22 空の上の風竜
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ぺリグレット王国・王都モンフォワールの東側に広がる草原の上を、メーヌの森に向かってまっすぐ移動する2人の魔導師。
ぺリグレット王国だけなのか、この世界全体がそうなのかはわからないけれど、ここでの主な移動手段は馬・馬車・徒歩。
でも、実は箒が一番速いという……何とも不思議な世界だ。
「おいおいミオ、飛ばし過ぎじゃないか?」
「え、そんなに飛ばしてないですよ?」
「それにお前、ほとんど道の上飛んでなくないか?」
「え、だってここは道とか関係ないじゃないですか。目的地まで直線で飛んだ方が早いですよね?」
上空を飛ぶ箒に、道なんて関係ない。
ただ目的地に向かって飛ぶだけで良いのだ。
だってここには障害物がないのだから。
それにしても……よく考えてみたら、箒に乗れるのってミオとカミーユの2人だけではないだろうか?
他の魔導師はまだ練習中だし……もしかして、かなりレアな移動手段なのでは?
「随分、箒の扱いが上手くなったなミオ」
「血の滲むような努力のたまものです」
実際には血の滲むようなではなく、ケガだらけだったので血はたくさん出たけれど。
「他の魔導師にも指導してやれよ」
「それは師団長がしてくださいよ」
ここに来てすぐの頃、カミーユに箒の扱い方を教えてもらったけれどなかなか出来なくて、カミーユには感覚だと言われてよくわからなかった。
でも、今ほかの魔導師にコツを聞かれても、上手く説明が出来なくて「気合いだ」としか言えない。
自分には指導能力はない……ミオはそう思っている。
ミオ自身、どうやって箒を扱えるようになったのかよくわからない。
あんなに苦戦していた箒の魔法操作が、ある日突然出来るようになったのだから。
確か、魔力操作の練習で使っていた光の玉が箒に吸い込まれて、それから操作できるようになった。
「あれって……マルセーヌの町か?」
「そうですね」
「もうそんな所まで来たのか?」
「案外近いんですよ、マルセーヌの町って」
「騎士団の馬も飛べるようになれば、移動も楽になるな」
「え、そんなこと出来るんですか?」
「まぁ、無理だが」
馬が飛ぶと言えば……ペガサス。
この世界には魔法もあるし、魔物もいる。
もしかして、ペガサスもいるのだろうか?
「この世界にはペガサスっているんです?」
「ペガサス?何だそれは。魔物か?」
「馬に羽が生えていて飛べる生き物です」
「そんな生き物はいない。ミオの世界にはそんなのもいるのか?」
「空想の世界にですけど」
「空想かよ!」
―――――――
―――――
―――
メーヌの森の入り口。
シャルルが率いてきた騎士団が到着し、森の見回りに行く準備を整えていた。
「では、予定通り見回りを始める」
「あれ?団長、あれ……ミオ様と師団長じゃないですか?」
「ミオとカミーユ?」
見回りを始めようとしていると、1人の騎士がこちらに向かってくるミオとカミーユの姿を見つけて指を差した。
シャルルが指さした方向を見上げると、上空を移動してくる2人の人物が見えた。
空を飛べる人物などミオとカミーユしかいない。
「よぉ、シャルル。間に合ったようだな」
「おはようございます、パトリエール団長」
「どうしたんだ?2人とも……ミオは昨日ネーオールの森に行ったのではないのか?」
「はい、行ってきましたよ」
「コイツがまた1人でここに来ようとするから、俺が一緒に来たんだよ」
「……どういうことだ?」
カミーユが経緯を説明すると、シャルルは驚いた顔で聞いていた。
「箒だとそんなに早く移動できるのか」
「急いだらもっと早く来れますよ」
「お前……どんだけ早く飛べるんだよ」
こうして、ミオとカミーユは森の見回りに同行することになった。
魔導師が2人来たので、二手に分かれて森を半分ずつ見回る。
ミオ的には、カミーユに見回りに同行してもらって、その間に風竜を探そうと思っていたのだけれど……見回りは早く終わりそうだし、見回りが終わったら探しに行くことにしよう。
「まさかミオが来るとは思っていなかったから、とても驚いたよ」
「すみません。ご迷惑じゃなかったですか?」
「歓迎はするが、迷惑だなどとは思わないよ」
「それなら良かったです」
森の中はとても静かだった。
スライムや白狼達も、とても穏やかそうで安心する。
この森には、ネーオールの森に咲いていた、ベルフラワーやアロマフラワーは咲いていないようだった。
「あの花はネーオールの森にしか咲いていないんだよ」
「そうなんですね」
小さな王国なのに、こんなにも気候や生態系が違うというのは、何だかとても不思議だった。
こうして、何事もなくカミーユや騎士達と合流し、風竜がいるであろう森の中央の開けた場所を通って入口へと戻った。
「少し早いが……昼食の準備を始めよう」
「師団長とミオ様も食べますよね?」
「食材もないでしょうし、私はちょっと用をすませたら帰りますよ。どこかの町にでも寄り道してみます。ね、師団長」
「そうだな」
「食材なら十分余ってますので一緒に食べましょうよ!」
「だそうだ、2人とも」
「えーと……」
「まぁ、シャルルがいいと言うなら頂くとしよう」
「はい」
突然来てしまうと、その日の予定とか食材とか、いろいろと迷惑をかけてしまいそうだ、これからは気をつけよう……
昼食に出されたのは、干し肉とパンとスープ。
だんだん暑い季節となってきたので、メーヌの森のように移動に時間がかかる場所に行く場合は、傷みにくい食材になるらしい。
王宮からではなく、途中の町で購入することも多くなるようだが、それでもやっぱり傷んでしまうことは多い。
「傷みやすい食材を入れた箱の上に、いくつか氷を乗せましょうか?それか箱の中に」
「氷?」
「冷たい空気は下に沈むので、食材の上に氷を乗せておけば傷みにくくなりますよ」
「そう言えば、ミオの作る氷は涼しかったな」
「お前、氷属性が得意だったもんな」
「はい。サンブリーでもほとんど溶けなかったので、ビショビショになることもないと思います」
「なるほど、それは良いかもしれないな」
これからしばらく続く暑い季節は、ミオの氷が大活躍しそうだ。
誰かの役に立てるって、何だかとても気分のいいことだった。
―――――――
―――――
―――
「師団長、食べ終わったので、私ちょっと森の中に行ってきますね」
「待て待て、1人で行くんじゃない」
「何をしに行くんだ?」
「ちょっと風竜を探しに行ってきます」
「風竜?」
「ミオは竜と話が出来るらしい」
「知っているよ。前に氷竜とも話をしていたようだ」
「何だよ、知ってたのかよ」
「……私も一緒に行こう」
こうして、ミオはシャルルとカミーユと一緒に風竜を探しに行くことになった。
騎士達は森に利口で待機していてもらう。
見回りを終えて歩いて来た道を、森の中央に向かって歩いて行き、ぽっかりと開けて空が見える草地へと到着した。
このどこかに風竜がいるはず。
「風竜ってのはどこにいるんだ?」
「それは、探してみないとわからないですけど……」
「空……だろうか?」
3人で空を見上げてみたけれど、それらしい生き物は見えない。
森の中とも考えにくいしな。
ミオは地面に耳をくっつけてみた。
「土の中じゃあ……風竜って言うより土竜っぽいけどな」
「確かに」
「やはり、空なのではないか?」
「私、ちょっと見てきますね!」
「あ、おい!」
ミオは箒に乗ってあっという間に空へと浮上していった。
困ったような顔をしているカミーユの隣で、シャルルが不安そうに見上げている。
「ミオは、あんなに高く上がって大丈夫なのか?」
「昨日、水竜に乗ったって言ってたし、大丈夫なんじゃないか?」
「水竜に乗ったのか?本当に凄いな、ミオは」
「うーん……どこにいるんだろう?」
森の上に来てみたものの、見渡す限りでは竜がいそうな場所は見当たらない。
風竜……風ってどこから吹いてくるんだろう?
雲の上?ミオはさらに高い場所に浮いている雲を見上げた。
「でも、雲なんて細かい水滴の集まりだったような……」
子供の頃は雲は綿のようなもので、ふわふわとしてその上を歩けるものだと思っていたけれど、さすがにそうではないことくらいは知っている。
でも、この辺りには竜が隠れてそうな場所もないため、とりあえず雲の上まで上がってみることにした。
さすがにこの高さは……ちょっと怖いかもしれない。
ミオは下を見ないようにして上がっていった。
雲の中を抜けて上空に出ると、そこには巨大な雲の塊が浮いていた。
某アニメ映画に出てきたような巨大な雲だった。
「ラ○ュタの竜の巣だ」
この雲の中なら、風竜が入れそうだけれど……本当にこの中にいるのか?
ミオはとりあえず声をかけてみることにした。
「風竜さーん、いますか?」
炎竜には、風竜は極度の恥ずかしがり屋だと聞いている。
あまりしつこく声をかけては、出て来てくれなくなってしまうかもしれない。
ミオは顎に手を当てながら考えた。
今日は、帰ることにしよう。
もしかしたら、この中にはいないのかもしれないし。
「風竜さーん、また来ますね!」
ミオが地上に降りて行こうとした時、頭の中に声が響いてきた。
―――あ、あのう……もしかして、小さいミオですか?
えーと、はい、ミオです。
(小さいカエデから、小さいミオになってしまった……)
―――わ、私に何かご用ですか?
いえいえ、ちょっと挨拶に来ただけです。すぐに帰りますよ。
巨大な雲の中から、風竜が顔だけを出してきた。
薄い黄緑色をした、とても奇麗な竜のようだった……顔しか見えないけれど。
―――え、えーと……私が……風竜です。そ、それじゃあ!
……あのう……また来ますね。
想像以上に恥ずかしがり屋な竜のようだった。
恥ずかしがり屋と言うか……人見知り、コミュ障、引きこもりなニオイがするのは気のせいだろうか?
あまり刺激しないであげよう。
ミオは静かに地上へと降りて行った。
「あ、戻って来たぞ」
「ミオ!ゆっくりでいいから、どうか落ちないでくれ!」
「落ちませんから心配しないでください」
ミオが無事に降りてくると、シャルルはフーッと息を吐き出して、安心したようにミオの肩に手を乗せた。
「あんなに高く上がって行くから、私の心臓が止まってしまいそうだったよ」
「そ、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、パトリエール団長。私、高い所はわりと平気なので」
「それでも、心配はするよ」
「風竜には会えたのか?」
「はい、会えましたよ。風竜は極度の恥ずかしがり屋さんなので、あまり話は出来ませんでしたけど」
「……竜が恥ずかしがり屋?」
「はい、とてもシャイな方でした。というか、コミュ障?」
「そのコミュ……何とかが何かはわからんが、会えたなら良かったじゃないか。目的は達成したし帰るぞ」
「はい」
これで4体とは顔を合わせることが出来た。
案外スムーズに4体とは会えたので、何だか拍子抜けしてしまうような感じだった。
竜に会うなんて、もっと大変なことかと思っていたし。
「で、何処にいたんだ?風竜は」
「雲の上にあるとても大きな雲の中です」
「そんな所まで上がってたのか!?」
「ミオ……」
あれこそ本当の竜の巣だと思った。
だって、竜が住んでるわけだし。
「そう言えば、師団長は午後から用事があったんじゃないんですか?」
「今から帰れば間に合うと思うし、大丈夫だ」
「そうなんですね」
「ミオはどうする?シャルルと一緒に帰って来てもいいぞ」
「師団長と一緒に帰りますよ」
「そうだな、カミーユと帰った方がいいだろう。私達は途中で野営して、明日王都に到着予定だからな」
「いいのか?」
「え、何がですか?」
「お前じゃない、シャルルがだ」
「私にはカミーユが何を言いたいのかがわからないがな」
「……まぁ、いい。だったら森を出たら王都に戻るぞ」
「はい」
―――――――
―――――
―――
「師団長、ここの町に寄って行ってもいいです?」
「あぁ、かまわないが……何かあるのか?」
「レモネードがとても美味しいんです!」
「は?」
レモーネの町
ミオが初めて騎士団に同行した時に、この町の宿で休ませてもらった。
帰る時に持たせてくれたレモネードがめちゃくちゃ美味しかったのだ。
「えーと……」
「どこで買ったんだ?」
宿の場所を全然覚えていなかった。
困った……
「買ったんじゃなくて、宿の女将さんに頂いたんですけど……」
「宿?この町の宿はこっちだ」
「知ってるんですか?師団長」
「知ってるも何も……この町に宿は1つしかないからな」
「なるほど」
こうしてカミーユに宿まで案内してもらい、ミオは宿の入り口のドアを開けた。
「あら、あの時のお嬢さんじゃないかい。体調は大丈夫?」
「あの時は大変お世話になりました。それで、帰りに頂いたレモネードをまた頂きたくて来たんですけど……これ、頂いた水筒です」
「あぁ、あれかい?あれは売り物じゃあないよ」
「そうなんですか……」
「ちょっと待ってておくれ。今持ってくるから」
女将さんはミオから水筒を受け取ると、キッチンの中に入って行って少しして戻って来た。
「はいよ。こんなもので良ければいつでも分けてあげるよ」
「ありがとうございます!ただで頂くわけにはいかないので、お金はちゃんと払います」
「お金なんていらないよ」
「そんなわけにはいきません!」
ミオは、代金を支払って宿から出てきた。
「お待たせしました、師団長」
「それじゃあ、帰るぞ」
「はい」
町を出ると、2人は箒に乗って飛び立った。
王都に向けてまっすぐ飛んで行く。
このまま何もなければ、夕方になる前には王都へと到着できるだろう。
「師団長も飲みます?」
「あぁ」
ミオは、頂いてきたレモネードをコップに注いでカミーユに渡した。
自分の分もコップに注ぐと、水筒をバッグにしまう。
口に運んだレモネードは、あの時と同じ美味しいレモネードだった。
冷たくないのがなぁ……ミオは、コップに手を翳して小さな氷を入れた。
氷で冷やされたレモネードは、美味しさが倍増する。
カミーユもコップを差し出してきたので、氷を入れてあげた。
この世界には美味しいものがたくさんあるけれど、氷を作る道具がないので、飲み物がぬるいというのがちょっと残念なところだ。
氷を売ったらお金になりそうだな……などと、少し思ってみたりして…
王都には、3時くらいには到着した。
執務室に行くと、学校から戻って来ていたアルバンがいて、2人で出かけていたことにとても憤慨していた。
「仕方がないだろうが。アルは学校なんだし」
「学校なんて休めばいいじゃん!」
「アル君、学校はちゃんと行った方が……はい、これ美味しいよ」
「何これ?」
「レモネード」
ミオがアルバンを宥めるように、レモネードを注いだコップをテーブルに乗せた。
レモネードを飲んだアルバンの顔が笑顔に変わる。
「何これ、凄く美味しい!」
「レモーネの町の宿でもらってきたの。美味しいでしょ?」
「ミオ、俺にも入れてくれ」
「カミーユなんかに飲ませなくていいよ、ミオ」
「何だとコラ!」
「カミーユのバーカ」
「……あはは」
相変わらずのやり取りに苦笑いしながら、ミオはコップに注いだレモネードに氷を浮かべて、カミーユの机に置いた。
―――7月7日
メーヌの森で風竜と会った。
炎竜が話していた通り、とても恥ずかしがり屋さんだった。てゆーか……コミュ障?
できるだけ、そっとしておいてあげようと思う。
とりあえず、4体の竜と話すことが出来た。
これから私は何をしていけばいいんだろう?
黒ローブの目的もわからないままだし……まぁ、竜を操ろうとしているんだから、王国を乗っ取ることが目的なんだろうけど。
他国でもない黒ローブのような組織が、国を乗っ取って何をしたいんだろう?
国同士ならまだわかる。
うーん……凡人の私には、到底理解できないような理由なんだろうな。
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お読みいただきありがとうございます!
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