34 魔導師の箒は手作りです
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「ミオちゃん、ちょっと買い物に行こうよー!」
ミオが訓練場で得意魔法以外の魔法を練習していると、ラウルがやって来て買い物に行こうと誘った。
「え、何処に?」
「どこにって、街以外にどこ行くんだよ?」
それもそうだ。
「何を買いに行くの?」
「箒の材料」
「材料って……箒を買ったらいいんじゃないの?」
「ちょっとミオちゃん?売られてる箒と、魔導師の箒は違うじゃん?何々、俺のことからかってんの?」
「……え、違うの?」
売られている箒と魔導師の箒が違うって……どういうことだ?
ミオがキョトンとしながら首を傾げていると、ラウルが盛大に驚いた。
「ちょっと待ってよミオちゃん!え、どういうこと?ミオちゃんだって箒持ってるじゃん!?」
「私の箒は……元々はお母さんの箒だったし」
「え?じゃあ、ミオちゃんのお母さんも魔導師ってこと?」
ミオはしまったと思った。
ラウルの前では、あまり伝説の魔導師には触れない方がいいと思っていたからだ。
困ったぞ、ミオは嘘をつくのが苦手だ。
「まぁ……魔導師だったけど…」
「だった?だったって何?今は違うの?え、魔導師が魔導師じゃなくなるなんてことないよね?」
「うーん……もう、死んじゃったから」
「え……」
ラウルが固まった。
そして、とても悲しそうな顔をするラウルにミオが驚いていると、ラウルは徐にミオのことを抱きしめた。
「ち、ちょっと!?」
「ごめん……ミオちゃん。ホントに、ごめん……」
「大丈夫だから!皆も知ってることだし、それにもう5年も前のことだし……だから、ちょっと離れてくれないかな!?」
「離さない」
「なっ!?」
離さないってどういうことですか!?
いい加減離して欲しいのですが!?
そんなミオの気持ちを知ってわざとこうしているのか、それとも違うのかはわからないけれど、ラウルはミオを抱きしめる腕に少しだけ力を入れると、優しくミオの頭を撫でた。
「ミオちゃんってさ、ホント可愛いよねー」
「そそそ、そんなこと言ってからかわないでよね!」
「えー、別にからかってなんかないけど?」
ラウルが腕を緩めたので、ミオは何とかラウルの腕から抜け出した。
頭から湯気が出ていそうなほど、ミオの顔が真っ赤になっているのが自分でもわかる。
そんなミオを見ながら、ラウルはクスッと笑った。
「そんなわけでさ、箒の材料を買いに行くの付き合ってよ」
「どんなわけよ!そもそも私、箒の材料とか知らないし、何処に売ってるかなんて知らないもの」
「箒の材料なら俺が知ってるし、一緒に探そうよ!」
「私……必要なくない?」
「えー、一緒に行こうよー」
そんな2人のことを、遠くで見ていたシャルル。
カミーユの所に来たついでに、ミオにも会って行こうと訓練場に足を運ぶと、ちょうどラウルがミオを抱き寄せるところだった。
苛立ちなのか、何なのか……そんな気持ちを抱きながら、シャルルはその場を離れた。
―――――――
―――――
―――
「ギリギリセーフ!」
「今日は間に合ったようだねぇ。ほら、座りな。夕飯運んであげるから」
「ありがとうございます」
結局、ラウルの買い物に付き合わされたミオは、帰って来るのが夕食の時間ギリギリになってしまった。
ダッシュで食堂に駆け込むと、どうやら間に合ったようだ。
ミオは、既に夕食を食べ終えているシャルルとカミーユの姿を見つけて、同席させてもらった。
「お疲れ様です」
「お疲れ様、ミオ」
「随分遅かったな?」
「まぁ……いろいろと連れ回されてしまったので……」
「どこかに行ってたのか?」
「あぁ、コイツはラウルの買い物に付き合わされてたんだよ」
「ラウル……あぁ、あの新しく入った魔導師か……」
シャルルの顔が少し曇った気がしたけれど……気のせいだろうか?
ミオがシャルルの顔を見ていると、すぐにいつもの穏やかな笑顔をミオに向けた。
やっぱり、気のせいか。
「何を買いに行ったんだ?」
「箒の材料です。私、魔導師の箒が手作りだなんて知りませんでしたよ。師団長も作ったんです?」
「あぁ、そうか。お前は母親の箒を使ってたんだったな。もちろん、俺の箒は俺が作ったものだ」
「そういえば、カミーユは随分と箒を作るのに苦労していたな」
「うるさい」
そんな話をしていると、スージーがミオの食事を運んで来てくれた。
スージーにお礼を言って、ミオは料理を口に運ぶ。
魔導師が使う箒は、自分で作って魔力を込めると出来上がるらしい。
ミオは母親の箒を使ったため、自分の魔力を込めていなかったので操作するのにあそこまで苦労したのではないだろうか?
そういえば、ある日ミオの魔力が吸い込まれると、急に箒が扱えるようになったんだった。
「他の皆が箒に乗れないのって、私みたいに自分で作ってないからってことはないんですか?」
「いや、自分で作っているはずだぞ」
「うーん……魔力を込め忘れてるとか」
「さすがにないだろう」
だったら何故、いまだに箒に乗れる人が少ないんだ?
謎だ。
「そういやミオは明日、シャルル達と見回りだったな」
「はい」
「明日はネーオールの森とオルレーヌの門までの道の両側を、重点的に見回る予定だ」
「そうなんですね。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく」
明日は、ミオはシャルルと一緒に見回りに行くことになっている。
何事もなく終わることを願いたい。
「そういえば、港町での竜の噂ってどうなったんですかね?」
「どうだろうな……一応、明日の見回りで門まで行ったら聞いてみようとは思っているよ」
「何かあれば、またお前んとこの両親が来るんじゃないか?母君はミオのことを随分と気に入ってるようだったしな」
「そうかもしれない。今回の件も文書で知らせればいい内容だったからな。報告よりもミオに会うことが目的だったように思うよ」
「え、そうなんですか?」
確かに、シャルルの両親であればあり得ることだと思ってしまう。
それにしても、やっぱり連絡手段が手紙とか直接の報告となると、迅速な対応が遅れてしまうし情報の共有が困難だから、通信手段は確立したいところだ。
ミオには何の知識もないから、実現は難しそうだけれど。
竜達は、どうやって離れているところから会話してるんだろうか?
今度聞いてみよう。
―――――――
―――――
―――
「おはようございます、パトリエール団長」
「おはよう、ミオ。今日はよろしく頼むよ」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
「今日も箒で移動か?私の馬に乗せてあげても良いのだが」
「体力の限界を感じたらお願いします」
「そうか。それなら、いつものように私の傍を飛んでくれ」
「はい」
準備を整えると出発となった。
今回はネーオールの森を通り抜けてからの休憩のようなので、森は素通りしていくのだけれど……ミオの気配を感じた水竜が、また湖の水面に顔を出してこちらの様子を見ているのが見えた。
ミオはそのままスルーしようかとも思ったけれど、また拗ねられても面倒なので声だけかけていくことにした。
「パトリエール団長」
「どうした?」
「先に行っててください。私、少し話をしてから追いかけますので」
ミオが湖の方を指さしながらシャルルに説明すると、シャルルは待っていると言ってくれたけれど、そこまで長く話はしないので先に進んでもらうようお願いした。
「1人で大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。すぐに追いかけますので」
「……わかった」
とても心配そうな顔をするシャルル。
本当に心配性だなぁと思う。
ミオが箒を浮上させてシャルル達の頭上を抜けて湖の上を進んで行き、水面に潜った水竜に声をかけると、水竜がとても嬉しそうに顔を出した。
―――やぁ、ミオ!どうしたの?
(どうしたのって……)
えーと、今日はこの森を抜けたところの見回りなので、水竜さんとはあまり話してる時間がないんです。
―――えー、そうなの?残念だなぁ
それで、今港町で昔みたいな竜の噂が流れていて、もしかしたら竜を探しに来る人がいるかもしれません。だから、あんまり水面には顔を出さない方がいいと思いますよ?
―――え、そうなの?噂って何?また僕狙われちゃうの?
まだはっきりわからないけど、念のために気をつけておいてくださいね。何かあれば、またこないだのように私を呼んで下さい。必ず助けに来ますから。
―――わかったよ!僕、ミオのこと呼ぶからね!
一応、他の皆にも知らせておいてくださいね。
―――うん、知らせておくよ。それで、今日は遊べるの?
今日は遊べないです。また今度遊びに来ますから。
―――そっかぁ、残念だけど仕方がないよね。じゃあ、またねミオ
水竜は湖の中に潜って行った。
本当に物わかりのいい竜だと思う。
ミオは、水竜が潜って行った湖を眺めながらクスッと笑うと、シャルル達の元へと箒を向かわせた。
「一度、休憩をしてから見回りを始めるよ」
「はい」
ネーオールの森を出て、通りから右側に進んで行くと小川があるので、そこで休憩を取ることになった。
この小川は、マルセーヌに向かう途中にある小川につながっている川で、港町を抜けて海へと繋がっている川だ。
下流なので流れはとても穏やかになっている。
ミオが近くにあった丸太に座っていると、シャルルが2人分の飲み物を持ってやって来て隣に座った。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。あ、氷入れましょうか?」
「そうだな。お願いするよ」
ミオはシャルルの飲み物に小さなアイスブロックを入れて、自分の飲み物にも入れた。
今は9月半ばを過ぎた頃なので、夏場ほどの暑さはないけれど、まだまだ冷たい飲み物が美味しく感じる季節だ。
ミオが氷を入れるのを見ていた騎士が、自分の飲み物にも入れて欲しいと歩み寄って来たので入れてあげると、他の騎士達も集まって来て、ミオの前には行列が出来上がった。
こうして休憩が終わると、見回りが開始された。
騎士団が地上を移動していき、ミオはそれに合わせて上空を移動しながら見回りをする。
こうして、メインの通りの右側半分の見回りを終えたところで昼食の時間となり、港町で昼食を摂ることになった。
「これはシャルル様、お疲れ様です!それに……ミオ様、魔導師様だったのですね」
「はい、そうなんです」
シャルルは、騎士団の皆に先に昼食を食べるよう指示を出し、門の騎士から竜についての話を聞いていた。
ミオはシャルルが話している間に、門の上へと上がってみることにして、箒を浮上させた。
門の上や、門に続く壁の上は人が歩けるような造りになっていて、所々に騎士が配置されていてミオは驚く。
ただの壁だと思っていたけれど、こうなってるんだ……ミオが門の上に降りてみると、慌てて騎士が駆け寄って来た。
「こんな所で何をしている!?」
「あ、えーと、すみません。私は、第一騎士団と一緒に見回りをしている、魔導師団のミオ・サクライです。門の上ってどうなっているのかなと気になりまして……」
「ミオ?……もしかして、以前シャルル様と一緒に来られたミオ様ですか?」
「はい、そうです」
「これは失礼しました!」
「いえいえ、そんな。私の方こそ勝手に上がって来てしまってすみません」
お互いに頭を下げていると、聞き覚えのある声がして顔を上げた。
「おや、ミオさんではないか。何故、このような場所に?」
「……ジェラールさん。お疲れ様です。えーと……門の上がどうなっているのかと思いまして」
ミオがジェラールに騎士団と一緒に見回りをしていることや、門の上に来た理由などを説明すると、ジェラールはシャルルに会いに門の下へと降りて行った。
ミオも一緒に降りて行く。
こうして、何故かジェラールも一緒に昼食を食べることになり、3人でテラス席のある店に入って座っていると、何処からかシャルルのもう1人の兄・シルヴィーが現れて同席していた。
「……シルヴィー兄さんはどこから現れたんですか」
「そんなことはどうでもいいだろう。それより、ミオちゃん」
「はい?」
「魔導師のローブを羽織った姿もとても素敵だ。母上が言っていた通りだね!」
「えーと……ありがとうございます」
「私とお付き合いを…」
「シルヴィー兄さん、それは断ると言いましたよね?」
「私はミオちゃんに言っているんだが?何故、いつもシャルルが断るんだ」
いつもの流れになり、ミオは苦笑いしながら見ていた。
何だかんだ言って、本当に仲の良い兄弟だと思う。
シャルルが門の騎士から聞いた話や、シルヴィーやジェラールの話だと、竜についての噂話は時々耳に入る程度ではあったが、警戒はしているとのことだった。
それよりも気になったのは、この国に竜がいるのかと尋ねてきた者がいたということ。
尋ねられた商人は「そんな話は聞いたことがない」と答えたようで、その後何かを探ったりはしてきていないようだが、やはり警戒をしていかないといけない。
商人達には、逐一報告するよう伝えてあるらしい。
「門での警戒も強化はしているが、ミオさんのように門や壁を上空から通り抜けられてしまっては、我々騎士団では対処できないな」
「門と壁の上からは入って来られないように結界を張るとかはダメなんです?」
「出来るのか?」
「いえいえ、私は出来ませんけど、師団長なら……」
「カミーユも、可能ならやっていると思うよ」
「なるほど……」
とりあえず、この問題は持ち帰り案件として、休憩を終わらせて午後の見回りに行かないといけない時間だ。
ミオを置いて行けとごねるシルヴィーだったけれど、それは無理なのでジェラールにシルヴィーのことを押し付けて、シャルルとミオは港町から出た。
こうして、昼食を食べ終えた騎士達が全員戻ると、見回りの続きを再開して、午前中とは反対側の見回りをしながら第一騎士団は王都へと戻って行った。
―――――――
―――――
―――
「あ、箒出来上がったんだ」
「まぁねー」
翌日、ミオが訓練場に行くと、ラウルが箒に乗って上空を飛んでいた。
元々乗れていただけあって、箒の扱いはとても上手に見える。
「うーん……魔導師団の皆には、ラウルさんが教えてあげたら乗れるようになるんじゃないかな」
「えー?まぁ、ミオちゃんのお願いなら聞いてあげてもいいけどさー。そうだなぁ、俺とデートしてよ」
「昨日、一緒にお買い物行ったじゃん」
「あれはデートとは違うよねぇ」
「同じだと思う」
「……はぁ、ミオちゃんが可愛いからそれでいいことにしてあげる」
「っ!?」
ラウルがミオの額に唇を押し付けて言った。
ミオはいつものように耳まで真っ赤である。
そこにジェラリーがやって来て、さっそくラウルの指導が始まった。
「ねぇ、この箒って魔力込められてないんだけど」
「魔力を込める?どうやって?」
「は?箒作ったよね?」
「作ってないよ。買ってきた箒だし」
「何でだよ!」
何と、ジェラリーが使っている箒は作ったものではなくて市販の箒だった。
信じられないというような顔で見ているラウル。
あー、これはもしかして……
ミオはカミーユのいる執務室へと走って行った。
「師団長!」
「何だ、どうしたんだ?」
「魔導師団の皆さんに、箒の作り方って教えました?」
「箒の作り方?そんなものは教えてないぞ。だって、自分で作るもんだろ?」
「僕はカミーユが箒を準備しろって言うから買ってきたけど」
そういうことか!
箒を準備しろなんて言われたら、そりゃあ買って来るに決まっている。
魔導師の箒は自分で作るものだと知っていたなら別だけれど。
「師団長、ここの皆さんが箒に乗れない理由って、それですよね?」
「え、どういうことなの?ミオ」
「アル君、魔導師が乗る箒って、自分で作って魔力を込めるんだよ。私も最近知ったんだけどね」
「えー、そうなの?だからどんなに練習しても乗れなかったんだ」
「たぶん、そうだと思う。私もお母さんの箒だったから自分では作ってないし、ある日魔力が吸い込まれたら扱えるようになったもん」
「もしかして全員箒は作ってないのか?」
「たぶん、そうだと思います」
「はぁ、まさか全員が知らなかったとはな」
「カミーユのバーカ!」
「あのな……まぁ、今回は俺のミスだ。すまん」
とりあえず、アルバンとジェラリーは街に箒の材料を買いに行くことになった。
何処に売っているのかはラウルが知っているため、ラウルが付き添うこととなり、ミオは何かあった時のために待機する。
ブーブー文句を言っていたラウルだったけれど、まぁ、仕方がない。
それにしても、まさか箒に問題があったとは……何年も訓練してきた魔導師は可哀想だなと思う出来事だった。
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