32 パトリエール夫妻
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「うーん……こうすれば……お、やっとついた」
ミオは昨日買ってきたチャームを、何とかステッキに取り付けた。
うん、やっぱりこうすると可愛い。
ステッキの持ち手でゆらゆらと揺れるチャームが、ステッキのシンプルな飾りを引き立てて可愛くしてくれた。
残りのチャームは、バッグと……遠出用のカバンに取り付けた。
「よしっ」と、ミオは満足げに頷いて、朝食を食べに食堂へと向かった。
「あー、ミオちゃん。おはよう!」
「おはよう、ラウルさん」
「えー、もう……呼び捨てにしてって言ってるのにぃ」
「いや、それはちょっと」
ミオが食堂で朝食を食べていると、ラウルがやって来てミオの前に座った。
今日は、国王がパトリエール夫妻と朝食を食べるため、ミオの朝の訪問はなしということになったので、ミオはこうして食堂で朝食を食べている。
「昨日は街で何したの?」
「お買い物」
「へぇー、何買ってきたの?」
「チャームとお化粧水とか」
「チャーム?……って何?」
「うーん……バッグとかにつける飾り」
「ふぅん。そういうの、チャームって言うんだ」
「うん……あ、もしかして言わない?」
「俺が知らなかっただけかも」
もしかして、チャームって単語もなかったりするんだろうか?
まぁ、別にこっちにない単語を使っても、それがいつか浸透していけばいいだけのことか。
こうしてラウルと一緒に食べていると、カミーユがやって来てミオの隣に座った。
「おはようございます、師団長」
「おはよう。珍しいな、こっちで食べてるの」
「今日はパトリエール団長のご両親が来ているので」
「なるほどな」
「ちょっと待って。ミオちゃんがこっちで食べるのが珍しいって……どういうこと?」
「……そこは……気にしなくていいよ」
「え、気になるじゃん!」
「気にするな」
「えー!?」
1人だけよくわからず納得がいかないラウルには構わずに、ミオとカミーユは朝食を食べた。
ラウルだけは、ミオが国王の娘だとバレると面倒そうだなと思う2人だった。
「あ、そう言えば……今日はラウルさんと一緒に騎士団に同行でしたっけ?」
「あぁ、そうだ」
「そっか!そうだったね!ミオちゃんと一緒に仕事なんて、俺幸せだなー」
今日は、ラウルが初めて騎士団に同行する日なので、ミオが一緒に行くことになっている。
ラウルなら1人でも大丈夫なのでは?と思うけれど、念のため一緒にということだ。
ミオとシャルルが以前にクマと遭遇した辺りの見回りだ。
黒ローブの組織もいなくなったことだし、特に何も起こらないとは思うけれど、何が起こるかはわからないので警戒はしないといけない。
そういえば、あのクマはどうして人間に襲われてしまったのだろう?それは今でも謎のままだ。
ただ、クマの毛が刈られ、爪が剝がされていたことを考えると、ミオが前に読んだ魔導書に書いてあった人を操る魔法に使われる材料と同じなので、もしかしたらクマを操ろうとしていたのかもしれない。
あの6人も黒ローブの仲間だったのだろうか……
「ごちそうさまでした。それじゃあ、私は準備をして騎士団の所に行きますね」
「あぁ、よろしく頼む」
「俺も俺もー。ミオちゃん、一緒に行こうよ!」
カミーユは、一緒に食堂を出て行くミオとラウルをジーッと見ていた。
「まぁ、ライバルがいた方がシャルルも張り合いが出るだろう」
―――――――
―――――
―――
ミオとラウルは、見回りに行く準備をしている騎士団の所に来ていた。
手伝おうとしたミオだったけれど、いつものようにお断りされてしまい仕方がなく待機している。
ラウルは騎士団を手伝って、荷馬車に荷物を運んでいた。
こうして準備が整い、出発しようとしていると、元気のいい声でミオを呼ぶのが聞こえて来て、ミオは声が聞こえた方を振り向いた。
ミオを呼んでいたのは、王宮から出て来たエミリーだった。
「おはようございます、パトリエール団長のお母様」
「あらぁ、ミオちゃんの魔導師姿も可愛いわね!」
「あ……ありがとうございます」
「今日はその格好でお出かけなのかしら?」
「ん?……お出かけと言うか……騎士団の皆さんと一緒に見回りです」
「あらぁ?私と一緒にお出かけするのよね?」
「……え?」
ミオがよくわからずに首を傾げていると、後ろからカミーユとジェラリーが走って来た。
「ミオ、すまんがジェラリーと交代だ」
「え?」
「えー!?何でだよ!」
「悪いがラウルはジェラリーと行ってくれ」
「よろしくー」
ラウルがめちゃくちゃ文句を言っていたけれど、カミーユの指示なのだから仕方がない。
どうやら、今日はシャルルの両親が街に出かけるようで、エミリーがミオと一緒に出かけたいと言ったらしい。
それでカミーユが慌てて走って来たというわけだ。
「あらぁ、カミーユ。久しぶりね」
「ご無沙汰しております」
「元気そうで良かったわー」
「はい、おかげさまで。母君もお元気そうで何よりです。ミオは準備させたら向かわせますので、もう少しお待ちください」
「わかったわ。急がなくても大丈夫よ、ミオちゃん」
「あ、はい」
こうしてミオはカミーユとともに戻って行き、ローブと箒を置いて出かける準備をして王宮へとやって来た。
街に出かける付き添いって……ご案内できるほど詳しくないのですが!?
ミオが応接室で待っていると、準備を整えたシャルルの両親と……シャルルがやって来た。
「え……パトリエール団長?」
「おはよう、ミオ。今日は私も一緒に行くから」
「そ、そうなんですね!良かったです、私まだあまり街のことはわからなくて…」
「私はミオちゃんがいれば良かったのだけれどねー」
エミリーがミオの腕に自分の腕を絡ませながら言った。
いやいや、お母様……いくら何でもそれは…
こうして4人は、馬車に乗って街へと出かけて行った。
街について最初に向かったのは、パトリックの薬草屋。
エミリーもここで化粧水なんかを購入しているらしい。
いつもは屋敷まで届けてもらっているのだが、王都に来たついでに購入していくとのことだ。
「いらっしゃい……って、シャルルの母君じゃないですか!あれ、ミオちゃんも一緒?」
「パトリックもミオちゃんのこと知っているの?」
「そりゃあ、魔導師団もミオちゃんもお得意様ですからね!で、今日はどうなさいました?」
「王都に来たついでに、化粧水を買って行こうと思って」
「なるほど。では、ご用意しますので少しお待ちください」
何だか店員らしいパトリックを見るのは初めてな気がして、ミオは少し驚きながら見ていた。
ちゃんと店員やってるんだ……まぁ、当たり前だけど。
こうして、パトリックが用意した化粧水などを受け取ると、次は洋服が見たいと仕立て屋に向かった。
エミリーがやって来たのは、ミオがシャルルやカミーユに連れて来てもらう洋服屋だった。
「これは、パトリエール様。王都にいらしていたのですね。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「少し見させていただきますわ」
「どうぞ、ごゆっくりとご覧になってください」
エミリーが洋服やドレスを見て回り、ミオはシャルルやカルロスと一緒に待っていた。
こうして考えると、男性が女性の買い物に付き合うのを嫌がるのも、わかる気がする。
いつもミオの買い物に付き合ってくれるシャルルは、本当に優しい人だと改めて思った。
それに、ニコニコしながら待っているカルロスも、優しい人だと思う。
こういうところが、シャルルとカルロスの良く似ているところだ。
「ミオちゃん、ちょっと来て」
「ん?……はい」
エミリーに呼ばれてミオが歩み寄ると、何故かドレスを合わせられた。
ニコニコしながら見ているエミリー。
「あのう……」
「うん!やっぱりこのドレスが似合うわね!でも……少し大きいかしら?」
ミオがよくわからずに困惑していると、ドレスと一緒に試着室へと入れられてしまった。
は?何が起きているんですか?
着ていた服を脱がされ、ドレスを試着させられるミオ。
淡いピンク寄りのラベンダー色と淡い水色で、花やリボンがあしらわれたとても可愛いドレスだったけれど……どう考えても私には似合わないと思うのですが!?
エミリーの見立て通り、ドレスはミオには少し大きかったらしく、いろいろと調整されて店員が紙に何かをメモしていった。
こうしてミオは試着室から出されたけれど……いやいや、何試着室から出してるんですか?
めちゃくちゃ恥ずかしいんですが!?
「やはり、少し大きいようでした。仕立て直す感じになりますが…」
「そうねぇ。でも、思った通りよく似合っているわね!」
「えーと……お母様?似合ってないと思いますよ?」
「あらぁ、何を言ってるのかしら。ほら、シャルルも何か言ってあげなさい」
エミリーに呼ばれてシャルルが歩み寄ってきた。
似合わないのであまり見ないで欲しい……
「とても似合っているよ」
「っ!?」
ミオは耳まで真っ赤になり、恥ずかしさで言葉が何も出てこなかった。
「ほらぁ、シャルルもこう言ってるでしょう?とても似合ってるわよ」
「え、えーと……面と向かって似合わないとか言えないでしょうし……」
「あとは靴ね」
「(聞いてない!?)」
「少しヒールは高めの方が良いかしら?」
「わ、私ヒールとか歩けないので」
「あらそう?それじゃあ、これなんかどうかしら?靴底が厚くなっているから、少しはシャルルに近づくわよ?」
「……ん?」
シャルルに近づくとは?
ミオはエミリーの言っていることが全く理解できずに眉間にしわを寄せながら首を傾げた。
こうしてミオにドレスと靴を試着させて、エミリーが納得をしたように頷くと、ミオは再び試着室へと入れられて、元の格好に戻された。
ようやく解放された……ミオは大きなため息をつきながら、試着室から出て来た。
「ミオちゃんはシャルル達と少し待っていてね!」
「あ、あのう……私、ドレスとか買いませんよ?着ることもないでしょうし……」
「いいからいいから」
エミリーがミオの背中を押してシャルルの所に連れて行く。
その後、エミリーは店員達と何やらやり取りをして、しばらくすると店を出た。
いったい、何だったんだ?
次はどこに行こうかと歩いていると、昼の鐘が鳴り響いた。
随分と長い時間、仕立て屋にいたらしい。
「あらぁ、もうお昼なの?何だか早いわね。お昼ご飯、何を食べましょうか?ミオちゃんは何が食べたい?」
「私ですか?えーと……私は何でもいいですよ?」
「ミオちゃんが食べたいものでいいのよ?」
「え、えーと……」
急に言われても何も思いつかない。
どうしよう……ミオは思わずシャルルを見上げ、シャルルは笑いながらエミリーに声をかけた。
「母上、ミオが困ってますよ。母上の食べたいものにして下さい」
「あら、そう?それじゃあ、パンケーキかしらね」
「あ、パンケーキ美味しいですよね」
「ミオちゃんも食べたことがあるの?」
「はい、パトリエール団長に連れて行っていただきました」
以前、シャルルに街を案内してもらった時にパンケーキを食べた。
何だか意外だなと思ったミオだったけれど、家族で食べたパンケーキだったんだ。
4人はパンケーキ屋へと向かった。
―――――――
―――――
―――
「ねぇ、ミオちゃん」
「はい?」
「どうして、シャルルのことをパトリエール団長なんて呼ぶの?」
「騎士団の団長さんですから」
「うーん、別にそんなに偉いわけでもないんだし、シャルルって呼んでいいのよ?」
「え!?何言ってるんですかお母様。騎士団の団長さんですよ?とても偉い方なんですよ?」
「ミオ、私はそんなに偉い立場の人間じゃないよ」
「いやいや、とても偉い人ですよ!」
「ほらぁ、シャルルもそう言っているのだし、シャルルって呼んでみなさいよ」
「えっ!?」
ミオは困ったようにシャルルを見た。
シャルル……なんて呼べるはずがないじゃないですか!
「ほら、母上。あまりミオを困らせないで下さい」
「あら、困らせてなんかいないわよ?別に名前を呼ぶだけですもの、難しいことではないでしょう?」
「(十分難しいことですが!?)」
「はぁ……ミオ、一度だけ名前で呼んで。そうすれば母も納得するから」
「…………シ……シャルル……さん(は、恥ずかしくて死ぬ!)」
「ほらぁ、やっぱりこっちの方がいいでしょう!」
ようやくエミリーは納得したようで、これ以上は何も言ってこなかった。
こうしてパンケーキを堪能した4人は、ブラブラと街を歩く。
「そういえば……お父様は何か買われたい物とかないんですか?」
「私か?そうじゃな……今は特にないのう」
「そうなんですか。えーと……パ」
「パ?」
ミオがいつも通りシャルルのことを呼ぼうとすると、エミリーがもの凄く顔を寄せてきた。
「……シ…シャルルさんは……何か欲しいものとか…」
「ふふ、私もないよ。ミオは行きたいところはないのか?」
「私は、昨日買いに来たので」
「あら、何を買ったの?」
「えーと……これです」
ミオがバッグにつけたチャームを見せると、エミリーはとても気に入ったようで、4人は雑貨屋に向かうことになった。
「この雑貨屋は、ミオがとても気に入っている店なんですよ」
「あら、そうなの?それは楽しみね!」
ミオとシャルルが先導して案内をする。
ちらりと振り返って見ると、シャルルの両親は腕を組みながら楽しそうに歩いていた。
本当に仲の良い夫婦だ。
あんな風になれたらいいな……何て思いながら何故かシャルルを見上げてしまい、慌てて視線をそらしたミオだった。
雑貨屋は、昨日来たばかりだと言うのにやっぱりとても癒される場所だった。
エミリーもとても気に入ったらしく、アレもいい、コレもいいとはしゃぎながら店内を回っていた。
自分のお気に入りを気に入ってもらえるのって……何だかとても嬉しいことだ。
いろいろと見て回ってエミリーが購入したのは、ミオと同じチャーム。
「ミオちゃんとお揃いよー!」
「そ、そうですね」
「良かったですね、母上」
エミリーとお揃い……何とも言えない複雑な気分のミオだったけれど、喜んでいるのだし良しとしよう。
こうして、シャルルの両親とのお出かけは終了となった。
馬車で王宮へと戻る。
「今日は楽しかったわ。ありがとう、ミオちゃん」
「いえいえ、私もとても楽しかったですよ」
「良い買い物もできたし、とても満足ね」
「それは良かったです」
シャルルの両親は、王都での用事はすんだので、明日には帰るとのことだった。
そういえば、国王への報告って何だったんだろう?
まさか、港町の店の売り上げとかでもないだろうし、少し気になることではあるけれど、それは明日にでも聞いてみることにしよう。
などと思っていたら、その日の夜にシャルルとカミーユが国王に呼び出されて、カルロスからの報告の内容を知らされた。
内容は以下の通りだ。
最近、港町であまり良くない噂を聞くようになった。
竜の血を飲むと、永遠の命を手に入れられる
竜の涙は、あらゆる病を治す
竜の牙は、魔力を増大する
竜の爪は、絶対に折れない剣を作れる
竜の鱗は、絶対に壊れない防具になる
港町で商売を営む者達から、そんな話をしている来国者がいたと報告があったのだ。
どこの国の者なのかはわからないが、最近そんな話をする者達が増えてきたと、シルヴィーに報告があがったらしい。
シルヴィーからの報告を受けたカルロスは、これが竜を狙っている者がいるということなのか、ただの噂話というだけなのかはわからないが、国王の耳には入れておいた方が良いと考えて、すぐに報告に来た。
国王からの報告を受けて、カミーユが何かを思い出したように口を開いた。
「その竜の話……確かミオが書き出した物語の中にあったな」
そう、この竜の話はミオの母親が語ってくれた物語にもあった内容だ。
また、竜が狙われてしまうのだろうか?
他国の者達の噂話なので、黒ローブとは無関係だろう。
「とりあえず、他国の者を港町からこちら側に通す場合には、細心の注意を払うようパトリエール伯爵には伝えておいた」
「この王国が4体の竜によって守られているということは、口にしないよう国民にも言い渡されてはいますが……他国にも情報は流れているかもしれませんね」
「可能性はないとは言えない。他国がどこまで把握しているのか……それによっては守りを固めておかなければならないが」
「守りを固めることによって、竜の居場所が割れてしまうということも考えられるか…」
どうしたものか……3人は頭を悩ませた。
王国に、また何か良くないことが起ころうとしているのだろうか…
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お読みいただきありがとうございました!




