33 竜の噂
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「龍の伝説か……なかなか興味深いな」
とある王国の玉座の間。
1枚の紙を手に、邪悪そうな笑みを浮かべる玉座に座る人物。
その紙にはこう書いてあった。
竜の血を飲むと、永遠の命を手に入れられる
竜の涙は、あらゆる病を治す
竜の牙は、魔力を増大する
竜の爪は、絶対に折れない剣を作れる
竜の鱗は、絶対に壊れない防具になる
竜の居場所は書かれていない。
いったいこの竜はどこにいるのか。
「竜か……昔、竜に守られている国の話を聞いたことがあったな」
玉座に座った人物は、家臣達を呼んだ。
そして、命令する。
竜に守られた王国の情報を集めて来い――
―――――――
―――――
―――
「師団長」
「何だ?」
「昔、竜を狙った人達って、どうやって狙ったんです?」
「さぁな、当時の奴らがどう狙ったかなんて、何処にもそんな記録残ってないからな」
「ですよね……じゃあ、他の国ってこの国が竜に守られてることを知ってるんです?」
「それもわからん」
誰も知らないといいな……と思うけれど、もしかしたら知っている人がいるかもしれないし、何か文献が残されているかもしれない。
「うーん……竜だって、自分が攻撃されたら攻撃しますよね?」
「そりゃあそうだろうな」
「こないだ、操られた水竜見て思ったんですけど、攻撃してくる竜と戦うって、魔導師がいないと無理なんじゃないかなって。竜って空も飛べますし。それに……攻撃受けましたけど、めちゃくちゃ痛かったですよ?」
「痛かったですませるお前の感覚もどうかと思うけどな」
「あはは……」
「まぁ、竜を狙うなら魔導師を含めた討伐隊か、大勢の魔導師ってことになるだろうな」
「他の国に魔導師ってどれくらいいるんです?」
「さぁ、それはわからん」
シャルルの両親が国王に報告した内容を聞いて、ミオは不思議に思った。
ミオの母親はこの王国で起きた出来事を、ミオに物語として聞かせたけれど、王国には詳しいことは残していない。
それなのに、物語と同じ内容の竜の噂は出回っている……どうしてだ?
当時竜を狙った人が、この王国から逃げて何か記録のようなものを残したのかもしれない。
もしも、大勢の魔導師に攻め込まれたら、この王国の騎士団と魔導師団では対抗できないだろう。
そう考えると、どうしても気になるのは……ルシヨット魔導国だ。
この王国の魔導師よりも高い能力を持っているというのは、魔導国から来たというラウルを見れば明らかだ。
「魔法の訓練頑張ろう!あ、そうだ師団長」
「何だ?」
「攻撃力強化と防御力強化ですけど、ステッキ使ったらもっといい感じになるかもです」
「そうか、そうだな。よし、これ食べたら訓練場行くぞ」
「はい」
ミオとカミーユは、朝食を食べ終えると訓練場へと向かった。
ミオが言った通り、ステッキを使った支援魔法はかなり効果が上がり、強化魔法に関しては持続時間もかなり伸びるようだった。
これは実戦で使えるのではないだろうか?
「防御力強化って、どれくらい防御力上がるんです?ちょっと攻撃してみてもいいですか?」
「いいわけないだろ!お前の攻撃は的も破壊するんだぞ、俺の身が持たん!」
「えー」
「だったら、俺が攻撃しようか?」
「おはよう、ラウルさん」
「おはよう!ミオちゃん今日も可愛いね!」
「……………」
ラウルがとびっきりの笑顔を浮かべながらミオに挨拶をすると、ミオは赤くなりながら顔をそらした。
ラウルはいつでも直球で来るから、ミオはいつもどうしたらいいのかわからなくなる。
「よし、だったらラウルの防御力上げて攻撃してみろ」
「え、何で俺!?ミオちゃんは可愛いけどさぁ、ミオちゃんの攻撃は消し飛びそうだからちょっと……やっぱ俺が師団長を攻撃するのが一番いいんじゃないかなー」
「……防御力は確実に上がっているから大丈夫だ。俺は執務室に戻るからお前らはしっかり鍛えとけ」
カミーユは執務室に戻って行った。
訓練場にはミオとラウルだけが残った。
ジェラリーは、今日は騎士団に同行している。
「強化魔法って自分にもかけられるの?ヒールは自分にも使えたけど」
「かけられると思うよ?やってみたら?」
ミオは自分にアグレクションを使ってみた。
何だか凄い魔法が使えるような気がする。
試しに的に向かってサンダーボルトを放ってみると……何も変わらなかった。
「あれ?」
「ミオちゃん、それ攻撃力上げる魔法だからね?」
「知ってるよ。でも、あんまり強くなった気がしないんだけど」
「あのさー、攻撃力って物理攻撃ってことだからね?」
「え?」
「魔法攻撃力上げるなら、魔力強化魔法だからね?」
「え、そうなの?」
攻撃力上昇って、魔法攻撃には効果なかったんだ。
ということは……また調べに行かないとだ。
「……図書室行って魔力強化魔法について調べて来よう」
「俺が教えてあげようか?」
「え、教えてくれるの?」
「当たり前じゃん!」
ミオは、ラウルに魔力強化魔法を教えてもらった。
やっぱり、ルシヨット魔導国から来ただけあって、ラウルの魔法は凄いと思った。
―――――――
―――――
―――
「ミオちゃん、一緒に帰らない?」
「そ、それはちょっと……」
「あら、冗談よ冗談。あんまりミオちゃんのこと困らせると、またシャルルに怒られてしまうわね」
シャルルの両親が帰るとの連絡を受けたので、ミオは王宮前に見送りに来ている。
国王も見送りに来ていたので、エミリーの一緒に帰らないかという言葉にギョッとしていた。
「今度、ミオちゃんのことも招待するから、是非遊びに来てね!」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃあ、シャルルと仲良くね」
「はい」
シャルルは見回りに出ているため、ここにはいない。
ミオは国王や王宮の人達と一緒に2人を見送った。
「ミオは……随分と伯爵夫人に気に入られているのだな」
「パトリエール団長のところは男兄弟しかいないから、同性の私と話すのは楽しいんだと思いますよ」
「……嫁に行ってしまうのか?」
「なっ!?い、行きませんよ!」
何を言うかと思えば……パトリエール団長と結婚?……な、何を考えているんだ父親は!てゆーか、一瞬シャルルの顔がよぎった私もだけれど!
ミオは頭を振って、おかしな考えを振り払った。
そんな、私なんかがパトリエール団長と結婚なんて……
「あ、そういえば聞きたいことがあるんですけど」
「何だ?何でも遠慮なく聞いておくれ。そうだ、話しながら一緒に美味しい紅茶でもどうだ?ほら、行こうではないか!」
「え……仕事は?大丈夫なんです?」
国王に背中を押されて王宮へと入って行くミオ。
国王って忙しいんじゃ?お茶なんかしてるヒマないと思うのだけれど……
執務室の前で待機している騎士に、お茶の用意を侍女に伝えるよう指示をして、国王とミオは執務室に入った。
「それで、聞きたいこととは何だ?」
「えーと、他の国の魔導師事情ってどんな感じなんです?」
「他の国の魔導師事情?」
「はい。ほら、この王国って魔導師が少ないじゃないですか。他の国ってどうなのかなと思って」
「まぁ、私もすべての国のことを把握しているわけではないが、同じような感じだと思うぞ?ただし、ルシヨット魔導国は別だ。あそこは魔法に特化した国だからなぁ。あまりいい噂は聞かなくなったが」
「どんな国なんです?」
「昔は他国との関係も良く、何かあれば魔導師を派遣したりもしていたようだが……2年位前だったか、今の国王に代わったのだ。それからは、他国を攻めたり魔力を行使して近隣の国に圧力をかけたり……まぁ、悪い噂しか聞こえてこなくなったな」
「そう……なんですか」
そうなると、ますますルシヨット魔導国のことが気になってくる。
もしも今噂されている竜の情報を手にしたら、きっと竜を狙ってくるだろう。
なんせ竜の牙は魔力を増大するなんて言われているのだから。
そもそも、昔こんな噂を流したのはどこの誰なんだ?
「竜の噂って、お母さんが来る前からあったんです?」
「いや、カエデが来てからだ。カエデがこの王国にやって来て間もなく、人々が争うようになり、いつの間にか人々が竜を襲うようになった。竜だって自分を守るために力を使う。竜の力はとてつもなく強大だ。いつの間にかあんな噂が出回り、王国の外からも多くの者達が竜を狙って来るようになった」
「ということは、この王国が竜に守られていることを他の国も知ってるんです?」
「どうだろうな……竜を襲った人間は皆竜に殺されたが……中には生きてこの王国を出た者もいるかもしれん。それに、襲って来た者達はどこからかこの王国のことを知ったわけだからな」
「なるほど」
やっぱり、この王国が竜に守られていることは他の国にも知られていると考えた方が良いだろう。
今は、港町に入ってくる他国の人達は噂話として話しているだけだけれど、そのうちに情報を集めるためにやって来る人も出てくるかもしれない。
てゆーか、他の国の魔導師……ルシヨット魔導国なんかは普通に空とか飛べそうだし、検問している門なんか飛び越えて来るのでは?
そうなると、魔導師で空を飛べるミオは、門の警備に当たることになるのかもしれない。
まぁ、ここで考えていてもどうにもならないし、今は自分達の力を磨くことや、今後を想定して対策を練ることに時間を使った方が良いだろう。
ミオは涙を流しながら引き止めようとする国王を宥めて王宮を後にし、カミーユの所に向かった。
―――――――
―――――
―――
「入国してくる魔導師対策か。飛行禁止にしても、そんな悪い噂ばかりの魔導国は言うことを聞かないだろうな」
「たぶん、そうだと思います」
「しかしなぁ、この魔導師団で飛べるのは俺とお前だけだろう?2人だけではどうにもならんだろ。てゆーか、いつになったら他の奴らは飛べるようになるんだ?」
執務室でミオとカミーユが門の警備について話していると、昼食を食べに行こうとラウルがやって来た。
3人で食堂に向かう。
「ねぇ、ラウルさん」
「なぁに?」
「どうしてルシヨット魔導国の王様は代わっちゃったの?」
「そりゃあ……前の国王が死んじゃったからねー」
一瞬だけ、ラウルの表情に陰りが見えたのは、気のせいだろうか?
ラウルはすぐにいつもの笑顔を張り付けて、ミオにルシヨット魔導国のことを話した。
ルシヨット魔導国は、国王が変わる前は本当に良い国だったらしい。
ラウルの表情からも、そのことがよく伝わってくる。
当時のルシヨット魔導国では、魔法は戦うためのものではなく、人々や生活を守り豊かにするものとされていた。
戦わないと言うことではなく、人々を守るためには戦うし、国が危険に晒されれば戦争だってする。
ただ、それはあくまでも防衛であり、ルシヨット魔導国が他国を攻めるということではなかった。
ところが、前国王が死んで今の国王に代わってからは、魔導師は戦力として扱われるようになり、国王に感化された魔導師達によって、国内の様子はどんどん変わっていった。
そんな魔導国に嫌気がさして、ラウルは国から出たのだと語った。
「なんか……ごめんね、ずっとストーカーなんて言っちゃって」
「そのストーカーってのがいまいちわかんないけどね」
「もし、ルシヨット魔導国が竜のことを知ったらどうなると思う?」
「あの国王だからね。そりゃー攻めてくると思うよ?たぶん、この王国に勝ち目はないねー」
「やっぱり?」
「攻めてこないことを祈るしかないのかぁ」
「戦力を上げるって言ってもさぁ、この人数だしねー。何でこの王国はこんなに魔導師が少ないわけ?」
「そんなことは俺が聞きたいくらいだ」
この王国にも大昔はたくさんの魔導師がいたようだし、魔女狩りで一度は滅んだとしても、もう少し増えてても良くないですか?
「そういえば、ルシヨット魔導国の魔導師達って普通に空飛べるの?」
「飛べるよー」
「ラウルさんも?」
「まぁね」
「え、じゃあ何で飛ばないの?」
「だって俺、杖とか箒とか持ってないし」
「ん?杖でも飛べるの?」
「飛べるよ」
杖でも飛べるということはカミーユも知らなかったようで、とても驚いていた。
でも、道具を用意すればラウルも飛べるってことがわかった。
これで、魔導師団で飛ぶことが出来る魔導師は3人……って、やっぱり少なすぎるのでは?
黒ローブの組織がどうやって魔導師を集めたのか、ラウルに聞こうとしたミオだったけれど、カミーユはラウルが黒ローブだったことを知らなかったのだと思い出し、後にすることにした。
本当に誰かが竜を狙って攻めてくるのかはわからないけれど、こうして対策が立てられないということは、何だかとても不安なことだった。
―――――――
―――――
―――
ペリグレット王国の南側に位置する港町・オルレーヌ。
その港町の商業全般を管理しているのは、シャルルの兄・シルヴィー。
最近、港町では入国者が竜の噂をしているため、警戒を強めて対応に当たっている。
そんなシルヴィーのところに、今度はこの王国に竜がいるのかと尋ねてきた者がいるとの情報が入った。
「何故、最近になってこれほどまでに竜の噂が出回っているのだ?」
王国の者であればもちろん竜のことを知っているが、このことは他国には漏らしてはいけないことになっている。
また、港町の商人の中にも、竜のことを知っている者はいるが、決して口にはしない決まりになっているので、下手に話してしまう人などいないと信じたいところだ。
シルヴィーは情報を共有するため、弟でこの港町の警備に当たっている当家の騎士団団長・ジェラールの元へと向かった。
これは……いつか王国騎士団への応援要請も必要になるかもしれないな…
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お読みいただきありがとうございました!




