる国王の傍に立ち、不敵な笑みを浮かべていたのは……ガストビだった。
「ガストビ!!……夢か」
呼吸を荒くして、額に汗をにじませながらベッドの上で飛び起きたラウル。
どうやら、夢を見ていたらしい。
深呼吸をして呼吸を落ち着かせ、手で額の汗をぬぐい、ベッドから降りて窓を開けると、外から入って来る風が、ラウルの心を落ち着かせていった。
ラウルは、椅子を窓際に運んで来て座り、窓枠に肘をつきながら夜空に瞬く星を眺めた。
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―――――
―――
「父上、魔導学校を首席で卒業出来ました!」
「そうか。さすがは私の息子だ。いずれは私の後を継いで、このルシヨット魔導国を任せることになるのだから、これからは国政についてもしっかりと学ぶのだぞ、ラウル」
「はい」
ラウル・ルシヨット、16歳。
ルシヨット魔導国第一王子であり、魔導学校を首席で卒業するほどの魔力と魔法能力を有する魔導師だ。
魔導学校を卒業し、これからは父親である国王の下で国政について学びながら、公務に就いていくことになる。
ルシヨット魔導国は、争いごとのない平和な国であり、他国との関係も良好で積極的に外交を行っていた国だった。
国民の3分の2は魔導師という特性を生かし、他国への魔導師の派遣も行っている。
魔物との共存をしていかなければならないこの世界で、魔導師の役割はとても大きなものとなっていた。
魔物の討伐は騎士でも出来るが、魔導師の力が必要となることは多い。
また、場合によっては結界が必要となるため、それは魔導師にしか出来ない仕事となる。
「ラウルよ、お前は視察団に同行し、友好国を回って現状や魔導師の働き具合などを調査して来るのだ」
「わかりました、父上」
「おそらく、半年から1年の長旅になるだろう」
「そのようなことは心得てますよ。第一王子として恥じぬ仕事をしてまいりますので、安心してお待ち下さい」
「頼んだぞ、ラウル」
父親の元で学び始めて半年ほど経った頃、ラウルはルシヨット魔導国第一王子として、友好国の視察団に同行することになった。
ルシヨット魔導国は平和な国であるとはいえ、魔導師も人間だ。
中には悪いことを企む者も少なからずいる。
残念ながら、派遣された先で隠れて悪事を働く者もいるのが現実だ。
そのような問題を露見させて解決することも、この視察団の役割である。
ラウルは優秀だった。
各国を回りながら様々な問題を解決に導き、悪事を働く魔導師達をあぶり出していった。
中には父親の助言を仰がなければならない問題も多くあり、ラウルは的確に判断しながら国王である父親とも連絡を取り合って対応していった。
こうして、ラウルが各国の視察を終えてルシヨット魔導国に戻って来たのは、間もなく1年が経過しようとしている頃だった。
「長旅、ご苦労だったな、ラウル」
「とても学ぶことが多い旅でしたよ、父上」
「しばらく休暇とする。のんびりと体を休めるのだぞ」
「ありがとうございます。ですが父上、その前にご報告があります」
ラウルは部屋の周りに結界を張り、周囲に会話が漏れないようにした。
父親の表情が硬いものに変わる。
「悪事を働いていた魔導師の中には、裏で繋がっている者もいるようでした」
「組織ぐるみで動いているということか」
「どれ程の規模の組織かはわかりませんが……取り仕切っているのは、ガストビという者のようです」
「……ガストビ……だと?」
「ご存じなのですか?」
「奴は……過去に派遣先の国で、禁忌魔法を使った。そして、その国を征服しようとしたため、魔力を封じた上で牢獄島へと流刑となった者だ。奴の思想は危険すぎる」
「牢獄島というと……刑期が終わるまでは外部との接触などは出来なかったはずでは?」
「そうだ。魔法結界によって厳重に管理されている」
「……一度、視察に行った方が良いかもしれませんね」
牢獄島とは、ルシヨット魔導国が所有する無人島に作られた牢獄であり、重犯罪を起こした魔導師や、国や世界を脅かす思想を持った者が送られる牢獄だ。
よほどのことがない限り、この牢獄に送られることはない。
そのため、ガストビがこの牢獄に送られた際には、他の収監者はいなかった。
厳重に魔法結界が張られているため監視などもおらず、1日1回食事を運んでくる者がいるのみで、ガストビは長い年月を1人で過ごしていた。
視察にはラウルが行くと言ったが、国王が向かうことになり、ラウルは休暇を与えられた。
自分も行くとラウルは食い下がったが、国王命令には逆らえず……
こうして、国王が牢獄島への視察に向かい、ラウルが落ち着かない気持ちで待っていると、視察から戻った国王から驚愕の事実を知らされた。
なんと、収監されているはずのガストビの姿がなくなっていたらしい。
魔法も使えないはずのガストビが、いったいどのようにして牢獄島から抜け出したのか……
ルシヨット魔導国全体での厳戒態勢がしかれることになった。
ガストビの姿が消えたことが発覚してから数カ月が経った。
いまだガストビの情報は何も得られずに、王宮内には張り詰めた空気が流れていた。
ガストビは国内に留まっているのか、それとも国外へと出たのか。
そんな中、ガストビと裏で繋がっていたと思われる者達が、地下牢からいなくなるという事件が起きた。
王宮の地下にある牢から姿を消したのだ。
見張りの魔導師と騎士がいた地下牢から、どうやって姿を消したのだろうか?
牢のカギが壊されたわけでもなく、壁が壊されたわけでもない。
「父上……これは、王宮内にガストビ側の者がいるということだと思いますが」
「……そう考えるのが妥当だろうな」
「どうしますか?王宮内の者に尋問を……」
「ここまで気づかれずに動ける者が、尋問などに屈するとは思えん」
「だったら、どうするんですか?」
「おそらく、ガストビの狙いはこの国だろう。この王宮は危険だ……ラウルよ、お前はリアムを連れて、地下の隠し通路を使って王宮から脱出するのだ」
「父上は?」
「王宮に罠を仕掛けたら、私もすぐに追いかける」
「それなら、私も一緒に罠を」
「いや、お前は先に行け」
こうして、ラウルは弟でこの国の第二王子であるリアムを連れて、王宮の地下に作られた王族のみが知る隠し通路を使って、王宮から抜け出した。
地下通路の出口は、誰も知らない王族の別荘へと向かう道の途中に繋がっていた。
ラウルはリアムとともに別荘へと逃げ込んだ。
窓から確認すると、今のところ追っ手はいないようだ。
こうして、日が暮れるまで父親のことを待っていたが、一向に父親の姿は見えて来ず……
「リアム、私は父上の元に向かう。お前はここに隠れていろ」
「兄様……必ず、戻って来て下さいね」
「大丈夫だ。必ず父上とともに戻って来る」
家中のカーテンが閉じられていることを確認し、ラウルは来る時に通って来た地下通路を使って王宮へと戻る。
途中で父親と遭遇しても良いはずなのだが……嫌な予感がしたラウルは、王宮へと急いだ。
王宮への扉が見えて来て、ラウルは警戒しながらゆっくりと扉を開けた。
近くには誰もいないようで、扉の向こうは静まり返っていた。
足音を立てないように注意しながら、ラウルは王室を目指す。
「……おかしいな……王宮内に人の気配がしない」
眉間にしわを寄せながら、ラウルは辺りの気配を探った。
見張りの者はどこに行った?
こんなに静かな王宮など、今まで見たことがない。
ラウルは自分に防御力強化魔法と魔力強化魔法をかけると、王室に向かって走り出した。
「父上!」
大声で父親を呼びながら王室のドアを開けると、中からの返事はなく、代わりに鉄臭い酷い臭いがラウルの鼻をついた。
何だ、この臭いは……
薄暗い部屋の中をライトニングを使って照らして見る。
すると、玉座の前に立っている人物が見えた。
父親か?
ゆっくりと近づいて行くと、足元に赤い液体が広がって来た。
これは……その液体を目で辿って行くと、そこに横たわる人物が。
「父上!!」
赤い液体は、父親から流れ出ている血液だった。
よく見ると、壁際には倒れている人達がたくさんいた。
壁にはべったりと赤い染みがついている。
いったい、何が起きているんだ?
ラウルの思考が停止していて、何も考えることが出来ない。
もう一度父親に目を向けると、すぐ傍に立っている人物がいることに気がついた。
部屋の入り口から見えた人影だ。
ゆっくりとその人物を見上げると、その人物は不敵な笑みを浮かべながらラウルを見ていた。
ラウルはガストビの顔を知らない。
でも、目の前に立つ人物がガストビだと、何故か確信を持ってそう理解した。
「ガストビ!!」
ラウルがガストビに向かってステッキを構えた時、足元に倒れていた父親がラウルに向かって叫んだ。
「何故、戻って来た!今すぐ逃げろ、ラウル!」
「しかし、父上!」
「こ奴と戦ってはいかん!すぐに逃げろ!」
その時、ガストビが動いた気配がしてラウルが目を向けると、ラウルに向かって大剣を振り下ろそうとしているところだった。
この距離では避けられない。
ラウルは防御態勢を取りながら目をギュッと閉じた。
……いつになっても大剣による衝撃が来ず、ラウルがゆっくりと目を開けると、そこは王宮の王室ではなく、地下通路から出た場所だった。
父親が、最後の力を振り絞ってラウルをこの場所に転送させたのだ。
国王である父親だけが使える転送魔法。
ラウルは、地面に拳を叩きつけて涙を流した。
その後、別荘に戻ったラウルは、リアムとともに身を潜めながら、ガストビから王宮を奪還する方法を考えた。
この時、ラウルが18歳でリアムは10歳。
他にラウル達の力になってくれる者などはいなかったため、王宮を奪還する方法など何も思いつかなかった。
とりあえず生き延びることだけを考えよう。
そうすれば、いつかこの国を奪還することが出来るだろう。
ラウルとリアムは、国内の町を転々としながらガストビの追っ手から身を隠していた。
そのうちに、国内では人々が争うようになっていった。
他国との戦争もしているらしく、攻め込まれて滅んでしまう町もあった。
ある日、ラウルが食料を調達しに行き戻って来ると、リアムの姿が消えていた。
慌てて外に飛び出したラウルは、ガストビの部下であろう魔導師達に取り囲まれた。
そして、リーダーと思われる人物によって放り投げられたのは……胸から血を流して絶命しているリアムだった。
そこからの記憶は曖昧だった。
魔法でガストビの部下達を攻撃したことは覚えているが、そこからどうやって移動してきて船に乗ったのかは覚えていない。
ラウルは傷だらけだった。
孤独だった。
誰も信用できなかった。
もう、ルシヨット魔導国にはいられない。
そうだ……竜の噂を聞いたことがある。
竜の血は永遠の命を得られる……もしかしたら、父親やリアムを生き返らせることが出来るかもしれない。
確か、どこかに竜に守られた王国があると聞いたことがある。
その王国を目指そう……
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「待ってろよ、ガストビ。いつか絶対に国を奪還する」
おそらく、ガストビはペリグレット王国の竜を狙って来るはずだ。
部下だけで攻撃を仕掛けて来るとは考えられない。
必ずガストビも姿を現すはずだ。
ラウルは、ガストビを倒すことを胸に誓い、ひときわ輝いている星を見上げた。
「見ていて下さい父上、リアム。あなた達の仇であるガストビは、私の手で倒してみせますから」
ラウルは窓を閉めると、ベッドに寝転がり静かに目を閉じた。
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