37 パトリエール邸への招待
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暦が9月から10月へと変わった。
だんだんと秋らしい風景へと変わってきている。
この王国はとても小さな国だけれど、フェルドーやサンブリーのように全く違った気候の場所もある。
でも、王都周辺はミオがいた日本と同じように、何となく四季が感じられる。
梅雨のようなジメジメとした季節はなかったけれど。
「わぁ、ジャック・オー・ランタンですか?」
「ジャック……?ミオの世界では、かぼちゃランタンをそう呼ぶのか?」
「そうですよ。ハロウィンっていう収穫祭で使うランタンです。まぁ、私のいた国では収穫祭って言うより仮装大会みたいな感じでしたけど」
今日は、ミオはシャルルと一緒に港町・オルレーヌに来ていた。
こちらの世界では、10月の半ばに収穫祭というものがあるようで、10月に入るとあちこちの町や村はジャック・オー・ランタンやかぼちゃの置物などで飾り付けられるらしい。
ミオ達が港町にやって来たのは、エミリーから「遊びに来てね」という招待状?のようなものが届いたのと、リリアンナへのお祝いのプレゼントを購入するためだ。
最近忙しくて、モンフォワールの街には一緒に買い物に行けなかったので、こうしてシャルルの家に行く前に港町に立ち寄ったのだ。
「収穫祭、楽しみです」
「祭りの日は、一緒に行ってみる?」
「はい!」
「それじゃあ、どの町の祭りがいいか考えておくよ」
「モンフォワールじゃないんです?」
「モンフォワールも見て、他の町のも見ると楽しいと思うよ」
「そうなんですね。楽しみです」
きっと町ごとにいろんなイベントがあるんだろうけど……え、そんな他の町の祭りまで連れて行ってくれるんですか?
「ここの雑貨屋、入ってみようか」
「はい。こっちの学校事情はよくわからないので、パ……えーと、シャルルさんと一緒に選べて本当に良かったです」
「私はミオと一緒に買い物が出来て嬉しいよ」
シャルルと一緒に雑貨屋に入ってみると、可愛らしい雑貨がたくさん並んでいて、女の子が喜びそうなものが溢れていた。
シャルルも、女子へのプレゼントとか買いに来たりするのだろうか……
「わぁ、可愛いものがたくさんありますね。パ……シャルルさんもよく来るんです?」
「私は来ないが……兄によく付き合わされたんだ」
「お兄さん?」
「女性へのプレゼント選びにね」
「そうなんですね」
シャルルの2番目の兄、ジェラールが結婚する前によく付き合わされたらしい。
確かに、男性が1人で入るには少し抵抗があるかもしれない。
てゆーか、ジェラールさんって結婚してたんだ!
「あ、可愛いペンケース……ん?チョーク?」
「石筆だよ。学校では石板を使うから、これで書くんだ」
こっちの学校って、石板を使うんだ。
紙とペンでないことに衝撃を受ける。
黒板にチョークで書くような感じなのだろうか?
「石筆はすぐになくなるから、これも喜ばれると思うよ」
「じゃあ、これにします」
「あとは……これかな」
シャルルが指差したのはハンドタオル。
これは、どの世界に行っても使われるものなんだなと思う。
手は洗うしね。
「可愛い模様のものがたくさんあって悩みますね」
「ミオが好きなものを選ぶといいよ」
「うーん……シャルルさんはどれがいいと思います?」
「私か?そうだな…」
「あ、そうだ。シャルルさんと私で1枚ずつ選ぶのはどうですか?」
「じゃあ、そうしようか」
こうしてハンドタオルを1枚ずつ選び、店の奥まで進んで行くと……ぬいぐるみコーナーがミオの目に留まった。
スライムのぬいぐるみ?
ミオが手に取ってみると、何とも言えないもっちりとした感触のぬいぐるみで、とても抱き心地の良いものだった。
他にもいろんな魔物のぬいぐるみが並んでいる。
「まさか、魔物がぬいぐるみになってるなんて思いませんでしたよ」
「そうだな」
「凄いですね、魔物観察して作ったんですかね……って、雪兎!」
なんと、あのもふもふ感がたまらない雪兎のぬいぐるみまであった。
欲しい、欲しすぎる!でも、今はリリアンヌへのプレゼントを選んでいるのだし、自分の分はまた今度……なんて考えていると、シャルルが優しく微笑みながらミオの手から雪兎を取り上げた。
「私がミオにプレゼントするよ。リリアンナの分は2人で買うことにしよう」
「そ、そんな!自分の分は自分で買いますよ」
「私がプレゼントしたいんだからいいだろう?ほら、リリアンナの分を選んで」
「あ、ありがとうございます……」
リリアンナには、何とも言えない幸せ感たっぷりのもっちりスライムを選び、会計へと持って行った。
そう言えば、シャルルと2人で何かを買うって初めてかもしれない。
いつも買ってもらってばかりだったし……こうして2人でプレゼントを買うというのも、何だか幸せな気分だ。
「少し早いが……昼食を食べて家に行こうか。母が首を長くして待っているだろうし」
「そうですね」
ミオとシャルルは、近くにあったバーガーショップのような店に入った。
ここのバーガーは、ハンバーグではなく魚を使ったもので、いろんな種類の魚が並んでいた。
ミオはどの魚が美味しいのかよくわからなかったので、シャルルのおすすめで注文してもらった。
「シャルルさんとバーガーって、何だか意外な組み合わせですね」
「私だってバーガーくらい食べるよ」
「そうなんですね」
「それよりも、ミオ」
「はい?」
「私の名前を呼ぶのも、だいぶ慣れてきたようだな」
実はここに来る馬車の中で、ミオはシャルルに名前で呼んで欲しいとお願いされたのだ。
仕事の時は団長でもいいけれど、プライベートの時や2人でいる時には出来れば名前でと……まぁ、確かに、仕事以外でも団長なんて呼ばれていたら、ずっと仕事をしている気分になってしまうかもしれない。
「改めて言われると、ちょっと恥ずかしいですけど……」
「カミーユ以外の魔導師は名前で呼んでいるだろう?」
「あー、そうですね。でも、シャルルさんは団長さんだし、偉い人だし……」
「ふふ、私は別に偉い人なんかじゃないよ」
「いやいや、団長さんですよ?偉い人です!」
「だったら、ミオは私なんかよりもとても偉い人ということになる」
「え、何でですか?私はただの魔導師ですけど?」
「だって、ミオは……」
シャルルが何かを言いかけた時、注文していた料理が運ばれて来た。
魚のバーガーとサラダとポテトフライとドリンク、内容はファストフードとだいたい同じものだけれど、何だろう?明らかにファストフードとは違う高級感が漂っている。
サラダがついているからか?
「わぁ、美味しそうですね!」
「そうだな。じゃあ、食べようか」
「はい。いただきます」
外側はサクッとしているのに、とてもジューシーでパサつきのない魚のバーガーは、今まで食べてきたフィッシュバーガーとは比べ物にならない程の美味しさだった。
何だこの魚は!
皮付きのポテトもほくほく食感でとても美味しい。
「ミオは本当に美味しそうに食べるな」
「だって、凄く美味しいですもん!」
「ミオと一緒に食事をすると、私もとても幸せな気分になるよ」
「美味しい料理は幸せを運んでくれますね」
ミオは、この世界が料理の美味しい世界で本当に良かったと思う。
もしも残念な料理の世界に来ていたら、あまり料理をしないミオには、小説なんかの転生者のように美味しい料理に変えることなんて出来ないから、残念な異世界生活になってしまうだろう。
改めて考えてみると、異世界で役に立つ知識が全くない自分の凡人さに泣けてくる。
ま、まぁ、ミオには母親から引き継がれた魔法能力があるだけ良しとしよう!
こうして美味しい料理で幸せな気持ちになったミオとシャルルは、馬車に乗ってパトリエール邸へと向かった。
「ミオ、さっきの続きだが」
「さっき?」
「ミオが私よりも偉いという話だ」
「あー、そんな話してましたね。でも、私がシャルルさんより偉いなんてことないですよ?」
「ミオは国王の娘だ。この王国の王女だよ?本来であれば、私はミオ様とお呼びして仕える立場だ」
そうだった。
ミオは国王と母親の間に生まれた、この王国の王女だった。
すっかり忘れていた……と言うよりも、いまだに実感がわかない。
「えーと……それは、とりあえず置いておきましょうか。私、王女様なんて柄じゃないですし…」
「ふふ、ミオ様とお呼びしようか?」
「ミオでいいですよ!あ、それに関して言えば、第一騎士団の皆さんが私のこと『ミオ様』って呼ぶの、何とかならないですかね?様つけられるとむず痒いと言うか……」
「それは、もう浸透してしまっているしどうにもならないと思うよ?」
「えー」
王国の王女か……王女って何するんだろう?
王女としてこの王国を守って行こうなんて決意はしたものの、正直何していいのかはわからない。
とりあえずは、魔導師として出来ることをやって行こう。
「あ、お屋敷が見えてきましたよ。やっぱり、とても立派なお屋敷ですよね」
「王宮に比べたら大したことはないだろう?」
「王宮と比べるのがおかしいんですよ」
「ミオの家は王宮なのに?」
「わ、私の家は……宿舎の部屋ですよ」
「そんなこと言ったら、国王が泣いてしまうよ?」
「……言わないで下さいね」
シャルルがクスッと笑いながらミオの頭に手を乗せたけれど……これって、からかわれてます?
立派な屋敷の玄関前で馬車を降りると、執事が出迎えてくれた。
来る時間なんかわからないはずなのに、丁度いいタイミングで出てくる執事って凄いと思う。
何かの能力なのだろうか?
執事はミオとシャルルの荷物を他の従者に運ばせると、2人をリビングへと案内した。
「まぁ、ミオちゃん!いらっしゃ~い!」
「お久しぶりです。ご招待していただいて、本当にありがとうございます」
「招待するって言ったでしょう?ほらぁ、座って。お茶でも飲んで少し休んだら、準備を始めるわよ」
「準備?」
「あー、いいからいいから。とりあえず座って!」
相変わらず元気そうなエミリーが、ミオに抱き着くとソファーに座るよう促した。
準備って……何だ?
ミオとシャルルが並んで座ると、侍女が紅茶とお菓子をテーブルに並べた。
このお菓子は……
「マカロンですか!」
「あら、そんな名前だったかしら?可愛いお菓子よねぇ。どうぞ、遠慮しないで召し上がってね」
「私、マカロン大好きです!」
まさか、マカロンに出会えるとは。
帰りに売っているお店を聞いて行こう。
―――――――
―――――
―――
「え?」
リビングでお茶を頂きながら雑談をした後、ミオは準備を始めましょうと侍女達に身を預けられた。
よくわからないでいるうちに、ミオは浴室に連れて来られて全身を磨かれている。
「さぁ、髪の毛を乾かしたら始めますよ!」
「え、何をですか?」
全身を綺麗に拭きあげられて、ビスチェとフレアパンツのようなものを着せられると、熱った体に風を送られながら髪の毛をタオルで押し拭きされ……え、何なんですかこれ?
「あー、髪の毛乾かすなら自分でやりますよ?」
ミオが魔法で髪の毛の水分を取り除くと、侍女達は目を見開きながら驚いた。
てゆーか、何故お風呂?私そんなに臭ってましたか?
ミオの疑問に構うことなく、何かを羽織らされると浴室から別の部屋へと連れて行かれた。
そして、大きなドレッサーの前に座らされた。
「あのぅ……一体何を……?」
「少し、ジッとしていてくださいね。すぐに終わりますから」
「えーと……」
ミオの顔に化粧が施され、髪の毛が可愛らしくセットされていく。
普段からあまり化粧などしなかったミオは、鏡に映った見慣れない自分の姿に固まった。
どちら様ですか?
化粧と髪の毛のセットが終わると、見覚えのあるドレスが目に飛び込んで来た。
前に、シャルルの両親とモンフォワールの街で買い物した時に、ミオが試着させられたドレスだ。
何故、あのドレスがここに?
何の説明もないまま、ミオはドレスを着せられていき……
「まぁ、よくお似合いですよ!」
「え、何なんですかこれは!?」
「さぁ、行きましょうか!」
「何処にですか!?」
こうして、混乱をよそにリビングへと連れて行かれたミオ。
リビングには、燕尾服姿のシャルルと、ドレスを着替えたエミリーがいた。
イケメンの燕尾服姿って凄い破壊力なんですが!?
「まぁ!やっぱりそのドレスにして正解ねー!とっても可愛いわよミオちゃん!」
「え、えーと……どうしてこのドレスがここに?てゆーか……何なんです?これ……」
「今日のために用意しておいたのよ」
「今日のため?」
「今日はね、ここで舞踏会を開催するのよぉ」
「……え、舞踏会!?……どどど、どういうことですか!?」
ミオが驚いてシャルルに目を向けると、同じようにシャルルが驚いた顔でミオを見ていた。
「母上……舞踏会のこと、ミオには知らせていなかったんですか?」
「ミオちゃんには、遊びに来てねって招待状を送ったのよ。だって、舞踏会何て言うと来てくれないかと思って」
シャルルが大きなため息をついてミオに歩み寄った。
そして、ミオの手を取って優しく微笑む。
「ミオ、すまない。まさか知らなかったとは思わなかったんだ」
「え、えーと……私、舞踏会なんて見たこともないですし…」
「大丈夫、ミオは私の傍にいてくれればいいから」
「そうよー、シャルルが全部やってくれるから、ミオちゃんは隣でニコニコしておけば大丈夫!」
「……で、でも」
「それじゃあ、私は会場の方を見てくるから。2人はもう少しここで休んでいてね」
エミリーは満面の笑みを見せると、部屋から出て行ってしまった。
「ミオ、心配しなくても大丈夫だ。ミオはいつものミオでいてくれればいい」
「で、でも、きっと私……何かやらかす気がしますよ?」
「ふふ、大丈夫だよ。それと……」
シャルルは、不安げな顔で見上げるミオの頬に優しく手を当てながら、顔を近づけてささやくように言った。
「とても奇麗だよ」
ミオの顔が一気に熱を帯びて、耳まで真っ赤になるのがわかった。
変な汗が出て来そうで、せっかくのお化粧が崩れてしまうではないか!
口から抜けて行ってしまいそうな魂を何とか飲み込み、煩い心臓を落ち着かせようと頑張ったけれど、イケメンの顔がこんなに近くにあってはどうすることも出来ない。
シャルルが、そんなミオの気持ちを知ってか知らずにかわからないけれど、クスッと笑いながらミオをソファーに座らせた。
「ぶ、舞踏会って……あれですよね、ダンスするヤツ」
「そうだよ。ずっと踊っているわけではないけどな」
「……私、一度も踊ったことないです」
「大丈夫。心配なら……一度踊ってみる?」
「え?」
シャルルは立ち上がって歩いて行くと、何かを操作して黒い円形のものをセットした。
あれは……テレビで見たことがあるレコードに似ている気がするけど……レコード?え、電気がなくても音出せるんです?
「おいで」
「あ、はい」
シャルルに呼ばれて歩み寄って行くと、左手を差し出されたので少し考えて右手を乗せた。
すると、もう片方の腕が腰に回されてグイッと引き寄せられた。
「左手は、私の腕に添えておいて」
「はい……てゆーか近いんですけど!?」
「こういうものだからな。それじゃあ、動くよ?」
どう動いていいのかわからなかったけれど、シャルルが教えてくれるように足を動かしていると、それなりに踊れている……ような気がした。
シャルルのリードが上手だったから、ミオも動けているのだと思う。
「私の顔を見て」
「……はい」
微笑むシャルルの顔を見つめながら踊る……って、こんなに見つめることなんてないし、凄く恥ずかしいんですけど!?
イケメンの顔をこんなに近くで見続けたら、私の魂がどこかに行ってしまうんですけど!?
少し上げ底の靴のせいで、いつもよりも近くにあるシャルルの顔に、ミオの心臓はドキドキしっぱなしだった。
舞踏会……もう、これで終わりでいいんじゃないですか?
舞踏会開始は夕方。
パトリエール邸の2階のホールには、続々と招待客達が集まって来ていた。
まさかの舞踏会への参加。
ミオの初めての舞踏会は、人生最大のピンチとも言えるイベントなのではないだろうか。
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