04 初めての異世界デート
のんびり更新中♪
ぺリグレット王国 王都モンフォワール
そう、最近になってここがこの王国の首都・モンフォワールだということを知った。
当たり前のことだけれど、街はここだけではなく国内に転々と存在する。
こちらの世界に来た時にはそこまで考える余裕はなかったけれど、そうよね、いろんな町が集まって一つの国を形成しているのよね。
そんなモンフォワールという街で、本日もミオは魔法の訓練に明け暮れる。
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―――――
―――
「おー!いい感じにグルグル回ってる!」
昨日覚えた水属性魔法を使って、初めての洗濯を実施中。
今のところ、ミオの知る洗濯機のように水がグルグルと回って洗濯物を洗っているように見える。
洗濯機のように右回転と左回転を自動で切り替えることはできないので、定期的に魔法をかけ直して水を回転させている。
ちょっと手間はかかるけれど、手洗いよりは断然楽ちんだ。
「これ……水を回転させながら他の属性魔法の練習って出来るのかな?」
試しにいつもの光の玉を出してみた。
うん、出来る。
ただ回転するのを見ているだけってのも何だし、魔力操作の練習をしながら洗濯を続けることにした。
光の玉を自在に操り、体の周りを転がしてみる。
なかなかいい感じで動かせてると思う。
新体操でボールを転がしてるみたいでちょっと楽しい。
そんなことをしながら洗濯をしていたので、あっという間に水洗いまで終わってしまった。
「………さすがに絞る方法は思いつかないな」
仕方がないので手で絞っていくけれど、服を絞るって本当に大変!
まぁ、洗う作業がなくなっただけでも良しとしよう。
絞った洗濯物を、キレイにシワを伸ばしながら干していき、本日の洗濯は終了だ。
うん、なかなかにキレイに洗えている。
水属性魔法、これ以外まだ使えないけれど便利だ。
最後の洗濯物を干し終えた時、ふと誰かが見ていることに気がついた。
その人物は、シャルルだった。
「パトリエール団長、おはようございます」
「おはよう、ミオ。何だか楽しそうだったな」
「え……もしかしてずっと見てました?」
「光の玉を転がしてるのとかな」
「わぁ……恥ずかしい」
「何を恥ずかしがることがあるんだ?とても楽しそうで、見ているととても心が和んだよ」
「そ、そうですか?」
まさかのずっと見られていたなんて。
恥ずかしかったけれど、見られてしまったのだからどうにもならない。
「洗濯をしていたのか?」
「はい」
「随分と楽しそうな洗濯だったな」
「とっても楽ちんな方法を見つけたので!」
「ほう?今度教えてもらおうか」
「いいですよ」
「そういえば、ミオの次の休みはいつかな?」
「次の休みですか?さあ、いつなんでしょう……師団長に聞いてみないとわからないです」
「そうなのか?」
「はい」
「なるほど……わかった。カミーユに聞いてみるよ」
「師団長は執務室にいると思います」
「わかった。では、また後で」
「はい」
シャルルは執務室へと向かい、ミオは一度部屋に戻ってローブを羽織り箒を手に取ると、訓練場へと足を運んだ。
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―――
「お、攻撃魔法の発動まで少し早くなった気がする!」
頭と魔力操作との連動がスムーズになり、発動までの時間がかなり短縮されてきた。
最初は複雑で覚えられないと思っていた魔法陣だけれど、覚えていくうちに何となく法則を発見して、それ以来覚えやすくなった。
応用も利くようになり、連発したり複数攻撃が出来るようになった。
複数攻撃と言っても、範囲攻撃に比べれば範囲も本数も少ないけれど。
「随分と上達したね」
「俺達も追い抜かされないように訓練しないとな」
「私なんてまだまだですよ」
他の魔導師ともかなり打ち解けてきて、訓練場で話したり一緒に訓練することも多くなった。
こうして訓練する中で、一つの疑問が生まれた。
箒って……乗るだけなの?
小説や漫画、アニメなんかでは、魔導師はよくステッキとか杖を使っていた。
でも、箒は乗る以外あんまり使い道がなかったように思える。
この世界の魔導師は、ステッキや杖などは使っていない。
そもそも、ステッキや杖って何のために使ってたんだろう?
……って言っても、現実世界ではなく創作世界の話なんだから、参考にはならないか。
箒……乗るだけってもったいなくないですか?
あ、でも箒に乗りながら魔法で戦うって考えると、乗るだけで十分その役割を果たしてることになるのか。
要は、使いこなせていない私が考えることじゃないってことね。
頑張って使いこなして見せますよ!
「飛べ!飛んでーっ!お願いします!ちょっとー、飛んでってばー!……飛びなさいよ………お願い、飛んでちょーだい!」
箒を掲げてみたり、ジャンプしてみたり、箒にまたがって走ってみたり……いろいろ試したけれど、本日も箒は言うことを聞いてくれませんでした。
「てゆーか………箒って何属性で操るんです?」
「はぁ?箒に属性なんかないよ」
「そうだな。魔力操作で操るからな」
「………無属性?」
「「そうじゃない」」
「えーと……」
さっぱりわかりません。
そんな風に悩んでいると、向こうからシャルルが呼ぶ声が聞こえて駆け寄って行った。
カミーユとの話は終わったらしい。
「すまない、私が行くべきだったな」
「いえいえ、大丈夫ですよ」
「明後日、ミオを休みにしてもらったから、一緒に街へ行こう」
「本当ですか?わぁ、明後日が楽しみです!」
「私もだ。部屋まで迎えに行くから待っていてくれ」
「わかりました」
シャルルはこれから近くの村まで調査に出かけるようで、用件だけ伝えるとミオの頭に手を乗せて去って行った。
大変だな、騎士団の人達は。
「私も皆のお役に立てるように頑張ろう!」
とりあえず今の目標は箒に乗れるようになることだ。
これは練習するしかない。
ミオは訓練場に戻って練習を重ねた。
―――――――
―――――
―――
「おはよう、ミオ。準備は出来てるかい?」
「おはようございます。準備はばっちりです!」
「そうか、なら行こうか」
「はい!」
約束通り、シャルルが部屋まで迎えに来てくれて、一緒に隊舎を出た。
歩いて街まで行くのかと思っていたけれど、馬車が用意されていてそれに乗って移動した。
そういえば、前に街で会った時も馬車で来てたな。
「何か欲しいものはあるか?」
「今は……特に思いつきませんね。街で気になるものを見つけたら考えます」
「その時は遠慮せずに言ってくれ。私が買ってあげるから」
「いやいや、そんな!ちゃんと自分で買いますよ!」
さすがに買ってもらうとか、そんな図々しいことはできませんって。
両手を振ってお断りするミオを、シャルルは笑いながら見ていた。
他愛もない会話をしながら、あっという間に馬車は街へと到着し、さりげなくエスコートしてくれるシャルルの手に自分の手を乗せて、ミオは馬車から降りた。
エスコートなんて、人生で初めての出来事です。
ドキドキしているミオをよそに、シャルルはつかんだ手を離すことなく歩き始めた。
あれ、手をつないだままですが?
「どこから行こうか」
「わ、私はまったくわからないので全てお任せでお願いします!」
「それじゃあ任されるとしよう」
優しい笑みを浮かべながら、シャルルはミオの手を引いて歩く。
騎士団の団長として王宮にいる時とは違って、とても柔らかい表情だ。
やっぱり王宮では気が張り詰めているんだろうなと思う。
「ミオが住んでいた街はどんな感じだったんだ?」
「私が住んでいた街ですか?えーと……ちょっと待ってくださいね」
ミオがバッグから何かを取り出そうとしているのを、シャルルは不思議そうに見ていた。
「えーとですね、こんな感じです」
「……これは?」
携帯に写真を表示させて見せると、シャルルが驚いた顔を向けてきた。
あ、そうか、シャルルにはまだ見せたことがなかったっけ?
「えーと、これはスマホって言って、簡単に言えば便利グッズです。こっちでは写真を撮るくらいしか使い道ないですけど。あ、でもバッテリーはなくならないみたいなんで、写真で記録することは出来ますよ!」
「……すまない、よくは理解できないが…記録が残せるものという認識で合ってるか?」
「そんな感じです。画像として記録を残すことが出来ます。例えば…」
ミオは少し考えると、カメラを起動して携帯を見せた。
先日気がついたことだけれど、携帯のバッテリーが何故か全く減っていなかったのだ……というか、携帯だけではなくパソコンも。
理由はわからないけれど、こちらでの出来事を写真に残すことができると思い、今日は携帯を持ってきた。
「ほら、私たちが移ってますよね?えーと…この部分を見ていてくださいね」
「……わかった」
ミオはシャルルと顔を寄せながら携帯を翳してタップした。
カシャッというシャッター音が聞こえると、今撮った写真を見せながら説明をする。
「こんなふうに画像を残せるんですよ」
「なるほど、便利な道具だが……何だか不思議な気分だな」
「ふふ、そうですか?で、これが私がいた街です」
「これが……ミオがいた世界か」
ミオが住んでいたのは日本の首都・東京。
こちらの世界とは建物の雰囲気も、街の様子もまったく違っているため、シャルルは目を見開きながら写真を食い入るように見ていた。
「随分と人が多い街のようだ」
「凄くたくさんいますよ。仕事の行き帰りなんて押し潰されそうでしたもん」
「押し潰される?」
「電車という乗り物に乗るんですけど、ギューギューで凄いんですよ!」
「想像がつかないな」
「そうですね……あの馬車に10人くらい乗る感じですかね?」
「いや、それは無理だろう」
「それがですね、乗れちゃうもんなんですよ」
ミオがケラケラと笑いながら言うと、体験したくはないとシャルルも笑いながら答えた。
シャルルに手を引かれながら街の中をブラブラ歩いていると、噴水広場という場所に出た。
中央に噴水がある、どこか中世のヨーロッパを思い起こさせるような、異世界ものでよく見かける感じの広場だった。
アニメなんかで見るおなじみの光景と言えばそうなんだけれど、本当に異世界に来たんだと思える光景でもあった。
ミオは噴水に駆け寄ると写真を撮った。
「どこにでもある噴水だが……記録に残すようなことなのか?」
「記録というより…思い出ですね。私のいた街では、あんまり噴水とか見ることもなかったので」
「そうなのか?」
仕事の日は会社とマンションとの往復だったし、会社帰りに公園に寄ろうなんて気力もなかった。
休みの日も、友だちとの予定がなければほとんど家で過ごしていたし…
そう考えてみると、私って引きこもり体質だな。
「少し、ここに座って待っててくれ」
「ん?……はい、待ってます」
シャルルはミオをベンチに座らせると、どこかに歩いて行ってしまった。
用事でも思い出したのだろうか?
しばらくすると、両手に何かを持ったシャルルが戻って来た。
「すまない、随分と待たせてしまったね」
「そんなに待ってないから大丈夫ですよ」
「これを買って来たんだが…」
「わぁ、ジェラートですか?美味しそう♪」
「ミオの世界ではそのような名前だったのか?」
「あれ、こっちだと違うんですか?」
「この店ではアイスと言っていた」
「まぁ、ジェラートはアイスの中の種類なので同じことですよ」
「そうか」
「いただきます」
「どうぞ。口に合えばいいが」
冷たくてさっぱりとした甘さのジェラートは、とても美味しいものだった。
素朴な味からは、いろんな添加物が入っていないような気がして、とても体に優しいジェラートなんじゃないかと思った。
「凄く美味しいです!」
「それなら良かった」
あまりにもジェラートが美味しくて、周りのことなんか目に入らなかったけれど、ふと気がついてみれば何だか視線を集めているような……
「どうかしたか?」
「えーと……何だか皆に…見られてません?」
「……ああ、あまり気にしなくていいよ」
「そ、そうなんですか?」
「それよりも、次はどこを案内しようか……あの路地も雑貨屋などが並んでいるんだが…」
「雑貨屋さんですか?行ってみたいです」
「なら、行こうか」
「はい」
ジェラートを食べ終えると、シャルルはさり気なくミオの手を掴んで歩き出した。
きっと、こちらの世界ではこうして手をつないで歩くものなのだろう、ミオはそう思ってあまり深く考えないようにした。
路地に入ると、オシャレな店や可愛らしい店が並んでいて、女子の心をくすぐる商品があちらこちらから誘惑してきた。
何だここは!気になる店が多すぎるではないか!
そんな雑貨屋が並ぶ路地で、ショーウインドーに飾られていたウサギの置物がミオの目に飛び込んできた。
ななな、何だこの可愛いウサギは!
思わず足を止めて、ガラス越しに両手をつきながら見入ってしまった。
「……それが気に入ったのか?」
「えーと……はい」
「それじゃあ、中に入って見ようか」
「いいんですか?」
「もちろんだ」
めちゃくちゃ食いついてしまって何だか恥ずかしい…
ミオはシャルルの後に続いて店の中へと入って行った。
とても落ち着いていながらも可愛らしい内装の店内は、ミオの好きなものしか並んでいないんじゃないかという程、ミオ好みのものがずらりと陳列されていた。
ミオの目は、キラキラという効果音でもついているんじゃないかと言うくらい輝いて大きく見開かれていた。
そんなミオの様子を眺めていたシャルルが、クスッと笑いながら声をかけた。
「ミオはこのような店が好きなのだな」
「大好きです!……あ、すみません」
「謝る必要はない。好きなだけ見るといいさ。気になるものがあったら言ってくれ」
「そんなそんな!でも、少しだけ見てきます」
この店の商品は、どれもウサギや猫がモチーフとなっていて、ウサギ好きのミオにとってはたまらないくらいどれも輝いて見えた。
出来ることなら全部欲しい……無理だけれど。
これは、毎日でも通いたい店だと本気で思う。
品物を見て回っていると、ショーウインドーに飾られていたウサギの置物を見つけた。
色違いもあるようだった。
両方を手に取って見比べてみる。
………どちらも欲しい
「どちらの色が好みなんだ?」
「えーと………とても悩んでいます」
「そうか。貸してごらん」
「え?」
シャルルはミオの手からウサギの置物を取り上げると、スタスタとどこかに歩いて行ってしまった。
呆気に取られていたミオが慌てて追いかけると、シャルルは会計をしているところだった。
「パトリエール団長!?」
「少し待っていて」
「あの……でも…」
会計を済ませて紙袋を受け取ったシャルルは、ミオの背中を押しながら店から出た。
「街を歩く間は、この置物は私が持っているよ」
「えーと…あ、お金」
「出さなくていい。言っただろう?私が買ってあげるって」
「でも……それじゃあ、ありがとうございます。次は私がパトリエール団長に何かプレゼントしますね」
「楽しみにしているよ」
シャルルの微笑む姿は本当に美しいと思う。
何だろう、この庶民とは違う気品というか佇まいというか纏っているオーラ的なものは。
いろいろな雑貨屋の品物を見ながら路地を抜けて行くと、可愛らしいアクセサリーを売っている店の前に出た。
シャルルが立ち止まってミオに目を向ける。
「そういえば、ミオはこのような装飾品はあまりつけたりしないのか?」
「あー……母にもらったこのネックレス以外はつけないですね。私、少しだけ金属アレルギーなので、ネックレスとかつけると首の周りがかゆくなるんです。ブレスレットも手首がブツブツになるんでつけられないですね…金属によっては大丈夫なものもありますけど」
「そうなのか…そのような病気もあるんだな」
「病気ではなくて、体質ですね。まぁ、もともと着飾るタイプではないんですよ、私。ヘアピン…えーと……髪飾りくらいはつけてましたけど」
「なるほど……少しこの店を見ていってもいいか?」
「もちろんですよ!」
店内に入ると、キラキラとした宝石のアクセサリーなんかが、ガラスケースの中や陳列棚に並べられていた。
中には肩こりしそうなゴージャスなものもある。
大きな宝石がついている指輪をはめてみると、あまりにも似合っていない気がして笑ってしまった。
このゴツゴツした指輪を、何個も指につけているご婦人なんかをテレビで見たことがあるけれど…動かしにくいよね?てゆーか、指痛いわよね?
こうしていろんなアクセサリーを見て回っていると、控えめに宝石がちりばめられたシュシュを見つけた。
こんなものも売ってるんだ。
鏡を見ながら結んだ髪につけてみると、なかなかいい感じだった。
「それも似合っているな」
「パトリエール団長……そうですか?ありがとうございます」
いつの間にか後ろにいたシャルルにドキッとしながら、ミオはシュシュを棚に戻した。
「パトリエール団長もアクセサリーとかつけるんです?」
「私もあまりつけないかな」
「そうなんですか」
「何か気になるものはあった?」
「どれもステキなアクセサリーですけど、私には似合わないと思います」
ケラケラと笑いながら答えるミオに、シャルルはそんなことはないと言いながら困ったように笑っていた。
「そろそろ昼ごはんでも食べようか」
「もうそんな時間なんですか?」
「そうだよ」
「何だか時間が経つのが早いです」
「私もだよ。ミオと一緒に街を歩くのはとても楽しい」
「私もパトリエール団長と歩くの楽しいですよ!」
アクセサリーの店を出てシャルルが昼食に訪れたのは、何とパンケーキ屋さんだった。
意外な組み合わせに驚く。
シャルルとパンケーキ、考えもしなかったけど……そのようなものも食べるんだなと新しい発見をしたようで何だか嬉しく感じるミオだった。
「パトリエール団長も、パンケーキとか食べるんですね」
「食べるさ」
「何だか意外でしたけど、とても親近感がわきます。私もパンケーキ好きなので」
「それなら良かった」
こうして、テラス席でパンケーキを美味しく堪能していると、聞き覚えのある声が聞こえた。
「お、ミオちゃんじゃん!何でシャルルなんかと一緒にパンケーキ食べてんだ?」
「え?」
「私なんかとはどういうことだ?パトリック」
あ、こないだのナンパの薬草屋。
てゆーか、さらっと同席してきたんですけど?
「ね、次はいつ薬草を買いに来るんだい?」
「それは…」
「次からは別の者が買いに行くそうだ」
「何でだよ!」
「それより、何で勝手に相席してるんだ?許可した覚えはないぞ」
「幼馴染みに許可なんて必要あるかよ。それより…今日は休みか?」
「そうだ」
「ミオちゃんも?」
「はい」
「俺が仕事してるってのにお前らはデートかよ!よし、午後は俺とデートしようミオちゃん」
「え!?」
「断る」
「何でお前が断るんだよ」
「仕事なんだろ?早く食べて店に帰れ」
「嫌だね」
何だろう……会話を聞いているとちょっと面白いかも。
ミオはシャルルとパトリックの会話を聞きながら、何だか笑ってしまった。
いいなぁ、幼馴染みって。
パンケーキを食べた後は、何故かパトリックも一緒に街を歩くことに。
シャルルは何度も店に帰れと言っていたけれど、パトリックは全く帰る気がないらしく、頼んでもいないのに街を案内してくれた。
何だかんだ言いながら相手をしているシャルルは、本当に優しい人だと思う。
こうしてあっという間に夕方になり、ミオとシャルルは王宮へと戻るため馬車が止めてある場所へと向かった。
途中、ドーナツ屋に案内してもらってドーナツを買って。
「また遊ぼうね、ミオちゃん」
「えーと…今日はありがとうございました」
「いい加減仕事に戻れ、パトリック」
「はいはい」
パトリックに見送られながら馬車が出発した。
「パトリックの奴、最後まで一緒についてきたな。すまなかった、ミオ」
「いえいえ、2人の会話は聞いていて面白かったし、私は楽しかったですよ」
「それならば良かった」
楽しい時間は、どの世界でもあっという間に過ぎるものだということがわかった。
それに……あの雑貨屋は絶対にまた行こう、ミオはそう心の中で思った。
見ているだけで癒される、そんな雑貨ばかり並んでいた。
きっと一日中見ていても飽きないだろう。
こうして、王宮に到着した馬車から降りると、シャルルはウサギの置物が入った紙袋をミオに渡した。
「2つも買っていただいて…何だか申し訳なくて……」
「私が買いたいと思ったんだから、気にしなくてもいいよ」
「…ありがとうございます」
「それと……これを受け取って欲しい」
「これは?」
「部屋で開けてみて。気に入ってもらえたら嬉しいかな」
「え、私パトリエール団長にプレゼントなんて買ってきてなくて…」
「そんんことは気にしなくていいよ。私が勝手に選んだだけだから」
「あ、ありがとうございます」
「それじゃあ、今日はゆっくり休んで」
「…今日は、本当にありがとうございました。凄く楽しかったです!」
「私もだよ、ミオ」
こうして楽しい一日はゆっくりと終わりを告げた。
―――――――
―――――
―――
「やっぱり可愛いなぁ、ウサギは」
買ってもらったウサギの置物を、さっそくデスクの上に飾る。
お気に入りがデスクにあるだけで、いろいろとやる気もわくというものだ。
そして、シャルルに渡されたもう一つの紙袋を開けてみた。
中に入っていたのは……
「あ、これ…」
アクセサリーの店で、ミオが結んだ髪につけてみたシュシュ。
シャルルはいつの間にこれを買ったのだろうか?
鏡の前でシュシュをつけてみた。
うん、控えめな装飾でミオ好みのシュシュだ。
自分で言うのも何だけど、派手なものよりもこれくらい控えめのものの方が、ミオには似合っていると思う。
大切に使おう。
―――5月13日
水属性魔法で洗濯ができるようになった!
これはいい!とても便利な魔法だ!
あとは…脱水方法を考えよう。
それにしても、箒は難しい。何でお母さんは簡単に操作できたんだろう?
やっぱり伝説の魔導師ともなると素質が違うんだろうな。
明日も練習頑張ろう!
それから、パトリエール団長に街を案内してもらった。
とても楽しい一日だった。
何故だかパトリックさんも一緒に回ることになったけど……2人がとても仲良しで楽しかった。
パトリエール団長にウサギの置物を買ってもらって、シュシュもプレゼントされた。何だか申し訳なく思う……今度、何かお返ししないとだな。
でも、男の人にプレゼントなんか買ったことないしどうしよう…
日記を閉じて、ウサギの置物をジーッと見つめる。
本当にどうしよう、何をプレゼントしたらいいのか全く分からないや…
今日も異世界での一日が幕を閉じようとしていた。
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