05 魔法と筋トレ
毎回確認はしてるんですけど、投稿したものを読み返すとちょこちょこ修正がありますね;
読みやすい小説目指して頑張ります!
のんびりとお楽しみくださいませ♪
―――5月15日
ようやく箒に乗ることが出来た!
まだまだ操作が難しいけれど…頑張ろう
それと、回復魔法が使えるみたい
箒の練習で擦り傷だらけになるから、試しにヒールを使ってみたら、ほんの少しだけど傷が治った(ように見えた)
練習したら、回復魔法もいける気がする
それにしても……私が憧れていた異世界となんか違う!
異世界ってこう……チート能力で私強い的なイメージだったから、現実は厳しいなぁ
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―――――
―――
「よし、今日こそは箒に乗るぞ!」
本日も、魔法の訓練に励むミオ。
訓練場には他に2人の魔導師が来ていて、それぞれが自分の魔法レベルを上げるため練習に励んでいる。
そういえば……この世界にはステータスというものはないのだろうか?
「ここではステータスってどうやって見るんですか?」
「ステータス?何だそれ?」
「初めて聞く言葉だな」
「そ、そうなんですね」
どうやらステータスというものは存在しないらしい。
やっぱり小説やアニメなんかの異世界とは違うようだ。
さて、今日はどうやって箒に挑もうか。
ミオは、とりあえず魔法操作の練習から始めようと光の玉を出して動かしてみる。
そこに、アルバンがやって来た。
「おはよう、ミオ」
「あ、おはようアル君。今日は学校お休みなの?」
「違うよ」
アルバンがミオにかがむようにと言うように手招きした。
「ん?どうしたの?」
「ミオの顔に……」
「え、なんかついてるの?」
言葉を詰まらせるアルバンに、ミオは慌てて顔に手を当てた。
虫とかついてたらどうしよう!?
想像しただけで血の気が引いていきそうだ。
そんなミオの顔にアルバンが手を伸ばしてきて…
「ミオの顔には可愛いがたくさんついてるよ!チュッ」
「……っ!?」
ミオの頬に両手を当てながら、アルバンは額にキスをして走り去って行った。
遠くで立ち止まり、ミオに向かって手を振りながら大声で叫ぶ。
「僕はミオの顔を見ないと学校に行けないんだよ!じゃあね、行ってきまーす!」
この世界の子供って……
「うーん……魔力をこうして形にすることは出来るんだけどな…これをどうやって箒に移すんだろ?」
光の玉を浮遊させて操りながら、いまだに操作できないでいる箒をジーッと見つめた。
そして、光の玉が箒に触れた瞬間、光の玉は箒に吸い込まれるように消え、箒が光を放った。
「え……」
光は徐々に消えていき、いつもの箒に戻ったけれど……箒に魔力が宿った…気がする。
試しに、箒を手に取って、光の玉を浮かせるイメージで魔力を操作してみた。
すると、箒が浮かび上がり、ミオは慌てて両手で箒にぶら下がった。
「おぉーっ!?」
両脚が地面から離れて、ミオの体が箒とともに宙に浮く。
これは……もしかして出来たんじゃないですか?
でも、ここで問題が生じた。
「……あ、握力が…もた………わっ!?」
ぶら下がっている自分の全体重を支えるのに、ミオの握力は耐え切れず。
箒を地上に降ろそうにも、つかまっているのがやっとで魔力操作なんてする余裕もなく、虚しくも手は箒から離れてミオの体は地面に落下した。
「痛たたたた……」
近くで訓練していた魔導師が、慌てて駆け寄ってくる。
「大丈夫か!?」
「わぁ、擦りむいてるじゃないか」
「だ、大丈夫ですよこれくらい……もっかいやってみます」
ミオは立ち上がると、近くに落ちた箒を拾って気持ちを落ち着かせた。
そして、意識を集中させるとさっきと同じように箒の魔力を操作する。
箒とともにミオの体は宙に浮き……落下する。
そういえば、高校の頃に部活には入っていたけれど、途中でやめてそれからは運動なんてほとんどしてなかったな……ヤバイ、筋トレからやらないと!
座って浮上させてみたけれど、上手く浮き上がることもできず、浮き上がってもくるりと回って落ちてしまうため今日はおしまいにすることにした。
筋トレかぁ……腕立てくらいしか腕を鍛える筋トレ知らないな。
そう思いながら携帯を取り出して、検索画面で文字を打ち込んで動きを止めた。
………検索できなかったね、そういえば
「……大丈夫か?」
「と、とりあえず傷を治そうか」
回復魔法を使える魔導師が、ミオの傷を治してくれた。
やっぱり回復魔法が使えるって便利よね……ミオは今度試してみようと思った。
―――――――
―――――
―――
「腕と握力の鍛え方?」
「はい」
「どっかにぶら下がっときゃ鍛えられるぞ」
「……なるほど」
ミオは昼食を食べながら、腕力と握力の鍛え方についてカミーユに相談してみたけれど……どこにぶら下がるんだ?
あ、箒にぶら下がればいいのか。
「何でまた鍛えたくなったんだ?」
「腕力と握力のなさを痛感したので」
「まぁ、力はなさそうだけどな。でも、魔法使うのに力なんかいらないだろ?」
「箒を扱うには腕力と握力、それに体幹を鍛えるのが必須ですよ、絶対に」
「お前……箒を操れるようになったのか?」
「さっき浮き上がりました」
「これ食べたら見せてみろ」
「はい」
こうして昼食を食べ終えると、ミオはカミーユと一緒に訓練場へと向かい、箒につかまって浮上して見せた。
そして案の定すぐに落下してしまいカミーユを驚かせてしまった。
「何で手を離すんだよ!危ないだろうが!」
「えーと……あれがつかまっていられる限界なんですよ…」
「あー、だから鍛えたかったのか」
「はい」
今回はカミーユが抱きとめてくれたためケガはしないですんだけれど……落下してきた人を抱きとめるなんて、アニメやドラマの世界でしかないと思っていたから驚いた。
「座ったまま浮き上がればいいだろ?」
「それも体幹鍛えないと難しかったです」
「は?」
今度は座ったまま浮上して、体勢を整えられずに背中から落下してカミーユを驚かせた。
「どんだけ筋力ないんだ?ミオは…」
「…あはは」
まさかこんなに筋力が衰えているとは思わなかったから、ミオ自身とても驚いている。
人間、筋力を鍛えるのは努力が必要だけれど、筋力を衰えさせるのはとても簡単なんだと思い知らされた瞬間だった。
とりあえず今日は腕を鍛えることに集中することにした。
ただぶら下がっているのも退屈なので、ぶら下がりながら多少箒を移動させてみたりしていたので、箒からの落下は絶えず、ミオはあちこち擦りむくことに。
試しにヒールを使ってみたら、何となく傷が癒えたのでヒールの練習も追加することにした。
こうして翌日―――
「ううぅ………体中痛くて動けない…」
とんでもない筋肉痛に見舞われて、本日の訓練はお休みとなった。
そんな訳でミオはカミーユに案内してもらい、王宮の中にある図書室へと足を運んだ。
魔法についてもっと詳しく調べるのと、母親が物語として聞かせてくれた竜についてもっと詳しく知るために。
物語の中では、4体の竜が王国を守っていた。
カミーユに確認したところ、この王国の周りには4体の竜がいるらしい。
東の森(メーヌの森)には風竜、西の火山(タルブ火山)には炎竜、南の森(ネーオールの森)には水竜、北の雪原(モンルトワ大雪原)には氷竜。
ミオがこちらの世界に来た時に操られていたのは、ネーオールの森の水竜。
ふだんは森の中の湖の中で過ごしているらしい。
4体の竜たちが姿を現すのは、王国に危険が迫っている時だと見つけた本には書いてある。
てゆーか、普通に文字が読めるんだから、やっぱり異世界って凄いなと思う。
それにしても……
「お母さんが話してくれた物語は……ここにはないのかな?どうせなら書き残しておいてくれたら良かったのに。私の記憶だけじゃ間違ってるところもあるかもしれないし…」
残念ながら、母親が書き残した物語や、他の誰かが書き残した文書などは見つけることが出来なかった。
母親は伝説の魔導師として名前が語り継がれているけれど、この王国が滅ぼうとした出来事は語り継がれていないんだろうか?
母親の日記にも物語は書かれていなさそうだったので、今度記憶をたどって書き出してみようと思うミオだった。
次に魔法陣について調べてみた。
竜を操る魔法陣の文献は見当たらないため、一般的な魔法陣の本や、もっと高度な魔法についての本を探した。
想像はしていたけれど……ちょっと理解に苦しむ。
初心者にもわかりやすく書いていただきたいものだ。
見つけた本を読んでいき、何冊目かの高度な魔法陣の本の中で、禁忌とされる人を操る魔法について書いてあるのを見つけた。
人を操るのに必要なものは、操ろうとしている人の髪の毛、爪、血液、黒曜石(オブシディアン)。
この4つを魔法で融合させて魔法陣の核となるものを4つ作り、描かれた4つの魔法陣それぞれの中心に埋め込むことで、魔法陣で囲まれた内側でのみその人を操れるらしい。
禁忌魔法とされているためか、魔法陣の描き方や魔法陣の核を作るための魔法については書かれていなかった。
「……いろんな意味で禁忌とされるのはわかる気がする」
母親の物語に出てきた黒ローブたちは、この魔法を使って竜を操ったんだろうか?
禁忌魔法とされているけれど、魔法自体は存在するということだし、きっと調べていけば詳しい方法もわかるはずだ。
悪いことする人達って……こういうのを調べる能力値は高いものね。
………あれ?
ミオがこちらの世界に来た時、水竜が操られていてそれを解除する魔法を使った。
そして、森を抜けて来る時に魔法陣を消してきた。
「魔法陣に石なんて埋め込まれていたかなぁ…」
不完全な魔法陣だったのだろうか?
母親の物語では、魔法陣を破壊するかなんかしてからじゃないと、解除魔法が効かなかったけれど、ミオが解除魔法を使ったのは魔法陣を消す前。
完成された魔法陣ではなかったと考えられる。
「でも……魔法陣1つしか消してないんだよね…」
とりあえず水竜は元に戻ったわけだし、今のところは良しとしよう。
ここでわかることは、黒ローブのような人達がいて、竜を操ろうとしているかもしれないということだ。
まさかあからさまに黒ローブなんか纏って「自分、怪しい者です」みたいなことはしないだろうから、物語とは違って怪しい人達を見つけるのは難しいかもしれない。
でも、一応カミーユに報告してみようと思い、ミオは読んでいたたくさんの本を本棚へと戻し、図書室を後にした。
―――――――
―――――
―――
「ミオの母親の物語では、その黒ローブが竜を操っていたってことか」
「はい」
「で、ミオがこっちに来た時に水竜が操られていて、近くに魔法陣があったから、黒ローブみたいな奴らがいると」
「たぶん……ですけど」
「いったいどんな物語なんだ?」
「えーと……ざっくり言うと……悪い黒ローブに滅ぼされそうになっていた王国だったけれど、1人の魔導師によって操られていた竜達が救われて、王国は守られました。そんな感じの物語でした」
「……ザックリだな」
「ですね。てゆーか、物語は残っていないんです?図書室では見つからなかったんですけど」
「残ってない。俺も知らない物語だしな」
「この王国の話なのにですか?」
「全て知っているミオの母親が残していかなかったらしいからな」
「……何か……すみません」
母親は何でこんなに大切な物語を書き残さなかったのだろう?
それはいくら娘のミオでも、理由は全くわからなかった。
「近いうちに、お母さんに聞いた物語を思い出しながら書き出してみます」
「そうか?よろしく頼む。黒ローブのような不審者については、警戒するようにシャルルにも伝えておくよ」
「はい、ありがとうございます」
ミオは執務室を出ると、自分の部屋へと向かった。
途中、昼食がまだだったことを思い出し食堂に寄ってみたけれど……とっくに昼食の時間は過ぎていたようで、キレイに片づけられていて心の中で涙を流した。
そんなミオに気がついた食堂のおばちゃん・スージーが、笑いながら余っている食材で簡単なご飯を作ってくれたのは、本当に涙が出るほど嬉しかった。
「ありがとうございます、スージーさん!」
「あんた、よく食事の時間忘れるからねぇ。熱心なのもいいけど、しっかり食べないと!」
「はい……気をつけます」
皆、どうやって時間を把握してるんだろう?
時計とか見たことないんですけど…
昼食を食べ得た後は、部屋に戻って筋肉痛の体を労わるように、久しぶりにヨガで身体を整えてみた。
「さっぱりした~。これでシャワーがあったら良かったのになぁ…あとドライヤー。髪の毛がパサパサになってきたよ……うーん…」
こちらの世界……少なくともぺリグレット王国では、お風呂はあってもシャワーというものが存在しない。
もちろんドライヤーもない。
自然乾燥だと髪の毛が傷むのよ…
ミオは廊下の窓から星空を眺めながらぼんやりと考え事をしていた。
そして、他の魔導師達がお風呂に入ろうとミオの後ろを通りかかった時。
「あ!」
「うわっ!?どうした!?」
「え?……あ、ごめんなさい」
「何かあったの?」
「急に声出したら驚くだろうが」
「す、すみません……その…こっちってドライヤーがなくてだんだん髪の毛が傷んできたから、何かいい方法がないかなと思って考えていたら、何とかなりそうだったのでつい…」
「……ちょっと意味がよくわからないけど」
「どういうことだ?」
「髪の毛って、濡れたままだと水を吸い過ぎて傷んじゃうんですよ。だから、お風呂の後は乾かした方がいいんです」
「髪の毛が傷む?」
「はい、パッサパサになります」
「あんまり気にしたことないけどな」
まぁ、そうだろう。
元々ドライヤーなんて存在しない場所で、乾かさないと髪の毛が傷むという感覚なんてわからなくて当然だ。
ミオは、自分の濡れた髪の毛に手を翳して、水滴を集めるように意識を集中させた。
すると、髪の毛に付着した水分が水滴となって、髪の毛からスーッと手のひらに吸い寄せられるように集まって来て、水の塊となった。
「できた!」
「「おお!」」
3回くらい繰り返すと、ミオの髪の毛は良い感じに乾いた。
これは使える!
髪の毛から取り除いた水の塊は窓の外に。
「魔法って便利ですね!」
「凄いなミオ」
「俺達も後でやってみようぜ」
これでドライヤー問題は解決した。
シャワーは……まぁ、なくてもそんなに困らないか。
そしてこの方法は、翌日の洗濯でも大いに力を発揮した。
乾燥機要らずだ、これは大発見!
―――――――
―――――
―――
訓練場の上空で、ゆらゆらと移動する箒。
その上に座っているのはミオ。
コツさえつかめば、何とか箒に座っていることもそんなに難しいことではないことがわかった。
でも、やっぱりバランスを保つのには苦労する。
鉄棒に座る、箒に座るのってそんな感じ。
「これ……長時間座ってたらお尻が耐えらんなくない?」
鉄棒よりは太いとはいえ、箒の柄は硬いので決して乗り心地はいいとは言えない。
今は操作したり体勢を保つのに必死だから、きっと余計な力とか入っているんだろう。
慣れてきたらここまで大変じゃないのかもしれない。
「わっ!」
そして、落ちる回数は減ってきたとはいえ、まだまだ落下することは多く傷が絶えないのは変わらない。
まぁ、ヒールの練習にもなるしポジティブに捉えていこう。
ミオが擦りむいたところをヒールで治していると、シャルルが血相を変えながら駆け寄ってきた。
「ミオ!」
「え?……あ、パトリエール団長。おはようございます」
「ケガは!?」
シャルルの焦りように驚くミオ。
どうやら、ミオが箒から落下したのを見て慌てて走って来たらしい。
「これくらい大丈夫ですよ。ヒールの練習にもなりますし」
「回復魔法が……使えるようになったのか?」
「はい。まだまだ回復力が弱いですけど」
「それは凄いことだな。それにしても、随分な高さから落ちていたから、俺は血の気が引いたよ」
「す、すみません!ご心配をおかけしてしまって……でも、だいぶ落ちる回数は減ったんですよ?」
「……そんなに落ちてるのか?」
とても心配そうにミオを見つめるシャルルに、ミオはとても申し訳ない気持ちになった。
「えーと……師団長にご用ですか?」
「ああ、そうなんだが……ミオのことも気になったから訓練場に来てみたんだ。男ばかりだろう?何か困っていないかと思って」
「あ、そういえばそうですね。食堂のスージーさん以外、女性の方を見たことがありませんでした。でも、ここの皆さんはとても優しいし話しやすいし、今のところ大丈夫ですよ」
ニッコリと笑って答えるミオに、シャルルは安心したように微笑んだ。
「それにしても……やはりミオがケガをするのは…」
「これくらいは大丈夫なので、そんなに心配しないでください。こっちにはヒールなんて便利な魔法もありますし」
「…心配はするよ。それよりも……これ、使ってくれているんだな」
シャルルがミオの髪の毛を結んでいるシュシュに手を伸ばした。
「それはもう、大切に使わせていただいてます!」
「ふふ、それは良かった」
「本当にありがとうございます」
「……それでは、私はカミーユの所に行ってくるよ。ミオはあまり無理をしないように」
「はい」
カミーユの所に向かったシャルルを見送り、ミオは練習を再開した。
―――5月17日
だいぶ箒の扱いにも慣れてきたけれど、まだまだ落ちてしまう。
まぁでも、ヒールの練習もできるし良しとしよう!
パトリエール団長が血相を変えて走って来たのには驚いた。
心配させてしまってとても申し訳なく思う。
でも……私は魔導師だ。いつか魔物とも戦うことになるだろうし、ケガくらいすると思う。
それにしてもどうしよう…
第一騎士団の調査に同行することになった!
出発は明々後日
私なんかで大丈夫なのか心配だけれど、とりあえず少しでも箒とか魔法が上達できるよう、出発まで練習を頑張ろう!
今日、シャルルがカミーユの所に向かった後、ミオは執務室に呼ばれた。
そこでカミーユに言われたのが、第一騎士団の調査への同行だ。
討伐ではなくて調査だから問題はないと言われた。
シャルルもミオが同行することを望んでいたらしい。
とても不安ではあるけれど、いつかはこうして騎士団とともに現場に向かうわけだから、経験は必要だ。
精一杯頑張ろうと思うミオだった。
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