38 舞踏会
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パトリエール邸で、舞踏会が開催される。
2階のホールには、テーブルの上にたくさんの料理が並び、多くの招待客が集まっていた。
「そろそろ会場に行こうか、ミオ」
「……はい」
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
「それは……ムリです」
シャルルがクスッと笑いながら、ミオの前に肘を曲げて腕を出した。
ん?これは……ミオがシャルルを見上げると、どうやら腕を絡ませろということらしかった。
ドキドキしながら腕に自分の手を回すミオ。
緊張しすぎてめまいがしてきそうだった。
シャルルと反対側に、シルヴィーが立った。
「ミオちゃん、私とも腕を組んでくれないか?」
「え?」
「シルヴィー兄さんは、ちゃんと前を歩いて下さい」
「ジェラールもシャルルも相手がいるのに、私だけ1人なんて寂しいだろう?」
「そのようなことを言われても」
ミオとシャルルの前には、ジェラールと奥さんが腕を組んで立っている。
ジェラールの妻・ケイトは、スラリと背が高くてモデルのようなキリリとした女性だった。
ドレス姿がとても様になっていて羨ましい。
「ほら、入りますから前に行って下さい兄さん」
「ミオちゃん、魔法でミオちゃんをもう1人」
「それは……ちょっとムリですね」
「はぁ……仕方がない。サクッと入ってしまおう」
ようやく、シルヴィーは諦めてシャルルの両親の後ろに戻って行った。
ミオとシャルルは顔を見合わせて苦笑いした。
「ミオ、入ったらまず軽く会釈して奥に進むから」
「は、はい」
さっきエミリーに教えてもらったカーテシーをするんだな。
簡単そうに見えて、案外バランスを崩しやすくて難しかった。
頑張ろう……
こうして会場に入ると、とてもたくさんの人が集まっていて驚いた。
凄いな、舞踏会って。
思わずシャルルの腕にギュッとつかまってしまったミオだったけれど、大丈夫だっただろうか?
会場の皆の視線を集めながら進んで行き、立ち位置なのであろう場所で立ち止まると、カルロスが招待客に向かって挨拶を始めた。
「ミオ」
「……はい?」
「もう、腕を離しても大丈夫だよ?」
「す、すみません」
気がつけばシャルルの腕にしがみついたままだった。
慌てて腕を離すと、シャルルが笑いながら耳元で囁いた。
「私は、あのままでも良かったけどな」
「え?」
最近、シャルルにドキドキさせられることが増えているのは気のせいだろうか?
何か狙ってやってませんか、この人。
それにしても……舞踏会など参加したことも見たこともなかったけれど、何となくお見合いの場的なイメージもあった。
でも、この舞踏会は貴族同士の親交を深めたり、お互いに近況を報告し合うなどするようで、そんなに堅苦しいものでも形式ばったものでもないようだった。
もちろん、お見合いの要素はなくもないらしいけれど。
この世界では、女性から男性を誘うことはタブーとはされていないため、毎年この舞踏会ではシャルルやシルヴィーは、誘われた女性と踊るのが苦痛だったらしい。
まぁ、2人ともイケメンなわけだから、多くの女性に声はかけられるだろう。
てゆーか、親交を深めるのであれば普通にパーティーでいいのでは?などと思ったけれど、舞踏会にした方が盛り上がるから、毎年舞踏会を開催しているのだとシャルルが教えてくれた。
「ミオ、料理を取りに行こうか」
「はい」
「シルヴィー兄さんも一緒に行きますか?」
「もちろんだ!」
ちゃんと兄のことも気遣うところが、やっぱり優しいなと思うし、本当に仲の良い兄弟だなと思う。
用意されていた食器を手渡され、シャルルが料理を乗せてくれた。
「シルヴィー兄さんはご自分で取り分けてくださいね」
「シャルルが冷たい!」
「……あはは」
会場は、ホールの半分くらいが料理が並べられた立食のスペースのような感じになっていて、壁際には椅子も並べられていた。
残りの半分がダンススペースのようで、楽器を演奏する人達がスタンバイしていた。
え、生演奏ですか!?
「あ、これ凄く美味しいです!」
「そう?それは良かった」
「ミオちゃんと食べる料理は何だって美味しくなるよ。どうだい?私とお付き合いを…」
「何度も断りましたよね、シルヴィー兄さん」
「シャルルが断っているだけだろう!ミオちゃんには断られていない!」
「えーと……」
「ミオ、気にしなくていいよ」
「……はい」
「シルヴィー兄さん、食べたら少し挨拶に行きますよ」
「面倒だが、仕方がないな」
「ミオ、ここで少し待っていて。挨拶に行ってくるから」
「わかりました」
シャルルがシルヴィーと一緒に挨拶回りに行ったため、ミオは料理を食べながら待つ。
周囲の雰囲気もとても和やかな感じで、思ったほど緊張しなくても良かった。
何となく周囲を見回す余裕も出てきた。
招待客には商人などもいるようだったけれど、ほとんどが貴族のようで家族で招待されているといった感じだ。
ご令嬢やご子息であろう人物もちらほら見える。
中には、招待された貴族が、シャルルの両親に紹介したくて連れて来た人物もいるようで、入れ替わりに挨拶をしながら紹介している人も多い。
ミオが、自分には縁遠い世界だなと思いながら眺めていると、いつの間にか2人の男性が隣に立っていた。
え、どちら様?
「あなたは、どちらのご令嬢なのです?」
「初めてお見かけしますが」
「え、えーと……私は……そんなご令嬢とかでは…」
「シャルル様とはどのようなご関係で?」
「ど、どのようなと言いますと?」
「ご婚約者様なのですか?」
「とんでもない!」
「違う?」
「その……シャルルさんは騎士団の団長さんで、私は魔導師団の魔導師です」
「何と!魔導師様でしたか!」
「シャルル様と深いご関係でないのであれば、私達がお誘いしても良いということですね?」
えー、お誘いされたら困りますけど!?
早く戻って来て下さいよ、シャルルさん……
「魔法ってどんな感じなんです?見せてもらえませんか?」
「魔法なんてなかなか見る機会もないですからね」
「えーと……ここではちょっと…」
こんな所で魔法なんか使ったら、屋敷がなくなってしまう。
2人からどう逃げようかと考えていると、ダンススペースの方にスタンバイしていた楽器奏者達が演奏を始めた。
ダンスが始まるのだろうか?
これで2人はどこかに行ってくれるかと思いきや、そうではなかった。
「ちょうどダンスが始まるようなので、私と1曲踊っていただけませんか?」
「……え」
「その次には私ともお願いします」
これは……本格的に困るやつ。
どう断ったらいいんだ?この場合。
ミオが焦りまくっていると、ようやくシャルル達が戻って来た。
「すまない。彼女には先約があってな」
「その次は私だ」
「シャルルさん!シルヴィーさん!」
「先約があったのであれば仕方がない。シャルル様とシルヴィー様の後に、もう一度お誘いに伺います」
「では、失礼します」
凄いな、諦めなったよあの2人。
でも、これでとりあえずは解放された。
ミオはシャルルとシルヴィーに向かって頭を下げた。
「ありがとうございます。もう、どうしようかと思ってましたよ…」
「すまない、1人にしてしまって」
「ミオちゃんは可愛いからな」
「あ、それはないですよ。初めて見る顔だから声かけてきたみたいでしたよ?」
「は?」
「……………」
―――――――
―――――
―――
「ミオ、さっきよりも上手になっているよ」
「シャルルさんのリードが上手だからですよ。私、足踏んでしまうんじゃないかってハラハラしてます」
「ふふ、心配しなくても大丈夫だから」
先約だと言ってしまった手前、踊らないわけにはいかないので、ミオとシャルルはダンススペースにやって来て他の人達に交じって踊っている。
何組も踊っているのにぶつからないで踊っているのが不思議だ。
1曲踊り終えると、今度はシルヴィーが手を差し出してきた。
え、本当に踊るんですか?
「ミオ、シルヴィー兄さんは私より上手だから安心して」
「……えーと」
「シルヴィー兄さん、ミオは踊るのが初めてなので」
「そうなのか?心配はいらないさ。さぁ、行こうかミオちゃん」
「よ、よろしくお願いします」
シャルルが言った通り、シルヴィーはとても上手にミオをリードしてくれた。
踊っている間に付き合ってくれと誘われ続けなければ、もう少し楽しめただろう。
曲が終わってシャルルの所に戻ると、さっきの2人の男性がこっちに向かって歩いて来るのが見えた。
本当に来たよ……
その時、魔物の気配を感じてミオは固まった。
え、何でこんな場所に……
「シャルルさん」
「ん?どうかした?」
「魔物が現れた気配がします。たぶん……ここの園庭辺りです」
「何だと!?」
「は?魔物だって!?」
その時、バルコニーの方から悲鳴が聞こえて来た。
バルコニーはいくつかあるけれど、どのバルコニーからも悲鳴を上げながら部屋の中に駆け込んで来た。
ミオとシャルルは急いでバルコニーに出てみた。
すると、目の前に巨大な何かが見えて固まる。
何だ?これは……
「これは……サンドワームか?何故、こんな場所に?」
「ワームって……気持ち悪い系ですよね…」
確かゲームとかだと、超巨大なミミズとかそういうニョロニョロしたモンスターだった気がする。
虫系よりはマシだが、気持ち悪いので正直苦手だ。
「向こう側のバルコニーの方が近いので、あっちに行きますね」
「私も行こう」
ミオとシャルルは、サンドワームに近いバルコニーへと移動した。
シルヴィーも後ろからついて来る。
「シルヴィー兄さんは危ないので下がっていて下さい!」
「だが、ミオちゃんが」
「私は大丈夫ですよ!一応、魔導師なので!」
「シャルル!何故あんなものがこの屋敷に現れるんだ!?」
「ジェラール兄さん……それは私にもわからないですよ。とにかく、今は招待客や母上達を避難させて下さい!」
「わかった」
突然の魔物の出現で、舞踏会の会場はパニックに陥っていた。
騎士団を呼ぶにも連絡手段がない。
今、ここにいる人だけで何とかしなくては。
「サンドワームって何属性が弱点です?」
「確か、風だな」
「風ですか……まだあんまり使えないんですよね…」
「氷もそれなりに効いたはずだ。腹を狙うんだ」
「わかりました!」
ミオがサンドワームの腹部を狙ってフロージングランスを放ったけれど、サンドワームは体をくねらせて攻撃を防いだ。
くねくねと動くから厄介だな。
ステッキと箒があればもっと攻撃力が上がるし、移動しながら攻撃できるから腹部にも当てやすいのだけれど……箒は持って来ていないし、ステッキはカバンの中だ。
ミオはいくつものフロージングランスを出現させ、時間差で放っていった。
サンドワームが体をくねらせて、再び起き上がったところに残っていたフロージングランスを放つと、タイミング良く当てることが出来た。
腹部が凍りついて動きが鈍くなったサンドワーム。
ミオがフロージングランスを連射していき、全身が凍りついたサンドワームは砕け散った。
「終わりですかね?」
「どうだろうな」
「え、何?まだ出てくるのか!?」
「シルヴィー兄さん!?逃げなかったんですか?」
「ミオちゃんを置いて逃げるわけにはいかないだろう?」
お願いなので逃げてください……
しばらく様子を見ていると、さっきまでサンドワームがいた場所の奥の方で、何かが光るのが見えた。
「たぶん、あの奥に魔法陣があります!あれを消さないと、また魔物が現れると思います」
「魔法陣だと?」
「箒があればすぐに行けるんですけど……とりあえず、私は外に出ますね」
「ミオ!?」
バルコニーから飛び降りればすぐなのだけれど……異世界とはいえここは小説の中ではないので、そんなことをしたら足の骨が折れてしまいそうだし、ミオは階段に向かった。
非難する人々でホールの出入り口はかなり混雑していたけれど、ここは通勤ラッシュで鍛えたスキルを使って突破しよう。
そうだ、ミオが泊まらせてもらう部屋が階段の向こうだったはず。
ステッキを取りに行こう……ドレスも汚してしまう前に着替えた方がいいだろうし。
ミオが人混みを抜けて行くと、エミリーがミオを見つけて声をかけてきた。
「ミオちゃん!大丈夫?」
「私は大丈夫です。さっき現れた魔物は倒しましたけど、また出て来そうなので、お母様達はホールから離れていてくださいね。それと……私の荷物って」
「シャルルの隣の部屋よ。私が案内するからついていらっしゃい」
「ありがとうございます」
ミオはエミリーの案内で部屋に向かい、ついでにドレスを脱がせてもらった。
とても残念がるエミリーだったけれど、魔物と戦うんだから仕方がない。
正直、ドレスだと動きにくいし……着替えてステッキをカバンから取り出し、準備を整えたミオはエミリーと部屋を出た。
「それでは、行ってきます!」
「気をつけてね、ミオちゃん!」
「はい!」
ミオは玄関に向かって走って行った。
エミリーが、招待客達を別室に誘導する声が聞こえてくる。
何て言うか……あんな魔物が現れたのに、パニックになっていないエミリーは凄い人だと思う。
ミオは、新たにサンドワームが出現していないことを祈りながら、玄関のドアを開けた。
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お読みいただきありがとうございました!




