23 港町オルレーヌ
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ぺリグレット王国の南側に位置する港町。
この港町・オルレーヌは、商人達もたくさん出入りしていて、とても賑わいを見せている街だ。
ぺリグレット王国の玄関口にもなっている。
港町であるため、海の幸が豊富なのは当たり前だが、ここには他国から入ってくる珍しい商品も数多く売られていて、王都だけではなくぺリグレット王国中から足を運ぶ人も多い。
―――――――
―――――
―――
「師団長」
「何だ?」
「この辺りの森や雪原って、人間を襲わない魔物が多いじゃないですか」
「そうだな」
「この辺にいない魔物や、中級や上級の魔物ってどこにいるんです?」
「中級や上級の魔物?そりゃあ、雪原の奥の方とか王国の真ん中辺りにもいるし、メーヌの森よりも東側の王国を出た所からはわんさかいる」
「そうなんですね」
「何でそんなことを聞くんだ?」
「魔物の討伐の時に、パトリエール団長がよく『この辺りにはいない魔物だ』ってことを話しているので、じゃあどこにいるのかなって思いまして」
雪原にはおとなしい魔物しかいなかったから、まさか中級や上級の魔物もいるとは思わなかった。
襲ってきたりしないんだろうか?
「雪原の魔物は、上級でも人間を襲うことはまずない。生息地域が雪原の北側、海に面するほど奥の方だからな。馬鹿な奴が足を踏み入れて刺激しない限り大丈夫だ。まぁ、刺激したところでそいつが襲われて終わるだろうがな」
「そうなんですね……王国の真ん中辺りというのは?」
「王都とフェルドー、サンブリーに囲まれた中心部分だな。ここは周囲に町などもあるから、結界で囲んで魔物は出て来られないようになっている」
「なるほど」
「年に3回、結界の点検や中の様子を見に行っているんだが、次に行く時はミオも同行するからそのつもりでいろ」
「そ、そうなんですね。わかりました」
結界とかよくわかりませんが?
これは……勉強しておく必要がありそうだ。
「それで、次はいつ行くんです?」
「そうだなぁ……お、来月だ。早いな4か月って」
「え、もうすぐじゃないですか」
「俺も一緒に行くから心配するな」
「それは心強いです!」
結界を張っているのがカミーユのため、そこの調査には毎回カミーユが同行しているらしい。
討伐になることはほとんどないようだけれど、そこにいるのは中級や上級の魔物なわけだから気は抜けない。
「ところでミオ」
「はい?」
「お前、オルレーヌにはまだ行ったことがなかったよな?」
「オルレーヌ……どこですかそれ?」
「ネーオールの森の南側にある港町だ」
「港町!いつか行きたいとは思ってましたよ!」
「そうか……わかった」
え、連れて行ってくれるんですか?
期待してていいんですか?
―――――――
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―――
1台の馬車がオルレーヌに向かって走っている。
馬車に乗っているのはシャルルとミオの2人。
「何だか……すみません。せっかくの休暇について来てしまって」
「いや、私の方こそ付き合わせてしまったみたいですまない」
何故、ミオがシャルルと一緒に港町に向かっているのかと言うと……
3日前―――
「シャルル、お前オルレーヌに行くって言ってたよな?」
「あぁ、数日だが休暇をもらって帰ってくる」
「ミオも連れて行け」
「は?」
「え?」
いつものように3人で夕食を食べていると、突然カミーユがそんなことを言い始めた。
「ち、ちょっと師団長、それはいったい……」
「お前、オルレーヌには行ったことがないって言ってただろ?」
「言いましたけど……」
「シャルルが休暇取って行くらしいから、一緒に連れてってもらえ」
「いやいや、そんな急に……パトリエール団長の予定というものがあるじゃないですか」
「私は……別にかまわないが…」
「ほら、シャルルもこう言ってるんだし、一緒に行ってこい」
「で、でも……」
―――――――
―――――
―――
こんな感じで、カミーユによって強引に決められてしまった。
いったい、何を考えているんだか……
「でも、港町には行ってみたいと思っていたので、とても楽しみです」
「私も、ミオと行けるのは楽しみだ」
馬車の小窓から外を眺めているミオを見ながら、シャルルは考えていた。
さて、どう説明しようか……
馬車はネーオールの森の中を走り、湖の傍を通りかかった。
ミオが何気なく湖を眺めていると……水面から、水竜がこっちを見ていたような……ま、まぁ、気のせいと言うことにしておこう。
こうして馬車が走ること3時間くらいだろうか?
大きな門の前で、ミオはシャルルに手を引かれて馬車を降りた。
「この門の向こうが、オルレーヌだよ」
「立派な門ですね!」
港町には、他国からもたくさんの人が訪れてくる。
港では大掛かりな検問を行うことが出来ないため、港町から王都に入るこの門で検問を行っている。
中には不審者などもやって来るそうだけれど、港町の警備は厳重らしく大きな問題は起きたことがないらしい。
凄いな、港町を警備している人達。
「ミオ、荷物は私が運ぶよ」
「いえいえ!自分の荷物くらい自分で運びます」
「遠慮しないで。貸してごらん」
「え!?……あ、あの……ありがとうございます」
シャルルがミオのカバンも持ってくれて、ミオは申し訳なく思ったけれど、あんまり断ってしまうのも悪い気がしてそのまま持ってもらった。
列に並んで門の中に入ると騎士団とは違う騎士がいて、シャルルを見ると皆が頭を下げた。
「これはシャルル様、お帰りなさいませ。お荷物お持ちします!」
「あぁ、すまない」
シャルル様?
やっぱり騎士団の団長ともなると有名になるんだな。
「この子はミオと言って、私の連れだ」
「ミオ様ですね。承知いたしました」
「えーと……よろしくお願いします」
こうして門をくぐり抜けて行くと、とても賑やかな声が聞こえてきた。
これが……港町・オルレーヌ。
騎士は待機している馬車まで荷物を運んでくれたけど、ここからまた馬車で移動するのかな?
「私達は少し街を見てくるから、荷物はここで預かってもらえると助かる」
「承知いたしました!ごゆっくり回ってきてください!」
騎士が頭を下げて立ち去ると、シャルルは優しい笑みを浮かべながらミオに手を差し出してきた。
え、これって……手をつなぐってことですか?
やっぱりこっちの世界では、手をつないで歩くのが当たり前なのですか?
ミオは、何だかドキドキしながらシャルルの手に自分の手を乗せた。
すると、シャルルが困ったように笑いながら言った。
「ミオ、それだと握手になってしまうよ」
「……そ、そうですね」
何だか緊張してしまって反対の手を出してしまった。
恥ずかしい……
「では、行こうか」
「はい」
オルレーヌはとても賑わっていて、王都よりも人がたくさんいるんじゃないかと思う程だった。
たくさんの店が建ち並び、どの店にも多くの客が足を運んでいる。
元の世界では港町には行ったことがなかったけれど、きっと元の世界の港町はこんな感じではないと思う。
これは、小説や漫画の世界の港町だ。
「凄い人ですね」
「ここは、他の国からもたくさん人がやって来るから、いつも賑わっているんだよ」
「へぇ~、そうなんですね」
「それに、ちょうどお昼時だからな。1日の中でも賑わう時間帯だ」
「なるほど」
「ミオは何が食べたい?」
「何も考えていませんでしたけど……おすすめとかあるんです?」
「おすすめか……私がよく行く店で良ければ案内するよ」
「是非、お願いします!」
シャルルはミオの手を引きながら、港の方へと足を進めた。
途中にある店からも美味しそうな匂いが漂ってきて、ミオのお腹を刺激する。
ヤバい、お腹が鳴りそう……ミオはお腹が鳴りそうなのを、必死に堪えた。
そんなミオの目にとまった一軒の店。
店頭に並べられているのはシーグローブだった。
「パトリエール団長」
「ん?どうかした?」
「ご飯食べたら、あのお店を見てもいいですか?」
「構わないよ」
「ありがとうございます!」
こうしてシャルルに案内されたのは、港のすぐ傍にある、テラス席が可愛いレストランだった。
レストランに入ると、入り口にいた従業員が深々と頭を下げた。
「これはシャルル様、ようこそいらっしゃいました」
「テラス席に案内してもらえるか?」
「はい、かしこまりました!」
凄いな、やっぱりシャルル様って呼ばれてる。
かなりの常連客なのだろうか?
ミオとシャルルは、案内されたテラス席に座った。
海が見えて海風も気持ちの良い、素敵なテラス席だった。
メニューを渡されて開いてみると、どれも美味しそうで悩んでしまう。
パスタもいいけれど、グラタンもいいなぁ……シーフードが乗ったパンケーキ?え、甘くないの?
気になる……
「ミオ、食べたいものはあった?」
「そりゃあもう、ありすぎて悩んでしまいます」
「そうか。ゆっくり決めるといいよ」
「えーと……ワッフルとシーフードオムレツにします」
シャルルが注文をしてくれて、あとは料理が運ばれてくるのを待つだけだ。
「パトリエール団長は、このお店にはよく来るんです?」
「昔はよく来ていたが、最近はあまり来ていないかな。仕事もあるし」
「そうなんですね」
まぁ、騎士団は忙しそうだしね。
それに、団長ともなれば他の騎士達よりも業務は多そうだ。
師団長もいつも忙しそうだし……
「それにしても、団長ともなると有名人になるんですね。ここの皆さん、パトリエール団長を呼ぶのに様つけてるし……あ、私も様つけた方がいいんですかね?」
「つけなくていいよ。あの呼び方は……私も抵抗はあるのだが、これは仕方がないというか…」
ここに来るまでに、何人かの騎士を見かけたけれど、皆がシャルルに敬礼をしていた。
ここの騎士も王国騎士団なのか?
「そういえば、門にもいましたが、ここに来るまでにも騎士の方を何人か見かけましたけど、王国騎士団の方なんですか?」
「ここにいるのは王国騎士団ではなくて、ここの領主の騎士団なんだ」
「ふぅん、そうなんですね」
領主というのは……この辺の地主的な感じなのかな?
その辺のことは正直よくわからないけど、要は土地をたくさん持っている凄い人ってことだろうか?
「この港町は、王都とは違った賑やかさですよね。ザ・港町って感じで」
「(ザ・港町?)ぺリグレット王国だけではなくて、いろんな国の人がいるからな」
「お店もたくさんあって、今日だけじゃ見て回れない気がします」
「大丈夫だよ、明日も来れるから」
「そうですね。でも……パトリエール団長は何かご用事とかあるんじゃ……」
「用事という程のことでもないんだ。だから、気にしないで」
「そうなんですか?」
そんな話をしていると、テーブルに料理が運ばれてきた。
想像よりも美味しそうな料理だ。
「わぁ、凄く美味しそうです!」
「ミオの口に合うといいが」
「パトリエール団長が選んでくれたお店にハズレはないです」
「そう……だと良いが」
「頂き……ま…………ん?」
港の方から激しい水音がしてそちらの方に顔を向けてみると……とんでもない水しぶきが襲いかかろうとしていた。
マジですか……?
「何だ!?」
「う、嘘でしょ!?」
周辺では悲鳴や叫び声が飛び交い、道を歩いている人達が一斉に走り出した。
いやいや、コレは逃げられないでしょう!?
このままでは街が大洪水になってしまう。
いったい何が起こった!?
ミオは咄嗟に立ち上がると、両手を空に向かって翳した。
シャルルがミオを庇うように抱きしめる。
え……パトリエール団長、何をしているんですか?
自分の身に起きていることが理解できなかったけれど、ミオはそのまま水属性の魔法を使って降り注ぐ海水を1か所に集めた。
海水は、空中で大きな水の塊となる。
いつまでも降りかかってこない水しぶきに、シャルルが顔を上げた。
「……ミオ?」
「あ、パトリエール団長。ちょっとあの海水を海に返してきます」
「海水?」
シャルルが振り返って見ると、空中に大きな水の塊が浮いていて驚く。
ミオがテラス席から港に向かって歩いていくと、水の塊もミオと一緒に移動した。
このまま海に捨てたら……津波みたいのが来る?
ミオは少し考えると、大きな水の塊を細かく分散させて、雨のように海へと戻した。
綺麗な虹が架かり、周囲から歓声が上がった。
「やはり、ミオは凄いな」
「水竜対策しておいたのが役に立ちました」
「水竜対策?」
ニコニコ笑っているミオの言葉に、シャルルは首を傾げた。
ミオは、水竜の水しぶきを防ぐために、いろいろ考えてこの技を身につけたのだ。
洗濯物や髪の毛などを乾かす魔法の応用だ。
「それにしても、何だったんでしょうね?あの水しぶき」
「この辺の海には、巨大海洋生物はいないはずだが…」
ミオが海面を覗き込んでいると、海の中から何かが浮かび上がってくるのが見えた。
「え?」
「離れるんだミオ!」
シャルルがミオの腕を引っ張って埠頭から離れる。
海中から飛び上がって来たのは……巨大な……クジラ?
「あれは……ケートスだ!」
「ケートス?……クジラ的な生き物ですか?」
「この辺りにはいない、海の魔物だ」
「魔物!?」
ケートスが海に潜ると、その勢いで再び激しい水しぶきが襲いかかると同時に、津波のような波が押し寄せてきた。
そんな、両方防ぐなんて無理だ……ミオは一か八かアイスブロックで波を防ぎ、空中に舞い上がった水しぶきを1か所に集めた。
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―――
「海水……引きましたかね?」
「どうだろう?」
こんな時、箒があれば壁の向こうに行けるのにな……箒を持ってこなかったことを少し後悔する。
氷の壁を消してもいいのだが、ケートスがまた飛び跳ねるかもしてないし、このままにしておいた方が良いだろう。
ミオは壁の端まで走って行き、向こう側の様子を覗いて見た。
海水は全部引いているようで、港の地面が見えている。
「うーん……どうします?」
「あの大きさだと、拘束するのは難しそうだ」
「とりあえず、海水戻してきますね」
ミオは港のふ頭に入って行き、空中の海水を分散させて海へと戻した。
ケートスはどうしようかと考えていると、また海中から上がってくるのが見えてミオはケートスに向かって両手を翳して構えた。
短時間なら……凍らせても死なないわよね?
ミオは、再びケートスが飛び上がったタイミングで、スノーフロストを発動した。
範囲を調整してケートスだけを凍らせる。
そして、海に落ちそうになったケートスを何とか埠頭へと移動させた。
「ふぅ……これでとりあえずは大人しくなったかな」
「ミオ、大丈夫か?」
「大丈夫ですよ」
ミオはアイスブロックをすべて消去した。
壁の向こう側にいた人々がザワザワしながらこちらを見ている。
その中から騎士達が駆け寄って来た。
「シャルル様!ご無事ですか!?」
「私達は大丈夫だ。それよりも、このケートスはどうした?」
「それは我々にもちょっと……」
目は赤くはなっていなかったし、操られていたわけではないと思われる。
まぁ、海だから魔法陣も描けないだろうし。
「この港に迷い込んで、パニックになっていたのだろうな」
「えーと……どうやって元いた場所に戻してあげたらいいんでしょう?」
「そうだな…」
ミオ達が悩んでいると、上空を巨大な影が覆い、太陽の光を遮った。
……次は何が現れるんですか?
ミオやシャルル、街の人々、それぞれが不安な気持ちを抱えながら空を見上げた。
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