41 ルシヨット魔導国からの訪問者
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「竜は出て来なかったな」
「本当にこの王国は竜に守られているのか?」
ペリグレット王国の王都・モンフォワールにある宿屋の部屋から、街を見下ろしながら話している2人の旅人。
「魔導師も少なかったし、能力もそこまで高いとは言えなかったな。あれじゃ竜を守るなんて無理だろ」
「王様が言ってた話もなー、どこまでが本当の話かわからないしな」
「あれだろ?竜の血が不死になれるとか、竜の牙で魔力が上がるとかいうヤツ。それが本当なら、今頃どこかに不死身な奴がいるってことだ。そんな話聞いたこともないし、真実とは思えん」
「あの王様になってから、戦争は絶えないし、魔導師の中でも序列争いが激しくなったし、やってらんねーよ」
「お前、そんな話国王の耳に入ったら殺されるぞ」
「この王国はルシヨットからはかなり離れてるんだし、大丈夫だって。このまま移住してしまおうかって考えてしまうよ」
「確かにな……」
2人の旅人は、盛大にため息をつきながら窓から街を眺めた。
もうすぐ収穫祭のため、街はジャック・オー・ランタンやかぼちゃの置物、オブジェなどで賑やかに飾りつけされていた。
「もうすぐ収穫祭らしいぞ、この王国」
「本当に移住してしまいたい」
「とりあえず……収穫祭は見ていこうか」
「それはいい考えだ」
―――――――
―――――
―――
「すまん、ミオ」
「何ですか?師団長」
「……お前、シャルルのことは名前で呼ぶようになったのに、俺はいつになったら名前で呼ばれるんだ?」
「師団長は……師団長ですよ」
「何でだよ!」
何でだよと言われても……逆に、何で呼び方にこだわるのかを聞きたい。
先日、舞踏会に招待されて出かけた際に、シャルルのことを名前で呼ぶようになり、王宮ではパトリエール団長と呼ぶつもりが、つい名前で呼んでしまい……呼び方って、慣れるとなかなか変えにくいものなのだ。
シャルルが笑いながら、そのままの呼び方にして欲しいと言うので、ミオはシャルルさんと呼ぶようになった。
カミーユに散々文句を言われたけれど、自分の上司でもある人物を名前で呼ぶには抵抗があるので師団長のままだ。
「まぁ、いい。それより、パトリックの所に行って薬草を買ってきてもらいたいんだが」
「いいですよ」
「悪いな。こないだの魔物騒動でポーションが底をついてしまうわ、魔導師は魔力切れだわで大変なんだ」
「そうですよね。大丈夫ですよ、私が買ってきますから」
「それにしても、ミオは1人でよくサンドワーム3体も倒したな。今回は魔力切れで寝込んだりもしなかったし」
「このステッキのおかげですよ。あとは、魔力強化の魔法も自分にかけましたし」
「魔力強化か……今のところ、お前とラウルしか使えないからな。魔導師の鍛え方も考えて行かないとだ……いつになったら課題が減るんだよ、魔導師団は」
「うーん……難しい問題ですね」
ルシヨット魔導国からでも引き抜いてこない限り、この王国の魔導師団の課題はなくならなそうだと思うミオだった。
「と、とりあえず……薬草買いに行ってくるのでリストください」
「この薬草だ。運ぶのが厳しそうならパトリックに運んでもらえ」
「わかりました」
ミオは一度部屋に戻って出かける準備を整えると、街へと出かけて行った。
「わぁー、凄い、ハロウィンだ!」
収穫祭の飾り物で街全体がハロウィンのようになっていて、歩いているだけでウキウキしてしまう。
2日後には収穫祭が始まるのだから当然だ。
町や村によって収穫祭の内容は違うらしいので、どんな祭りなのかとても楽しみだ。
「そういえば、シャルルさん……どこのお祭りに連れてってくれるんだろう?」
ミオは、シャルルが前に言ってくれたことを思い出しながら、何だかドキドキしてしまい、何やってるんだろう自分……と頭を振って薬草屋へと向かった。
それにしても、何故ハロウィンの飾りってこんなに可愛いものが多いのだろうか?
元の世界でも、ハロウィンの季節になると可愛い小物がたくさん雑貨屋に並んでいたし、こちらの世界でも同じように、街には可愛いものが溢れていた。
いつも行く雑貨屋では、かぼちゃの馬車に乗ったウサギの置物がディスプレイされていて、ミオの目を釘付けにした。
か……可愛い!可愛すぎる!
「……いけないいけない、今日は遊びに来たんじゃなくて、仕事だった。薬草を買いに来たんだ」
しばらくの間ウサギの置物を見ていたミオだったけれど、ハッとして頭を振って気持ちを切り替えて、薬草屋に向かった。
そんなミオの姿を見ていた2人組の男性。
彼らは、この街の宿屋に泊っている旅人だ。
たまたま通りかかった路地で、ショーウィンドーを見ているミオを見かけたのだ。
「あの子……魔導師かな」
「どうだろうな、魔力は高そうだが。それより……何が飾ってあるんだ?食い入るように見てるが…」
「声かけてみようか。可愛いし」
「やめておけ。怪しまれるぞ」
「普通に話しかければ、何も怪しいことなんかないだろ?」
「おいっ!?」
旅人の1人が、ミオに駆け寄って話しかけた。
「ねぇ、君。何見てたの?」
「えっ!?」
「あ、別に怪しい者じゃないからね?俺達はただの旅人で、そこの宿屋に泊ってるんだ。明後日の収穫祭を見ていこうかなと思って。で、今日は街をブラブラしてたんだけどさ、たまたま通りかかったら、食い入るようにあそこで見てる君に遭遇したっていうわけ。何を見てたのか気になってさ」
ミオは、雑貨屋でウサギの置物を見ていたのを見られていたことに気がつき、恥ずかしさで顔が赤くなってしまった。
あんなところを見られてしまうなんて……
「え、えーと……飾ってあった置物が可愛くて、つい…」
「そうなんだ」
「オイ、そろそろ行くぞ」
「あー、コイツは俺の連れなんだ。顔は怖いけどいい奴だから」
「顔が怖いとは何だ。俺に対して失礼だろうが」
「まぁまぁ。あ、そうだ。明後日の収穫祭ってどんな感じなのかな?俺達初めてだからわかんないんだよね」
「す、すみません。私も初めてなのでちょっと……」
「あ、そうなんだ。あれ、もしかして君も、祭りに参加したくて遊びに来た感じ?」
「いえ、私は仕事でお買い物に……」
「え、仕事中だったんだ?ごめんね、仕事の邪魔しちゃって。じゃあ、お仕事頑張ってね」
「……失礼します」
ミオは2人に向かって頭を下げると、薬草屋へと入って行った。
ナンパでもなさそうだし、しつこくもなかったので、話していた通り収穫祭を楽しみにしている旅人なんだろうと思った。
「ミオちゃん、いらっしゃーい」
「こんにちは、パトリックさん。薬草を買いに来ました」
ミオは、カミーユに預かった薬草のメモをパトリックに渡した。
「はぁ?カミーユの奴、またこんな量をミオちゃんに持たせようとしてるのか?」
「あ、いえ。持てなそうならパトリックさんに運んでもらえと」
「カミーユの頼みなら運んでやらないけど、ミオちゃんのためなら喜んで運ぶよ!薬草を用意するから、ミオちゃんはそこでお茶でも飲んで待ってて」
パトリックがアップルティーを出してくれて、ミオは飲みながら待つことにした。
とても香りの良いアップルティーで、りんごの酸味と甘みが丁度よいバランスの紅茶だった。
「このアップルティー、とても美味しいですね。今度買いに来ようかな」
「今度?今日あげるけど」
「今は仕事中なので、今度休みの日にでも買いに来ますよ」
「真面目だな、ミオちゃんは。いいよ、1袋プレゼントするから」
「いやいや、それは悪いので」
「いいからいいから」
話をしながらパトリックが用意した薬草の量は、とんでもない量だった。
持てなかったらって……持てるわけないわよね、こんな量の薬草。
「店の前に馬車を回してくるから待ってて」
「はい、すみません」
「俺の仕事なんだから、ミオちゃんが謝る必要はないよ」
パトリックが馬車を移動させてくると、一緒に荷台に薬草を運んだ。
そんなミオの姿を、さっきの旅人達が近くで見ていた。
「凄い量の薬草を買ってるな。あれは……ポーションの材料か」
「やっぱり魔導師だよね、あの子。こないだの魔物の討伐にはいなかったと思うけど」
「港町の方にいたかもしれないだろう?」
「まぁ、そうだな」
「魔導師だったらどうだというんだ?」
「んー?いや、俺がこの王国に移住したら仲良くなれるかなと思って」
「移住の話、本気だったのか!?」
「あの子見たら本気になった」
「あのな……」
「でもさ、正直なところ……ルシヨット魔導国で暮らすより、この王国で暮らした方が楽しいと思わないか?」
「……そんなのがバレてみろ。俺達は殺されてしまうぞ」
「あーあ、何とかバレずに移住できないもんかねー」
そんなことを話しながら見ている2人の旅人の耳に、「王宮まで行ってくるから店をよろしく」と従業員に伝えているパトリックの声が聞こえてきた。
「あの店主、王宮に行くって言ってたな」
「ということは……やっぱりあの子は、魔導師団の魔導師か」
「仲良くなっておけば、移住したら働き口もあるかもしれないぞ」
「まだ言ってんのか、お前……」
2人の魔導師は、走り去って行く馬車を無言で見送り、空を見上げた。
そして、本当かもわからない噂のために自分達がやっていることが、非常に意味のないことであり、この王国に意味のない被害をもたらしてしまったと、心の中で深く謝罪していた。
この2人の旅人は、ルシヨット魔導国国王の命令によって、竜に守られている王国・ペリグレット王国のことを調べに来た者達だった。
―――――――
―――――
―――
「オイ、カミーユ!お前は何でミオちゃんにこんな量の薬草を持って帰らそうとするんだ!?馬鹿だろ、お前!」
「どうせパトリックが運ぶんだし、いいだろうが。それより、馬鹿とは何だ、馬鹿とは」
「あはは……」
王宮まで薬草を運んでくれたパトリックは、ミオと一緒にカミーユの所に向かい、執務室に入ると同時にカミーユに文句を言った。
まぁ、想定内の会話だったけれど。
「まぁ、薬草を運んでくれたお礼だ。昼飯食わせてやる」
「お、いいのか?」
「ミオも行くぞ」
「はい」
珍しく、カミーユがパトリックにご馳走するのかと思いきや……
「食堂じゃねーかよ!」
「誰も奢るだなどとは言ってないだろうが。昼飯を食わせてやると言ったんだ、俺は」
「まぁ、ミオちゃんと食べられてるからいいけどさぁ」
カミーユがパトリックを連れて行ったのは、騎士団と魔導師団の食堂だった。
パトリックは嬉しそうに食べていたし、ご褒美としては正解だったのかもしれない。
ルシヨット魔導国―――
国王の命令によって、竜に守られる王国のことを調べに来た旅人達は、今後どのようにしてペリグレット王国に関わってくるのだろうか?
そして、ルシヨット魔導国はペリグレット王国をどうしようとしているのか……
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お読みいただきありがとうございました!




