35 王国と竜
のんびり更新中♪
仕事の関係で更新時間はバラバラです、すみません。
王国魔導師団の訓練場。
そこには、上空を箒で移動する3人の魔導師の姿があった。
「さすがだね、アル君。昨日作ったばっかなのに、もうこんなに乗れるようになったんだ」
「まぁね。でもさぁ、僕はミオの後ろが良かったんだけどなぁー」
「自分で乗れた方が便利だよ?」
アルバンとジェラリーは、昨日ラウルに教えられながら箒を作り、今日は普通に箒に乗って上空を移動している。
ミオが傷だらけになりながら、あんなに必死に箒に乗るために筋トレしたというのにだ。
「ジェラリーさんも凄いですね!私って相当才能なかったんですね……」
「そんなことはないよ。ミオは自分で作った箒じゃなかったし、教えてくれる人もいなかったわけだし」
「そうだよ!カミーユがちゃんと教えなかったのが悪い。ホント、カミーユってバカだよねー」
「まぁまぁ、アル君。師団長も悪気はなかったんだし……」
「悪気がなかったとしても、ちょっと気づくの遅すぎだよねぇ」
「ま、まぁ……そうね」
その頃、執務室ではカミーユがくしゃみをしていた。
何年も練習していた人が可哀想だったとは思うけれど、気がつかなかったのだから仕方がない。
今は原因もわかったことだし、これで全員が箒での移動が可能になるだろう。
「じゃあ、フェルドーとサンブリーにも材料持って行ってあげれば、2人も箒が使えるようになるね。王都に戻って来てからでもいいけど……早い方がいいと思う」
「誰が教えに行くの?僕は、ミオが一緒なら別にかまわないよ!」
「私は教えられないから、行くとしたらラウルさんだよね?」
「えー、俺?別にいいけどさぁ、俺もミオちゃんと一緒じゃなきゃ嫌だよ」
「あのね……」
フェルドーとサンブリーに教えに行く件に関しては、ミオ達だけで勝手に決められることでもないので、カミーユに相談することにする。
「そういえば、アル君っていつまで学校休みなの?」
「9月は休みだよ」
「そうなんだ」
アルバンは現在夏休み中。
確か7月の後半から夏休みだったと思うから、こっちの世界の夏休みは随分と長いように感じる。
それにしても……副師団長とはいえ、まだ子供なのに夏休みも仕事とか偉すぎる。
「偉いね、アル君は。夏休みなのに毎日仕事なんて」
「何言ってんの?家にいたって退屈だし、ここに来ないとミオの顔が見れないじゃん」
「…………あれ?」
「どうしたの?」
アルバンがミオの前に立った。
ミオがここに来た頃は、確かアルバンはミオよりも背が低かった。
でも、今目の前に立つアルバンの顔を見るのに、見上げているのは気のせいだろうか?
「もしかして、アル君……背が伸びた?」
「そりゃあ、僕、成長期真っ盛りだもん!もう、ミオにかがんでもらわなくてもキスできるよ」
「……っ!?」
アルバンは両手でミオの頬を包んで額に唇を当てた。
それを見たラウルも、ミオにキスをしようとアルバンと押し合っていたけれど……この2人、精神年齢一緒ですか。
「若いって積極的でいいよね」
「いやいや、ジェラリーさんもそんなに変わらないですからね?」
「え、じゃあ俺もミオにキスしていいの?」
「ダメです!」
何なんだこの人達は!
ミオは、フェルドーとサンブリーへの箒の指導について確認するため、カミーユのいる執務室へと向かった。
―――――――
―――――
―――
「ミオちゃん、ミオちゃん、ちょっと速くない?」
「夜までには帰りたいから」
「何で?」
「明日は騎士団と見回りがあるの。だから、あんまり遅くなりたくない」
「え、じゃあどこかの町には泊らないの?」
「うん」
「えー、ミオちゃんと一緒に泊まりたかったなー。できれば同じ部屋で」
「……泊まるとしたら別々の部屋ね」
ミオとラウルはフェルドーに向かって飛んでいる。
本当はラウルだけでも良かったのだけれど、リシャールがラウルのことを知らないため、ミオが同行することになった。
ただし、ミオは明日騎士団との見回りがあるため、今日中には王都へと戻ることになっている。
「ねぇ、ミオちゃん」
「ん?」
「何でここは結界が張られてるの?前から気になってたんだよねー」
「中級以上の魔物が生息しているから、周囲の町に被害が出ないように結界で出入りできないようにしてるんだよ」
「ふぅん。どんな魔物がいるの?」
「うーん……私も入ったことがないから、中がどうなってるのかはわからないんだよね」
「え、入ったことがないの?」
「こないだの点検で入る予定だったんだけどね。ちょっといろいろあって私は意識なかったから……って、ラウルさん達のせいじゃん!水竜操ろうなんてことするから!」
「あ……もしかして、あの時?」
「そうだよ!」
「ごめん!本当にごめん!」
あの時は、被害を出すことなく事態を治めることが出来たから良かったものの、ミオは傷だらけだったし、魔力切れで3日間眠り続けた。
ラウルは本気で反省しているようなので、過ぎたことをとやかく言うつもりはないけれど。
「あ、結界と言えば……ラウルさんって、人が入って来られないようにする結界とか使える?」
「まぁ、使えるけど」
「え、本当に!?」
「でもさー、そんな結界はルシヨット魔導国の魔導師だったら、簡単に解除できちゃうよ?」
「そうなんだ……」
やっぱり、オルレーヌの門や壁の上に結界を作って侵入を防ぐというのは無理らしい。
結界を作ることが出来ても、簡単に解除されてしまうのなら意味がないだろう。
「何でそんな結界のことなんか聞くの?」
「それは……魔導師なら門や壁の上を通れるから、不審な人の侵入を防げないなって。だから、結界を張ったら防げるかなと思ったんだけど……ムリそうだね」
「えー、なになに?ヤバい奴とか来そうなの?」
「まだわかんないけどね」
結界が無理なら別の対策を考えないとだ。
まぁ、今考えてもいい案は浮かばなそうなので置いておこう。
「うぅぅ……急に寒くなって来たね」
「そりゃあ、フェルドーに近づいてるからねー。それに、まだ朝だし」
フェルドーに行っても、リシャールが騎士団と出かけてしまっては意味がないので、かなり早い時間に王都を出発して来た。
こんな時、連絡が出来ないというのは本当に不便である。
ミオはカバンから上着を取り出して重ねた。
そのうちに、だんだん雪がちらつくようになって来た。
やっぱり、朝の雪はとても奇麗なのだけれど……寒い!寒すぎる!
ミオはマフラーと手袋も装着した。
こうしてフェルドーに到着し、第二騎士団の宿舎へと向かうと、丁度見回りに行く準備をしているところだった。
「間に合ったぁ」
「ん?何だ、嬢ちゃんじゃねぇか。どうしたんだ?こんな朝早くに来るなんて」
「おはようございます。ちょっとリシャールさんに用事があって。プーレ団長とリシャールさんいます?」
「あぁ、まだ中にいるから行ってみな」
「ありがとうございます」
ミオとラウルは宿舎の中に入って行った。
暖炉で温まった宿舎の中は、まるで天国のような居心地の良さで、ソファーに座ったら動けなくなりそうだ。
天国がどれほど居心地が良いのかは知らないけれど。
ミオはランディの姿を見つけて駆け寄った。
「プーレ団長、おはようございます」
「よぉ、嬢ちゃん。驚いたなぁ、こんな朝早くに来るなんてよぉ。何かあったのか?」
「いえ、ちょっとリシャールさんに用事があって。今日、リシャールさんお借りしても大丈夫です?」
「構わねぇよ。あぁ、ほら降りて来たぞ」
「リシャールさん、おはようございます」
ミオの姿を見て目を見開いて驚くリシャール。
「ミオじゃねぇか!どうしたんだ?」
「ちょっと箒のことで」
「箒?」
話を聞くと、やっぱりリシャールも買ってきた箒を使っていたようだった。
箒を準備するようカミーユに言われたので、街に行って買ってきたのだとか。
やっぱり、準備しろなんて言われたら買って来るに決まっている。
「はぁ!?箒は手作りだぁ!?」
「みたいですよ。アル君もジェラリーさんも、自分で作って魔力込めたらすぐに乗れるようになりました」
「師団長……説明不足過ぎんだろ」
「……ですよね」
「で、コイツは?」
「新しく魔導師団に入ったラウルさんです。ラウルさんがいろいろ教えてくれるので、頑張ってください」
「へぇー。俺はリシャールだ、よろしくな」
「よろしくー」
これでリシャールは箒が使えるようになるだろう。
ミオには教えられることは何もないので、ラウルが箒の作り方や魔力の込め方、操作の仕方などを教えている間に、モンルトワ大雪原に行くことにした。
少し、氷竜と話をしてみようと思ったのだ。
「じゃあ、私は少し出かけてくるから。ラウルさん、よろしくね」
「えー、何処行くのミオちゃん?俺も一緒に行きたいなぁ」
「私はちょっと用事があるから」
ミオは宿舎を出た。
氷竜に会いに行くことは、何となくだけれど秘密にしておいた方がいい気がしたので、用事があるとだけ伝えておく。
さて……
「寒すぎるし、今日は1人だから温かい飲み物買ってから行こうかな」
今日は騎士団とは一緒に行かないため、途中で温かい飲み物は作ってもらえない。
町で購入してから雪原に向かうことにした。
温かい飲み物なしでは凍死してしまいそうだし……
少し町を歩いてみると、そんなに時間はかからずにお店を見つけることが出来た。
ホッとココアを買って準備は整い、ミオは箒に乗って雪原へと向かった。
―――――――
―――――
―――
「確か……こっちの方だったよね?」
記憶を辿って雪原を進んで行くミオ。
何の目印もなく、ただ一面真っ白な景色が続く大雪原。
これ……迷ったら終わりじゃないですか?
少しずつ不安な気持ちで押し潰されそうになって来た時、雪の中から可愛らしい耳がぴょこんと現れた。
あれは……
「雪兎(スノーラビット)!」
1匹の雪兎が顔を出すと、次々と雪兎達が顔を出した。
ミオは箒を下降させて地面へと降り立った。
雪兎達がぴょんぴょんとミオの周りに集まって来て、1匹がミオの腕に乗って来た。
「何て可愛いの!」
雪兎を抱きしめていると、寒さなんて忘れてしまいそうだった。
いけないいけない、こんなことをしている場合ではなかった。
氷竜に会いに行かなくては。
ミオが雪兎を降ろそうとすると、雪兎達はまるでミオを何処かに案内でもするように、チラチラとミオを振り返りながら進み始めた。
「ん?ついて来いってことかな?」
ミオは雪兎を抱いたまま、箒に乗ってついて行ってみる。
こうしてしばらく進んで行くと、見覚えのある祭壇へと辿り着いた。
以前来た時に氷竜と出会った場所だ。
「ここまで案内してくれたの?ありがとう!」
ミオは雪兎達にお礼を言って、祭壇に向かって呼びかけてみた。
すると、雪原の奥の方から氷竜が姿を現した。
―――私に何か用か?
えーと……少しお話がしたくてですね
―――話?
ミオは氷竜に、この王国が何故竜に守られるようになったのか、竜はどうやって離れている竜と話すことが出来るのか、竜の噂についてなどを尋ねた。
氷竜の話によると、遥か昔この世界では多くの国々が争いを起こしていた。
戦争によって国の領土を広げたり、戦争に勝つことで権力を振りかざしたり、とにかく争いは絶えなかった。
そんなこの世界を旅する、1人の魔導師がいた。
彼女は竜とともに、争いごとのない静かな国を探して旅をしていた。
こうして、竜を連れた魔導師は、大陸の西の果てに小さな王国を見つけて、そこに住むことにした。
とても小さな国だったけれど、争いごとのないとても静かな国だった。
魔導師は、住民の少ない雪に閉ざされた大地に家を建て、4体の竜と一緒に暮らした。
争いのない静かな生活は、とても幸せだった。
そんな生活が永遠に続く……そう思っていたけれど、すぐに壊されてしまった。
大陸の多くの国を支配して来た国が、こんな西の果ての小さな王国まで支配しようと攻め込んできたのだ。
この王国に戦って勝利する力などない。
もしも、支配下に入ってしまったら、きっと今までのような暮らしは出来なくなるだろう。
何と悲しいことか。
多くの国々を支配して、何をしたいというのか。
魔導師は、竜とともに戦うことを決意した。
自分の居場所を守るために。
魔導師は4体の竜とともに、戦争が行われている最前線へと姿を現した。
竜の力は凄まじく、人間では太刀打ちできない強さで、敵国の騎士達はあっという間に数を減らされた。
だが、敵国の魔導師による攻撃は竜達にとってはかなり厄介で、強靭な竜の体も少しずつ傷ついていった。
魔導師が竜を守りながら敵国の魔導師と戦い、竜も騎士や敵魔導師を攻撃し、撤退を余儀なくされた敵国は、ついに白旗を掲げて逃げて行った。
こうして戦争は終わった。
魔導師は、この王国を守るために4体の竜を東西南北に1体ずつ配置することにした。
そして、大陸からは誰も入って来れないように、東側の国境の向こう側には上級の魔物を放った。
こうして、再び静かな暮らしに戻れるかと思ったが……そうではなかった。
何と、国王に求婚されてしまったのだ。
魔導師は断った。
けれども国王は諦めなかった。
「………あれ、これって…」
ミオの母親の話だろうかと思っていると、氷竜にそうではないと否定された。
―――確かに、カエデもかなりしつこく求婚されていたようだがな。この話は、カエデがこちらに来る遥か昔の話だ。
そ……そうなんですね
(てゆーか、国のあっち側に上級の魔物放ったのって魔導師だったんですか!?)
こうして、竜に守られた王国が誕生した。
王国を守る竜は、魔導師が守る。
どうして竜を守る魔導師が、この世界と違う世界から来るのかは、氷竜にもわからないということだった。
最初にこの王国を守った魔導師も、どこかの世界から来た魔導師だったらしい。
―――何故、私達が離れているのに話が出来るのか。それは、竜とはそういうものだからだ。
……そ、そうなんですね
(結局よくわかんなかった……)
―――竜の噂については、あれはカエデの時代に生まれたものだ。人間とは愚かな生き物だ。あのような真実ではない噂を信じて襲ってくるのだからな。
やっぱり、真実ではないんですね
―――それでは私は行く
え、ちょっと待って…!
―――また話を聞きに来るが良い
いや、だからもうちょっと話を……
氷竜は雪原の奥へと姿を消してしまった。
話を聞きに来るが良い……って、今聞きたいんですけど!?
それにしても、驚いた。
この世界もかつては争いが絶えない世界だったということもそうだけれど、竜を守る魔導師は必ず違う世界から来るということも。
どういうことなんだろう?
氷竜がわからないと言うのだから、これ以上調べようもない気がするけど。
とりあえず、この王国のことが少しだけわかっただけでも良しとしよう。
ミオは、帰り道も雪兎に案内されながら、迷わずに雪原から出ることが出来た。
―――――――
―――――
―――
「リシャールさん、箒に乗れるようになりました?」
「ミオ!お前どこ行ってたんだ?昼飯終わっちまったぞ」
「……あ」
「ミオちゃんってさー、よく食事忘れちゃうよねぇ」
やってしまった。
まさかこんな所でも昼食を食べ損ねてしまうなんて……
仕方がないので町に探しに行くと、とても美味しそうな肉まん屋さんを発見した。
こんな所で肉まんと出会えるとは。
その店には、肉まんと並んで餡まんらしいものも売っていた。
結構な大きさだったので、2つ食べるのは厳しそうだ……悩むな。
散々悩んだ後に、ミオは餡まんを買って宿舎へと戻って行った。
箒の練習をするリシャールを見ながら餡まんを頬張る。
外は寒いけれど、そんな寒い雪の中で食べるホカホカの餡まんはとても美味しい。
それにしても……箒を作ったのってさっきよね?
それなのにこんなに箒に乗れるようになってるリシャールさんって凄くないですか!?
「俺の教え方が上手だからねー」
「そういうの、自分で言うか?」
リシャールの上達ぶりに、自分があんなに苦労したのはどういうことだと項垂れるミオだった。
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